半導体
半導体(はんどうたい)とは、電気をよく通す「導体」(良導体)や通さない「絶縁体」に比してそれらの中間的な性質を示し[1]、さらに加工などにより能動素子の働きを示すなどの特性を持った物質である。元素では半金属元素に多い他、有機・無機の化合物半導体などがある。
今日の電子機械に多用されており、電子工学で使用されるICのような半導体素子はこの半導体の性質を利用している。
漢語「半導体」は、英語 "semiconductor" の "semi-" =「半分」と "conductor" =「導体」にもとづく。
目次
物性
バンド構造
電子機器で利用されている半導体の特徴は、熱や光、磁場、電圧、電流などの影響でその物性が顕著に変わることである。この特徴により、半導体の応用範囲は非常に多様なものとなっている。これらは適切な幅の禁制帯を持つバンド構造に由来し、電子が伝導電子になったり価電子になったりすることで、電気的・光学的・熱的などの面で性質が変化する。
より厳密には、半導体とは、価電子帯の部分の状態密度が完全に電子で詰まった充満帯となっている一方、伝導帯は空(空帯)で、価電子帯と伝導帯の間にバンドギャップが存在する状態、またはその状態を示す物質のことである。よく、同じようにバンドギャップが存在する絶縁体と比べて半導体はバンドギャップが狭いことで区別されるが、厳密には不純物によって電気伝導率を制御できるかどうかによって区別されるべきである。通常、半導体として扱われる物質のバンドギャップは、シリコンで約1.1 eV、ゲルマニウムで約0.67 eV、ヒ化ガリウム化合物半導体で約1.4 eVである。発光ダイオードなどではもっと広いものも使われ、リン化ガリウムでは約2.3 eV、窒化ガリウムでは約3.4 eVである。現在では、ダイヤモンドで5.27 eV、窒化アルミニウムで5.9 eVの発光ダイオードが報告されている。ダイヤモンドは絶縁体として扱われることがあるが、実際には前述のようにダイヤモンドはバンドギャップの大きい半導体であり、窒化アルミニウム等と共にワイドバンドギャップ半導体と総称される。
バンド理論の項も参照のこと。
キャリア
半導体中における電荷の移動の担い手である伝導電子と正孔は合わせてキャリア(carrier、担体)と呼ばれる。これら2種のキャリアは電圧を加えられることで互いに反対方向に移動し、継続的に流れれば電流となる[2]。
半導体において単に「電子」と言った場合は、伝導電子のみを指す[3]。伝導電子は自由電子とほぼ同じ意味である。
- 多数キャリア(majority carrier)とは、n型半導体中の電子、およびp型半導体中の正孔を指す。単に「キャリア」と言った場合は、通常は多数キャリアを指す。
- 少数キャリア(minority carrier)とは、n型半導体中の正孔、およびp型半導体中の電子を指す。
n型・p型
多くの場合、半導体として機能させるには純粋な真性半導体のままでは電気伝導性が低いため、ドーパントと呼ばれる微量の添加物を混ぜて不純物半導体とする。このドープを厳密に調整して行なうことで電子や正孔であるキャリアの密度を上げ、電子部品用半導体として最適の特性を持つように製造される。p型とn型のいずれの半導体でも、必ず伝導電子と正孔を持っており、[4]ドープされた物質の電子軌道による差から、これらの存在量がどちらか一方に、多くの場合は数桁以上の比で偏っている。つまり、多数キャリアが電子か正孔のどちらであるかによって、n型とp型に区別される。
n型半導体
n型半導体(negative semiconductor)とは、電圧がかけられると伝導電子や自由電子、ほとんど自由な電子とも呼ばれる電子の移動によって電荷が運ばれる半導体である。価数の多い元素をドーピングすることで作られる。例えばシリコンやゲルマニウム(4価の元素)の結晶に、ヒ素などの5価の原子を混ぜることでn型となる。
不純物の導入によって生成されたキャリアは、導入された不純物原子から受けるクーロン引力により束縛される。ただしその束縛は弱く、ゲルマニウムのn型半導体では、電子束縛エネルギー = -0.01 eV、ボーア半径 = 4.2 nm 程度であるため、結晶内の原子間距離 0.25 nm、室温での熱励起は約 0.025 eV 程度では単独原子の束縛を離れて結晶の原子同士間を自由に動き、これらの原子は互いの電子を共有する状態となる。 バンド構造で言えば通常、ドーパント原子は禁制帯の上端付近にドナー準位を形成し、そこから熱エネルギーにて伝導帯へ励起される。フェルミ準位は禁制帯中のドナー準位に近い位置になる。
p型半導体
電圧がかけられると正孔の移動によって電荷が運ばれる半導体である。価数の少ない元素をドーピングすることで作られる。例えばシリコン(4価)の結晶にホウ素などの3価の原子を混ぜることでp型となる。
電子が伝導帯側に遷移して価電子帯側の電子が不足することで生じる電子軌道上の空隙が正孔となる。結晶の原子同士間の自由電子が隣の正孔に移動することで正孔の位置は自由に移動でき、 電圧に応じて電子とは逆方向へ流れる。移動度は電子に比べて劣る。バンド構造で言えば、ドーパント原子は禁制帯の下端付近にアクセプター準位と呼ばれる空の準位を形成し、アクセプター準位へ価電子帯から熱エネルギーによって価電子が励起されることで、価電子帯に正孔が生じる。フェルミ準位は禁制帯中のアクセプター準位に近い位置になる。
真性半導体
不純物や格子欠陥を全く含まない半導体結晶であり、全温度領域においてキャリアは価電子の励起によってのみ供給される。フェルミ準位は禁制帯の中央に位置する。後述の温度の影響も参照。
キャリアの補償
ドナーとドーパント(アクセプター)の両方が存在する場合、ドナー準位からアクセプター準位に電子が遷移する。このためドナー密度がアクセプター密度よりも大きい時は全体としてn型となり、逆の場合はp型となる。これをキャリアの補償(carrier compensation)と云う。
温度の影響
半導体では通常、温度が上がると電気伝導性が増す。
室温では、キャリアが不純物原子から受ける束縛を離れて結晶中を動ける状態にある。言い方を変えれば、ドナーとアクセプターの原子は多くがイオン化しているが、温度が低下すると熱励起も弱くなり、不純物原子のクーロン引力による束縛の影響が相対的に大きくなる。キャリアが束縛を離れている温度の領域を飽和領域、あるいは出払い領域といい、キャリアが束縛を受ける温度領域を不純物領域という。また、温度を上昇させると価電子までもが熱励起され、キャリアの供給源となり、この温度領域を真性領域と呼ぶ。半導体素子として利用する場合は飽和領域が利用される。
逆バイアスされたPN接合などにおいて温度が上がりすぎると、キャリアの増加で電流が増加し、その抵抗発熱でさらに温度が上がる熱暴走が発生する。
材料
半導体となる材料には以下のものがある。
応用例
P型半導体とN型半導体をPN接合したダイオードや、N型半導体をP型半導体で挟んだ、もしくはP型半導体をN型半導体で挟んだトランジスタなどに応用されている。太陽電池もPN接合を用いている。詳しくは半導体素子の項を参照のこと。
比喩表現
半導体は産業のコメだと言われるほど非常に重要な分野である。
ムーアの法則の代表例として頻繁に用いられる。
脚注
- ↑ IUPAC Gold Book - semiconductor
- ↑ キャリアは電荷を運ぶため"charge carrier"とも呼ばれる。
- ↑ 伝導電子のみを指すとは、「電子が欠乏」「電子が無い」などと言っても、半導体を構成する原子中の電子が無くなったりしている訳ではなく、単に伝導電子が不足する様を表す
- ↑ 良導体や半導体の内部では常に量子論的な揺らぎによって電子と正孔の配置にぶれが生じている。
関連項目
- 半金属 (バンド理論)
- ハイテク
- 半導体素子 - 半導体を使った電子素子
- 集積回路 - 半導体を使った集積回路
外部リンク
- 電子デバイス-半導体技術 (技術者Web学習システム)