世論調査
世論調査(よろんちょうさ)とは、ある社会集団の構成員について世論の動向を明らかにする目的で行われる統計的社会調査、またはその調査技法。無作為に抽出された一定数の人々(標本)に設問して回答を収集するという、統計理論に基づいた標本調査であり、標本誤差を伴う。
放送局(特にテレビ局)では月例で実施されている。
目次
調査方法
個別訪問面接聴取法
調査員が調査対象者の自宅を直接訪問し、面接での聴取を行う。または事前に回答調査書を配布して調査対象者に記入してもらい、後日調査書を回収する方式。
RDD方式
近年は電話によるRDD方式(乱数番号法、Random Digit Dialing)が多く採用されている。コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行う方式で、従来の固定電話を対象として行われる。NTTなどの電話帳に掲載されていない電話番号も抽出対象となりえる。
インターネット
インターネット利用の普及に伴い、インターネットを用いた世論調査に関する研究が進んでいる。サンプルの偏りに関する問題を解決するため、傾向スコア(Propensity Score)を利用して、標本に重み付けを行うなどの研究が進められている。
ただし内閣府の調査では、訪問面接聴取法とインターネット調査でサンプルの偏りを修正した結果を比較しても、調査手法、そしてインターネットの利用頻度によっても、回答傾向が異なるという。そのため、ただちにインターネットによる世論調査が既存の世論調査と置き換わることはないという。[1]
正確性
多くの世論調査は統計学の中心極限定理を正確性のよりどころとしている。中心極限定理によれば、母集団自体が特殊な性質を満たす集合でない限り、サンプル平均と母集団の真の平均との誤差は平均が0で分散はサンプル数の逆数に比例して小さくなる。
問題点
調査対象全体(母集団)から偏向なくサンプリングを行わなければ結果は不正確なものとなる。また意図的かどうかにかかわらず、設問文や設問順によって回答が誘導される(残留効果)、恣意的な設問、などによる世論誘導が行われないよう実施しなければならない。さらに、「あいまいな回答」や「無回答・分からない」という回答の扱い方が難しいため、統計学的に母集団を推定するうえでは問題もある。
回答率は調査の主体によっても左右される。たとえば、朝日新聞の調査には回答を拒否しても、産経新聞の調査には応じるなどである。特に政治的問題では、調査主体に好意的な回答者の回答率が高くなり、そうではない回答者の回答率は極端に下がる。例えば、死刑廃止を訴えるアムネスティ・インターナショナル日本支部が1996年の衆議院総選挙候補者に行ったアンケートでは、当時与党であった自民党候補者の回答率が極端に低かった。おおむね、公的機関や大手マスメディアの調査に対する回答率は比較的高いが、回答率が低すぎる場合、有効回答者の回答を、サンプル全体に当てはめることはできない。選挙プランナーと称する三浦博史は「1社だけでは不正確なマスコミの調査も、複数の調査を合わせれば、精度の高い結果になる」としている。[2]
RDD方式
テンプレート:出典の明記
固定電話のない世帯や、固定電話のある世帯であっても在宅時間の短い者・電話を取る役割にない者の回答が反映されないため、年齢・職業などに偏りが発生する。
常に同じ条件で調査を行うのであれば期間比較は可能であるが、選択肢間の比較を行うためには母集団における年齢・職業などの割合に合わせてデータを加工する必要がある。政党支持率や選挙投票先を問う世論調査において、主要メディアはこうした加工行わずに発表しているため、統計情報としての取扱いには注意と透明性の高い調査方法の情報公開を要する。
個別訪問面接聴取法に比べ短期間で安価に実施できる長所がある反面、固定電話を持つ世帯への日中調査に限定されるため、対面による調査でしか個人情報提供に応じない人、固定電話を持たない携帯電話ユーザー、低所得者、入院療養中の医療弱者、障害者、外国人、日中在宅していない独身者、日中仕事をしている共働き世帯など、相当数の社会構成員、特に社会的弱者が不可避的に母集団から外れることになるため、主題や設問によっては大きな回答の偏りが生じ得る。
また、この調査法を使用して調査を受注する多くのリサーチ事業者は公益財団法人日本世論調査協会に未加盟であるため、「日本世論調査協会倫理綱領」や「実践綱領」などの規定遵守義務がなく、家族構成、政治的見解、宗教的傾向、消費傾向などの個人情報を調査後に保存し、メーカーなどに販売・使用されるなど反社会的な個人情報転売が行われるケースも発生している。
メディア史学者の佐藤卓己はRDD方式の本質的な問題点を2つ挙げている。一つ目は「私生活の空間に突然侵入する電話に快く回答してくれる人が、「民意」の平均像からは逸脱していること」であり[3]、2つ目は回答者が質問内容を十分に考えているとは限らないことである。[4]
ギャラップ調査
代表的世論調査としてギャラップ調査が挙げられる。ギャラップ調査とは、商業的世論調査機関であるアメリカ世論調査所 (American Institute of Public Opinion) ギャラップ社 (Gallup Organization) が行う世論調査の総称である。調査は大統領選挙の予想が特に有名。[5]
ジョージ・ギャラップ (George Horace Gallup) (1901年~1984年)とはアメリカの心理学者、統計学者である。世論の統計的調査法を創始し、1935年に米国世論調査所を設立した。
ギャラップ社は、現在では世界30カ国以上にオフィスをもち、多くの調査員が活躍している。同社の調査結果は、アメリカの新聞社をはじめとする多数のマスメディアに取り上げられている。
1936年、大統領選挙において、民主党のフランクリン・ルーズベルト (Franklin D. Roosevelt) と、共和党のアルフレッド・ランドンという2人の候補がいた。大手雑誌である『リテラリー・ダイジェスト』誌は、230万人もの世論調査の末、ルーズベルトの落選を予想した。対して、はるかに少ない調査を行ったギャラップ社は再選を予想し、ルーズベルトが再選した。その予想の的中により、ギャラップ社は一躍脚光を浴びた。
『テンプレート:仮リンク』誌の予想が外れたのは、当時としては珍しい電話を使った世論調査の特性を見落としていたからといわれている。当時は電話の普及率40%で、早くから電話が普及していた富裕層と、それ以外の層で、普及率に差があった。共和党支持者は富裕層に多いため、ランドン候補に有利なデータが出てしまったとの分析である。それに対しGraham Waldenはリ社の調査結果の偏向は調査方法(普及率が40%の電話)によるよりも、1,000万の聞き取りに対し230万の有効回答しか得られなかったこと、またリ社の読者層は保守派であることによる回答者層の偏りによるものであると指摘している。
討論型世論調査
- 20世紀に、討論型世論調査 ( deliberative poll ) が、ジェイムズ・フィシュキンによって提唱された。
- 21世紀、日本においては、将来の原発政策をめぐって討論型世論調査が採用された。
脚注
参考文献
- ダレル・ハフ(Darrell Huff)、高木秀玄訳『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』(1968/7/24 講談社ブルーバックス ISBN 4-06-117720-6)
- 谷岡一郎『「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ』(2000/6/20 文藝春秋文春新書 ISBN 4-16-660110-5)