四方拝
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四方拝(しほうはい)とは、宮中で行われる一年最初の儀式。
概要
戦前には四方節とよばれていた。皇室令が廃止された戦後においても、皇室の私的な行事とされる以外は旧皇室令に準拠して行われている。
元日の午前5時30分に、今上天皇が黄櫨染御袍と呼ばれる束帯を着用し、皇居の宮中三殿の西側にある神嘉殿の南側の庭に設けられた建物の中に入り、伊勢の神宮の皇大神宮・豊受大神宮の両宮に向かって拝礼した後、続いて四方の諸神を拝する。ただし、2009年の四方拝は今上天皇の高齢化に伴う祭祀の簡略化により、皇居の御所において行われた。
この時に天皇が拝される神々・天皇陵は伊勢神宮、天神地祇、神武天皇陵・先帝三代(明治天皇の伏見桃山陵、大正天皇の多摩陵、昭和天皇の武蔵野陵)の各山陵、武蔵国一宮(氷川神社)・山城国一宮(賀茂別雷神社と賀茂御祖神社)・石清水八幡宮・熱田神宮・常陸国一宮(鹿島神宮)・下総国一宮(香取神宮)である。
沿革
平安時代初期の嵯峨天皇の御代に宮中で始まったとされている。儀式として定着したのは宇多天皇の時代とされ、『宇多天皇御記』の寛平2年旧暦元旦が四方拝が行われた最古の記録である。
旧暦元旦の寅の刻(午前4時ごろ)に、みかどが綾綺殿で黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう:みかどの朝服)を召され、清涼殿東庭に出御して「嘱星御拝御座」に着座して天皇の属星[1]に拝礼、次に「四方御拝御座」に着座して天地四方の神霊に拝礼、最後に「山陵御拝御座」に着座して父母の天皇陵(父母が健在の場合には省略)などの方向を拝し、その年の国家・国民の安康、豊作などを祈った[2]。「嘱星御拝御座」・「四方御拝御座」・「山陵御拝御座」は“三座”と称された。明治以前においては、院政を行っていた院が四方拝(「院四方拝」)を行う例もあった。なお、天皇が行う他の拝礼では、摂関や神祇伯が代拝することがあったが、四方拝は天皇本人の守護星や父母に対する拝礼であるため、代拝は行われなかった。江戸時代に雅喬王(白川雅喬)が著した『家説略記』には四方拝は守護星・祖廟を拝礼する儀式であると述べて神道儀礼であることを否定している(「非神祭」)ことから、四方拝が道教や陰陽道の下に成立した儀式であって、本来神道とは無関係な儀式であった可能性もある[3]。
このとき唱えた言葉は、『内裏儀式』・『江家次第』に掲載されている。
これらによると、 テンプレート:Cquote
とある。
天皇の四方拝に倣って貴族や庶民の間でも行われ、四方を拝して一年間の豊作と無病息災を祈っていた[4]が、時代を経るごとに宮中行事として残るのみとなった(ただし、江戸時代においても摂家など一部の公家の間でも四方拝が行われていた記録も残されている[5])。
その後、応仁の乱で一時中断されたが、後土御門天皇の文明7年(1475年)に再興されて以後は孝明天皇に至るまで、京都御所の清涼殿の前庭で行われた。
明治以後は、国学的観点から、道教の影響(北斗七星信仰や急々如律令などの呪文)は排除され、神道祭祀として再構成された上、国の行事として行われて四方節と呼ばれ、祝祭日の中の四大節の一つとされていた。
脚注
- ↑ ぞくしょう:誕生年によって定まるという人間の運命を司る北斗七星のなかの星
- ↑ また、江戸時代には、属星拝礼後に「嘱星御拝御座」において内侍所・伊勢神宮への拝礼が、父母の御陵拝礼前に「山陵御拝御座」にて歴代天皇の山陵(対象は時期によって異なる)に対する拝礼が追加されたことも知られている。なお、伊勢神宮への拝礼に関しては院四方拝においては、後深草院以来の慣例であったとする『花園院宸記』元応2年(1320年)元日条の記事があり、中世に院で行われたものが後に天皇の四方拝でも採用されたと考えられている。
- ↑ 村、2013年、P254-260・275-276
- ↑ 『江家次第』には「関白四方拝」「庶臣儀」に関する記述もある。
- ↑ 元文3年(1738年)の元旦に当時の関白一条兼香が四方拝の行った時に記録が彼の日記『兼香公記』に残されている。それによれば、天皇の四方拝と異なり三座が設けられず、山陵に代わって藤原氏や陰陽道に関わる諸神・諸社への拝礼が行われている。
参考文献
- 村和明「天皇・上皇の四方拝と〈政務〉」 『近世の朝廷制度と朝幕関係』(東京大学出版会、2013年) ISBN 978-4-13-026233-0(原論文:2008年)