カブトガニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:生物分類表 カブトガニ(甲蟹、兜蟹、鱟、鱟魚)とはカブトガニ科に属する節足動物である。学名は Tachypleus tridentatus。お椀のような体にとげのような尻尾を持つ。

概説

カブトガニは背面全体が広く甲羅で覆われ、附属肢などはすべてその下に隠れている。名前はこの甲羅に由来し、またその姿の類似からドンガメ、マンゴエイなどの地方名もある。

日本では古くは瀬戸内海に多かった。取り立ててなんの役にも立たず、図体がでかく漁では網を破るなど嫌われたようである。しかし古生代からその姿がほとんど変わっていない生きた化石であり、学術的な面から貴重であるとして天然記念物の指定を受けた場所もある。近年では環境汚染によって各地でその数を激減させている。

特徴

カブトガニは、この仲間では日本に産する唯一の種であり、またこの類の現生種のうちでもっとも大型になるものである。全長(甲羅の先端から剣状の尾の先端まで)は雄で70cm、雌では85cmに達するが、普通はもう少し小さく、それぞれ50cm、60cm程度。

体は頭胸部と腹部、それに尾からなる。

頭胸部は甲状になっており、両側後方にやや伸びる。背面はなめらかなドーム状で、前方背面に一対の複眼がある。腹面には附属肢などが並ぶ。最前列には鋏状鋏角があり、先端は後ろに折れ曲がって口に近く、これが口器である。その後ろには五対の歩脚状附属肢があり、その最初のものは触肢であるが、特に分化した形ではない。いずれも先端が鋏になっているが、雄では第一・第二脚の先端が雌を把持する構造に特化している[1]

腹部は後ろが狭まった台形で、その縁に沿って6対の棘がある。雌ではこのうちの後方3対が小さくなっている。

生態

干潟の泥の溜まった海底に生息する。カブトガニはその体形から泥に沈むことはない。ゴカイなどを餌にする。夏に産卵期を迎え、産卵された卵は数ヶ月で孵化し十数回の脱皮を経て成体になる。カブトガニの幼生は、孵化する以前に卵の中で数回の脱皮を行いながら成長し、それに合わせて卵自体も大きくなってゆく特徴がある。

メスの第一脚と第二脚は鋏状となっているのに対しオスの第一脚と第二脚は鈎状になっていて、繁殖期にはこの脚でメスを捕縛し雌雄繋がって行動する姿が見られる[1]。繁殖期以外にもオスはメスやメスと錯覚したカブトガニのオスや大型魚類、ウミガメなどに掴まる習性を持ち、その捕縛力も極めて強い。なお、メスの背甲部の形状全体が円を描くような形なのに対し、オスの背甲部は中央先端部が突き出ていることで区別できる。腹部の棘(縁ぎょく)の付き方もメスが後の方の棘の発達が悪くなるというのも特徴である。これはオスがメスの背中につかまる際に邪魔にならないように適応した結果と思われる。

瀬戸内海の干潟に生息するカブトガニは、夜間の満潮時に最も活発に活動する。カブトガニの行動は、「休息」、「背を下に向ける反転」、「餌探し・探索」、「砂掘り」の4タイプに分類でき、 1日のうち9割の時間は休息し、断続的な活動の大半はゴカイなどの餌探しに費やす[2]

分布

日本国内の生息分布は過去は瀬戸内海と九州北部の沿岸部に広く生息したが、現在では生息地の環境破壊が進み生息数・生息地域ともに激減した。

現在の繁殖地は瀬戸内海山口県沿岸、愛媛県西条市河原津、九州曽根干潟博多湾伊万里湾杵築湾芦辺湾が確認されているがいずれの地域も沿岸の開発が進み最近では生息できる海岸が減少しほとんど見ることができない。

日本以外ではインドネシアからフィリピン、それに揚子江河口以南の中国沿岸から知られている。東シナ海にも生息している。インドネシアには後述の二種も生息している。

分類

カブトガニは甲殻類ではなく、カニよりはクモサソリに近い。 幼生は三葉虫に似ていると言われ、三葉虫型幼生の名もある。実際に三葉虫と系統的に近いと思われたこともあるが、今では否定されている。

カブトエビと混同されることがあるが、全く別の生き物である。

日本以外では東アジア、北アメリカに同科の動物を見ることができ特に北アメリカ東海岸の一部ではアメリカカブトガニを無数に見ることができる。アメリカカブトガニはカブトガニよりも一回り小さく50cmほどであり、メスに比べオスの比率が高い種でもある。しかし最近ではカブトガニほどではないとはいえ、産卵場所の減少と水質悪化による減少傾向も出ている。

東南アジアにはマルオカブトガニミナミカブトガニの2種が分布しているがミナミカブトガニは体長が最大でも30cm、マルオカブトガニは20cmほどと小型である。これら2種はペットとして輸入されていた時もあった。

絶滅危惧

テンプレート:絶滅危惧I類

人間との関係

医療での利用

カブトガニ類の血液から得られる抽出成分は、菌類のβ-D-グルカンや細菌の内毒素と反応して凝固することから、これらの検出に用いられる。本種から得られる成分はTAL (Tachypleus tridentatus amebocyte lysate) と呼ばれ、アメリカカブトガニ由来のLAL (Limulus polyphemus amebocyte lysate) とは反応性が異なることが確認されている[4]

その他の利用

ファイル:Tachypleus tridentatus in Hong Kong.JPG
中国・香港の市場で販売されているカブトガニ

日本においては田畑肥料釣り家畜飼料として使われていた。アメリカでも飼料としての利用が行われている。中国やタイ等の東南アジアの一部地域ではカブトガニ類が普通に食用にされている。中国福建省では「鱟」(ハウ)と呼び卵、肉などを鶏卵と共に炒めて食べることが行われている。日本でも山口県下関など一部の地域では食用に用いていたこともあったが、美味しくはないと言われている[5]

繁殖地と文化

  • 佐賀県伊万里市伊万里湾は、日本最大の生息・繁殖地とされており、当地の方言では「ハチガメ」と呼ばれる。伊万里市街地から程近い湾内の多々良海岸周辺296,250平方メートルの繁殖地の個体が、市の天然記念物として指定されている。毎年6月から8月の大潮日の満潮時に、カブトガニがつがいで浜にやってきて産卵する姿を見ることもできる。7月中旬から8月上旬の大潮日の後1週間が産卵のピークとされており、毎年伊万里市では、「カブトガニの産卵を観る会」が開催されている。市内には牧島のカブトガニとホタルを育てる会が運営する伊万里湾カブトガニの館もあり、カブトガニを飼育しており見学が通年可能。
  • 愛媛県西条市では、カブトガニはオスとメスが重なっているところから、夫婦仲がよく縁起の良いものとされる。年初めの漁で網にカブトガニのつがいがかかるとその年は豊漁となると伝えられ、神棚に酒を供えて祝う風習があったという。現在では伊万里市や笠岡市同様に干拓が進んだ結果、生息数が激減し絶滅寸前であるが、西条市では「東予郷土館」にてカブトガニを飼育しているほか、河原津海岸で幼生を放流したり、市民向けに幼生の飼育ボランティアを募集するなどの取り組みを行っている。また、ご当地ゆるキャラとして、カブトガニがモチーフとなったカブちゃんがPRに努めている。

脚注

テンプレート:Reflist

関連図書

  • 関口晃一『カブトガニの不思議「生きている化石」は警告する』岩波書店(岩波新書 新赤版 192), 1991, 229p

外部リンク

テンプレート:Commons&cat テンプレート:Sister

  • 1.0 1.1 [1]
  • "カブトガニ、夜満潮時が活発" 中国新聞 The Chugoku Shinbun ONLINE 2010年12月12日閲覧
  • テンプレート:JIBIS
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite web