空気バネ
空気バネ(くうきバネ)とは圧縮空気の弾力性を利用したバネ装置である。エアサスペンション(air suspension, エアサス)などに利用される。
特徴
非線型特性である。ばね定数(ばねレート)は可変。共振し難い。
気体の性質としてボイルの法則がある。「一定温度下で気体の圧力と体積は反比例の関係にある」というもので、気体を2分の1の体積まで圧縮すると圧力は2倍になる、すなわち反発力も2倍になる。その性質を利用したのが空気ばねで、人や荷物を積んだ時は圧縮されるので反発力が上がり、それらをおろすと元の反発力に戻る。そのため平常時はそうとうに軟らかいばねレートを設定でき、積載時はどれだけ圧縮しても気体はなくならずより強い反発力を得られることから、乗り心地は悪化しても容易にボトミングすることもない。また、金属の弾力性を利用する金属ばねでは吸収しきれない、微細な振動をも減衰できる。空気の量を変えることで任意にばねレートや車高を設定できるが、空気源や弁装置、車高のセンシングが必要で、システムとしては複雑になる。
用途
自動車
主にバスやトラックに採用されている。乗り心地を重視する観光バスや高速バスでは標準装備となっている。
路線バスやトラックでは、構造がシンプルで廉価な板バネ(リーフ式サスペンション)が主流だったが、路線バスでは1990年代からバリアフリー化の進展による乗降性改善のために車高調整機能を備える必要があり、ノンステップバスに代表される低床車を中心に採用車種が増えている。バスでは乗降時に空気バネの空気を抜くことで車高を下げる機能を備えており、路線バスの場合は扉が複数有ることが多いため、前輪、後輪とも扉側の空気バネをパンクさせる機構が採用されている。これは、人が片ひざをつく姿勢になぞらえて、「ニーリング機能」と呼ばれている。観光バスや高速バスでは乗降口が前扉のみのものが多く、前輪の空気バネを左右ともパンクさせることで前方が下がることから、「クラウチング機能」とも呼ばれる。もちろん車高を下げるだけでなく、段差を越える場合や道路条件が悪い場合に車高を上げ、接地を防ぐ機能も有するが、速度が制限される。また、全ての空気バネをパンクさせることも出来る(フェリーに乗せるときに使用し、通常は使用しない。その状態では走行不可)。 トラックでは走行中の荷物の損傷を抑え、荷役時に車高調整機能を利用して荷台をスロープ状にできることから、バンボディの中型・大型車を中心に装着されている。後車軸が2軸1デフの場合は、デフのある後前軸の空気バネの内圧を後後軸より高くすることで、軸重(1軸当たりの負担重量)を上げ、発進時に大きなトラクション(駆動力)を得る機能を備えることもできる。
空気バネの構造で「2バッグ式」と「4バッグ式」という呼び方を用いることがある。これは1つの車軸に対して空気バネのダイヤフラム(=バッグ)をいくつ用いているかを表し、2バッグ式は左右1個ずつ、4バッグ式は車軸の前後に2個ずつ備えている。4バッグ式は、ひとつあたりのばね定数を下げることができ、乗り心地や振動の減衰にメリットがあるが、高価となるため、コストを抑える場合は2バッグ式が採られる。前軸は荷重負担が少ないことと、ステアリング機構にスペースが割かれるため、バスも含めて2バッグ式が標準となる。従来の空気バネ付きトラックでは、後軸のみを空気バネとし、前軸は板バネのままの車種が多かったため、前後ともに空気バネを採用する場合は、「総輪エアサス車」(フルエアサス車)と称して区別することがある。
空車時の接地荷重の減少を防いだり、カーフェリー等において軸数に対する運賃を軽減させるために、非駆動軸(デッドアクスル)の一部を持ち上げる「エアリフトアクスル」用のエアバッグを装備するものもある。
また、車種は多くないものの、一部の高級乗用車やSUVにも用いられている。
同じく圧縮された気体を利用するものに、シトロエンの「ハイドロニューマチック」があるが、これは、窒素ガスの反発力をばね力に、油をばね力の伝達と減衰に使用している。この方式では、窒素ガスは密閉容器に封入されており、専用の作動油を出し入れすることでばね力と車高の調節を行う。
近年では乗用車用としてミニバンやローライダーと呼ばれるジャンルの改造車(古いシボレーなどのアメリカ車やホンダ製セダン等をアメリカ西海岸で行われているような改造を施した車)、VIPカーやスポーツカーなどを中心として後付けでエアサスにすることが出来るキットが発売されている。しかし純正のものと違い、エアタンクの水抜きを始めとしたこまめなメンテナンスが必要である。また、車高の調整が室内から行えるようにした場合は車検に通らないため注意が必要である。最近では車高の低いスポーツカーのために、車高調整式サスペンションのアッパーマウントの場所に取り付けるサブとしてのエアサスも発売されており、段差などクリアランスが求められる場面で用いられる。
テレスコピックショックアブソーバーに似た構造のケースに高圧の窒素ガスを封入したガススプリングと呼ばれる部品は、跳ね上げ式のバックドアの開閉を補助し、開いたドアを支えるなどの用途に用いられている。高級車では車内のグローブボックスなど収納スペースの蓋にまでガススプリングを使用したものもある。
特殊な用途として競技用車両のエンジン内部のバルブスプリングとして使用され、共振しづらさによりバルブサージングを抑制し、エンジンの高回転での使用を可能にしている。
- Beam axle 004.JPG
前軸用2バッグ型
- Trailing arm and airbugs 001.JPG
後軸用4バッグ型
- Airlift axle 003.JPG
エアリフトアクスル(左)
- Airlift axle 004.JPG
リフト用レバーとエアバッグ
鉄道車両
客車、貨車、気動車、電車の別なく路面電車やモノレールから新幹線に至るまで広く採用されている(国鉄では急行形、特急形、201系以降の通勤形、キハ66/67・117系以降の近郊形に採用)。鉄道では古くからブレーキシステム作動に圧縮空気を使用していたため、ブレーキ用の空気圧縮機や配管などを空気バネの作動にも流用できるメリットがあった。
初期の試作的なもの テンプレート:Refnest をのぞいてほとんどが台車の枕バネ部に使用され、ベローズ式(ゴム筒の中間に何本かの金属線条を通した形状が提灯を連想させることから「提灯バネ」とも通称される)およびダイヤフラム式(外部からは金属製の椀を伏せたような形、またはゴムまりを上下から押し付けたような形に見える)などの構造がある[1]。
ベローズ式はもっぱら上下方向の弾性支持を行なうべく開発され、鉄道車両用としては初期のものから採用された機構であるが、その構造上の特性から横剛性は非常に低い。ダイヤフラム式はベローズ式の持つこの弱点を解決すべく、横方向についても復元力を持たせた改良型と位置付けられる。
心皿を排したボルスタレス台車では、台車の回転方向の移動も空気バネのねじれ・変形によって実現するため、ダイヤフラムの横剛性をボルスタ付台車よりも引き下げた低横剛性空気ばねが使われる。
空気バネ台車では一般に枕バネのバネ定数を引き下げてやわらかいバネを得、なおかつ通勤電車などでの極端な空積差が発生する環境でも十分な空気バネ作用を得るため、空気容量を増大させる目的で、台車枠内などに補助空気室を構成して空気バネと直結させる[2]。これにより、急激な荷重増大などの際にも十分なバネ作用を可能とし、またこの補助空気室と空気バネの間に配管がある場合は絞り弁、直接接している場合は絞り穴と呼ばれる空気の流量を制限する機構を介在させることで、振動減衰作用のない空気バネにおいてオイルダンパなどの併用なしでの振動減衰を実現している[2]。
さらに、時々の荷重の空積差に対応し、空気ばねの空気圧を自動的に調整して車両の高さを一定に保つ自動高さ調整弁を設置して必要に応じて給排気を行い(空気源は空気圧縮機で作られた圧縮空気を元空気溜め管経由で送られる)、左右の空気ばねの空気圧差が過大となった場合に平衡を保つため、左右の補助空気室間を空気管でつなぎ、その途中に差圧弁と呼ばれる圧力調整弁を設置している[2]。歴史についてはこちらも参照。 テンプレート:-
空気バネパンク
1962年、信越本線横川駅 - 軽井沢駅間の碓氷峠の66.7‰の急勾配における走行試験で、台車に空気バネを使用する165系電車10両編成の前にEF63形電気機関車3両を連結して勾配を下る際、機関車が非常ブレーキをかけて停止したところ、1両目の車両(クモハ165形)の車体後部が浮上、車体と台車が分離した。この教訓から、電車や気動車の運転両数に制限を設けることなどのほか、空気ばね内の空気を抜き、パンク状態にすることが有効であることから、この区間の通過時にはこの措置をとることが決められた。碓氷峠#粘着運転化も参照。
脚注
注釈
出典
参考文献
- テンプレート:Cite book
- 谷藤克也『プロが教える電車のメカニズム』、 ナツメ社、 2011年
関連項目
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