ジフテリア
ジフテリア (diphtheria) は、ジフテリア菌 ( Corynebacterium diphtheriae ) を病原体とするジフテリア毒素によって起こる上気道の粘膜感染症。
感染部位によって咽頭・扁桃ジフテリア、喉頭ジフテリア、鼻ジフテリア、 皮膚ジフテリア、 眼結膜ジフテリア、生殖器ジフテリアなどに分類できる。腎臓、脳、眼の結膜・中耳などがおかされることもあり、保菌者の咳などによって飛沫感染する。発症するのは10%程度で、他の90%には症状の出ない不顕性感染であるが、ワクチンにより予防可能で予防接種を受けていれば不顕性感染を起こさない。すべてのジフテリア菌が毒素を産生するわけではなく、ジフテリア毒素遺伝子を保有するバクテリオファージが感染した菌のみが、ジフテリア毒素を産生する。
臨床症状
- 潜伏期間:通常1~10日間 2~5日が多い[1]。
- 症状:喉の痛み、犬がほえるような咳、筋力低下、激しい嘔吐などが起こる。
- 約39.5℃までの発熱[2]
- 扁桃付近には粘りのある灰色の偽膜が付着。偽膜は厚く剥がれにくく剥がすと出血する。
- 喉頭部の腫脹や偽膜の拡大のため、しばしば気道がつまって息ができなくなることがあり、窒息死することもある。
- 神経麻痺、失明を起こすこともある。発症後 4~6週した回復期に心筋炎を発症することがあり、突然死に対する警戒が必要。
- 治療:治療開始の遅れは回復の遅れや重篤な状態への移行につながるため、臨床的に疑いがある場合、確定診断を待たず早期に治療を開始する必要がある。
- 確定診断には、患者の喉の病変部位から原因菌を分離する。
- 予後:心筋炎を併発した場合の回復には時間がかかる。炎症を起こした心臓には負担が大きいので、日ごろの活動を早期に再開しないこと。[2]
予防
予防法は、ジフテリア毒素をホルマリン処理して無毒化したトキソイド(ワクチン)の接種。日本では三種混合ワクチン(DPTワクチン)、二種混合ワクチン(DTワクチン)に含まれている。定期接種の普及している国では症例は稀だがそうでない国では流行がある。また近年症例の報告されていない日本においても不顕性感染の経歴を示唆する血清検査結果もある。 日本では承認されていないが、5歳以上(成人用)の破傷風・ジフテリア混合 Tdワクチン(ジフテリアの抗原量が5歳以上用に調整されており、破傷風は一人前含有されている。国産DTを1/5量で摂取する際は、別途、破傷風トキソイドを受けることが推奨される)、11歳〜55歳まで適応の、破傷風・ジフテリア・百日咳混合Tdapワクチンが、先進国を中心にほとんどの国で接種可能である。
ジフテリア予防接種時の事故、医原病
1948年、京都・島根でのジフテリア予防接種の時に無毒化が不十分であったワクチンの接種によるジフテリア毒素により大規模な医療事故が起き、横隔膜麻痺、咽頭麻痺、心不全等の中毒症状が現れ、死亡者85名という結果になった。これは、世界史上最大の予防接種事故である。[3] [4]。 (→ 医原病も参照可 )
近縁菌による感染症
近縁菌のコリネバクテリウム・ウルセランス (Corynebacterium ulcerans ) がジフテリア類似の症状を引き起こすことが、日本でも2001年から2009年までに6例報告されている。[5] C. ulcerans は、ウシ、ウマなどの動物の常在菌で、イヌ、ネコからも検出される。[6]時にウシの乳房炎の原因となる。通常、 C. ulcerans は毒素を産生しないが、C. diphtheriae と同様に、バクテリオファージからもたらされる毒素遺伝子により、毒素生産性を持つと考えられる。[7]英国などの国では、C. diphtheriae によるジフテリアと同等の扱いがされている。
- 日本における C. ulcerans 最初の症例、
- 2001年、千葉県の52歳の女性で、ジフテリアに特徴的な呼吸音と偽膜の症状を示したが、ジフテリア抗毒素血清投与の治療により治癒した。感染ルートは明らかになっていない。
関連法令
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の二類感染症に指定されており、感染が確認されたら医師は速やかに保健所に届出する義務があり、拡散を防止するため状況に応じて隔離入院させる必要がある。無症状者の場合は入院の対象とならない。
その他
- ジフテリア菌の発見は1883年。エミール・フォン・ベーリングと北里柴三郎が血清療法を開発。その功績でベーリングは第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
- ジョージ・ワシントンの死因は、ジフテリアによる呼吸困難であったと思われる。
- 類似疾患として、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans )によるジフテリア様の臨床像を起こす人獣共通感染症がある。
- ウマ由来の血清に対する、アナフィラキシーに対しても注意が必要。[1]
- 現在の日本ではジフテリア患者を診察した経験のある医師が殆どおらず、適切な診断を早期に行うことが困難な状況が生じつつある[8]。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
- ジフテリア 感染症の話 2002年第14週号(国立感染症研究所)
- コリネバクテリウム・ウルセランスによるジフテリア様症状を呈した患者に対する対応について 平成14年11月20日厚生労働省健康局
- 本邦で初めてイヌから分離されたジフテリア毒素産生性 Corynebacterium ulcerans 国立感染症研究所(IARS)
- テンプレート:PDFlink
- Corynebacterium ulcerans Diphtheria in Japan Centers for Disease Control and Prevention : CDC