アイズ ワイド シャット

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テンプレート:Infobox Filmアイズ ワイド シャット』(Eyes Wide Shut)は、1999年製作の映画。スタンリー・キューブリック監督の遺作となった。原作はアルトゥール・シュニッツラーの『夢小説』(1926年)。

アメリカでは本作にある性的シーンによってNC-17(成人映画扱い)に指定されている。また日本でもR-18(同じく成人映画扱い)に指定されている。

主演の2人に加え、結果的に監督の遺作となったという話題性も上乗せされて、7月以降のロードショーでは世界的なヒット作となった。

タイトルの Eyes Wide Shut は、英語の常套句 "(with) eyes wide open"(大きく見開いた目)をもじった、一種のナンセンスである。尚、当映画の試写会5日後に監督スタンリー・キューブリックは急死する。死因は心臓発作とされているが心臓発作の要因は不明とされている。

あらすじ

ニューヨークの開業医ビルとアリスの倦怠期を迎えている夫妻は、ビルの患者で友人のジーグラー夫妻が開いたクリスマス・パーティーに招かれる。このパーティでビルはピアニストであり旧友のニックと再会し、アリスはビルと別れて個別にパーティーを楽しむことにしたが、ビルは女性たちに誘惑され、一方でアリスはハンガリー人の紳士に誘惑される。その後、マンディという若い女性がドラッグを吸引し倒れてしまう。ピルの適切な処置でマンディは一命を取りとめたが、ビルはジーグラーによりこのことを口止めされた。翌晩ビルとアリスはふとしたことから口論になる。そこへ患者のネイサンソンが急死したという知らせが入り、ビルは患者の家へ向かう。しかし、その道中で、ビルはアリスが海軍士官とセックスをしているという妄想を抱き、懊悩する。

患者の死を見届け帰宅している最中に、ビルは再び妄想に取り付かれ、深夜のニューヨークを徘徊する。そこへ娼婦のドミノに話しかけられビルは彼女の家へ向かう。

その後、我に返ったビルは再び街をさまよう。たまたま見かけたバーでニックが演奏していることを知り、ビルは入店した。その後、ビルはニックがピアニストとして雇われている謎めいたパーティに行くことになる。

ビルは再び妄想に襲われながら、タクシーでパーティ会場へ向かった。しかし、そのパーティの正体は仮面乱交パーティーだった。その後、ビルは部外者であることが露呈し、会場を追い出されてしまう。

翌日、ビルはニックのホテルへ向かったが、ニックは何者かに連れ去られた後だった。ニックの足取りを追うためにパーティーのあった邸宅へ向かったが入り口は閉ざされていた。そこへ執事がやってきて何も言わずに封書を渡した。中には「これは2度目の警告だ。これ以上詮索するな」と書かれていた。

その後、ビルはドミノの家へ向かった。同居人の話からドミノがHIV陽性であることがわかった。

不審な人物に尾行されていることに気づいたビルは喫茶店へ逃げ込む。そこで読んだ新聞に、ミスコンの前女王がドラッグの過剰摂取で倒れたという記事が載っていた。ビルは搬送された病院へ向かい医師の立場を利用して女性に面会しようとするが、既に死んだと聞かされた。ビルが安置所で対面した遺体はジーグラーの家で命を救ったマンディーであり、そして昨日のパーティーでビルの命を救った謎の女性だった。

その時、ジーグラーからの電話が鳴った。彼の家へ向かうビル。ジーグラーはパーティーの参加者であり、パーティーの後でビルを尾行させたのも、ニックを連れ出させたのも自分だったと明かす。ビルはマンディーを殺したのかと問い詰めるが、ジーグラーは「普段から中毒であり時間の問題だった」と告げた。全てはビルを脅してパーティの秘密を守るための狂言だったのだ。

身も心も憔悴して帰宅したビル。眠るアリスのベッドに倒れこみそうになるが、アリスの横には無くしたはずの仮面があった。ビルは泣き崩れ、アリスに全て話すと言った。

ビルとアリスは娘と一緒にクリスマスプレゼントを買いに来た。賑やかなデパートの中を走り回る娘。いつしか夫婦は二人だけの会話に没入していた。色々あったけれど、生きて帰ってきたことに感謝すべきと語るアリス。そして夫婦の絆を確かめ合うために、今すぐしなければならない大事なことがあるという。「それは何だい」と聞くビルに、アリスは言った。「ファック」。

キャスト

日本語吹替版

収録は2001年5月6日。日本国内初出のビデオ/DVDには吹替え音声が収録されていなかった。後に吹替版VHSが出て、2001年以降DVDにも吹替え音声が収録されている。

スタッフ

  • プロデューサー:Leon Vitali/Steve Ohno
  • 翻訳:佐藤恵子 演出:木村絵里子
  • 編集:オムニバス・ジャパン 録音:高久孝雄
  • 日本語版製作:ワーナー・ホーム・ビデオ/東北新社(河合敦之/神部宗之)

プロデューサーのクレジットに『バリー・リンドン』出演後キューブリック監督の助手として活躍しているレオン・ヴィターリの名前がある。

製作

キューブリックがこの作品の映画化を志したのは、1970年代にまでさかのぼる。1972年には映画化権を取得するが、他作品の制作などに忙殺されるなどにより実現が危ぶまれた。1990年代に入りようやく制作が本格化し、共同脚本家に『ダーリング』でアカデミー賞を受賞したフレデリック・ラファエルが起用された。なおキューブリックは当初、作者と題名を伏せた原作をラファエルに送ったものの「古臭い内容だ。まさかシュニッツラーか?」との返事を受けた。2人によって内容は現代劇に改められ、またキューブリックの意志で儀式の描写が作品の要になることも決定した。

1995年12月、ワーナー・ブラザーズは「キューブリック監督が新作を制作する。夫婦の嫉妬をテーマとした作品でタイトルは『EYES WIDE SHUT』、主演はトム・クルーズとニコール・キッドマンである」と発表した。私生活上でも夫婦であり、共に大スターでもあるクルーズとキッドマンの共演は大きな注目を集めるが(2人の共演は結婚後『遥かなる大地へ』から数えて2回目だった)、それゆえに「完璧主義の監督に、多忙なスターが合わせられるだろうか?」などと完成を疑問視する向きもあった。キューブリックは過去に、制作が中断した作品がいくつかあることも不信を高めた。

1996年11月から撮影が始まるが、キューブリックの意志により秘密裏に進められたため、その内容も全く外部へは知らされなかった。キャストの交代などにより撮影は長期化し、1998年4月まで延々400日以上に及ぶギネス記録となった(後述)。なおクルーズ夫妻はこの作品に臨むため、ロンドンへ移住していた。

撮了後はキューブリック1人の手で編集が行われる。音楽は、ドミートリイ・ショスタコーヴィチの『ジャズ組曲 第2番 ワルツ2』(当時の名称)とジェルジ・リゲティの『ムジカ・リチェルカータ』が用いられた。

1999年3月2日、キューブリック、クルーズとキッドマン、WBスタッフの4人による極秘の0号試写が行われるが、5日後の1999年3月7日にキューブリックは急死する。その直後にキューブリック自身が手がけた予告編が公開された。

作品解説

公開当初はキューブリックが自ら語ったという「この作品が私の最高傑作だ」との言葉が広く流布され、ビデオソフトの解説などにも引用された。

一方で、死の2週間前にキューブリックからの電話を受けたという友人で俳優のリー・アーメイが、その電話でキューブリックは「『アイズ ワイド シャット』は、クルーズキッドマンが滅茶苦茶にした完全な失敗作だ」と語っていたと2006年に発言している。

ロケ地

本作ではクリスマス期のニューヨークにおける華やかな街の景色と寒々とした気温が巧みに表現されているが、キューブリック監督が極度の飛行機嫌いであることから、「フルメタル・ジャケット」同様すべてイギリスでのロケおよび大規模スタジオ撮影で再現されている。

加えてキューブリックは完璧主義な監督であったため、撮影に集中させようとしてトム・クルーズとニコール・キッドマンをイギリスに一年滞在させたいと考えた。この監督の要望に応えたいクルーズと、家を空けたくないニコールとの間に軋轢ができ、それが離婚の原因になったと言われる。なお、主演夫婦には当初、コメディアンのスティーブ・マーティン夫妻がキャスティングされていた。実際キューブリック邸での台本読みにも夫婦で参加している。

イギリスでのロケによるためか、所々に欧州仕様のままの自動車が登場する。これらはアメリカ仕様車とは外観の一部が異なっている。例として、ニューヨーク路上での三菱ミラージュメルセデス・ベンツ、パーティー邸宅でのロールス・ロイスなど。

ギネス記録

本作品は撮影期間が46週=休暇を含めて400日(1年以上)。その長さはギネスブックにも「撮影期間最長の映画」という部門で認定されている。

撮影の長期化で、クルーズの次の主演作『ミッション:インポッシブル2 (M:I-2)』の撮影開始はスケジュール全体が後にずれ、撮影終了も予定より遅れることになった。『M:I-2』で共演しているダグレイ・スコットは撮影終了後すぐ『Xメン』のウルヴァリン役を務める予定だったが『M:I-2』の撮影終了が『Xメン』撮影開始に間にあわず、ウルヴァリン役はヒュー・ジャックマンに交替した。

当初ジーグラー役だったハーヴェイ・カイテルとマリオン役だったジェニファー・ジェイソン・リーは出演場面がすでに撮影されていた。にもかかわらず、監督が撮り直しを要請したところ共に他の作品の撮影が開始されたため戻って来られず、ジーグラー役はシドニー・ポラック、マリオンはマリー・リチャードソンにキャスト交替となった。

ソフト

この作品のDVD-Videoはキューブリックの意志で、4:3の画面比率で収録されている。

書籍

脚本執筆に際しての様々なエピソードは、キューブリックの死後共同執筆者のフレデリック・ラファエル(『ダーリング』などで知られる)によって『EYES WIDE OPEN』という書籍にまとめられ刊行されたが、キューブリック夫人に「著しく事実と異なる」として出版差し止めを申請された。

豆知識

  • 主人公ビルとアリス夫妻の姓「ハーフォード」はハリソン・フォードのもじりである。
  • ビル(トム・クルーズ)がニック(トッド・フィールド)の演奏を観に訪れたバーには、キューブリック監督本人が客として映っている。

参考文献

脚注

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外部リンク

テンプレート:スタンリー・キューブリック監督作品テンプレート:Link GA

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