フィギュア
フィギュア (figure ) は「人の形を模したもの」を指す。
概要
元来は英語圏で「人の形を模したもの」を指す一般的な言葉である。人の形を模したものを、すべてフィギュアと呼ぶわけではなく、西ヨーロッパでは等身大のものから数分の一程度のサイズのものを「スタチュー(statue)」「立像」といい、ヴィネットを含む比較的小さなサイズのものを「フィギュアリン・小立像」と呼称される。スタチューであっても彫刻によって作られたものはスカルプチュアと呼ばれるなど、彩色の有無や素材の違い、技法の違いなどから呼称の区別は曖昧である。
一般的には彫刻・彫塑・立像などの分類から外れたものを指すことが多い。大航海時代において、帆船の船首に取り付けていた旅の安全を願うお守りで、女神や妖精などの美女の像をフィギュア・ヘッドと呼ぶなど、西欧圏で一般化した言葉である。イスラム圏では人形文化そのものがほとんど発達していないが、これはタブーの一つに偶像崇拝が挙げられているため。
趣味の模型や玩具においては人形を意味し、鉄道模型やミリタリーモデルなどで使用される。日本では食玩ブーム以降、ミニチュアの代わりとしてフィギュアという言い方が広まった。その際には、必ずしも人物のミニチュアを意味せず、自動車などの乗り物をはじめとして建物、食べ物、植物や動物、昆虫、過去の生き物や空想の世界の物も含まれることがある。名称は商業上の理由からメーカーによって意図的に別称される場合もある[1]。
歴史
先史
1908年にオーストリアの遺跡で発見された世界最古の人形は、旧石器時代の22000 - 24000年前に作られたものと推定されている。女性的な形状であったことから『ヴィレンドルフのヴィーナス 』(写真参照) と呼ばれている。ギリシャのクレタ島ミノア文明の遺跡からも人形の顔の部分が発見されている。
これらの人形は先史文明において文化が発祥しはじめたことを示している。当時、どのような目的で作られたか判明していないが、これらは墳墓において発見されることが多かったため、宗教的な儀式で使用されたか、装飾品として使用されたと推測されている。
中世・近世
17世紀に中国からヨーロッパへもたらされた磁器を人形に応用し、18世紀に磁器製の人形がドイツを中心に広がった。ヨーロッパでは初期にドイツのマイセンで生産されたことから、これらの磁器製品を『マイセン』と呼ぶ。この磁器の生産はまもなくドレスデンなど他の都市へも広がりはじめた。
イタリアの南チロル地方では、17世紀以後、松の木を素材に使用した聖人や戦闘中の軍人の木製人形が生産された。
現代
現代の人形、プラスチックで生産されるものを特に『フィギュア』と呼ぶ。ポリ塩化ビニル製のフィギュアは「PVCフィギュア」と呼ばれる。
1964年に発売されたアクションフィギュアは『フィギュア』であるが、それだけでなく、フンメル人形やボブルヘッド人形、リヤドロ人形もフィギュアに含まれる。
製品
分類
- メタルフィギュア
- 金属製のフィギュアで、材質はピューター、ホワイトメタルなどの加工しやすい柔らかな合金が用いられる。ミニチュアゲームの駒として古くから使われ、TRPGにも用いられる。ミリタリーモデルのジオラマ用、単体のヴィネット用も多い。欧米では広く普及しており、古い歴史と膨大な種類がある。メタルキャストによる複製が容易であるため、ガレージキットの黎明期にはホワイトメタル製キットが一般的であった。
- 自販機フィギュア
- 模型屋や駄菓子屋の店頭に設置された、ガチャポンなどの自動販売機で販売されるフィギュア。カプセルに単体で封入されている。かつての素材は「消しゴム」と称された単色のゴム製のもの (怪獣消しゴム、キン消しなど) で、デフォルメされたものが多かった。近年は彩色済みで硬質の合成樹脂を用いた、細密成型のものが主流である。またコンビニエンスストア店頭で販売されることもある。
- 食玩フィギュア
- 食品付き玩具 (食玩) の中でキャラクターフィギュアが付属しているもの。海洋堂の食玩から始まったフィギュアブームにより、動物や家具、食器などのミニチュアや鉄道模型、あるいは戦車や戦闘機などミリタリーモデルのカテゴリーに含まれるものまでも、一括してフィギュアと呼ばれるようになるが、本来はこれらはフィギュアと呼ぶにはふさわしくない。また一部の食玩では背景や複数の登場人物を組み合わせた、ジオラマ風のものも登場しているが、これは本来ジオラマ、もしくはヴィネットと呼ばれるものである。
- プライズフィギュア
- ゲームセンターのプライズゲーム(クレーンゲームが主流)や一番くじなどの景品。プライズ品とも呼ばれる。ここでは人形について記述する。主流は射出成形によるPVC製のムクで塗装済みの完成品(もしくは半組立品)である(これらの特徴は市販品も同じ)。1970年代末に端を発し1980年代に隆盛を極めた、組立てや塗装にある程度の技能を必要とし面倒な手間の掛かるウレタン樹脂製やソフトビニール製フィギュアなどのガレージキットが衰退した後、1990年代後半から興隆し普及し始めた比較的新しい分野である。一般にノンスケールであり、スケールの表記はされていない(しかし全くの無秩序の縮尺でもない)。原型は日本で作られ、主に中国で大量生産される。初期には「安かろう悪かろう」の代名詞的存在であったが、2000年代後期以降、その造形や塗装などの品質が急激に向上しており、市販品との差を縮めている。これには中国側の熟練や技術力の向上だけでなく、2000年代後半以降の円高による実質的な開発・製造予算の増額が関係している。2005年以来毎年、年4回(2月・5月・9月・11月)、プライズ品製造会社各社による見本展示会であるプライズフェアが開催されている。
- アクションフィギュア
- かつての人形玩具では、成形の都合上でのパーツ分割部分のみで可動が可能となるものが多かったが、1964年のG.I.ジョーの登場以降、人間に準じたより多くの関節をプレイバリューとして積極的に人形に再現する事が、主に男児向け玩具において定着した。この経過で、G.I.ジョーのスタッフによって考案されたアクションフィギュアの呼称も一般化した。日本では、特に関節の自由度を強調したい製品の場合に、フルアクションフィギュアと呼称することもある。
- ソフトビニール人形
- ソフトビニール人形とはポリ塩化ビニルを型抜きして中空成型したパーツを組み立てた、完成品のフィギュア。軟質素材であるため、ソフトビニールと呼ばれ、さらに略してソフビとも呼ばれる。児童向けの玩具では女児向けの人形の素材として古くから存在していたが、マルサン商店がゴジラやウルトラQの怪獣を商品化し大ヒットした事から、大々的にキャラクター物のソフトビニール人形が作られるようになった。パーツを組み合わせた部分は「間着(嵌着)」と呼ばれ、その接合面で可動するため、アクションフィギュア程ではないがそこそこ可動する上に、丈夫で水遊びにも使えるなど、児童の玩具に適していた。反面、成型の都合上細いパーツの再現が難しい。
- ドール
- 西ヨーロッパ圏、特にヨーロッパにおける愛玩用もしくは玩具としての人形が「ドール」と呼称され、また、ドールハウスなど実際に人形が存在しなくともドールという呼称が使用される場合もある。日本においても古くから存在する一般的な呼称である。
- 近年、高年齢層のフィギュアユーザーの増加にともない、従来のような男子玩具・女子玩具の区別による対象ユーザーの区分けが実態にそぐわなくなった結果、新たな区分けのための使用例が見られるようになった。具体的には、玩具業界において一世を風靡した“アクションフィギュア”と区別するための呼称としての“ドール”であり、日本では、主に「植毛されている・可動部分を持つ・衣装の着せ替えを行なえる」といった特徴を持つ、スーパードルフィーをはじめとするフィギュアや人形の総称として“ドール”が使用される。また、リカちゃん、ジェニーなどの女児向け玩具も含めた着せ替え人形をも含む言葉として使用される例もある。このように、アクションフィギュアと区別するために使用されていながら、縫製による衣装や、植毛といった、着せ替え人形に近い特徴をもつアクションフィギュアをドールとして紹介・区別している例もあり、未だ境界は曖昧である。
- ガレージキット
- ガレージキットとは、アマチュアもしくはセミ・プロモデラーによって作られた、大量生産が難しい技法で生産されたキットを言う。フィギュアはその製作方法により容易にガレージキットへと転化できるため、多くの場合複製品として流通することが多い。もちろん複製をしないワンオフ物も存在する。昨今日本で主流となっている食品付属玩具 (食玩) などは大手メーカーの大量生産品であるため、ガレージキットというよりもプラモデルに近い。またガレージキットも製作技術の進歩、素材の改良、大手の参入などがあり、1,000個単位の流通も珍しくはなくなっている。
メーカー・レーベル
フィギュアの生産は大手企業や個人メーカーなどさまざまなところで行われている。日本では2000年代初頭に海洋堂がチョコエッグで大きなブームを巻き起こす以前は、小規模メーカー・レーベルが活発に活動していた歴史的な経緯もあり、零細メーカーやセミプロ的な活動実態のレーベル、過去に存在したものまで細かく挙げていくと際限が無い。
また、メーカー・レーベル間の競合の激しい業種であり、複数のメーカー・レーベルによって、特定の人気作品 (もしくはキャラクター) のフィギュアが長期にわたって過剰供給される傾向も見られる。
- 主なメーカー(五十音順)
- アイズプロジェクト
- 青島文化教材社
- ALTER
- alphamax
- WAVE
- ヴェルテクス
- エンターブレイン
- オーキッドシード
- オルカトイズ
- 回天堂
- KAIYODO
- キューズQ
- Good Smile Company連合(Good Smile Company、MAX FACTORY、FREEing、ネイティブ、Gift、ファット・カンパニー、ウィング)
- グリフォンエンタープライズ
- クレイズ
- KOTOBUKIYA
- スカイチューブ
- SEGA
- ダイキ工業
- タミヤ
- 1/35スケールのミリタリーモデル用のフィギュアを各種展開している。
- ウルトラ怪獣シリーズなど、金型成型したポリ塩化ビニル素材を併用した、シャープでリアルなソフトビニール人形を展開している。
- 鉄道模型用のフィギュアを各スケールで展開している。
製作方法
多くの手法が存在する。多くの場合は複数の素材と技法を混合する傾向にある。また技法は素材とも密接に関わる。
- ポリエステルパテを使用し、おおまかな形を盛り付けてから、硬化後に細工を施す。
- 無発泡ポリウレタン樹脂を使用し、おおまかなブロック状の成形物をつくってから、削り出す。
- 石粉粘土など、乾燥により硬化する粘土を用い、おおまかな形を盛り付けてから、硬化後に細工を施す。
- 焼成粘土など、加熱により硬化する粘土を用い、おおまかな形を盛り付けてから、硬化後に細工を施す。
- 繊維強化プラスチックをガラスクロスに塗り付け、形を整え、硬化後に細工を施す。
ほとんどの場合、完成したフィギュアはそのままでは長期の保存、展示には向かない。ポリエステルパテは硬化剤との化学反応が硬化後も続くため、経時変形により収縮する。石粉粘土などは強度が不足しているため、わずかな振動で破損する可能性がある。そのため完成したフィギュアを原型とし、シリコーンゴムと無発泡ポリウレタン樹脂を用いて複製を行ない、複製したものを完成品として仕上げることが多い。
- ソフトビニール (PVC、ポリ塩化ビニル) 製品の製作方法は、粘土などで原型を作り、その後、シリコーンで型取りしてからワックスの原型を作る。そこで細部を修正してから表面を硝酸銀の還元による銀鏡反応によって導電化してから銅を電鋳によって積層する。その後、加熱しワックスを溶かして取り除いてから銅の金型の薄い部分を補強する。量産時には熱硬化性の塩化ビニルのモノマー (クロロエチレン) を入れた金型を高温の油が入った釜 (オイルヒーター) に湯煎のようにして加熱する。この時、温度管理と加熱時間に注意する。熱によりクロロエチレンが重合してポリ塩化ビニルになったら金型をオイルヒーターから取り出し、未反応のモノマーを戻して冷却してから金型から取り出す。加熱時間が短い方が薄いソフトビニールが出来る。このプロセスを繰り返す。
こうしたフィギュアは、高価で組み立て・塗装に技術と労力を要する事から、購入層はもっぱら一部の愛好者・モデラーに限られていたが、近年では食玩フィギュアの製造ノウハウを応用して、中国などの工場で製造・塗装された精巧で安価な完成品フィギュアが流通するようになり、模型の範疇にとどまらずキャラクター商品のひとつとして、書籍・ゲームソフト・DVDソフトなどの付録や購入特典として付属するケースも多く見られる。
なお、例外として、欧米で古くから流通するフラットフィギュアがある。これは絵を元にして石板を直接彫って鋳型とするためフィギュアの原型は存在しない。
脚注・出典
関連項目
- 彫刻
- 仏像
- ミニチュア・ウォーゲーム
- アクションフィギュア
- 食玩
- 3Dプリンター
- Model Figure (英語)
- material SNS fg -フィギュアや模型をテーマにしたSNS。自由な角度からの3DCGをテーマにした「cg」も併設されている。
参考文献
- いわた 『かわいい女の子フィギュアを作ろう! ―フルスクラッチで作成するオリジナルフィギュア』 秀和システム、2005年12月。ISBN 4798012130