松浦寿輝
テンプレート:Infobox 作家 松浦 寿輝(まつうら ひさき、1954年3月18日 - )は、日本の詩人、小説家、フランス文学者、批評家、東京大学名誉教授。2024年現在、文学界新人賞、毎日出版文化賞、高見順賞、読売文学賞選考委員。
人物
東京都出身。幼少期から映画に親しむ。家のすぐ裏側が映画館であったと、初の映画評論集『映画n-1』の後書きに記されている。クリント・イーストウッド、ベルナルド・ベルトルッチ、特にアルフレッド・ヒッチコックの監督作品をこよなく愛しており、東大の映画講義でもしばしば言及する。ただし、ジャン=リュック・ゴダールに対しては、近年のあからさまなアジア蔑視に対して疑問を感じている。
77―79年、沼野充義らと第19次『新思潮』同人となり詩を書く。
B級映画への偏愛を隠さず、講義では『アスファルト・ジャングル』、『ウエスタン』から『ミッション:インポッシブル』、『チャーリーズ・エンジェル』、『キューティーハニー』などもとりあげている。
小説家としては、日本の古井由吉、吉田健一、内田百間、フランスのマルセル・プルーストとロラン・バルトを敬愛する。また中井久夫、川村二郎を知識人として深く尊敬している。最後まで小説を書かなかったバルトへの思いは「名前」(『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』)に詳しい。
社会から脱落した中年男を主人公とした作品が多い。『巴』『半島』といった長編小説も手がけるが、著者自身は短編の方により深い愛着を感じている。『半島』の装丁ではヴィルヘルム・ハメルショイを、『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』の装丁ではフィリップ・モーリッツの銅版画をあしらっている。近著『そこでゆっくり死んでいきたい気持をそそる場所』の一篇「あやとり」では自身による猫の兄弟の挿画に挑戦している。
『折口信夫論』は荒川洋治から「官僚的な評論」[1]と言われ、折口門下の穂積生萩や鈴木亨や米津千之は、「同性愛ゴシップへの低俗な関心のみ強く折口学に対する理解の浅さを露呈した支離滅裂な内容である」と批判している[2]。
2009年から2010年まで、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻の専攻長を務めた。また、東大駒場を拠点に2006年に設立された表象文化論学会の発足に尽力し、その初代会長となる(2期4年、2006-2010年)。
なお初期においてしばしば共に仕事をした美術研究家の松浦寿夫とは、特に血縁関係はない。
学歴
- 開成中学校・高等学校卒業。
- 東京大学教養学部教養学科フランス分科卒業。
- 同大学院人文科学研究科フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。
- 1981年、パリ第三大学より文学博士号取得。
- 2002年、『表象と倒錯 エティエンヌ=ジュール・マレー』の研究で東大総合文化研究科超域文化科学専攻より「博士(学術)」の学位取得。
職歴
- 1982年、東大教養学部フランス語教室助手。
- 1986年、電気通信大学人文社会科学系列講師。
- 同助教授。
- 1991年、東大教養学部フランス語教室助教授。
- 1999年、同大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(表象文化論コース)・教養学部超域文化科学科教授。
- 2009年-2010年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻の専攻長。
- 2012年 東京大学退任。
受賞・叙勲歴
- 1988年、 詩集『冬の本』で第18回高見順賞。
- 1995年、研究『エッフェル塔試論』で第5回吉田秀和賞。
- 1996年、評論『折口信夫論』で第9回三島由紀夫賞、研究『平面論――1880年代西欧』で渋沢・クローデル賞。
- 1999年、研究『知の庭園』で第50回芸術選奨文部大臣賞評論等部門。
- 2000年、小説『花腐し』(はなくた-)で第123回芥川龍之介賞。
- 2005年、小説集『あやめ 鰈 ひかがみ』で第9回木山捷平文学賞、小説『半島』で第56回読売文学賞。
- 2009年、詩集『吃水都市』で第17回萩原朔太郎賞。
- 2012年、紫綬褒章受勲。
- 2014年、詩集『afterwards』で第5回鮎川信夫賞。
主な著作
詩
- 詩篇20
- 『ウサギのダンス』七月堂、1982
- 『松浦寿輝詩集』思潮社、1985
- 『冬の本』青土社、1987
- 『女中』七月堂、1991
- 『松浦寿輝詩集』思潮社(現代詩文庫)、1992
- 『鳥の計画』思潮社、1993
- 『吃水都市』思潮社、2008
- 『afterwards』思潮社、2013
評論
- 『口唇論 記号と官能のトポス』青土社、1985
- 『スローモーション』思潮社、1987
- 『映画n-1』筑摩書房、1987
- 『平面論 1880年代西欧』岩波書店、1994
- 『エッフェル塔試論』筑摩書房、1995(後にちくま学芸文庫)
- 『折口信夫論』太田出版、1995 のちちくま学芸文庫
- 『映画1+1』筑摩書房、1995
- 『青天有月 エセー』思潮社、1996 のち講談社文芸文庫
- 『謎・死・閾 フランス文学論集成』筑摩書房、1997
- 『ゴダール』筑摩書房(リュミエール叢書)、1997
- 『知の庭園 19世紀パリの空間装置』筑摩書房、1998
- 『表象と倒錯 エティエンヌ=ジュール・マレー』筑摩書房、2001
- 『物質と記憶』思潮社、2001
- 『官能の哲学』岩波書店、2001 のちちくま学芸文庫
- 『散歩のあいまにこんなことを考えていた』文藝春秋、2006
- 『晴れのち曇りときどき読書』みすず書房、2006
- 『青の奇蹟』みすず書房、2006
- 『方法叙説』講談社、2006
- 『クロニクル』東京大学出版会、2007
- 『波打ち際に生きる』羽鳥書店 2013
- 『詩の波 詩の岸辺』五柳書院、2013
- 『明治の表象空間』[3] 新潮社 2014
小説
- 『もののたはむれ』新書館、1996
- 『ウサギの本 絵本』新書館、1996
- 『幽』講談社、1999
- 『花腐し』講談社、2000(後に文庫化)
- 『巴』新書館、2001
- 『あやめ 鰈 ひかがみ』講談社、2004 のち文庫
- 『半島』文藝春秋、2004(後に文庫化)
- 『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』新潮社、2004
- 『川の光』中央公論新社、2007
- 川の光は2009年6月20日にNHKの長編アニメーションとしてアニメ化されて放送された。なお、この作品は有料でオンデマンドでNHKのサイトで視聴できる。
- 『不可能』講談社、2011
- 『川の光 外伝』中央公論新社 2012
- 『川の光 2 (タミーを救え!)』中央公論新社 2014
翻訳
- ミシェル・ジュリ『熱い太陽、深海魚』サンリオSF文庫、1981
- ロベール・ブレッソン『シネマトグラフ覚書』筑摩書房、1987
- ヴィム・ヴェンダース『エモーション・ピクチャーズ』河出書房新社、1992
- アルトー・デリダ『デッサンと肖像』みすず書房、1992
- デリダ『基底材を猛り狂わせる』みすず書房、1999
共著
- 『記号論』朝吹亮二 思潮社、1985
- 『文学のすすめ』(編) 筑摩書房、1996
- 『ゴダールの肖像』浅田彰 とっても便利出版部、1997
- 『モデルニテ3×3』小林康夫・松浦寿夫 思潮社、1998
- 『色と空のあわいで 古井由吉 往復書簡』講談社、2007
出演番組
- ミュージック・イン・ブック(ディスクジョッキー・インタビュアー NHKラジオ第1放送)
脚注
外部リンク
- 川の光日記 夫人によるものだが、時おり松浦本人も書いている。
- ↑ 『文芸時評という感想』 テンプレート:要ページ番号
- ↑ 『折口信夫・虚像と実像』勉誠社、1996年 テンプレート:要ページ番号
- ↑ 「新潮」で2010年11月まで50回連載。