ノーチラス号
ノーチラス号(ノーチラスごう、仏: Nautilus)はフランスのSF作家ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』と『神秘の島』に登場する架空の潜水艦である。ノーチラス号の艦名は、ロバート・フルトンにより1800年に設計された潜水艦ノーチラスの名にちなむ。ノーチラス(Nautilus)はラテン語でオウムガイを意味する。
概要
ノーチラス号は元インドの王子にして技術者であるネモ船長により設計され、その指揮下の元、陸地との一切の交流を絶った海底探検の航海を続けている。
ノーチラス号の動力は全て電気で賄われており、水銀と海水から取りだした塩化ナトリウムを用いたナトリウム・水銀電池[1]で発電した電力を、電磁石を介して特殊装置に伝え、スクリューを稼働させている他、船内外の照明などに使用している。電池の原料は乗組員の手により海中から賄われている。また、電力だけではなく、食料や衣類なども全て海中から得たもので作られている。
ノーチラス号の最高速度は50ノットで、排水量は通常時1356.48トン、潜水時1507トンである。船体は紡錘形をしており、防水隔室によって区切られた二つの船体から構成された二重船殻構造を持つ。また、船内には150.72トンの容量を持つ主タンクと、100トンの容量を持つ潜水用補助タンクの二つバラストタンクを有している。
ネモ船長自身の言葉によれば、寸法などは以下の通りである。
- 「ムッシュウ・アロナクス、あなたがいる船の各寸法をここに示しましょう。この船は両端が尖った細長い円筒形をしています。その形状は葉巻の形に非常に似ており、既にロンドンで同じ種類の各構造物に利用されています。船首から船尾まではちょうど70メートルの長さがあり、最大直径は8メートルあります。この船はあなたが長い船旅を送ってこられた汽船のように、10対1の比率には従ってはおりませんが、船体は充分に細長く、かつ湾曲させてありますので、水は容易に掻き分けられて巡航の障害にはなりません。ノーチラス号の表面積と体積は、これらの二つの寸法から単純な計算によって求められます。ノーチラス号の表面積は1011.45平方メートルで、体積は1500.2立方メートルです。つまりは、ノーチラス号が完全に潜水した状態で1500.2立方メートルの水が排水されます。1500.2メートルトンと言い換えてもよろしいでしょう」
船内にはネモ船長の私室や食堂、調理室、乗組員室、浴室、機関室などの他に、12000冊の蔵書を持つ図書室や、多くの美術品やネモ船長が海底で採取したコレクション、パイプオルガンなどを収めた広間がある。この広間の左右の壁には普段はパネルで塞がれた巨大な窓があり、海底の情景を堪能することが出来るようになっている。なお、ノーチラス号の全ての窓には、耐圧性に優れるクリスタル・ガラスが使用されている。
甲板には半ば船体にめり込んだ形で水密化された鋼鉄製のボートが格納されている他、窓を有する操舵室と、強力な電気反射装置を格納したボックス、手すりなどが突き出している。これらは船体内部に収納する事も可能。また、二個の空気の取り込み口[2]も備えており、これを用いて150万リットルの空気(625人の人間が一日中呼吸できるだけの量)を船内に取り込むことが出来る。
また、船舶を攻撃するために、船首に衝角を有している。ノーチラス号は目標となる船を喫水線の下から衝角で貫いていたため、その襲撃は世界中で海の怪物の仕業だと思われており、『海底二万里』の主人公アロナクスも、当初はノーチラス号を巨大なイッカクの類だと推測していた。
ノーチラス号を建造するための部品は、ル・クルーゾー、ロンドン、リバプール、グラスゴー、パリ、プロシア(クルップ社)、モタラ(スウェーデン)、ニューヨーク、及びその他の都市で注文され、無人島でネモの部下達によって組み立てられた。進水は1865年ごろ。建造にかかった費用は168万7000フランであり、整備費用や搭載されている美術品の価格も含めると、ノーチラス号の価格は400~500万フランとなる。
様々な国籍を持っていた乗組員によって運用されており、船内では独自の言語が使用されている。また、ノーチラス号を象徴するエンブレム的なものとして、ネモ船長の頭文字である「N」を「MOBILIS IN MOBILI」(ラテン語で「動中の動」の意)の名句で囲ったマークや、黒地に金色の「N」の文字をあしらった旗などがある。
ネモ船長は後にクルーの多くを失い、孤島の洞窟にノーチラス号を隠し隠居をはじめたが、漂着したアメリカ人数人に自分の所業を語ると死去。ノーチラス号は遺言どおりネモ船長の棺として、彼らによって洞窟の底へと沈められた。
他作品におけるノーチラス号
ノーチラス号は最も有名な潜水艦の名前となり、オリジナルである『海底二万里』や『神秘の島』以外にも、多くの作品で超時代的な装備を備えた万能潜水艦として登場している。
- ネモ船長と海底都市(イギリス映画、1969年) - ノーチラス号より大きくて速いノーチラス2号も登場。
- アトランティスの謎(アメリカ映画、1978年) - バリアとレーザー兵器を装備した原子力潜水艦として登場。冷凍睡眠から目覚めたネモ船長により指揮される。
- ふしぎの海のナディア(テレビアニメ、1990年) - 『海底二万マイル』を原案として大幅な翻案を加えた物語である。アトランティス人の宇宙船を改造した万能潜水艦として登場。アトランティス人の子孫であるネモ船長と、副長のエレクトラを始めとする多国籍クルーにより操舵される。43000トン、全長152メートル、幅47メートル、最大巡航速度108ノット。「常温対消滅機関」と言う動力炉と、「水流ジェット推進」と言うスクリュープロペラに頼らない推進装置が特徴的。VLSを備えるなど20世紀の潜水艦に通じる兵装も持つ。敵組織ネオ・アトランティスの一方的な攻撃で撃沈の憂き目に遭ったが、後に万能宇宙戦艦Ν-ノーチラス号が再登場した。
- ノーチラス号の冒険(小説、ヴォルフガング・ホールバイン著、1993年~2002年) - 『海底二万里』の続編(『神秘の島』は含まれない)として書かれたシリーズ作品。ネモ船長の忘れ形見である少年マイクらが、ネモ船長が残したノーチラス号を操り冒険を繰り広げる。
- リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン(アメリカン・コミック、1999年) - 概ね原作設定のままで、ネモ船長が操る潜水艦として登場。その名の通りにオウムガイを連想させる8本の伸縮自在の触手を備え、第二篇では火星人の三脚機を主砲の一撃によって斥けた。映画版の『リーグ・オブ・レジェンド』では専用探査艇とミサイルが標準装備になり、外観も「大海の剣」と形容される鋭利なデザインになった。
- ヴェルヌワールド - (スーパーファミコンソフト) - 水中でも使用可能な多数の超光学兵器(通常の光学兵器は水中・湿度が異常に高い場所では使用できない)、波動砲と思われる二門の超巨大主砲を搭載した超重装備ド級潜水艦として登場。この作品では、外観はオウムガイの名に相応しい・・・というよりは、オウムガイそのものである。
- スタートレック(テレビドラマ) - 宇宙艦隊保有の、「U.S.S.ノーチラス(U.S.S. Nautilus、NCC-31910)」という宇宙船が登場する。ヴェルヌのオリジナルの「ノーチラス号」と、後述するアメリカの原子力潜水艦「ノーチラス」にちなんで名付けられた。ミランダ級を参照。
- マンハッタンを死守せよ(小説、クライブ・カッスラー著、2002年) - 19世紀に実在した潜水艦の設定で登場。
- ファイナルファンタジーIII - (ファミコンソフト) - サロニア城の学者たちの手で遺跡より発掘された飛空艇。後に潜水機能が備わる。極めて高速なため、狙った場所に停止させるのが困難。
- 屍者の帝国 - (小説、伊藤計劃×円城塔著、2012年) - イギリス海軍の潜水艦として「H.M.S. ノーチラス」が登場。衝角以外の武装は有さないなど、性能は『海底二万里』のノーチラス号に準じており、少なくとも3隻の同型艦がイギリス海軍に所属している。
実在のノーチラス号
- ノーチラス号は、ナポレオンの要請によりロバート・フルトンが1800年に設計した、世界最初の実用的な潜水艦の名前であり、ヴェルヌのノーチラス号はこの潜水艦の名前に基づいている。
- ノーチラス号はアメリカで1954年に完成した世界最初の原子力潜水艦「ノーチラス」の名前としても採用された。この潜水艦は、1958年に初の北極海横断潜航に成功した。
- 実際の潜水艦ではないが、東京ディズニーシーのミステリアスアイランドにネモ船長のノーチラス号を再現したものが繋留されている。ただし中に入ることはできない。
- ディズニーランド・パリには『ノーチラス号のミステリー』(あるいは『ノーチラス号の探検』)(Le Mystères du Nautilus)という名のアトラクションがあり、ノーチラス号の中へ入ることができる。
- 『クストーの海底世界/ジャック=イヴ・クストー』シリーズの探査船の名前もノーチラス号である。
日本で1970年代から1980年代にかけてのテレビドキュメンタリー番組『驚異の世界・ノンフィクションアワー』(日本テレビ系列)で放送され人気を博した。