コノシロ
コノシロ(Konosirus punctatus、鰶・鮗・鯯・鱅)は、ニシン目ニシン科に分類される魚類。東アジアの内湾に生息する魚で、食用に漁獲される。
分布・生息域
東北地方南部以南の西太平洋、日本海南部、東シナ海、南シナ海北部に分布し、内湾や河口の汽水域に群れで生息する。大規模な回遊は行わず、一生を通して生息域を大きく変えることはない。
形態・生態
成魚は全長25cmほどで、体は木の葉のように左右に平たい。口先は丸く口は小さい。背中側は青緑色で腹側は銀白色をしている。体の上半分には小さな黒い斑点が点線状にたくさん並び、鰓蓋の後に大きな黒い斑点が一つある。また、背びれの最後の軟条が糸状に長く伸びるのが特徴で、生息域が重なるサッパなどと区別できる。
プランクトン食性で、プランクトンを水ごと吸いこみ、鰓耙(さいは)でプランクトンを濾しとって食べる。産卵期は春で、夕方に直径1.5mmほどの浮遊卵を産卵する。
人間との関わり
沿岸漁業の定置網、刺し網、投網などで漁獲されるが、サビキ釣りでも釣れることがある。
日本での文化
全長10cmほどの若魚が「コハダ(小鰭)」と呼ばれ、酢〆したものが寿司種として珍重される。下ごしらえの加減で風味が大きく変化し、小型で身が薄く包丁で上手に捌くことが難しいことから、寿司職人の技量を計る魚とも呼ばれる。特に関東地方でこの傾向が強い。これらの若魚は日本では毎年5月頃から市場に出回り始め、夏が最も美味な時期といわれる。東京では幼魚シンコの走りの時期には、寿司のため1㎏当たり数万円という高値がつく[1]。
成魚は塩焼きや唐揚げ、刺身などで食用にされるが、若魚よりも漁業価値が低い。小骨が多くて傷みも早いこともあり、漁獲地周辺の流通にとどまる。内蔵に強い臭みがあるため、刺身などで食べる際は醤油ではなく酢味噌が用いられることが多い。
酢漬けに加工されたものがもっとも一般的。正月などに流通する粟漬けもコノシロの酢漬けである。煮干しに加工されて市販されることもある。上品な旨味の強い出汁がとれるが流通は局所的。
有明海沿岸域では若魚を投網などで大量に漁獲し都市部に出荷していたが、1990年代後半頃から漁獲量が減っている。
日本での呼称
由来
コノシロは日本になじみのある魚なので、日本の逸話が多い。コノシロは飯の代わりになるほど大量に獲れたことから、「飯代魚」となったと伝わる[1]。焼き方が伝わる関西では焼いても食された[1]。しかし、焼くと臭いがきついため、コノシロという名前については、以下のような伝承が伝わる[2]。 テンプレート:Quotation コノシロはほとんどが酢漬けなどに加工され、焼いて食べることが少ないのはこの臭いのためという説がある。また、武家社会では、「この城を焼く」に通じることや、切腹の際に出されるため、「腹切魚」と呼ばれて敬遠された[3]。江戸時代、幕府によりコノシロは禁止されていたが、寿司にすると旨いため、コハダと偽って江戸の庶民は食した[1]。
当て字でコノシロを幼子の代役の意味で「児の代」、娘の代役の意味で「娘の代」と書くことがある[1]。また、コノシロは出産時などに子供の健康を祈って、地中に埋める習慣があった[1]。日本の正月には膳(おせち)に「コハダの粟漬け」が残っており、縁起の良い魚として扱われている[1]。
別名
成長段階に応じて呼び名が変わる、いわゆる出世魚の一つである。関東地方では4cm-5cmまでの幼魚をシンコ、7cm-10cmぐらいはコハダ、13cm程度はナカズミ、15cm以上はコノシロとなる。その他の地域での若魚の名前として、ツナシ(関西地方)、ハビロ(佐賀県)、ドロクイ、ジャコ(高知県)などがある。
韓国での文化
コノシロを「ジョノ(錢魚/전어)」といい、よく食される[1]。韓国では成長過程で名前が変わらないので、コハダもコノシロも「ジョノ」である。釜山から南西部の旧盆(9月下旬)には欠かせぬ食材である[1]。刺身、塩焼き、塩辛に料理する[1]。ことわざに「ジョノを焼く臭いに惹かれて、嫁いだ娘も家に戻ってくる」というものがあり、故郷の味とされる[1]。毎年9月下旬には魚の需要(特に刺身)が高まり、値段が数倍になる[1]。日本からもこの需要期に韓国へ輸出される[1]。