海底二万里

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テンプレート:基礎情報 書籍 テンプレート:Portal海底二万里』(かいていにまんり、テンプレート:Llang)は、ジュール・ヴェルヌ1870年に発表した古典的なSF冒険小説である。日本語訳の題としては、他に『海底二万海里』、『海底二万リュー』、『海底二万リーグ』、『海底二万マイル』など。オリジナル版の挿絵は序盤がエドゥアール・リュー、中・終盤がアルフォンス・ド・ヌヴィル[1]

ストーリー

この物語は、ネモ船長という謎の人物により、極秘裏に建造された新鋭潜水艦ノーチラス号オウムガイの意)の冒険譚である。

船舶が巨大な角のようなもので喫水線下に大穴をあけられるという怪事件が続発していた。原因が、イッカクのような巨大なクジラではないかという仮説を唱えたフランスの海洋生物学者アロナックス博士、忠実な助手のコンセーユ、銛打ちの名人ネッド・ランドの3人は、調査のために出向いたアメリカ合衆国の軍艦、「エイブラハム・リンカーン号」に乗船するが、逆に軍艦をその怪物に攻撃され、甲板から海に投げ出されてしまう。

彼らは、幸運にも艦首に衝角を備えたその怪物こと潜水艦ノーチラス号と、ネモ船長と自称する男に救助され、彼らと潜水艦の旅にでることになる。かくてアロナックス博士たちは、紅海の本物のサンゴ礁やヴィゴ島の海戦の残骸や、沈んだアトランティス大陸の遺跡などを目撃することになる。

しかし、ネモ船長には謎めいた一面があり、アロナックス博士は不審に思う。ネモ船長は、どうやらどこかの国でひどい迫害を受け、その復讐のために部下たちと共にノーチラス号で海中に潜んでいるらしかった。事実、ある日ノーチラス号は国籍不明の軍艦の攻撃を受け、逆にその衝角で軍艦を撃沈してしまう。そんな恐ろしい事件を機に、もともとネモ船長に不信感を抱いていたネッド・ランドはノーチラス号からの脱出をアロナックス博士らに提案し、ノーチラス号がスカンディナヴィア半島沖の「魔の大渦(メイルストローム)」に巻き込まれた隙に脱出に成功した。

登場人物

ピエール・アロナックス
本作の語り手である海洋生物学者。パリ博物館の博物学教授。助手のコンセイユと共に小説の著書を努めたりなどと活動していたが、謎の巨大生物の調査・退治のための「エイブラハム・リンカーン号」の乗船に招待される。気むずかしいネッド・ランドと早々に仲良くなったり、ネモ船長とも会話の機会が多い等、友好的な一面が伺える。
ノーチラス号内では乗船当初こそ素直に海底旅行を楽しんでいたが、時が経つにつれ脱出したいという思いが出てくる。ネモ船長とは前述の通り3人の中で最も関わりが多く、ノーチラス号にまつわる話やネモ船長自身の過去なども話してもらっている。当初船長からの信頼は厚かったが、物語後半になるにつれ会話の機会は減り、ラスト近くでは敵対関係のような形になっている。作中では「アロナックス教授」、コンセイユからは「先生」と呼ばれている。
コンセイユ
アロナックスの忠実「すぎる」助手。フランドルの出身。頭は良く、分類学の知識ではずば抜けているものの、その種が何であるかという同定の能力はからっきしである(サメエイなどの簡単な生物の種類名も言えない程)。エイブラハム・リンカーン号が襲撃された際、アロナックスへの忠誠心が大きすぎ、一緒に海へ飛び込んで溺れないように手助けした。
ネモ船長とはあまり接触の機会は無いが、本人はそこまで悪い印象を持ってはいない。アロナックス以上にネッドとは仲が良く、共にいる場面が多い。
ネッド・ランド
銛打ちとしてエイブラハム・リンカーン号に雇われた、酒と肉が好きなケベック出身のカナダ人。分類学は得意ではないが、観察力と記憶力は優れており、アロナックスよりも正確に種の判別を行える。作中でもコンセイユとネッドの長所を併せれば、傑出した生物学者になると評されている。
頑固で気が短く、リンカーン号ではアロナックス・コンセイユ以外とまともに話をしなかった。作中では怒りを募らせている場面がとても多い。ノーチラス号内では乗船当初から脱出を企てており、終盤の脱出直前でも他2人に発破をかけた。本人曰く「早くが食いたい」。銛打ちとしての腕は本物で、ノーチラス号やジュゴンに対して放った銛は、いずれも的確である。作中では「ネッド親方」と呼ばれているが、アロナックスの回想では「銛打ち」や「カナダ人」としか呼ばれていない。
ネモ船長
ノーチラス号の船長。ノーチラス号の上に打ち上げられた3人を、「捕虜」という扱いで船内に連れ込む。全てが謎めいた人物であり、一緒に連れている部下も同じである。
海底世界を異様なほど好み、地上世界を異様なほど嫌う。船を地上に出すのは酸素補給の時だけであり、それ以外の食事や電力などは全て海中でまかなっている。
3人を睡眠薬で眠らせたりマッコウクジラを八つ裂きにしたりなど、残酷な面を主に出す反面、死んだ部下を手厚く葬ったりサメに襲われている黒人を救ったりなど人道的な一面も垣間見える。物語終盤では祖国の復讐のため残酷な面が目立ち、ラストでは3人が逃げるのを承知する描写もある。

解説

旅は読者を世界の大洋のよく知られたあちこちへと誘い、その場所のいくつかはヴェルヌ自身の実際の旅の記録やその中での思索から由来することが、今では研究者の文献調査から分かっているが、その他のものは完全に想像によって書かれている。

この本の中で紹介される、まだ存在していなかった潜水艦についてのヴェルヌのアイディアは予言的なもので(アメリカ海軍1954年に就役させた世界初の原子力潜水艦ノーチラスは、本作にちなんで命名された)、今日の原子力潜水艦の速さやその隠密性にも比べられるものである。

ヴェルヌの他作品との関係

この作品に登場するネモ船長は『神秘の島』(1874年)にも登場し、『神秘の島』には『グラント船長の子供たち』(1868年)のエアトンが再登場するため、『海底二万里』、『神秘の島』、『グラント船長の子供たち』を合わせて三部作とすることがある。しかし、年代などの面で互いに矛盾しているため、3作品は別々のものと見るのが一般的である。

日本語タイトル

本作の原題は“Vingt Mille Lieues Sous Les Mers”(海底二万リュー)である。英語での題名もその直訳“Twenty Thousand Leagues Under the Sea”(海底二万リーグ)である。日本では、リューやリーグという単位になじみがないことから、当初は『海底六万哩(マイル)』と単位を換算して訳されたが、これと原題とが混同されて『海底二万マイル』という題名が広まった。『海底二万里』という訳題は、日本のとリューがほぼ同じ距離であり、語感も似ているために採られたものである[2]

関連作品

本作は過去何回か映画化されている。そのうちではディズニーによる『海底二万哩(マイル)』(1954年)が有名である。

主な日本語訳

脚注

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  1. 岩波文庫版『海底二万里(下)』巻末解説(朝比奈美知子)による
  2. 岩波少年文庫『海底二万里』巻末「あとがき」による
  3. 詳細はナディアとアトランティスの比較を参照

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