タックス・ヘイヴン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:財政 タックス・ヘイヴン[1]:tax haven)とは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことである。租税回避地(そぜいかいひち)とも呼ばれる。

ちなみに、「ヘイヴン(haven)」は、英語で「避難所」の意である。フランス語ではパラディ・フィスカル:paradis fiscal)と、「paradis = 楽園、天国」という語があてられている。

起源

タックス・ヘイヴンは、小さな島国など産業が発達しない国が、国際物流の拠点となることを促進するために作った制度である。貿易の拠点となれば定期的に寄港する船乗りなどが外貨を消費するため、海洋国家にとっては有利な方法だと考えられてきた。

現状と課題

国際金融取引を活発化させる目的で一定の減税措置や外国資本企業は登記費用のみで法人税がかからない会社設立方法・通貨決済方法が設けられることは珍しいことではない。そのような意味では、世界最大の実質タックス・ヘイヴンはロンドンのシティ・オブ・ロンドン金融特区であるといわれる。しかし、タックス・ヘイヴンといえば、通常は、英国領ケイマン諸島のような、国際金融取引の単なる中継地として利用されることを想定したような、それ自体は特に見るべき産業のない島国が想定される。しかし、ケイマン諸島の外国資本企業法人税減免システムは実は宗主国英国のシティ・オブ・ロンドンの課税システムをそのままもってきたものである。
一方、現在の国際金融取引においては、租税負担の軽減を目的として、多くの資金がタックス・ヘイヴンを経由して動いており、もはやタックス・ヘイヴンは必要不可欠な存在であると考えられている。その一方で、タックス・ヘイヴンを利用した租税回避スキームに対して各国は、いわゆるタックス・ヘイヴン対策税制を整備してこれに対抗しようとしているものの、根絶にはほど遠い状況である。

また、一部のタックス・ヘイヴンには、本国からの取締りが困難だという点に目を付けた、暴力団マフィアの資金や第三国からの資金が大量に流入しているといわれている(マネーロンダリング)。2007年世界金融危機では、金融取引実態がつかみにくいことが災いし損失額が不明瞭化、状況悪化を助長したとして批判されている。

定義

一元的・明確な定義はない。デラウェア州の法人税制やLLCの税制から判断するとアメリカ合衆国が世界で最も悪質なタックス・ヘイヴンであると唱える者もいたりするほどである。実際、デラウェア州の法人制度や税制は世界中のタックスヘイヴンのモデル・手本となっており、それ以前にタックスヘイヴンを実現可能な制度・税制は世界に存在しなかったことからも、北米でもっともキャシュフローが巨額なタックスヘイヴンは実はアメリカ・デラウェア州である。また、独立国家の制度・税制に他国がとやかく言うのは内政干渉であるという説もあり、タックスヘイヴンと呼ぶこと自体が差別的あるいは内政干渉であるという意見も存在する。ここでは、例として、経済協力開発機構 (OECD) と日本のタックスヘイヴンの基準を以下に示す。

OECDによる規定

経済協力開発機構 (OECD) では、下記(イ)に当てはまり、かつ下記(ロ)の (a) - (c) のいずれか一つでも該当する非加盟国・地域を「タックス・ヘイヴン」と認定し、有害税制リストに載せている。

  • (イ) 金融・サービス等の活動から生じる所得に対して無税としている又は名目的にしか課税していないこと。
  • (ロ)
    • (a) 他国と実効的な情報交換を行っていないこと。
    • (b) 税制や税務執行につき透明性が欠如していること。
    • (c) 誘致される金融・サービス等の活動について、自国・地域において実質的な活動がなされることを要求していないこと。

各国政府による対策

タックスヘイヴンを用いた租税回避について、多くの国や地域ではその対抗策を講じようとしている。 例えば、日本の場合、租税特別措置法40条の4および66条の6においてタックス・ヘイヴン対策税制が規定されており、居住者または内国法人が外国に有する関係法人のうち所得課税の実効税率が20%以下であるものについて、その所得を当該居住者または内国法人の収益とみなすこととしている。 テンプレート:Main

主なタックス・ヘイヴン一覧

いずれもOECDの発表による。

OECD国際フォーラム調査による国際的に認められている税基準の実施状況に関する進捗レポート[2]

国際的に認められている税基準を約束したが、実施が十分でない国・地域

タックスヘイヴン
その他の金融センター
(参考)当初、国際的に認められている税基準を約束しなかった国・地域(現在は約束)
  • コスタリカ/Costa Rica
  • マレーシア(ラブアン)/Malaysia(Labuan)
  • フィリピン/Philippines
  • ウルグアイ/Uruguay

タックス・ヘイヴン・リスト(2000年6月付)

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2002年4月18日付)

  • アンドラ
  • リベリア
  • リヒテンシュタイン
  • マーシャル諸島
  • モナコ
  • ナウル
  • バヌアツ

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2009年4月2日付)

2000年6月以前に2005年までの有害税制除去を約束した国・地域

脚注

  1. 日本経済新聞ブルームバーグを始め、多くの日本語メディアでは、「タックスヘイヴン(租税回避地)」との記載が一般的である
  2. いわゆるタックスヘイヴン・ブラックリスト。2009年5月19日付

関連項目

外部リンク