安曇野
安曇野(あづみの、あずみの)は、長野県中部(中信地方)にある松本盆地のうち、梓川・犀川の西岸(押野崎以南)から高瀬川流域の最南部にかけて広がる扇状地全体を総括している。
地名の由来
語源は古代にこの地に移住してきた海人族安曇氏に由来するという説がある[1][2]。安曇氏はもともと北九州の志賀島周辺を本拠地としていたが全国に散らばっていった。穂高神社は信濃の安曇郡に定住した安曇氏が祖神を祀った古社であり、志賀島から全国に散った後の一族の本拠地はここだとされる。
仁科濫觴記によれば、成務天皇の代に諸国の郡の境界を定めた際、「保高見熱躬(ほたかみのあつみ)」が郡司であったため「熱躬郡」となった。天智天皇7年(668年)に「熱躬」の名を除こうと考えた「皇極ノ太子」(天武天皇に比定される)によって「安曇」に改称された[3]、とある。一方、二十巻本の和名抄(巻5)では、安曇を「阿都之(あつし)」と訓じてある。この「あつし」という訓は、「熱躬川」が改称された梓川(あずさがわ)の「あずさ」に近い。
「安曇野」が指し示す範囲としては、明確に画定された線引きは無いが、概ね安曇野市、池田町、松川村の3市町の他、さらに松本市梓川地区(旧・梓川村)、古くは安曇平(あづみだいら)と呼ばれていたが、臼井吉見の小説『安曇野』によって有名になり、この名称が定着した。それ以前にも武者小路実篤、若山牧水、土岐善麿らの文人によって「安曇野」と呼ばれていた。
なお、「安曇」の平仮名表記については明確な基準は無いが、安曇氏が「アマツミ」に由来していることから「あづみ」と読む場合が多いが、現代仮名遣いでは一般的に「づ」は「ず」と表記するように定められていることから、「あずみ」と表記している例もある。 例:「あづみ」⇒安曇野市、JAあづみなど 「あずみ」⇒安曇追分駅など
概要
安曇野は、北アルプスの山々から湧き出た清流(梓川・黒沢川・烏川・中房川)によってできた複合扇状地である。そのため地表にある水は浸透してしまうため、堰(せぎ)と呼ばれる用水路によって灌漑(かんがい)し、農業を行っている。主に、稲作やりんご栽培である。扇状地の扇端部では、安曇野わさび田湧水群があり、水が綺麗でないとできないワサビ栽培やニジマス・信州サーモンの養殖を行っている。
また、数多くの美術館や資料館・記念館が点在しており、美術館巡りを楽しむことができるほか、小さく個性的な喫茶店や蕎麦屋、レストラン、宿なども多くある。
長野県内有数の観光地・別荘地となっており、多くの観光客が県内外から訪れる。さらに、定年を迎えるなどした都会在住者などが、スローライフを求めて移住する動きもみられる。
安曇野わさび田湧水群
常念山脈を水源とする犀川、穂高川、高瀬川が形成する扇状地が重なり合った複合扇状地の扇末部に位置する。安曇野の至るところから地下水が湧き出しており、その水量は日量70万tと言われ、安曇野の名産であるワサビやニジマスを育てている。 1985年(昭和60年)環境庁(当時、現・環境省)が指定した名水百選[4]に選定されるとともに1995年(平成7年)3月には国土庁から水とロマンあふれる安曇野として水の郷百選[5]の認定を受けた。
アクセス
- 道路
- 長野自動車道・安曇野インターチェンジ下車。国道147号や安曇野アートラインが安曇野を縦断している。狭い路地が多いこともあり、穂高駅前などにレンタサイクル屋がある。
- 鉄道
- JR大糸線が安曇野を縦断している。東京方面からはJR中央本線(中央東線)特急「あずさ」・「スーパーあずさ」が運行されており、松本駅で大糸線に乗り入れる。名古屋・大阪方面からはJR中央本線(中央西線)特急「しなの」が運行されており、臨時運転では松本駅で大糸線に乗り入れる。松本駅から4駅目の梓橋駅には「是より北 安曇野」と掲示されている。
- 空路
- 信州まつもと空港(松本空港)から松本バスターミナルまで路線バスが運行しており、松本駅で鉄道を利用してアクセスできる。このほか、空港ではレンタカーも利用できる。
観光スポット
美術館・資料館
- 安曇野アートライン
- 安曇野ジャンセン美術館
- 安曇野市豊科近代美術館
- 田淵行男記念館
- 安曇野髙橋節郎記念美術館
- IIDA・KAN 「ハーモニック・ドライブ・システムズ」
- AZUMINO ARTHILLS MUSEUM 「アートヒルズ」
- Museum Cafe BANANA MOON
- 絵本美術館 森のおうち
- 大熊美術館
- 北アルプス展望美術館
- とんぼ玉美術博物館
- 安曇野ちひろ美術館
- 貞享義民記念館
安曇野 (小説)
長野県南安曇郡三田村(堀金村を経て、現・安曇野市)生まれの小説家・臼井吉見の歴史小説で、彼の代表作。1964年入稿、1974年上梓。筑摩書房から出版、全5巻に及ぶ長編小説である。主人公は実業家の相馬愛蔵・相馬良夫妻、彫刻家の荻原碌山、教育者の井口喜源治、社会主義者の木下尚江、そして終盤で登場する作者本人の計6人。木下と良を除く4人の故郷である安曇野と相馬夫妻が東京本郷で起業した新宿中村屋の物語に作者の戦中戦後の回顧録を併せて、広く明治から昭和中期にかけての日本を描いている。
関連項目
脚注
- ↑ 国土交通省安曇野市
- ↑ 安曇の中心的役割の一つである穂高神社の祭神の三座、穂高見神・綿津見神・瓊瓊杵神のうち、綿津見神と穂高見神(宇都志日金柝命)は阿曇連(あずみのむらじ)の先祖であることから(「古事記」上つ巻、「新撰姓氏録」)、そのことは裏付けられるであろう。
- ↑ 仁科宗一郎著『安曇の古代 -仁科濫觴記考-』(柳沢書苑、1982年)
- ↑ 安曇野わさび田湧水群 - 名水百選
- ↑ 安曇野市 - 水の郷百選