オオムラサキ

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オオムラサキは、

  1. チョウ目タテハチョウ科に属する紫色の大型のチョウ。本稿で後述。
  2. オオムラサキシキブ Callicarpa japonica の別名。シソ目・クマツヅラ科・ムラサキシキブ属の落葉低木で、紫色の花と実を房状につける。
  3. ツツジの園芸品種の一つ。学名はRhododendron x pulchrum Sweet 'Speciosum'。ケラマツツジなどが交雑したものが起源と推測されている常緑のツツジで、関東以西で街路樹、都市緑化用として広く植栽されている。大型の紫色の花をつける。

テンプレート:生物分類表

ファイル:Charonda Hokkaido Japan.JPG
北海道産のオオムラサキのオス(明色の斑紋の多くが黄色くなる遺伝型。東日本に多い)
ファイル:Charonda Yamaguchi Japan.JPG
山口県産のオオムラサキのメス(明色の斑紋が黄色くならない遺伝型。西日本に多い)

オオムラサキ(大紫、Sasakia charonda )は、チョウ目(鱗翅目)タテハチョウ科に分類されるチョウの一種。日本の国蝶。中国名は「大紫蛺蝶」。

生態

本種は日本で最初に発見され(種の基産地は神奈川県)、属名のSasakia佐々木忠次郎に献名された。

日本に分布する広義のタテハチョウ科の中では最大級の種類。生態や幼虫、蛹の形態は同じコムラサキ亜科ゴマダラチョウによく似る。

成虫は前翅長50–55mmほどで、オスのの表面は光沢のある青紫色で美しい。メスはオスより一回り大きいが翅に青紫色の光沢はなく、こげ茶色をしている。

北海道から九州まで日本各地に分布し、国内の南限は宮崎県小林市。日本以外にも朝鮮半島中国台湾北部・ベトナム北部に分布している。国内では生息環境が限られ、適度に管理された、やや規模の大きな雑木林を好んで生息する傾向が強い。かつては東京都区内の雑木林でも見られた。都市近郊では絶滅の危機に瀕する産地もある一方、山梨県のように今でも広域に多産する地域がある。

成虫は年に1回だけ6–7月に発生し、8月にも生き残った成虫を見かける。クヌギコナラニレクワヤナギなどの樹液に集まったり、クリクサギなどの花で吸蜜する。ときに腐果獣糞などの汚物に来ることもある。餌場での生態は勇ましく、スズメバチなど他の昆虫を羽で蹴散らしながら樹液を吸う姿を良く見かける。また、飛翔能力が高く、近くに居る時にはその音が聞こえる程、鳥の様に力強くはばたいて、あるいは滑空しながら雄大に飛ぶ。縄張り飛翔は午後に行われることが多く、西日を浴びて高い樹冠を活発に飛び回る姿を見かける。

幼虫の食樹はエノキエゾエノキから孵った幼虫は、夏から秋にかけてエノキの葉を食べて成長する。冬は地面に降りて、食樹の根際や空洞内に溜まった落ち葉の中で越冬する。春に休眠から覚めると再び食樹に登って葉を食い、更に成長を続け、になる。

日本国内での地理的変異はやや顕著。北海道から東北地方の個体は翅表の明色斑や裏面が黄色く、小型。西日本各地の個体は一般に大型で、翅表明色斑が白色に近く、かつ裏面が淡い緑色の個体も多い。九州産は翅表明色斑が縮小し、一見して黒っぽい印象を与える。日本国外では、裏面に濃色の斑紋が出現した型が多く見られ、また、雲南省からベトナムにかけての個体群は明色斑が非常に発達する。

雌雄嵌合体

雌雄嵌合体も何例か記録されている。

日本の国蝶

日本の国蝶は、法律や条例で規定されたものではなく[1]日本昆虫学会が選んだものである。

ファイル:75Yen stamp in 1956.JPG
オオムラサキ 75円切手 (1956年発行)

国蝶の選出については、1933年頃より片山胖、結城次郎、中原和郎、柴谷篤弘、野平安藝雄らが、同好会誌『Zephyrus』で論議していた。オオムラサキは当時から候補種だったが、ミカドアゲハギフチョウアゲハチョウといった蝶も俎上に登った。結城(1935)はオオムラサキに対抗してアゲハチョウを推す理由を詳細に記述している。但しこの時点では決定がなされずに経過し、その後、1956年に75円切手の図案ににオオムラサキが採用されたことを契機に、日本昆虫学会は1957年の総会でオオムラサキを国蝶に選んだ[2]

日本の環境省による保護

本種は環境省により準絶滅危惧(NT)に指定されてはいるものの、都市近郊で雑木林が寸断されている場所を除けば、減少あるいは絶滅の心配はあまりないといわれる。たとえば、今でも東京近郊の八王子市町田市あきる野市横浜市緑区、旭区、相模原市などで冬季に越冬幼虫を探せば発見できる。成虫が一般に珍しいと思われがちなのは、あまり人目につかないところを飛翔する生態に原因がある。なお、多数の成虫が飛ぶ地域を観察すれば理解されるように、クヌギの古木から発酵した樹液が出ていたり、道路に獣糞の落ちているような雑木林を保全することが重要なのは言うまでもなく、そのためには適度な伐採と再生や下草刈りなどが重要である。逆に手入れが行き届きすぎて林床の落ち葉をすっかり清掃してしまう公園等では、いくらクヌギやエノキが豊富でも生息できない。また成虫は、8月ごろには既に最盛期を過ぎるため遭遇率が低い。

保全状況評価

オオムラサキ Sasakia charonda
準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト
ファイル:Status jenv NT.png

脚注

  1. 猪又, 2008
  2. テンプレート:Cite book

参考文献

  • 片山 胖, 1933. 第八回懇親会記事. Zephyrus 5(1):49-51.
  • 結城次郎, 1935. 「國蝶」を如何に選ぶべきか. Zephyrus 6(1/2): 146-149.
  • 江崎悌三, 1936. 「國蝶」問題. Zephyrus 6(3/4):382-383.
  • 中原和郎, 1936. オホムラサキ國蝶論. Zephyrus 6(3/4):383-384.
  • 柴谷篤弘, 1937. 國蝶選定に就いて. Zephyrus 7(2/3):217-221.
  • 野平安藝雄, 1938. 再び國蝶問題に就いて. Zephyrus 7(4):298-301.
  • 日本蝶類愛好会(編), 1970. 日本の蝶・世界の蝶. 保育社:30-31.
  • 猪又敏男, 2008. 日本のオオムラサキ. 月刊むし 449 :27-36.

関連項目

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