南海50000系電車

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テンプレート:鉄道車両 南海50000系電車(なんかい50000けいでんしゃ)は南海電気鉄道特急形車両1994年(平成6年)9月4日関西国際空港開港に伴い誕生した空港線特急の「ラピート」用として投入された。1995年(平成7年)に鉄道友の会ブルーリボン賞を受賞している。6両編成6本(36両)が在籍している。

概要

1994年9月に関西国際空港(以下「関西空港」)の開港が決まり、関西空港から最も近い都心である難波に発着する南海電気鉄道(以下「南海」)も空港アクセス鉄道としての役割を果たすことになった[1]

南海は、空港アクセスの基幹となる特急列車の運行を行うこととしたが、この新しい特急車両は関西の新しい発展にふさわしい車両であると同時に、南海のイメージリーダー車両として企業イメージを牽引する存在と位置づけたため、プランナーとして都市計画家小田靖弘、車両デザインは建築家若林広幸に依頼し、車両製造メーカーである東急車輛製造と南海の4者共同で開発が行われた[1]

コンセプト

車両を単なる移動空間として扱わず、「もてなしの心に満ちた空間でなくてはならない」という発想のもと、車両全体に対して「アクセスロビー」というテーマを設けた[1]。その上で、エクステリアでは「ダンディ」…粋・端正・信頼感・躍動感を具現化、インテリアは「エレガンス」…洗練・美的・華やか・豊かさ・ゆとりを具現化することを目指し、車両全体のデザインコンセプトとして「ダンディ&エレガンス」が導き出された[1]

難波駅と関西空港駅を最短29分で結ぶ高速性能を、また航空旅客に対しては利便と居住性を追求した[1]。さらに、航空便のチェックイン業務と航空手荷物の預託業務を行うなんばシティエアターミナル(なんばCAT)が南海難波駅構内に設置されることになったため、これに対応した荷物室の設置も行うこととした[1]

編成・車種構成

前面非貫通型の6両固定編成で、旅客案内上では関西空港行きの列車での先頭車が1号車となる。それぞれの設備については後述する。

  • 1号車 クハ50700形(制御車・Tc2・38.4t) - 定員44人・レギュラーシート・車内公衆電話
  • 2号車 モハ50200形(電動車・M3・38.0t) - 定員60人・レギュラーシート
  • 3号車 サハ50600形(付随車・T1・36.5t) - 定員46人・レギュラーシート・便所・車内公衆電話・自動販売機・車椅子スペース
  • 4号車 モハ50200形(電動車・M2・38.0t) - 定員48人・レギュラーシート・CAT荷物室
  • 5号車 モハ50000形(電動車・M1・37.0t) - 定員31人・スーパーシート・便所
  • 6号車 クハ50500形(制御車・Tc1・38.0t) - 定員23人・スーパーシート・サービスコーナー・車内公衆電話

車体

構造

基本構造は普通鋼製とし、車体長は他の南海の車両と同様に20,000mm(全長20,500mm)としたが、先頭車では車体長を21,500mm(全長21,750mm)とした[2]。また、それまでの南海の車両の車体幅は最大でも2,744mmであったが、本形式では居住性の向上を図る目的で2,850mmとし[1]、それまでと比較して100mm以上の大幅な拡大を行った。

客用扉は各車両とも1箇所で、奇数号車では難波寄り、偶数号車では関西空港寄りに配置した[3]。遮音性と気密性を向上するとともに車体外板との段差を解消するためプラグドアを採用したほか、扉については軽量化のためにペーパーハニカム構造とし、内外ともアルミニウム合金製とした[1]。また、日本人よりも体格の大きな日本国外からの旅行者や大型手荷物の携行、さらに車椅子での利用にも考慮し、各扉とも幅1,000mmとした上で高さは1,900mmを確保した[3]。ドア開閉は空気式であるが、車速信号作動式のメカニカルロック装置を設けており[3]、走行中に空気源が喪失してもドアロックが維持される[2]

客席部分の車両断面は楕円にする予定であったが、整備工場には従来の四角い車両に合わせた通路しかなく、楕円の車両だとすき間ができ、車両上部の点検が危険という理由で四角形に変更された[4]

エクステリア

テンプレート:Double image aside

先頭形状は、斬新でダイナミックなデザインとし、スピード感と力強さを表現するため、従来の枠にとらわれない「レトロフューチャー」という発想を原点とした上で、ハイテクなイメージを抑え、鉄道車両本来の重量感を重視することで海外に飛び立つ躍動感を表現するとともに航空機の流線型のイメージと重ね合わせ、見る人に感動を与えるフォルムとすることを狙った[1]。正面の灯火類(前照灯・標識灯・尾灯)は先頭部の側壁にフィンを設け、その中に埋め込む様式とした上で、ライトから続くように砲弾型の飾りを入れた[5]。正面窓には、センターピラー(飾り角)を設けたほか、排障器(スカート)には飾りナットを配置した[1]。正面窓のガラスは2次曲面ガラスで、当初の計画では3次曲面ガラスを採用する予定であったが「3次曲面ではレンズ効果が発生し、運転席からの距離感が狂う」と、運転士から意見が入り、断念している[4]

側面窓は列車と航空機のイメージを融合させ、空港特急としてシンボル性を強調するために、全て楕円形とした[1]。一部の窓に楕円形の窓が使用された前例はあるが、ほぼ全ての窓を楕円形で統一した車両は、日本では本形式が初めてとなる。グレーの複層ガラスを使用し、シートピッチにあわせたユニット構造とした[3]。また、楕円形は窓ガラスにとどまらず、車内外の各所に共通のエレメントとして使用されている[1]

外部塗色は、海上から空へ飛び立つという関西空港の特徴を表現するため、空と海のきらめき感を表現することを狙った深みのある色合いとした濃紺色とした[1]。これは「ラピートブルー」と呼ばれ、鉄道車両ではあまり使用されることがない雲母入り塗料を使用している[1]。屋根上のFRP製クーラーキセについてもブルーで統一している[1]

各車両には号車番号表示、種別表示器、行先表示器を設置したほか、スーパーシート車側面にはスーパーシートのロゴマークを、先頭車側面には「rapi:t」のロゴマークを取り付けた[1]

インテリア

客室

テンプレート:Double image aside

ファイル:Nankai50000Series Rapit07s5s2880.jpg
通路上に設置された車内表示器

客室はレギュラーシート車・スーパーシート車とも開放型客室となっている。

客室と出入台(デッキ)の間には上下2段の荷物置き場を設置した。出入台から荷物置き場の間には仕切り壁を設け、幅1,090mmの両開き自動扉を設置した[3]。仕切り扉には楕円形の曇りガラスを設け、中央で2分割されるようにした[3]。荷物置き場と客室の間には半楕円形状の仕切りを設けているが、ここはオープンタイプとして仕切り扉は設けていない[3]ため、客室内から荷物置き場を直接目視することが可能である。この箇所の通路幅は900mmである[2]

客室内は天井を床面から2,360mmとし[2]、荷物棚も含めた天井形状は半楕円形とした[1]。客室内照明は光の円柱をイメージしたアクリル製円筒型の直接照明を車内天井の中央から吊り下げた[3]ほか、側面窓上方の荷物棚の部分に設置した間接照明を併用し、さらに電球色の蛍光灯を採用することで、落ち着きとやすらぎのある車内空間を演出することを図った[1]。客室内の配色は、窓枠の下辺より上部をサーモンピンク系とし、窓の下部壁面と妻壁面、床、座席の肘掛については木目調とした[3]

座席上の荷物棚はハットラック式と呼ばれる、旅客機と同様に蓋を設置した方式とした[1]。ハットラックの把手は楕円形である。側面窓の日よけについてはグレーのロールアップカーテンを採用した[3]

車内表示器は、モニター装置の指令により表示変換器が側面表示・車内表示器を制御する、1000系および11000系で実績のあるLED方式が採用されている[3]。車内表示器は客室内仕切りの通路上に設置され、国際空港へのアクセス特急という見地から2段式として、上段に和文、下段に英文が表示される方式とした[3]

座席

ファイル:Nankai50000Series Rapit05s4s3104.jpg
スーパーシートの座席(収納式テーブル展開中)

座席については、レギュラーシート車は両側2人がけ、スーパーシート車では1人がけと2人がけを組み合わせた回転式リクライニングシートとした。座席の脚台は楕円形として、足元の空間を極力広くすることをねらった。また、フットレスト(足置き台)は設置せず、足元へ荷物を置きやすくすることを図った。座席肘掛には楕円形の収納式テーブルを組み込んだ。客室内は当初より禁煙のため、灰皿は設けられていない[1]

レギュラーシート車は座席間隔(シートピッチ)を1,030mmで設定し、座席の有効幅は460mmとした[1]。座席表地はサーモンピンクとグレーのキルティング縫製で、枕カバーはブラウン系の配色とした。スーパーシート車では座席間隔を1,200mmに設定し、座席の有効幅は1人がけを480mm、2人がけでは485mmとした[1]。座席表地はキャメル色とグレーのキルティング縫製で、枕カバーはグレーとする配色が採用された。

出入台等

出入台は空港特急のエントランス部と位置づけられるため、視覚的なイメージと連鎖してグレード感と快適性を高めることを図って、「SSD」と呼ばれる音響デザインを導入した[3]。「SSD」はSound Space Designの略で、音以外の要素との調和を意図した音を創作することで、快適な印象とサイン性を提供する意図がある[2]。また、運行開始当初は喫煙コーナーとしても機能することとなったため、灰皿と換気扇を設置した[3]

1号車・3号車・6号車には出入台部にカード式公衆電話を設置した[3]

6号車の出入台にはサービスカウンターを設置した。サービスカウンターは楕円形のカウンターテーブルを設置し、カウンター内にはアテンダントが使用するための放送装置やパンフレットラック、スーパーシート利用者へサービスするためのソフトドリンク用冷蔵庫を設けたほか、物品収納棚、業務用ゴミ箱を配置した[3]。また、緊急時の連結装置もサービスカウンター内に収納されている[3]

3号車では自動販売機を設置したほか、車内用の折畳み式車椅子を収納した[3]

CAT荷物室

4号車の難波側車端部には、なんばCATでチェックインした旅客の荷物を託送するための荷物室を設置した[3]。この荷物室はスーツケース12個程度が積載されたカートを4台まで収納可能で、車内通路を挟んだ両側に設置された[3]。車内通路とはシャッターで区切られ、車外には専用の荷物扱い用扉が設けられた[3]。車外の荷物扉は連結面に設置された専用のドアスイッチにより開閉する[3]。荷物扉・シャッターともに荷物扱い担当者が専用のキーを使用しないと開閉できない[3]

乗務員室

乗務員室は乗務員の居住性・操作性・視認性を重視した結果、室内では床高さを480mm高くした運転室部分と、客室やホームと同レベルの車掌室に分離されている[3]。運転室と車掌室を結ぶ通路階段の両脇には各種機器を収容するため機器キセを設けた[3]。この機器キセには、非常時に駅のホーム以外でも側面出入口から脱出するための非常用はしごも搭載した[3]

運転台については、基本的には1000系と同様の計器盤を採用し、主幹制御器についても、1000系と同様の2ハンドル方式である[3]

その他設備

3号車の客室内には車椅子スペースを設け、車内移動を考慮して車内移動用の折畳み式車椅子も用意した[3]

連結面部分については、見付けの向上と走行音の低減の意味で化粧パネル幌を採用した[3]。ただし、4号車と5号車の間については設置していない[3]

主要機器

テンプレート:Sound 制御方式は、1000系および2000系で実績のあるPWM形VVVF(可変電圧・可変周波数)インバータ制御方式が採用された[3]。主変換素子に4,500ボルト・2,500アンペアの高耐圧・大電流仕様のGTOサイリスタを使用している[3]。このインバータ装置については小型・軽量化と保安度の向上を図るため、低損失Δ-Cスナバ回路の採用や、フィルタリアクトルの小型化、限流抵抗器の省略など、種々の方策がとられている[3]。また、全デジタル制御による高速かつ高精度な制御を行う回路構成として、乗り心地と安全性の向上も図られているほか、特急列車としての運転に適応するために定速運転機能も設けた[3]。1台の制御装置でかご形三相誘導電動機4台の制御を行なう[3]

主電動機は、出力180kwの丸型枠保護型自己通風式かご形三相誘導電動機を採用した[3]。時速100km以上でも十分な加速力が実現でき、時速130kmでの運転も可能な容量を確保した[3]。制動装置(ブレーキ)は電気演算式の電力回生制動併用全電気指令式電磁直通空気制動で、電力回生ブレーキの使用時にはほぼ全車両のブレーキ力の負担を可能とした[3]。駆動装置はたわみ板継手式平行カルダン(TD平行カルダン駆動方式)を採用した。歯数比は85:14 (6.07) に設定し、設計最高速度は時速120kmである[3]

台車は枕梁を省略したボルスタレス台車で、基礎ブレーキ装置についてはユニットブレーキを採用し、重量の軽減と保守の簡易化、さらに機械効率の向上を図った[3]集電装置(パンタグラフ)は2号車と5号車に、下枠交差形パンタグラフを各車とも2基設置した。

補助電源装置は1号車と6号車に140kVAの静止型インバータを搭載し、自車を含む3両分の給電を行う[3]。相互にバックアップ機能を有し、異常が生じた場合は正常に動作している装置から重要負荷分の給電が行われる[3]

空調装置については、プログラマブルコントローラーを用いて、それぞれの場所に応じて個別に空調制御が可能となっている[2]。乗務員室の列車モニター装置から空調指令を行うと、各車両の床下に装備された冷暖房制御器によって制御される。冷房装置は1台あたり12.3kW(毎時10,500kcal)の能力を有するユニットクーラーを各車両とも3台搭載した集約分散式で、容量3.2kWのシーズヒーターを内蔵している[2]。暖房装置については各車両の座席下脚台にシーズヒーターを2台ずつ設置しているが、スーパーシート車では座席数自体が少ないため、側面窓の下に埋め込み式のシーズヒーターを設けている[2]。また、出入り台と便所には温風式暖房装置を設けた[2]

運用

運行開始にあわせて、6両編成が6編成(合計36両)が製造された。車両番号は各編成とも末尾が1から6までで揃っている。

運行開始以来、特急「ラピート」専用となっている。イベント時に和歌山市みさき公園への乗り入れ実績があるほか、車両検査の際には千代田工場に入場するため高野線を走行する。

なんばCATは2001年に閉鎖されたため、その後はCAT荷物室は使用されていない。また、2007年にはデッキも含めて禁煙となったため、すべての灰皿が撤去された。

ラッピング編成

テンプレート:Double image aside

※全て契約終了と共に通常仕様に戻されている。 テンプレート:-

その他

  • 車両の奇抜なデザインに対して登場時から賛否両論があり、『レイルマガジン』誌でエッセイを連載していた岡田徹也はこの車両を酷評していた。また鉄道ファン等の間では、この特異な前頭部のデザインから「鉄人28号」の異名で呼ばれている。
  • デザインした若林広幸によると、第二次大戦前の大陸横断鉄道弾丸列車のような力強さを追求した結果、この前頭部のデザインができ[4]、鉄人28号を意識してデザインしたわけではないが、言われてみると妙に納得したともコメントしている[8]
  • 車体のカラーリングは、当時の担当者が1993年当時WRC(世界ラリー選手権)に参戦していたスバル・インプレッサWRX555(GC8型)のメタリックブルーの塗装(スポーツブルー)からヒントを得たという。実際の塗装検討に際し、車両工場の片隅に大井川鐵道への譲渡前提で留置されていた休車中の21000系電車ズームカーの一両に塗装を施して、検討が重ねられた。他のカラーリングの候補としてはかっての南海のイメージカラーであったグリーンとタスマニアブラウンの2種類があった[4]

脚注

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参考文献

  • 「南海電鉄の関空アクセス 特急ラピート登場!」
    鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』通巻330号(1994年4月号) pp9-13
  • 南海電気鉄道(株)鉄道事業本部車両部計画課 「南海電気鉄道50000系特急車」
    鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』通巻330号(1994年4月号) pp78-82
  • 大門庸郎「南海電鉄『ラピート』誕生秘話」
    交友社『鉄道ファン』2004年8月号 No.520 pp120-123

関連項目

テンプレート:Sister

外部リンク

テンプレート:南海電気鉄道の車両

テンプレート:ブルーリボン賞選定車両一覧
  1. 1.00 1.01 1.02 1.03 1.04 1.05 1.06 1.07 1.08 1.09 1.10 1.11 1.12 1.13 1.14 1.15 1.16 1.17 1.18 1.19 1.20 1.21 テンプレート:Cite journal
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 テンプレート:Cite journal
  3. 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 3.18 3.19 3.20 3.21 3.22 3.23 3.24 3.25 3.26 3.27 3.28 3.29 3.30 3.31 3.32 3.33 3.34 3.35 3.36 3.37 3.38 3.39 3.40 3.41 テンプレート:Cite journal
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite journal
  6. ラピート運行開始20周年記念 ガンダムUC×ラピート 赤い彗星の再来 特急ラピート ネオ・ジオンバージョン|南海電鉄
  7. 通常より3倍速い? 南海ラピートが「赤い彗星」に…「ガンダムUC」とタイアップ - 2014年4月10日 Response
  8. バビル2世』(秋田文庫 第2巻)巻末の解説より。