ビニールハウス
ビニールハウスまたはビニルハウスとは、木材又は 鋼材を躯体とし、合成樹脂のフィルムで外壁を被覆した農業用の小屋である。被覆材料には、農業用ポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)が使われることが多い事から、ビニールハウスと呼ばれる。また単に「ハウス」と呼ばれることもある。和製英語であり、英語ではGreenhouse(グリーンハウス:温室参照)と呼ばれる。
構造全てをフィルムで覆う場合と、降雨による農作物への影響を防ぐためにハウス上面だけを覆う場合がある。上面だけを覆う栽培方法は、雨よけ栽培と呼ばれる。
ビニールハウスの設置面積は、昭和40年代頃から増加を続け、1999年には栽培実面積で約5万1千 ヘクタールを超えたものの、近年では農産物価格の低迷や後継者不足、高齢化に伴う農業全体の縮小傾向と歩をあわせるように、面積も横ばいないし減少傾向にある(2003年現在の実面積は約5万 ヘクタール)。
ビニールハウスは、 鋼管(パイプ)を躯体としたものが圧倒的に多いことから、ビニールハウスをパイプハウスと呼ぶこともある(パイプ躯体のハウス実面積は約4万2千 ヘクタール(2003年現在))。
フィルム
ポリ塩化ビニルフィルムは保温性に優れるものの耐候性に乏しく、劣化したポリ塩化ビニルフィルムは非常に脆く破れやすい。
このため、より耐候性に優れる農業用ポリオレフィン系フィルム(農ポリ、POフィルム)やフッ素樹脂のフィルム(硬質フィルム)が開発され、シェアを年々拡大しているが、これらを使用したハウスも便宜上ビニールハウスと呼ばれ、「ポリオレフィンハウス」や「フッ素樹脂ハウス」と呼ばれる事はない。
ハウス内の湿度上昇や霧の発生を抑制する機能や、紫外線の透過を抑制する機能など、栽培用途に応じた機能を付加したフィルムも多く開発されている。
使用済みのフィルムは産業廃棄物であり、許可を得ず農家が個別に処理することは禁止されている。このため、他の農業用使用済プラスチック製品と同様、行政と農業団体、農家の取組みによって回収、処分及びリサイクルが行われることとされている。ポリ塩化ビニルフィルムのリサイクル率は、2003年現在で約60%となっている。以前は不要になったビニールハウスが野焼きされダイオキシン類発生、悪臭などの害が問題になることがあった。
パイプ
パイプは通常亜鉛などで めっきを施されており、錆の発生を抑えている。
パイプの外径は規格化され、19.1ミリメートル、22.2ミリメートル、25.4ミリメートル、28.6ミリメートル、31.8ミリメートル、38.1ミリメートル、42.7ミリメートル、48.6ミリメートルのものがある。一見中途半端な数字に見えるが、これはインチを基準に定められたためである。
パイプ同士は部位に応じた金属製の継ぎ手により接続される。溶接などにより直接接続されることは少ないので、組み立て・分解は比較的容易である。
構造と組立方法
以下はパイプを躯体とするハウスについて説明する。
最も簡易な構造のものでは、あらかじめ湾曲させたパイプを互いに向かい合わせ、一端を地面に刺して、もう一端を継ぎ手で連結し、アーチをかたどる。このアーチを奥行き方向に延長したものが基本的な骨組みとなり、必要に応じて筋交いなどの補強を行う。降雪の多い地域では、ビニールハウス内に梁を渡す耐雪仕様のものもあるが、パイプそのものの強度の限界のため、豪雪の際にはしばしば倒壊などの被害に見舞われる。
被覆フィルムは、一度天井部全面に展張した後、パッカーと呼ばれるプラスチック製器具や金属製の専用器具によって、パイプの各部分に押し付ける形で固定する。さらに、フィルムの上からハウスの横方向にプラスチック製の紐を渡して補強することがある。
固定されていない展張したフィルムは風を孕みやすいため、少しの風でも展張・固定作業は難しくなる。時には突風により、作業者がフィルムごと飛ばされる事故も起こるので、フィルムを貼る作業は無風条件下での作業が望ましい。
大型のものになると、躯体の部品は細分化され、継ぎ手の種類も増える。また、横方向にハウスを連結した構造のものも見られる。現在では一構造体として延べ面積が1 ヘクタールを超えるものも珍しくなく、この規模になると外見や機能面での温室との差は殆どなくなる。
このほか、メーカー独自の外形や形状を持つものがあり、ビニールハウスの大きさ、耐風性、降雪量、経済性を考慮して選択される。
補助的な設備
効率的に太陽の熱を集め、また外気と遮断されることにより一定の温度を保つことができるが、農作物の生育に必要な温度が確保できない場合は、保温・加温を行うため、暖房設備を併設する。
他方、ビニールハウス内の温度が上がりすぎるのを防ぐため、換気窓や大型換気ファンを設置して換気を行ったり、日照を抑える遮光幕を設置する場合もある。換気にはビニールハウス側面の被覆を開閉することも有効であるが、人力による開閉労力を軽減するため、被覆を巻き取る補助器具も開発されている。
光合成に必要な二酸化炭素の欠乏を防ぐため、換気のほかに二酸化炭素ガスを導入する事もある。これは生育促進の目的で行われる場合もある。
また、ビニールハウス内では降雨による水分補給は期待できないので、潅水設備は欠かせない。
用途
農作物の育苗や栽培に広く活用される。他方、設置の簡便性を生かして、作業小屋や格納庫、畜舎など作物の栽培以外の多用途に利用されることがある。栽培の用途に供しない場合は、透明でないフィルムや、フィルム以外の素材で被覆することもあるが、この場合は用途名の頭に「パイプハウス」を付けて「パイプハウス○○」と呼称されることもある(例:「パイプハウス牛舎」等)。
税制上の取扱い
簡易な建造物であるため、仮設の小屋と言う解釈から税制上の家屋として見なされないため、ビニールハウス自体に固定資産税はかからない。ただし、基礎を設けたり床面をコンクリート打設するなどすると仮設の小屋とは見なされず、課税対象となることがある。