状態密度
状態密度(じょうたいみつど、Density of states、略称 DOS)は、量子力学の微視的な状態があるエネルギー範囲にどれだけあるかを表す。状態数をエネルギーで微分したものと定義される。固体のマクロな物理量の期待値は、状態密度に物理量をかけてエネルギーで積分することにより計算できる。
定義
あるエネルギーE以下の状態の和を状態数N(E)とするとき、状態数をエネルギーで微分したものD(E)が状態密度である。 テンプレート:Indent
エネルギーを持った状態には状態密度が定義できる。固体物理学では電子やフォノンなどの一粒子状態密度が特に重要な役割を果たす。単に状態密度と言う場合、電子の状態密度を指すことが多い。
状態密度とエネルギーの積をフェルミ準位EFまで積分すると系の全エネルギーEtotとなる。
- <math> E_{tot} = \int^{E_F} D(E) EdE </math>
上式で、温度は絶対零度(T = 0 K)としている。有限な温度がある場合は、フェルミ分布関数 f(E) を使って、被積分部分 D(E)E を D(E)f(E)E と書きかえればよい。また積分の下限は、形式上は -∞ であるが、現実の計算では扱う系のバンド構造(電子状態)の一番底からフェルミ準位までが積分範囲となる。例えば自由電子(三次元)での状態密度の形は<math> \sqrt{E} </math>の形となるので積分範囲の下限はゼロとなる。これは√内は正でなければならないからである。
状態密度D(E)は、グリーン関数によっても表すことができる。系を記述するグリーン関数をG(E)として、状態密度D(E)は、
- <math> D(E) = \, - {1 \over \pi} \mathrm{Im} G(E) </math>
と表される。ImはG(E)(複素数)の虚数部分を取ることを示す。
バンド理論
固体中では結晶の周期構造などの結果、連続だった状態密度が分離した帯状(バンド)の構造をつくる(バンド理論参照)。バンド間の状態が存在しない領域をバンドギャップとよぶ。
半導体、絶縁体ではバンドギャップ上にフェルミ準位が存在する。この場合のD(EF)は絶対零度ではゼロである。 金属はフェルミ準位がバンド内にあり、状態が存在する、この場合フェルミ準位上の状態密度は D(EF) であり、その金属の持つ物性(物理量→定積比熱やパウリ帯磁率等)と深く関係している。
一般にフェルミ準位上に状態密度のピークが存在する場合、系が不安定となる。この場合構造の変位が起こり、状態密度のピークがフェルミ準位を境に電子が占有されたものと、占有しないものとに分かれ安定化することがある。これは電子が占有されたピークがフェルミ準位より下側にシフトすることにより、その分全エネルギーが小さくなり、より安定になるためである。
状態密度を求める表式(下の自由電子の状態密度の式参照)から、∇kE = 0となる場合、状態密度の形に特異性が現れる(→ファン・ホーブ特異点、ファン・ホーベとも言う)。
局所状態密度、スペクトル密度
実空間の位置座標rにおける状態密度を局所状態密度ρ(r,E)と言う。状態密度D(E)と局所状態密度の関係は、系の体積をVとして、
- <math> D(E) = {1 \over V} \int \rho (\mathbf{r},E) d \mathbf{r} </math>
となる。また、逆格子空間の座標qにおける状態密度をスペクトル密度a(q,E)と言う。状態密度D(E)とスペクトル密度の関係は、
- <math> D(E) = \sum_{\mathbf{q}} a (\mathbf{q},E) </math>
となる。qがk点の場合、a(k,E)からバンド構造(E-k曲線)が描ける。
自由電子における状態密度
自由電子のエネルギーは、
- <math> E = {\hbar^2 k^2 \over {2m} } </math>
であり、これからエネルギーE~E+dEまでの状態数は、
- <math> D(E)dE = {\int_{E}}^{E + dE} d\vec{k} </math>
となる。
- (一次元の場合)
- <math> D(E)dE = {\int_{E}}^{E + dE} dk = {\int_{E}}^{E + dE} {1 \over {dE \over {dk}} } dE \simeq {1 \over k} dE \simeq E^{-{1 \over 2}} dE </math>
- <math> D(E) \simeq E^{-{1 \over 2}} </math>
- (二次元の場合)
- <math> D(E)dE = {\int_{E}}^{E + dE} d\vec{k} = \oint_c dl {1 \over {| \nabla_{\vec{k}} E(\vec{k})| } } \cdot dE \simeq 2 \pi k \cdot {1 \over k} dE = constant \cdot dE </math>
- <math> D(E) = \, \mathrm{constant} </math>
- (三次元の場合)
- <math> D(E)dE = {\int_{E}}^{E + dE} d\vec{k} = \int_S dS {1 \over {| \nabla_{\vec{k}} E(\vec{k})| } } \cdot dE \simeq
\pi k^2 \cdot {1 \over k} dE \simeq k dE \simeq E^{1 \over 2} dE </math>
- <math> D(E) \simeq E^{1 \over 2} </math>
(以上の式で一部係数を省略している)
以上から自由電子の状態密度D(E)は、一次元でE-1/2(エネルギー零のところで発散)、二次元で一定値、三次元でE1/2(状態密度を横軸、エネルギーを縦軸と見れば放物線の形)のオーダーとなる。
アルカリ金属の価電子部分(s軌道)は比較的自由電子に近く、それら価電子部分の状態密度は放物線(←三次元自由電子の状態密度)に近い形をしている。
フォノン状態密度D(ω)の表式:三次元
- <math> D(\omega) = \, {V \over {(2 \pi)^3} } \int_S {d S_{\omega} \over { |\nabla_{\vec{q}} \omega_{\vec{q}} | } } </math>
ω:振動数、V:系の体積、∇ωq= 0の場合、電子での状態密度と同様に特異性(異常)が現れる(→ファン・ホーブ特異点)。