集合

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年6月9日 (月) 06:14時点における221.94.14.18 (トーク)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

数学における集合 (しゅうごう、テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-fr-short, テンプレート:Lang-de-short) とは、大雑把に言えばいくつかの「もの」からなる「集まり」である。集合を構成する個々の「もの」のことを (げん、テンプレート:Lang-en-short; 要素) という。

集合は、集合論のみならず現代数学全体における最も基本的な概念の一つであり、現代数学のほとんどが集合と写像の言葉で書かれていると言ってよい。

慣例的に、ある種の集合が (けい、テンプレート:Lang-en-short) や (ぞく、テンプレート:Lang-en-short) などと呼ばれることもある。実際には、これらの呼び名に本質的な違いはないが細かなニュアンスの違いを含むと考えられている。たとえば、方程式系(「相互に連立する」方程式の集合)、集合族(「一定の規則に基づく」集合の集合)、加法族(「加法的な性質を持つ」集合族)など。

導入

集合は「もの」の「集まり」である。集合の(要素)として集められる対象となる「もの」は、文字記号などをはじめ、どんなものでも(もちろん集合でも)構わない。

一方で、どんな「集まり」でも集合と呼んでよいわけではない。その「集まり」が集合と呼ばれるためには、対象が「その集まりの元であるかどうかが不確定要素なしに一意に決定できる」ように定義されていなければならない。

たとえば、トランプスート全体 {♠, ♦, ♣, ♥} やトランプの数字全体 {A, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, J, Q, K} は集合の例である。トランプは(ジョーカーを除いて)これらの組

{(♠,A), ..., (♠,K), (♦,A), ..., (♦,K), (♣,A), ..., (♣,K), (♥,A), ..., (♥,K)}

を符牒とする52枚のカードであるが、これもまた集合の一例になっている。とくにこれはスートの集合と数字の集合との直積集合の例であり、また 52 というのはこの集合の濃度を表している。また、先のスートの集合、数字の集合の濃度はそれぞれ 4, 13 である。

トランプの記号
A 2 3 4 5 6 7 8 9 10 J Q K
(♠,A) (♠,2) (♠,3) (♠,4) (♠,5) (♠,6) (♠,7) (♠,8) (♠,9) (♠,10) (♠,J) (♠,Q) (♠,K)
(♦,A) (♦,2) (♦,3) (♦,4) (♦,5) (♦,6) (♦,7) (♦,8) (♦,9) (♦,10) (♦,J) (♦,Q) (♦,K)
(♣,A) (♣,2) (♣,3) (♣,4) (♣,5) (♣,6) (♣,7) (♣,8) (♣,9) (♣,10) (♣,J) (♣,Q) (♣,K)
(♥,A) (♥,2) (♥,3) (♥,4) (♥,5) (♥,6) (♥,7) (♥,8) (♥,9) (♥,10) (♥,J) (♥,Q) (♥,K)

集合を表すプレースホルダにはしばしばラテン文字の大文字 A, B, ..., E, F, ..., M, N, ..., S, T, ..., X, Y, ... など[1]を使い、集合の元は(とくに集合を表すのに使った文字に対応する)ラテン小文字 a, ..., e, ..., m, ..., s, ..., x, ... とすることが多い[2]

帰属と包含

テンプレート:Main

ファイル:Venn A subset B.svg
包含関係: A は B の部分である。B は A の上にある。

集合と元、集合と集合などの間には含んだり含まれたりといった素朴な関係を考えることができる。

帰属関係
対象 a が集合 A を構成するものの一つであるとき、「a は集合 A に属す」「a は集合 A の要素(あるいは元)である」「集合 Aa を要素として持つ」などといい、aA あるいは Aa と表す。
包含関係
2 つの集合 A, B について、A に属する元がすべて B にも属するとき、すなわち xAxBa の取り方に依らずに成り立つとき、「AB部分集合である」「AB に集合として含まれる」「BA を包含する」などといい、AB または AB あるいは BA または BA と記す。

帰属関係と包含関係は異なる概念であって、混同してはならない。例えば、XYZ ならば必ず XZ であるが、XYZ からは XZ は必ずしも導かれない。また、xAB ならば xB であるが、xAB からは xB を帰結することは一般にはできない。

集合の記述法

集合を書き表す方法として、その集合の要素をすべて列挙する方法が考えられる。例えば、1, 3, 5, 7, 9 からなる集合は、

<math>\{1, 3, 5, 7, 9\}</math>

と表すことができる。このように集合の要素をすべて列挙することで集合を記述する方法を集合の外延的記法 (テンプレート:Lang-en-short) と言う。

また、対象がその集合に属するためにみたすべき条件を明示することによって集合を表すこともできる。例えば、10 未満の正の奇数全体の集合を、

<math>\{ x \mid x</math> は 10 未満の正の奇数 <math>\}</math>

のように表すことができる。一般に、条件 P(x) があったとき、それをみたす対象だけ全て集めた集合を、

<math>\{x \mid P(x)\}</math>

で表す。このように対象がその集合に属するための必要十分条件を与えることによって集合を記述する方法を内包的記法 (テンプレート:Lang-en-short) と言う。ここでは x という変数を用いているが、{ y | P(y) } と書いても { a | P(a) } と書いても構わない。 条件 P(x) は「xX の元であって、さらに条件 Q(x) を満たす」というような形で与えられることが多い[3]が、このとき定まる集合を {x | xX かつ Q(x)} のように書く代わりに、しばしば簡単に

<math>\{x \in X \mid Q(x)\}</math>

などと略記する。集合 {xX | Q(x)} は X の部分集合となる。また、条件 P(x) が「条件 Q(y) を満たすようなある y を用いて x = f(y) と表すことができる」というような形のときは、集合 { x | P(x) } を

<math>\{f(y) \mid Q(y)\}</math>

のように表すこともある。

要素を外延的に書きつくせないような集合、例えば自然数全体の集合を

<math>\{0, 1, 2, 3, \dots \}</math>

のように書き表すこともあるが、"..." による省略部分は誤解を生じる余地があるため、このような記法はその省略された内容の意味が明らかである場合に限られる。

外延性の原理

{1, 3, 5, 7, 9} と { x | x は 10 未満の正の奇数 } は異なる表し方をされているが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合である。このように全く同じ要素からなる集合は等しいと考える。これを外延性の原理テンプレート:Lang-en-short)と呼ぶ。外延性の原理を正確に書くと次のようになる:

任意の対象 x に対して xAxB が成り立つならば、A = B

外延性の原理より、

  • { x, y } = { y, x }[4],
  • {(−1)1, (−1)2, (−1)3, ..., (−1)n} = {1, −1},

のようにそこに現れる元の順番を入れ替えたり、そこに含まれるのと同じ元をあらたに書き加えてももとの集合に等しい[4]

テンプレート:要検証範囲

特別な集合

数学では、1 つも要素を持たないような集合も考える。外延性の原理によれば、このような集合はただ一つしか存在しないので、これを空集合 (テンプレート:Lang-en-short) といい ∅ で表す。∅ は任意の集合 A の部分集合である。なぜなら、任意の対象 x に対して x ∉ ∅ より x ∈ ∅ ⇒ xA は真だからである。空集合の他にも決まった記号によって表される集合がいくつかある:

  • <math>\mathbb{N}</math> は自然数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{Z}</math> は整数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{Q}</math> は有理数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{R}</math> は実数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{C}</math> は複素数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{H}</math> は四元数全体の集合を表す。
  • <math>\mathbb{U}</math> はグロタンディーク宇宙を表す。

濃度

テンプレート:Main 有限個の元からなる集合を有限集合 (ゆうげんしゅうごう、テンプレート:Lang-en-short) と呼び、集合 A の元の個数を #(A), |A|, card(A) などの記号で表すことが多い。有限集合でない集合を無限集合 (むげんしゅうごう、テンプレート:Lang-en-short) という。無限集合に対しても「個数」の概念を広げて、濃度 (のうど、テンプレート:Lang-en-short) 、または基数 (きすう、テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-en-short) というものを考える。個数を数える代わりに、ある集合を使って、その元で別の集合をラベル付け (テンプレート:Lang-en-short; 添字付け) して、一対一の対応がとれるかどうかを調べるのである。そうすると有限集合の濃度はちょうど元の個数で決まるので、ちゃんと無限集合への「個数」の拡張となる概念が定まっていることが確認できる。

無限集合はどれも「無限個」の元を持っているわけだが、どの無限もみな同じというわけではなく、濃度の概念ではたくさんの無限を区別して扱うことになる。たとえば、自然数と有理数が同じ濃度を持つ、自然数と実数は真に異なる濃度を持つといったような事実は数学を学ぶ者にとってよく知られた内容である。同様の事実に、平面 R2 と数直線 R は同じ濃度を持ち、平面を覆いつくす平面充填曲線と呼ばれる不思議な平面曲線が何種類も存在することが述べられる。より次元の高い空間でも同様で、空間を埋め尽くす空間充填曲線が構築される。異なる次元をもつ空間が同じ濃度をもつというのは、次元や濃度が一方が他方を測るようなものではない異なる尺度であることを表しているのである。

集合の演算

いくつかの集合を扱い、その関係性について論じるとき、もともと考えていた集合たちから新しい集合を作って調べるというのは有効な手段の一つである。これらの操作は、集合に対する演算と見なすことによって、集合族に関するいくつかの代数系を提供する。それらの代数系を抽象代数系と見なせば、抽象代数学の一般論を適用することでまたいくつかの概念を提供することになる。

基本的な集合演算

テンプレート:Main

結び・結合・和
ファイル:Venn0111.svg
結びの模式図
二つの集合を「くっつけ」て一緒にしてしまうことで新しい集合を取り出すことができる。加法的な集合族の基本となる演算のひとつ。和集合
<math>A\cup B := \{x\mid x\in A \or x\in B\}.</math>
交わり・交叉・積
ファイル:Venn0001.svg
交わりの模式図
二つの集合の共通した部分を見つけることで、新しい集合を取り出すことができる。乗法的な集合族の基本となる演算。積集合、共通部分
<math>A\cap B := \{x\mid x\in A\and x\in B\}.</math>
直和・非交和
二つの集合の、交わりを持たない和。
差・相対補
ファイル:Venn0100.svg
差集合の模式図
二つの集合のうちの一方の集合について、それに帰属する元のうち、同時に他方にも含まれる元を取り除いて新しい集合を作ることができる。差は一方と他方の補集合との交わりであり、乗法的な演算である。
<math>A\smallsetminus B := \{x\mid x\in A \and x\notin B\}.</math>
補・絶対補
ファイル:Venn1010.svg
補集合の模式図
全体集合(普遍集合)が与えられ、任意の集合は全体集合の部分集合であるという仮定のもとで、一つの集合の全体からの差。勝手な集合はその補集合と交わりを持たず、それらの和は全体集合に一致する。
<math>\complement A := \{x\mid x\notin A\}.</math>
対称差
ファイル:Venn0110.svg
対称差の模式図
二つの集合の結びに帰属する元から、その交わりに属する元を取り除いて新しい集合を考えることができる。これは結びから交わりを引いた差である。結びと同様に加法的な演算。
<math>A\,\triangle\,B := (A\smallsetminus B)\cup(B\smallsetminus A).</math>

指示関数はこれらの集合演算を 0 と 1 からなる世界の代数的な演算に置き換える手段を与える。

<math>A \harr \mathbf{1}_A(x):=\begin{cases}1&(x\in A)\\0&(x\notin A)\end{cases}.</math>

その他の演算

テンプレート:Main 上記演算は、全体集合が一つ与えられ、演算の引数となる集合たちがその部分集合であるならば、その演算結果もふたたび同じ全体集合の部分集合となるようなものである。一方、必ずしもそれが期待できないような演算もある。

与えられた集合に対して、その冪集合とは与えられた集合に包含される集合全体の集合である。ある集合の冪集合はその集合の部分集合からなる集合族のなかで最大のものであると言っても同じである。
<math>\mathcal{P}(X) := \{S\mid S\subseteq X\}. </math>
直積
二つの集合に対し、それぞれに帰属する元の順序付けられた対を要素とする集合を作ることができる。
<math>X\times Y := \{(x,y)\mid x\in X\and y\in Y\}.</math>
配置・写像空間
ある集合から別の集合への写像を一つの元と見なすならば、その全体として新たな集合が見出される。直積集合は、順序数の各元に任意の集合を対応させる写像からなる配置集合と見ることもできる。
<math>Y^X := \{f\mid f\text{ is a mapping from }X\text{ to }Y \}.</math>
ファイル:Linalg partition.png
集合の類別の模式図
集合に類別を与えるとき、各類をその要素とする集合を考えることができる。
<math>X/{\sim} {}:= \{[x]\mid x\in X\}, \text{ where } [x] := \{y\in X\mid y\sim x\}.</math>

いくつかの集合族

テンプレート:Main 集合からなる族 A を考える。A が集合演算についていくつかの性質を満たすとき、それらには特別の名前が与えられることがある。

注記

  1. 定数や変数に対する慣例を踏襲して A, B, ... や X, Y, ... が使われるほか、英語の set, ドイツ語の Menge, フランス語の ensemble の頭文字 S, M, E やその周辺の文字がよく使われる。
  2. ラテンアルファベット以外にもギリシャ文字を使うこともある。集合の集合を考えるときは、元である集合に大文字を使うことから、筆記体 <math>\scriptstyle \mathcal{A,\ldots, E,\ldots, M,\ldots, S,\ldots, X,\ldots}</math>やドイツ文字 <math>\scriptstyle \mathfrak{A,\ldots, M,\ldots, X,\ldots}</math>で記したりする。このような入れ子構造は何重にも複雑な形で現われたり、同じものが違った見方をされたりするので、このような文字種の変更を行わないこともよくある。
  3. xX の元であって」というような断り書きをしない場合にも、実際には「普遍集合」 (テンプレート:Lang-en-short あるいは「宇宙」 (テンプレート:Lang-en-short) と呼ばれる、必要な議論を展開することができる程度に十分大きな集合を考え、集合と言えば必ずその普遍集合の部分集合だけを考えているといったようなことがしばしば行われる。条件 P(x) の形から x の属するべき集合 X がある程度限定される場合にも、断り書きはしばしば省略される。
  4. 4.0 4.1 集合 {x, y} を xy との順序を気にしない対という意味で非順序対 (テンプレート:Lang-en-short) と呼ぶことがある。また、集合では {x, x} = {x} だが、多重集合では {x, x} ≠ {x} である(x の重複度が左辺は 2 で右辺は 1)。

関連項目

テンプレート:Sister

テンプレート:集合論