平方根
平方根(へいほうこん、テンプレート:Lang-en)とは、数に対して、平方すると元の値に等しくなる数のことである。幾何学的には、与えられた数を面積とする正方形を考えるとき、絶対値がその一辺の長さである2数であり、一つの幾何学的意味付けができる。また、単位長さと任意の長さ x が与えられたとき、長さ x の平方根を定規とコンパスを用いて作図することができる。二乗根(にじょうこん)、自乗根(じじょうこん)とも言う。
定義
数 a に対して、a = b2 を満たす b を a の平方根という。a がどのような数の範囲であるかによって、この概念は、意味を持つかどうかということを含め、さまざまな点で差異が生じるということに注意が必要である。
0 の平方根は 0 のみである。また、どんな正の数 a に対しても平方根は正と負の2つ存在し、そのうち正である方を根号(こんごう、radical symbol)√ を用いて
- <math>\sqrt{a}</math>
と表し「正の(あるいは非負の)平方根」(principal square root; 主平方根)と呼ぶ(文脈上紛れのおそれの無いと思われるときは「正の」を省略することもある)。このとき、もう一方の「負の平方根」は −√a と表すことができる。また、2つの平方根を併せて ±√a と表記することもできる。例えば、16 の平方根は ±4、すなわち +4 と −4 の2つであり、√16 は正である 4 の方を表す。√0 は、0 の唯一の平方根 0 を意味すると約束する。根号に関するこれらの規約は、非負の実数の範囲でのみ通用する便宜的なものであることに注意を要する。
負の数の平方根は、考える数の範囲を複素数まで拡大してやれば定義できる。また、数とは限らず、もっと一般にいくつかの数学的対象についても、それぞれに意味のある仕方で平方根が定義されるものがある(正定値行列など)。
いくつかの基本的なこと
a が正の整数でも、a の平方根は整数とは限らない。例えば √10 は小数表示すると 3.162277660168… と小数部分が循環せず、無理数である。平方根が整数であるような整数は平方数に限られる。そうでない整数の平方根は無理数となる(無限降下法または素因数分解の可能性・一意性から証明される)。正の整数や小数の平方根の小数表示を求めるには、開平法という筆算による方法が知られている。
a = x2y (x, y > 0) と表せるならば、その正の平方根について √a = x√y が成り立つから、正の整数 a が平方因子を持つ場合は、根号内がより小さい表示にできる。 例えば 18 = 32 × 2 であるから、√18 = 3√2 と表せる。
比較的小さな数の平方根については、概数を知る必要がしばしばあることから、以下のような小数部分の数桁目までの語呂合わせが知られている。
- √2 = 1.41421356… 一夜一夜に人見頃(ひとよひとよにひとみごろ)
- √3 = 1.7320508075… 人並みに奢れや女子(ひとなみにおごれやおなご)
- √5 = 2.2360679… 富士山麓鸚鵡鳴く(ふじさんろくおーむなく)
- ・ 「富士山麓に 鸚鵡鳴く」と誤って覚えるむきも多い。
- ・ √5 = 2.236067977… なので、そもそも「 2.2360679… 」という語呂合わせは、正確性に欠く。小数点以下 8 桁ならば「 2.2360680… 」とするのが妥当である。
- √6 = 2.4494897… ツヨシ串焼くな(つよしくしやくな)、煮よ良く弱く(によよくよわく)
- ≈ 2.44949 似よ良く良く(によよくよく)、二夜しくしく(によしくしく)
- √7 = 2.64575… 菜 (7) に虫来ない((な)にむしこない)
- √8 = 2√2 = 2.828427… ニヤニヤ呼ぶな(にやにやよぶな)
- √10 = 3.162277… 父 (10) さん一郎兄さん(とうさんいちろーにーさん)
実数 x に対して、x2 ≥ 0 であり、
- <math>\sqrt{x^2} =|x|\left( =\begin{cases}
x &(x \ge 0) \\ -x &(x \le 0) \end{cases}\right)</math> が成り立つ。ここで |x| は x の絶対値である。また、x と y が非負のときには
- <math>\begin{align}
\sqrt{xy} &=\sqrt{x} \sqrt{y}\\ \sqrt{\frac{x}{y}} &=\frac{\sqrt{x}}{\sqrt{y}} \end{align}</math> が成り立つ。これらは(証明を述べれば明らかであるが)非負の実数に対してその非負の平方根が一意に定まるということに依存して成立しており、後述するように、根号内が負の数や虚数のときは、一般には成り立たない。
- <math>x=(\sqrt{x} )^2 =(\sqrt[4]{x^2} )^2 =(\sqrt[6]{x^3} )^2 =\cdots</math>
が成り立ち、特に
- <math>x^{1/2} :=\sqrt{x}</math>
と定めることは(指数の表示 1/2 = 2/4 = 3/6 = … に依らずに一定という意味で)well-defined で、指数法則とも整合する。
平方根函数
入力 x に対してその非負の平方根 √x を返す函数 f(x) = √x を非負実数全体の集合 R+ ∪ {0} 上で定義されていると考えた正の平方根函数
- <math>\sqrt{}\colon \mathbb{R}^+ \cup \{ 0\} \ni x\ \xrightarrow{\text{1-1,onto}}\ \sqrt{x} \in \mathbb{R}^+ \cup \{ 0\}</math>
は(函数として well-defined で)、それ自身への全単射になる。正の平方根函数のグラフと負の平方根函数
- <math>{-\sqrt{}}\colon \mathbb{R}^+ \cup \{ 0\} \ni x\ \xrightarrow{\text{1-1,onto}}\ {-\sqrt{x}} \in \mathbb{R}^- \cup \{ 0\}</math>
のグラフの和集合は、二次函数 y = x2 のグラフと直線 y = x に関して線対称な放物線に等しい。
正の平方根函数 √ は連続かつ x > 0 で微分可能であり、導関数は
- <math>\frac{d}{dx} \sqrt{x} =\frac{1}{2\sqrt{x}}</math>
原始関数の一つは
- <math>\int \sqrt{x} \, dx=\frac{2}{3} ( \sqrt{x} )^3</math>
- <math>\sqrt{1+x} =\sum_{n=0}^{\infty} \binom{1/2}{n} x^n =1+\frac{x}{2} -\frac{x^2}{8} +\cdots</math>
が |x| < 1 で成り立つ。
x > 0 に対して自然数 n に関して帰納的に
- <math>f_n (x)=\sqrt{x+\sqrt{x+\sqrt{x+\sqrt{x + ...}}}}</math>
(x および根号の個数は n)と定めると、函数列 fn は漸化式
- <math>f_{n+1}(x)^2 =x+f_n (x)</math>
に従い、fn(x) > 0 が α(x) > 0 に収束するならば α(x)2 − α(x) − x = 0 でなければならないから、
- <math>\lim_{n \to \infin} f_n (x)=\sqrt{x+\frac{1}{4}} +\frac{1}{2}</math>
が成り立つ。
負の数の平方根
a < 0 の場合は、a の平方根は実数でなく、はっきりと指定することができない。複素数の範囲では、a の平方根の1つを b とすると、x2 = a の解は (x + b)(x − b) = 0 より x = ±b で、a の平方根は2つあると分かる。そこで、記号 √a は +b, −b のどちらを指すかが問題となる。
−1 の平方根の1つ(どちらでもよい)をあらかじめ指定しておき、それを i で表す(虚数単位と呼ぶ)。これにより、a の平方根は ±√−a i と表せるから、
- <math>\sqrt{a} =\sqrt{-a} \, i</math>
と定めることにする。例えば √−5 = √5 i である。
正の数の平方根においてよく知られる計算法則
- <math>\sqrt{a} \sqrt{b} =\sqrt{ab} </math>
は、a < 0 かつ b < 0 のとき成立しない。実際、左辺は
- <math>\sqrt{a} \sqrt{b} =\sqrt{-a} \, i\times \sqrt{-b} \, i=\sqrt{-a} \sqrt{-b} \, i^2 =-\sqrt{ab} </math>
なので、この場合
- <math>\sqrt{a} \sqrt{b} =-\sqrt{ab} </math>
が正しい。
四元数や八元数においては、複数の虚数単位を定義し、a の平方根は2個より多くなる。
二次体
有理数体 Q(有理数全体(負の数も含む))上で定義される函数
- <math>\mathbb{Q} \ni x\mapsto \sqrt{x} \in \mathbb{A}</math>
において、その値域は(虚数も含めた)代数的数(の一部)からなる。有理数の平方根が再び有理数となるならば、その有理数は(有理数の範囲での)平方数であるという。有理数内で平方数とならない有理数 d に対して √d は二次の無理数であって、Q に √d を付け加えて得られる体(たい)は二次体と総称される。
複素数の平方根
a が 0 でない複素数のとき、代数学の基本定理によれば b2 = a を満たす複素数 b は高々2個存在する。a の極形式を
- <math>a=re^{i\theta} \ (r>0,\, -\pi <\theta \le \pi)</math>
とすると、b の動径の2乗が r、b の偏角の2倍が θ であるから、
- <math>\sqrt{a} =\sqrt{r} \, e^{i\theta/2}</math>
と定義すると、これは a に対して一意に定まり、(√a)2 = a を満たす。これを a の平方根の主値(しゅち、principal value)という。この主値により定義される平方根函数
- <math>\mathbb{C} \ni z\mapsto \sqrt{z} \in \mathbb{C}</math>
は、実軸の負の部分を除くガウス平面 C の全域で至る所正則である。しかし実軸の負の部分上では連続でさえない。これを2枚のガウス平面を実軸の負の部分で張り合わせた平方根函数のリーマン面上で考えるならば、至る所解析的である。
- Complex sqrt leaf1.jpg
ガウス平面上の平方根函数を色で示したもの。原点の周りを偏角が正の方向(反時計回り)に回って、実軸の負の部分を跨ぐときもう一枚のガウス平面へ跳ぶ(緑→緑)。
- Complex sqrt leaf2.jpg
もう一枚のガウス平面上の平方根函数。こちらもやはり原点を正の方向に回ると、実軸の負の部分を境に最初のガウス平面に帰る(紫→紫)。
- Riemann surface sqrt.jpg
原点付近での平方根函数のリーマン面(2つのガウス平面を張り合わせたときの様子)
平方根関数 Re z1/2
ここで、z は複素数。
行列の平方根
テンプレート:Main 正方行列 A に対して、A = B2 を満たす正方行列 B を A の平方根行列と呼び[1]、記号で
- <math>B = \sqrt{A}</math> あるいは <math>B=A^{\frac{1}{2}}</math>
と表す。
平方根行列は存在するとは限らず、存在しても1つだけの場合や複数個の場合、無限個存在する場合がある。
脚注
参考文献
- 一松信『√2の数学―無理数を見直す』海鳴社 ISBN 4875250568
関連項目
外部リンク
- 数の泉(√2 や √3 などを小数点以下100万桁まで掲載しているサイト)
- 資料庫(平方根)(√1 から √100 までを小数点以下30桁まで掲載している)
- Japanese soroban techniques - 加藤福太郎教授が考案した計算法(英語)