アムールトラ
テンプレート:生物分類表 アムールトラ (Panthera tigris altaica) は、ネコ科に属するトラの一亜種。altaicaとは、ロシアの西シベリアのアルタイ地方の意味[1]。和名はチョウセントラ、シベリアトラなどとすることもある。現在はロシア極東の沿海地方およびハバロフスク地方の、アムール川およびウスリー川流域でのみ生息しているが、かつては中国、朝鮮半島、満州、モンゴル、シベリアに広く分布しており、その生息範囲は中央アジアや西アジアにまで伸びていた。
現存する8つのトラの亜種でも大型の体躯を持ち、ネコ科の中でも最大の亜種である。雄の個体では全長3m、350kgを超えた例も報告されている[2]。2009年に行われた遺伝学的調査で、かつては別の亜種とみられていた西アジアのカスピトラ(絶滅)が、現在生息しているアムールトラとほぼ同一であることが判明した[3]。
目次
形態
雄の個体では体長(頭胴長)2.5 m (長さの比較資料:1 E0 m)、体重300 kg にも達する。しかし近年では、生息地における獲物の不足により痩せた個体が多く見られ[4]、現状での野生個体の体格面ではベンガルトラの方が大型と指摘もされることも多い[5]。
極めて寒冷な地域である(シベリアのタイガ)を主な生息域としていることから、他の亜種に比して長い体毛をそなえている。
生態
主にイノシシ、マンシュウジカ、ノロジカ、ジャコウジカ、ヘラジカなど中型及び大型の草食獣を捕食する。また、クマ(アムールトラの生息地域にはヒグマとツキノワグマが生息する)を捕食した例も報告されている[6]。ロシア極東において、ヒグマとツキノワグマはアムールトラの食料の5-8%を構成する[7]。人間以外の天敵は存在しない。アムールトラは生息域において最強の捕食動物である[8]。
生息
主な生息域は、ロシアと中国東北部の国境を流れるアムール川やウスリー川(アムール川の支流)周辺のタイガである。また、北朝鮮での生息も確認されている。北朝鮮での生息状況の詳細は不明だが、白頭山周辺が本種の生息地域として紹介されることが多い。
生息の現状
近年、アムールトラの個体数は500頭程度にまで落ち込んでいると推測され絶滅が危惧されている。一時期は自然破壊のために絶滅寸前まで追い込まれていたものの、冷戦終結後にアメリカを中心とした西側の動物保護団体による保護活動が進み生息環境も改善されつつあるため、徐々にではあるが個体数は回復傾向にある。しかし、今度は逆にアムールトラの生息拡大が、アムールヒョウの生息を脅かすという事態も起きており、新たな課題となっている。
絶滅の危機に瀕するアムールトラ
アムールトラ1頭あたり1,000平方キロ(東京都の面積の半分)の森林が必要だとされるが、沿海地方では森林伐採が進みタイガの面積が30%も減少するなど、その生息地が脅かされている。また、トラの骨などが高級酒の原料として高値で取引されているため、密猟も数多い。これらの原因で個体数は激減し、国際自然保護連合が発表しているレッドリストでも絶滅危惧種に指定され、対策が必要と指摘されている。ウラジオストク郊外のテンプレート:仮リンクでは、地元住民がボランティアで、親と死別してさ迷う幼いアムールトラを保護飼育し、野生復帰を試みているものの、現状では厳しくサーカスなどに送られる個体も多い[9]。
飼育の現状
日本では現在24の動物園でアムールトラが飼育されており[10]、繁殖にも力を入れている。
清正の虎退治
日本の戦国時代の武将・加藤清正が朝鮮出兵(文禄・慶長の役)の陣中にあったとき虎退治をしたとの逸話があるが、この虎はアムールトラであったと考えられる。
脚注
アムールトラに関する文献
当項目の参考文献
※脚注に掲載されている外部リンクを除く。
- 松尾寛「ウラジオストク・レポート第3回 ロシア極東・アムールトラを守れ」『NHKテレビテキスト テレビでロシア語』2010年6月号、日本放送出版協会(NHKニュースウオッチ92010年4月22日放送 「絶滅の危機アムールトラを救え」 を活字化したもの)
上記以外の文献
- 福田俊司1995年『ウスリートラを追って-シベリア5年間の撮影記録-』偕成社
- 千葉県立中央博物館編2000年『知られざる極東ロシアの自然-ヒグマ・シベリアトラの大地を旅する-平成12年度特別展解説書』
- 関啓子2009年『ユーラシア・ブックレットNo.144 アムールトラに魅せられて-極東の自然・環境・人間-』東洋書店
- あんずゆき2009年『いのちかがやけ!タイガとココア-障がいをがいをもって生まれたアムールトラのきょうだい-』文溪堂
- 林るみ(文)・釧路市動物園(写真)2009年『タイガとココア-障がいをもつアムールトラの命の記録-』朝日新聞出版
- 山根正伸2009年「木材-アムールトラの棲む森はいま-」窪田順平編『モノの越境と地球環境問題-グローバル化時代の〈知産知消〉-(地球研叢書)』昭和堂
- 高麗美術館編2010年『朝鮮虎展-2010年庚寅高麗美術館新春特別展-』
- 福田俊司2010年「SUPER VISION ついに撮影成功!野生のアムールトラ 」『Newton』30(10)ニュートンプレス
- ↑ 来年の干支の動物「トラ」について, 仙台宮城ミュージアムアライアンス
- ↑ Tigers.ca, Tiger World Siberian Tiger
- ↑ Driscoll CA, Yamaguchi N, Bar-Gal GK, Roca AL, Luo S, et al. 2009. Mitochondrial Phylogeography Illuminates the Origin of the Extinct Caspian Tiger and Its Relationship to the Amur Tiger. PLoS ONE 4(1): e4125. doi:10.1371/journal.pone.0004125. Plosone.org
- ↑ Location, physical status, size and circumstances of deaths of Amur tiger males in the Russian Far East, 1970-1994.
- ↑ ただし動物園等の飼育個体では、アムールトラがベンガルトラより一周り大きくなる傾向がある。
- ↑ tigrisfoundation
- ↑ Vratislav Mazak: Der Tiger. Nachdruck der 3. Auflage von 1983. Westarp Wissenschaften Hohenwarsleben, 2004 ISBN 3-89432-759-6]
- ↑ NATIONAL GEOGRAPHIC シベリアのアムールトラ
- ↑ #当項目の参考文献1.
- ↑ アムールトラのいる動物園 アムールトラネット国際環境NGO FoE Japan