あたご型護衛艦
あたご型護衛艦 | ||
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300px DDG-177 あたご | ||
艦級概観 | ||
艦種 | ミサイル護衛艦(ミサイル駆逐艦) | |
建造期間 | 2004年 - 2006年 | |
就役期間 | 2007年 - 就役中 | |
前級 | DDG:こんごう型護衛艦 | |
次級 | 最新 | |
性能諸元 | ||
排水量 | 基準:7,700トン | |
満載:10,000トン(予想) | ||
全長 | 165m | |
全幅 | 21m | |
吃水 | 6.2m | |
深さ | 12m | |
機関 | COGAG方式 | |
LM2500ガスタービンエンジン (25,000ps) | 4基 | |
スクリュープロペラ | 2軸 | |
速力 | 最大30ノット以上 | |
乗員 | 300人 | |
兵装 | Mk.45 Mod.4 62口径5インチ単装砲 | 1基 |
高性能20mm機関砲 (CIWS Mk.15 mod.25) |
2基 | |
Mk.41 mod.20 VLS (64+32セル)
• スタンダードSM-2 SAM • VLA SUM |
2基 | |
90式SSM 4連装発射筒 | 2基 | |
HOS-302 3連装短魚雷発射管 | 2基 | |
艦載機 | SH-60J / K哨戒ヘリコプター (常時搭載機なし) |
1機 |
C4I | MOFシステム (OYQ-31-6 C2T +NORA-1/NORQ-1 SATCOM) | |
NTDS (UYQ-86(V)8 CDLMS +リンク11/14/16) | ||
AWS Mk.7 mod.19+SQQ-89(V)15J | ||
レーダー | AN/SPY-1D 多機能型(4面) | 1基 |
OPS-28E 対水上用 | 1基 | |
OPS-20B 航海用 | 1基 | |
ソナー | SQS-53C 艦首装備型 | 1基 |
OQR-2D-1 曳航式 | 1基 | |
FCS | Mk.99 mod.8 ミサイル | 3基 |
Mk.160 砲 | 1基 | |
Mk.116 水中 | 1基 | |
電子戦・ 対抗手段 |
ESM/ECM:NOLQ-2B | |
Mk.137 チャフ・フレア発射機 | 4基 |
あたご型護衛艦(あたごがたごえいかん、JMSDF DDG ATAGO class)は、海上自衛隊が保有するイージスシステム搭載(イージス艦)のミサイル護衛艦である。
目次
概要
こんごう型(63DDG)に次いで建造された海上自衛隊2世代目のイージスシステム搭載ミサイル護衛艦である。耐用年数を迎える旧式のたちかぜ型の後継艦として建造が計画され、あたごは1番艦「たちかぜ(46DDG)」と、あしがらは2番艦「あさかぜ(48DDG)」と交代した。3番艦「さわかぜ(53DDG)」の代艦は計画されず、さわかぜの退役に伴うミサイル護衛艦の交代はなかった。
イージスシステム搭載艦としては、世界最大級の排水量を有すると推測されており、海上自衛隊の保有する艦の中でもましゅう型補給艦、ひゅうが型(16DDH)といずも型(22DDH)の各ヘリコプター搭載護衛艦に次ぐ規模である。
2013年現在あたご型は2隻が就役しているが、更に2隻の建造・配備が計画されている[1]。
船体・機関
船体
こんごう型とは異なり最初からステルス性を考慮した設計が行われており、艦体や上部構造物側面の傾斜がそのために最適化されている。煙突の角の丸みが廃されており、ヘリコプター格納庫も複雑な形態になっている。
マスト形状がはしご状の組み合わせで構成される在来型のトラスマストから、うらが型掃海母艦に使用され、あたご型以降の護衛艦にも採用された日本独自の設計のステルス性能を高めた平面構成の塔型マストへ変更されている。
さらに煙突の形状の変更や舷梯を上構内への収納型にすることによりステルス性の強化が図られている。
機関
本型の機関は、基本的にこんごう型のそれを踏襲しており、シフト配置された4基のゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジンによるCOGAG方式、2軸推進である。
装備
イージス武器システム (AWS)
テンプレート:Main 本級の対空戦闘システムであり、また指揮決定および武器管制の中核となるのがイージス武器システム (AWS)である。本級の搭載するあらゆる戦闘システムは、イージス武器システムの戦術情報処理装置である指揮決定システム(C&D Mk.3 mod.2)および武器管制システム(WCS Mk.9 mod.2)、情報表示システム(ADS Mk.7 mod.2)に連接されている。
イージスシステムのバージョンは、こんごう型がベースライン4(1~3番艦)・5(4番艦)であるのに対して、最新のベースライン7.1Jに進化している(ただし改修を受けたこんごう型は実質的にバージョンアップしている)。制式番号はMk.7 mod.6(V)ないしMk.7 mod.19である[2]。
こんごう型と違い、竣工当初からミサイル防衛での使用を考慮して建造されているが、弾道ミサイルの捜索・追尾のみ可能で弾道弾迎撃ミサイルの発射能力は有しなかった。その後中期防衛力整備計画(平成23年~27年)で、あたご型2隻のイージスシステムをイージスBMD5.0に改修して弾道弾迎撃ミサイル発射能力を付与させることが決定している。
なお、本型は、艦の指揮を行なう戦闘指揮所 (CIC) に加えて、司令部作戦室 (FIC) を設置しており、原型のアーレイバーク級よりも優れた指揮統制能力を備えると言われるこんごう型をも凌駕する指揮統制能力を備えている。
SPY-1レーダー
あたご型の外見上で最大の特徴は、艦橋周辺に貼り付けられた4基のAN/SPY-1フェーズドアレイレーダーである。これはイージスシステムの中心であり、その主たるセンサーである。
本級の搭載するSPY-1D(V)は、こんごう型に搭載されていたSPY-1Dの改良型で、天頂方向の捜索追尾能力が強化されているほか、SPY-1Dにおいて弱点とされていた低高度小型高速目標の捕捉能力が改善されているとされる。
最大探知距離は500 km、同時に追尾できる目標数は200以上と言われている。 テンプレート:-
ミサイル垂直発射システムMk 41
テンプレート:Main 本級のミサイル装備の中心となるのが、ミサイル垂直発射システムMk.41 mod.20[3]である。ヘリコプター格納庫などを新設した関係から、先行するこんごう型とは前後が逆転し、発射機の配置は、前甲板に64セル、後甲板に32セルとなっている。このセル数は原型艦であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の後期建造艦のものを踏襲しているが、これは、建造当初に最重要視されていた対空戦闘シナリオである、「弾薬再補給前に、各数波よりなるソ連の2回の航空攻撃に対し、空母打撃群内の1防空艦として対処する」[4]という状況に対処することを目的に決定されたものであった。
Mk.41は、スタンダードミサイルによる対空多目標対処、自艦に近接した潜水艦脅威に対する迅速な垂直発射式アスロック(VLA) 発射など、本型の戦闘力の相当部分をつかさどっている。なお、こんごう型においては、前後それぞれ3セル分のスペースを再装填用クレーンに転用していたが、再装填作業が実用的でないと評価されたことで近年では廃止され、その分はミサイル・セルによって充足されている。
射撃指揮システムMk 99
イージスシステムの対空戦闘において、攻撃の最終段階を担うのが射撃指揮システムMk 99である。Mk 99の一部として、スタンダードミサイルの終末誘導を行なうイルミネーターとして、SPG-62を前部(艦橋構造物上部)に1基、後部に 2基の計3基搭載する。このレーダー1基で4発前後のスタンダードミサイルが誘導可能といわれており、これを3基搭載する本型は、12発前後のスタンダードミサイルを同時に誘導できることになる。
対潜戦闘システム
テンプレート:Main こんごう型においては、国産のOYQ-102対潜情報処理装置を中核としてOQS-102艦首装備、OQR-2曳航ソナーを連接した国産の対潜戦闘システムが搭載されていた。これに対し、本型では、アメリカのアーレイ・バーク級と同様に、元来イージスシステムに連接されていたSQQ-89統合対潜システムを搭載している。
AN/SQQ-89(V)15は、アーレイ・バーク級のフライト IIAで搭載されたものである。COTS化が進められるとともに、アメリカ海軍においては、沿海域では使い勝手の悪いAN/SQR-19戦術曳航ソナーが省かれ、浅海域での情報処理に最適化されていた。ただし運用要求の差異から、海上自衛隊では、国産のOQR-2D-1曳航ソナーを搭載するなどの差異を生じたAN/SQQ-89(V)15Jとなっている。
その構成は、下記のようなものである。
- AN/SQS-53C船底装備ソナー
- OQR-2D-1 曳航式ソナー
- Mk.116 対潜攻撃指揮装置
- ORQ-1Bソノブイ・データ・リンク装置
対潜情報処理は、依然として人力に頼る部分が大きいため、SQS-53の情報は直接にMk116対潜攻撃指揮装置に入力されており、哨戒ヘリコプターが投射したソノブイの情報のみが、ORQ-1BによってAWSの戦術情報処理装置に入力された後、Mk 116に伝えられている。Mk.116対潜攻撃指揮装置は、武器管制装置と射撃管制装置の役割を兼ねるものであり、これらの情報をもとに、三連装短魚雷発射管HOS-302またはMk 41のVLAによる攻撃を管制する。
対水上戦システム
対水上打撃力として、こんごう型ではアメリカ製のハープーン艦対艦ミサイルの4連装発射筒が搭載されていたが、本型では国産の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)に変更されている。またその艦上装置として、艦対艦ミサイル艦上装置2型(SSMS-2B-2)が搭載されている。
また、対水上戦におけるセンサーである対水上レーダーとしては、国産のOPS-28を装備している。なお、通常の航海に用いるレーダーとしてはOPS-20を使用する。 テンプレート:-
砲熕兵器システム
テンプレート:Main 砲はこんごう型のオート・メラーラ製54口径127mm単装砲ではなく、ステルスシールド化を図ったアメリカ海軍制式の最新型であるMk 45 Mod 4 62口径5インチ単装砲が搭載される。砲システムの形式名としてはMk.34 mod.9とされている。
Mk.45 Mod.4はアーレイバーク級でも搭載されているもので、オート・メラーラ 127mm 砲に比べて最大発射速度が半分弱(20発/分程度)であるため本来的には対空戦闘には不向きである。しかしイージスシステムとの適合性がよく、射撃管制はこんごう型(FCS-2)と異なりイージスシステムに統合されている。これに併せてMk.46 OSS (光学照準システム)も装備されている。又射程116・7キロに達するGPS誘導砲弾にも対応している。GPS誘導砲弾使用時の発射速度は(10発/分程度)である。
Mk.45 Mod.4は砲身を8口径分長く取り、砲耳等の強度を上げ、強装薬を使用することにより、砲口時圧力をオート・メラーラ127mm砲の10メガジュールから18メガジュールまで上げることができるようになった。そのため通常弾での最大射程は38kmまで延伸され、対地攻撃に有利になったといわれている。
また近接防空火器(CIWS)としては、高性能20mm機関砲を搭載する。本型では、FLIRによる光学照準による対水上射撃を可能にするなどの改良を加えたBlock.1Bが搭載されており、形式名はCIWS Mk.15 mod.25とされている。
電子戦システム
原型艦であるアーレイ・バーク級は電子戦装置としてSLQ-32を装備しているが、これは最高度の機密に属するために輸出されず、本型では国産のNOLQ-2Bを装備している。これは、性能的にはSLQ-32(v)に匹敵するものである。[5]。
またパッシブECMのため、従来通り、Mk.36 mod.6(Mk.137 チャフ・フレア発射機×4基)を搭載している。
航空機・搭載艇
タイプシップであるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦がヘリコプター搭載型のフライトIIAに移行していることや、16大綱に基づく護衛艦隊の大規模な改編(8艦8機体制の廃止)に対応する必要があることから、SH-60JかSH-60K 1機を搭載可能な格納庫が設けられることになった。この格納庫により失われた後方視界の確保のため、艦橋後方にある2面のレーダーの装備位置も1層上げられた。
ただし現時点では固有の搭載機は無く、航空要員も乗り組んでいない。
搭載艇は、こんごう型に搭載されていた7.9m内火艇より大型化され、ひゅうが型やあきづき型にも搭載される11m作業艇に変更されている。 テンプレート:-
準同級艦との比較、相違点
準同級艦といえるあたご型とアーレイ・バーク級フライトIIAと韓国の世宗大王級駆逐艦であるが、それぞれの国における各艦の運用体制が異なる為、ほぼ同システムの艦艇にも関わらず違いを見て取る事ができる。
あたご型は、フライトIIAと比べると、群司令座乗の旗艦としての司令部機能を充実させた為、艦橋が2層高くなっており、船体長・大型の艦橋構造物・平甲板から立ち上がったヘリ格納庫など、むしろタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦に匹敵するほどのサイズになっている。艦の全長はフライトIIA比で約10m、こんごう型比で4m延長している。その為、基準・満載排水量ともフライトIIA比で1,000t近く大型化している。
一方、フライトIIAは、60隻を超える整備を行うアーレイバーク級というコスト重視の量産型防空艦であり、あたご型に比べて、戦闘群を構成するサブシステムとしての性格が強い。
また、世宗大王級駆逐艦は、国力上多数の大型艦艇の配備が行えない韓国海軍の事情もあり、司令部機能・多数のVLS・ゴールキーパー 30mm機関砲とRAM近接防空ミサイルを併用する充実した近接防空装備など、1隻に多数の要素を詰め込んだ重武装艦となっている。
あたご型は平甲板型で、上記の準同型艦と比べてヘリコプター甲板・格納庫が若干広いがヘリの運用は1機のみである(設備のみ搭載、固有機・機材・人員は未搭載)。一方、フライトIIA、世宗大王級駆逐艦は長船首楼型でヘリを2機運用する。
その他
予算規模は14DDGと呼ばれていた1番艦「あたご」が1,453億円で、15DDGと呼ばれていた2番艦「あしがら」が1,389億円である。そのうち、イージスシステム関係取得費用は509億円である。本型導入の際アメリカ合衆国議会で当初承認可決されたイージスシステムは旧ベースライン7で、現在で言う所のベースライン7+BMD3.6のシステムであったがその後の変遷によって現状の装備となっている。
あたご型の装備上のアップデートの可能性としては、アメリカ海軍で既に検討されているのと同様に、SPY-1レーダーを補完して低空警戒を行なうXバンドのSPQ-9Bレーダーの装備や、ESSMの搭載による防空多重化・高性能20mm機関砲のSeaRAM置換化などが考えられる。しかし財政上と取得システム上、速やかな予算措置は考えにくい状況にある。
平成24年度予算概算要求によって、BMD艦化改修の要求がされた[6]。
同型艦
艦番号 | 艦名 | 建造 | 起工 | 進水 | 竣工 | 所属 |
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DDG-177 | あたご | 三菱重工業 長崎造船所 |
2004年 (平成16年) 4月5日 |
2005年 (平成17年) 8月24日 |
2007年 (平成19年) 3月15日 |
第3護衛隊群第3護衛隊 (舞鶴基地) |
DDG-178 | あしがら | 2005年 (平成17年) 4月6日 |
2006年 (平成18年) 8月30日 |
2008年 (平成20年) 3月13日 |
第2護衛隊群第2護衛隊 (佐世保基地) |
登場作品
- 映画
- 『バトルシップ』
- 『ジパング』
- 日本海軍所属艦として2隻が、「7700トン型イージス護衛艦」と呼ばれていた頃の完成予想図に従った艦型で登場。2010年8月の第二次太平洋戦争において、ブリタニア海軍の葉巻型潜水艦がVLSから放った魚雷により撃沈された。
- 『東のエデン』
- 第11話に4隻が登場。「迂闊な月曜日」「11発目のミサイル」と同様に、トマホーク巡航ミサイルを日本の主要政令都市に発射し、「60発のミサイル」事件の引き金となった。なお、実艦はトマホークを装備していない。
- 移動型地球防衛前線基地ファロスの防衛戦力の一環として、5インチ砲の代わりに戦術高エネルギーレーザー砲を搭載したあたご型護衛艦が4隻以上配備されているが、オービットに対する有効打とはならなかった。
- 架空のあたご型イージス護衛艦「ほたか」が登場。舞鶴港沖で体験航海中に艦内で殺人事件が発生し、乗艦していたコナンたちが事件に巻き込まれていく事になる。
脚注
参考文献
- 大熊康之『軍事システム エンジニアリング』かや書房、2006年
- 編集部「最新鋭イージス艦 『あたご』のすべて」『世界の艦船』2007年8月号(通巻第678集)、76-93頁
関連項目
外部リンク
テンプレート:護衛艦- ↑ 新防衛大綱 イージス艦2隻、追加配備へ - 日本テレビ11月3日(Yahoo!ニュース)
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 大熊(2006)による。
- ↑ 「最新鋭イージス艦 『あたご』のすべて」による
- ↑ http://www.asagumo-news.com/news/201201/120110/12011004.html