バックラッシュ

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バックラッシュ(Backlash)とは、ある流れにたいする「反動」「揺り戻し」の意味だが、ジェンダー問題においては、転じて男女平等男女共同参画ジェンダー運動などの流れに反対する運動・勢力のことを言う。

概要

「バックラッシュ」は、フェミニズムへの反動を指す言葉として、スーザン・ファルーディ (Susan_Faludi)の著書『バックラッシュ/逆襲される女たち(原著:"Backlash: The Undeclared War Against American Women")』(1992年)で用いられたことにより一般化した。1960年代後半にアメリカで始まったウーマンリブ運動は、1970年代には、日本を含む他の先進国にも広まり、それらの国では女性の社会進出が本格化した。一方で、ファルーディによれば、アメリカでは、1980年代から1990年代にかけて、そうしたフェミニズムへの反動が起こり、「男は仕事、女は家庭」「男は強く、女は慎ましく」などといった社会的な性差を再び強化しようとする動きが登場したという。また、それと同時期に、「女性は法的な平等を勝ち取ったのでフェミニズム運動はもはや必要ない」とする言説が主にマスメディアで流され、男女同権運動を過去のものにしようとしたとされる。ファルーディはこれを「ポスト・フェミニズム」と呼び、バックラッシュに含めている。彼女は、バックラッシュについて、「完全なる平等を女性が達成したことによって起こるのではなく、フェミニズムが勝つかもしれないという危惧から発生している」と指摘している。

日本における「バックラッシュ」

日本でも、1990年代頃から、新生佛教教団神社本庁統一教会などの宗教団体宗教右派)や、それらの宗教団体が関係する日本会議神道政治連盟などの保守派政治団体から、ジェンダーフリーと「過激な」性教育や、選択的夫婦別姓制度導入などに対する反対運動が現れた[1][2]山口智美は、新生佛教教団の関連メディアである日本時事評論社が「フェミニズムへのバックラッシュのいわばリーダー的な役割をはたしている」と指摘した[3]

ジェンダーフリー運動を左翼活動とみなし、「ジェンダーフリーは連合赤軍の思想そのもの」だとしている一部の保守派もいる[4]産経新聞諸君!は、反共、反フェミニズムの流れからジェンダーフリーや「過激な」と主張する性教育を批判した。

一方、推進側は「ジェンダーフリーと共産主義は仮に支持する人が重なっていたとしても偶然であって、基本的には別の思想である」と反論した[5]。また、バックラッシュ側が主張する「過激な」性教育の多くが、事実に基づかない誇張である、との指摘もある[1][3]

バックラッシュ裁判

2004年3月、大阪府豊中市が、男女共同参画推進センター『すてっぷ』の非常勤の館長・三井マリ子を雇止めした。2004年12月、三井側はこれを、男女平等に反対する勢力の圧力に屈した不当な雇止めであるとし、同市と施設の管理財団を提訴した。この裁判は、解雇に反対する側では、「バックラッシュ裁判」と呼ばれている[6]

2007年9月、1審の大阪地裁はこの訴えを棄却したため、三井側は大阪高裁に控訴した。三井側は、雇止めが「人格権の侵害」にあたることを新たに主張した。

2010年3月、三井側が逆転勝訴。大阪高裁は1審判決を破棄。「豊中市が三井の行動に反対する勢力の組織的な攻撃に屈した」「説明をせずに常勤化・非常勤雇止めを行ったのは人格権の侵害にあたる」と認定し、市に150万円の賠償を命じた。

その他の見解

ジェンダー研究」そのものが「バックラッシュ」だという見解がある。これは「ジェンダー研究」が生得的な「女性」「男性」という性の概念を相対化して個の無限のグラデーションとしてしまい、フェミニズムそのものの存立を危うくする言説だ、との見方によるものである。が社会的かつ後天的に成立するものならば、もはやフェミニズムが地位を向上させるべき「女性」なる主体が存在しない、ということになってしまうからである。したがってフェミニズムには、「ジェンダー研究」のことをバックラッシュだとみなす考えがある[7]

脚注

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参考文献

関連項目

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  1. 1.0 1.1 山口智美; 斉藤正美; 荻上チキ (2012). 社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動. 勁草書房.
  2. 三井マリ子 (2012). 浅倉むつ子; 三井マリ子. ed. バックラッシュの生贄 フェミニスト館長解雇事件. 旬報社.
  3. 3.0 3.1 テンプレート:Cite book
  4. 『新・国民の油断』PHP研究所
  5. 『Q&A 男女共同参画/ジェンダーフリー・バッシング―バックラッシュへの徹底反論』明石書店
  6. 三井マリ子浅倉むつ子 編『バックラッシュの生贄』、旬報社、2012年
  7. 『フェミニズム理論辞典』明石書店