引用符
引用符(いんようふ)は、約物の一つ。文中において、他の文や語を引用していることを示す役割を果たす記号で、多くの場合一対で引用部分を囲む。コーテーションマーク、クォーテーションマーク、クオーテーションマーク、引用符号ともいう。
目次
類型
直線形
開始記号と終了記号が同じである。タイプライターやコンピュータで使用する。ただしUnicodeでは使用は推奨されない。なおU+0027の文字名称は歴史的な経緯から「アポストロフィー」となっているが、アポストロフィーとしての使用も推奨されず、閉じシングルクォートと同じU+2019を使う。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
'□' | U+0027 (39) | 1-2-15 | ' ' ただし普通は ' を使用。 XMLでは'('はHTMLの仕様には存在しない) |
アポストロフィー(シングルクォート) |
"□" | U+0022 (34) | 1-2-16 | " " " ただし普通は " を使用。 |
ストレートクォーテーションマーク(ダブルクォート) |
曲線型 英語
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
‘□’ | U+2018 (8216) , U+2019 (8217) | 1-1-38, 1-1-39 | ‘ ’ ‘ ’ ‘ ’ |
シングルクォート(左、右) |
“□” | U+201C (8220) , U+201D (8221) | 1-1-40, 1-1-41 | “ ” “ ” “ ” |
ダブルクォート(左、右) |
英語圏では会話の中で、人の意見を区別して言いたい時に引用符(double quotation marks)を人指し指と中指の指先で”ちょんちょん”と視覚的に示すことがある。
曲線型 ドイツ語
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
‚□‘ | U+201A (8218) , U+2018 (8216) | - | ‚ ‘ ‚ ‘ ‚ ‘ |
ジャーマンシングルクォート(左、右) |
„□“ | U+201E (8222) , U+201C (8220) | - | „ “ „ “ „ “ |
ジャーマンダブルクォート(左、右) |
曲線型 ポーランド語
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
‚□’ | U+201A (8218) , U+2019 (8217) | - | ‚ ’ ‚ ’ ‚ ’ |
ポーリッシュシングルクォート(左、右) |
„□” | U+201E (8222) , U+201D (8221) | - | „ ” „ ” „ ” |
ポーリッシュダブルクォート(左、右) |
屈曲型 フランス語(フランス本国)、ポーランド語、ロシア語
ギユメ (guillemets)、ギュメ・ギメ(印刷用語、この記号を考案したフランスの印刷業者の名 Guillaume ギョームから)という。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
‹ □ › | U+2039 (8249) , U+203A (8250) | - | ‹ › ‹ › ‹ › |
フレンチシングルクォート(左、右)スペースあり(フランス本国のフランス語) |
« □ » | U+00AB (171) , U+00BB (187) | 1-9-8, 1-9-18 | « » « » « » |
フレンチダブルクォート(左、右)スペースあり(フランス本国のフランス語) |
«□» | U+00AB (171) , U+00BB (187) | 1-9-8, 1-9-18 | « » « » « » |
フレンチダブルクォート(左、右)スペースなし (ケベック州のフランス語、ポーランド語、ロシア語) |
逆屈曲型 デンマーク語
ドイツ語でも時折見かける。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
›□‹ | U+203A (8250) , U+2039 (8249) | - | › ‹ › ‹ › ‹ |
|
»□« | U+00BB (187) , U+00AB (171) | 1-9-18, 1-9-8 | » « » « » « |
ダッシュ
ダッシュは対話にしか用いない。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
― □ | U+2015 (8213) | - | ― ― |
クォーテーションダッシュまたは水平線 |
— □ | U+2014 (8212) | 1-1-29 | — — — |
Emダッシュもクォーテーションダッシュの代わりに使われる |
- フランス語の例
- ― Je m'ennuie tellement, dit-elle.
- ― Cela n'est pas de ma faute, retorqua-t-il.
- 一般的なフレンチクォーテーションで書くと
- « Je m'ennuie tellement », dit-elle.
- « Cela n'est pas de ma faute », retorqua-t-il.
- ロシア語の例
- — Ай, ай, ай! — вскрикнул Левин. — Я ведь, кажется, уже лет девять не говел. Я и не подумал.
- — Хорош! — смеясь, сказал Степан Аркадевич, — а меня же называешь нигилистом! Однако ведь это нельзя. Тебе надо говеть.
- 一般的なフレンチクォーテーションで書くと
- «Ай, ай, ай!» — вскрикнул Левин. — «Я ведь, кажется, уже лет девять не говел. Я и не подумал».
- «Хорош!» — смеясь, сказал Степан Аркадевич, — «а меня же называешь нигилистом! Однако ведь это нельзя. Тебе надо говеть».
日本語・中国語・朝鮮語の引用符
鉤括弧は縦書きと横書きの両方ができる日本語・中国語・朝鮮語に大変都合がいい。日本、中国、韓国においては以下のように横書きで使う引用符は別々だが、縦書きではすべて鉤括弧を使う。
- 日本では鉤括弧(「 」)を使う。
- 中国大陸と韓国では英語式のダブルクォート(“ ”)を使う。
- 北朝鮮では二重山括弧(《 》)を使う。
- 繁体字中国語が使われている台湾と香港とマカオでは、鉤括弧(「 」)を使うのが一般的だが、英語式のダブルクォート(“ ”)も使う。
- 中国語では、本、楽章、文章、映画、放送番組ほかの作品、新聞、雑誌、法令などの題名に対しては、二重山括弧(《 》)を使うのが一般的である。
- 引用中に引用がある場合、題名の中に別の題名を表記する場合には、二重鉤括弧(『 』)、シングルクォート(‘ ’)、山括弧(〈 〉)を使う。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 名称 | 用途 |
---|---|---|---|---|
「□□」 | U+300C (12300) , U+300D (12301) | 1-1-54, 1-1-55 |
鉤括弧 テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音) テンプレート:Llang (natpyo) |
日本語、 繁体字中国語、 朝鮮語。 |
﹁ □ □ ﹂ |
日本語、 簡体字中国語(縦書きのみ)、 繁体字中国語、 朝鮮語(縦書きのみ)。 | |||
『□□』 | U+300E (12302) , U+300F (12303) | 1-1-56, 1-1-57 |
二重鉤括弧 テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音) テンプレート:Llang (gyeopnatpyo) |
日本語、 繁体字中国語、 朝鮮語(本の題名)。 |
﹃ □ □ ﹄ |
日本語、 簡体字中国語(縦書きのみ)、 繁体字中国語、 朝鮮語(縦書きのみ)。 | |||
“□□” | U+201C (8220) , U+201D (8221) | 1-1-40, 1-1-41 |
ダブルクォート(左、右) テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音)、 テンプレート:Llang (keunttaompyo) |
簡体字中国語、 繁体字中国語(許容されるが一般的ではない。主に中国大陸の影響によって香港で使う)、 朝鮮語 (韓国)。 |
‘□□’ | U+2018 (8216) , U+2019 (8217) | 1-1-38, 1-1-39 |
シングルクォート(左、右) テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音)、 テンプレート:Llang (jageunttaompyo) |
簡体字中国語(引用句中の引用)、 朝鮮語 (韓国)。 |
《□□》 | U+300A (12298) , U+300B (12299) | 1-01-52, 1-01-53 |
二重山括弧 テンプレート:Llang、テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音)、 テンプレート:Llang |
朝鮮語 (北朝鮮)、 中国語(本などの題名のみ)。 |
〈□□〉 | U+3008 (12296) , U+3009 (12297) | 1-01-50, 1-01-51 |
山括弧 テンプレート:Llang、テンプレート:Llang (テンプレート:ピン音)、 テンプレート:Llang |
朝鮮語 (北朝鮮)、 中国語(本などの題名のみ)。 |
斜線型 日本語
曲線型に似ているが、通常鉤括弧のある位置に置かれる。JIS X 0208:1997規格票附属書4表5(47ページ)ではダブルクォート(“ ”、JIS X 0208における日本語名称は「ダブル引用符」)の縦書き字形として示されている。JIS X 0213では別途収録されているため、このような扱いはされない。新聞記事では、鉤括弧(「 」)中の二重引用や、二重鉤括弧(『 』)中の三重の引用に用いるとされる。語句の強調、注意喚起、比喩、造語にも使われる。使用する文字をJIS X 0208の範囲に限定する場合には、英語式と同様のダブルクォートで代用する。JIS X 0213には鉤括弧の位置のものが収録されているが、始め・終わり(開き・閉じ、オコシ・ウケ)とも上に置く横書き専用のものも使われる。
形 | Unicode(十進) | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
〝□□〟 | U+301D (12317) , U+301F (12319) | 1-13-64, 1-13-65 | 〝 〟 〝 〟 |
ダブルミニュート、ひげカッコ、ちょんちょんカッコ、ちょんちょん、ノノカギ。 |
〝□□〞 | U+301D (12317) , U+301E (12318) | 1-13-64, -- | 〝 〞 〝 〞 |
日本語における用法
引用符について、日本語において一般に行われている用法または特徴的な用例を挙げる。
- 引用した文章は、鉤括弧(「 」)で囲む。
- 引用文の中にさらに語句を引用する場合、引用中の引用は二重鉤括弧(『 』)で囲む。
- 引用した文章に鉤括弧が用いられている場合、鉤括弧は二重鉤括弧(『 』)に置き換える。
- 引用文中に補足的説明を加える場合は、説明している部分を亀甲括弧(〔 〕)ないし大括弧([ ])で囲む。
- 引用文の一部を強調する場合は、該当部分に傍点・傍線・下線・太字化などを施し、引用文の最後に丸括弧(( ))を用いて引用者が強調した旨を記す。
- 引用文の前略・中略をなす場合は、三点リーダー(…)ないし大括弧と三点リーダー([…])を用いる。
- NHKテレビのニュース字幕では、変則的なダブルクォート(“ „)を用いている。
- 用例
- ウィキペディアによれば、引用符とは「文中において、他の文や語を引用していることを示す役割を果たす記号」を指す。
- A君が「おはよう。先生が『今日は試験をするぞ』と張り切っていたよ」と言った。
また、引用符のダブルクォーテーションは、日本語においては引用より強調に用いる。
- 用例
- 宣伝、広告は主にマスメディア、すなわち"プロフェッショナル"が主導権を握ってきた。ところが、近年はインターネットの口コミが大きな影響力を持っている。いわば、“アマチュアたちによる広告活動”である。
引用符以外の用法
Unicodeでは、U+2019「’」の文字名称は「右シングルクォーテーションマーク」だが、アポストロフィーが統合されており、アポストロフィーとしても使う。U+0027「'」の文字名称が「アポストロフィー」となっているが、これはASCII/CCITTの文字名称を継承したに過ぎず、アポストロフィー(および引用符)としての利用は推奨されていない。
U+0027「'」やU+2018「‘」・U+2019「’」は、シングルクォート、アポストロフィーのほか、ロシア語ラテン化の軟音符(U+02B9「ʹ」)、ハワイ語のオキナ(U+02BB「ʻ」)、中国語ウェード式の気息記号(U+02BD「ʽ」)、アラビア語ラテン化のハムザ (U+02BE「ʾ」)・アイン (U+02BF「ʿ」)などの代わりとして使われることがある。しかし、Unicodeではそれぞれ別の文字が用意されていてU+0027やU+2018・U+2019の使用は推奨されない。
一覧
言語 | 通常 | 代替 | 空白 | ||
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第1引用 | 第2引用 | 第1引用 | 第2引用 | ||
アフリカーンス語 | „…” | ‚…’ | |||
アルバニア語 | «…» | ‹…› | “…„ | ‘…‚ | |
ベラルーシ語 | «…» | ‹…› | „…“ | ‚…‘ | 1 ポイント |
ブルガリア語 | „…“ | ‚…‘ | |||
クロアチア語 | »…« | ›…‹ | |||
チェコ語 | „…“ | ‚…‘ | »…« | ›…‹ | |
デンマーク語 | »…« | ›…‹ | „…“ | ‚…‘ | |
オランダ語 | „…” | ‚…’ | ”…” | ’…’ | |
英語 | “…” | ‘…’ | 1 - 2 ポイント | ||
エストニア語 | «…» | ‹…› | „…“ | ‚…‘ | |
フィンランド語 | ”…” | ’…’ | »…» | ›…› | |
フランス語 (3) | « … » | ‹ … › (1) | “…” | ‘…’ | 1/4 em |
ドイツ語 (3) | „…“ | ‚…‘ | »…« | ›…‹ | |
ギリシャ語 | «…» | ‹…› | “…„ | ‘…‚ | 1 ポイント |
ハンガリー語 | „…” | »…« | |||
アイスランド語 | „…“ | ‚…‘ | |||
アイルランド語 | “…” | ‘…’ | 1 - 2 ポイント | ||
イタリア語 (3) | «…» | “…” | ‘…’ | 1 - 2 ポイント | |
ラトビア語 | «…» | ‹…› | „…“ | ‚…‘ | |
リトアニア語 | „…“ | ‚…‘ | «…» | ‹…› | |
ノルウェー語 | «…» | ‹…› | “…” | ‘…’ | |
ポーランド語 | „…” | ‚…’ (2)(4) | «…» (2) | ||
ポルトガル語 | “…” | ‘…’ | «…» | ‹…› | 0 - 1 ポイント |
ルーマニア語 | „…“ | ‚…‘ | «…» | ‹…› | |
ロシア語 | «…» | ‹…› | „…“ | ‚…‘ | 1 ポイント |
セルビア語 | „…“ | ‚…‘ | »…« | ›…‹ | |
スロバキア語 | „…“ | ‚…‘ | »…« | ›…‹ | |
スロベニア語 | „…“ | ‚…‘ | »…« | ›…‹ | |
ソルブ語 | „…“ | ‚…‘ | |||
スペイン語 | “…” | ‘…’ | «…» | ‹…› | 0 - 1 ポイント |
スウェーデン語 | ”…” | ’…’ | »…» | ›…› | |
スイス (3) | «…» | ‹…› | |||
トルコ語 | «…» | ‹…› | “…„ | ‘…‚ | 0 - 1 ポイント |
ウクライナ語 | «…» | ‹…› | „…“ | ‚…‘ | 1 ポイント |
- 長い引用では、開始引用符を各行のはじめに置く。
- 他の引用の中に使う。
- スイスでは、独仏伊3言語で同じ引用符を使う。
- まれに使う。