ドラえもん のび太と夢幻三剣士
『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』(ドラえもん のびたとむげんさんけんし)は藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1993年9月号から1994年3月号に掲載された「大長編ドラえもんシリーズ」の作品。および、この作品を元に1994年3月12日に公開された映画作品。大長編ドラえもんシリーズ第14作。ドラえもん映画化15周年記念作品。
映画監督は芝山努、配給は東宝。配給収入13億3000万円、観客動員数270万人。第12回ゴールデングロス賞優秀銀賞受賞作品。 同時上映は『ドラミちゃん 青いストローハット』、『ウメ星デンカ 宇宙の果てからパンパロパン!』。
解説
アレクサンドル・デュマ・ペールの小説『三銃士』をモチーフとした、勧善懲悪の冒険物語。のび太の夢世界が舞台であり、『映画ドラえもん』オフィシャルサイトではドラえもん以外の人物がゲスト扱いとなっている。ストーリーにはのび太としずかの関係を掘り下げており、劇中二人の仲は急接近し、夢から覚めてもその余韻を残している。作中でのび太としずかが戦死してしまうという劇場版『ドラえもん』シリーズで唯一メインキャラクターの死が描かれており、またラストの決戦にジャイアンとスネ夫は参戦せず、全員不揃いで物語が完結するという異色作である。
藤子は本作を映画ドラえもん原作の漫画としては一種の失敗作と語っており、描き進むうちにキャラが自分の意図と関係なく動き始め、話の筋が作者の思惑と関係の無い異なる方向へと展開してしまったゴール大はずれの極端な一例としている。元の構想では「夢の暴走」を下敷きに、気ままに夢見る機がコントロールを失ってユミルメの魔族たちが現実になだれ込む夢と現実が混ざる恐怖を描くという『パラレル西遊記』のような話の予定であったが、ドラえもんシリーズの約束事である「どんな歴史を揺るがす大事件であっても、なるべく仲間内で解決し、一般社会には一切の影響を残さない」という「日常の中に乱入した非日常」をテーマにしている環境における『日常性』という世界観を絶対に壊してはならないルールから夢は夢の世界のままに完結するという作者の意図とは異なる結末となったという。これについて、「長編の組み立ては難しい」「始めから終わりまでの構想をキッチリとたてる、ということができないので長いストーリーを組むのは苦手」とも語っているほか[1]、前作時点でもタイトルの『ブリキの迷宮』だけを先に決め、あとから着想されるアイデアを集めていく、という執筆方法を採用し、全容はおろか結末すら作者にも読者にもわからないままのスタートだったという[2]。
このため、漫画版と映画版ではエンディングにおける街の扱いや細部の違いが比較的ハッキリと現れており、特に初期構想をそのままにしたと思われる映画版ラストはファンの間でもさまざまな憶測を呼んでいる。
映画版のオープニングムービーではドラえもんが甲冑を纏い、金色の兜をかぶった剣士の姿をしているが、作中ではその姿で登場することはない。映画化15周年記念作品ということで予告編も凝っており、先に嘘の予告編としてのび太が「黄金ハット」となり『超大作 のび太の黄金ハット』とロゴを掲げるが、ドラえもんが「これから始まるの!」と取り上げてしまう。予告編の本編では『ファンタスティックドラベンチャー』と壮大な展開を予測させておきながら、最後はのび太がうっかりくしゃみをして終了する。
この作品から野比家の間取りや外観がリニューアルされ、映画化15周年記念に因むものとなった。
あらすじ
夢の中で良い思いをしたのび太は夢と現実の落差を嘆き、せめて夢の中で良い格好をしたいとドラえもんに懇願する。一度は「もっと現実の世界で頑張らないと駄目だよ!」と怒られるも、最終的にはカセットを入れることで自分の好きな夢を見られるひみつ道具「気ままに夢見る機」を出してもらう。その翌日、宿題をやり忘れたのび太が裏山で宿題をしていると、奇妙な老人が現れ「知恵の木の実」をのび太に与え、帰り道では「あなたはもっとすごい力が手に入る。ただし、『夢幻三剣士』の世界でのことだが」と言い残し去っていく。
「夢幻三剣士」とは気ままに夢見る機の夢カセットのことであった。のび太はドラえもんに「夢幻三剣士」のカセットを買ってもらい、「妖霊大帝オドローム」に侵略されかけているユミルメ国を救う伝説の剣士ノビタニヤンとして冒険する。
しかし、ドラえもんも気づいていなかった。この冒険、この夢世界が単なる一時の夢ではないことに。
舞台
- 「気ままに夢見る機」用の夢カセット「夢幻三剣士」、その中の夢世界にあるユミルメ国
- このカセット「夢幻三剣士」は、一方通行で夢が展開するほかの夢カセットとは異なり、いわば「第二の現実」ともいうべき世界を創造する製品で、夢見る人の行動によって世界の情勢が変わり、さらにそれが現実世界にも影響を及ぼすほど強い力を持つ。現実感を強めるために夢見る人の性格や人格はそのまま主人公に反映され、物語は主人公の御馴染みの場面から始まる(のび太で言えば学校の廊下でママや先生に叱られる所から)。この夢世界では、現実世界でうだつの上がらない人物ほど素晴らしい英雄になれる。
- のび太は当初、スーパーヒーローになって何でも自分の思い通りにいく夢を期待していたが、この「第二の現実」によって苦難の連続に遭遇し、同時にそれを乗り越えていくことになる。
- 本来ユミルメ国は豊かな王国だったようだが、妖霊大帝オドロームによる侵略により衰退しており、既に全80都市のうち44都市がオドロームの制圧下となっている。
ゲストキャラクター
- ノビタニヤン / 黄金ハット
- 声 - 小原乃梨子
- 主人公。のび太の夢世界での姿。伝説の白銀(しろがね)の剣士である。「夢幻三剣士」の特性上、現実ののび太の記憶、人格、性格、身体能力(カナヅチののび太が泳げるといったような一部補正は掛かっている)の全てが反映されている。スーパーヒーローになって都合よく活躍出来ると期待していたのび太はこの事実に落胆し苦難を味わうが、機転から白銀の剣と兜(小手、具足、マントも含む)を手に入れ、本物の白銀の剣士として成長していく。シャルぺロー城でオドロームに塵にされ、殺害されるが、竜の谷で竜のだし汁を浴びていたため、生き返った。
- 黄金ハットは金色の帽子をかぶった謎の戦士である(テレビ版の偽映画予告にも出てくる)。のび太の夢の中で都合のいいヒーローとして都合のいい活躍をしたが、帽子が外れなかったためにジャイアン達に正体を明かすことが出来なかった。
- シズカリア王女 / シズカール
- 声 - 野村道子
- ヒロイン。ユミルメ国の王女。しずかの夢世界での姿。顔も知らぬ白銀の剣士と強制的に結婚させられるのが嫌で城を抜け出す。男に扮し、「シズカール」と名乗る。自称・旅の剣士。父王に内緒で一流の剣士に手解きを受けたらしい。お風呂好きでお転婆なところなどはしずかとよく似ている。中盤には現実のしずかにマイクロアンテナを付けたことでしずか本人がシズカリアとなって「夢幻三剣士」の夢を見ることになった。
- 終盤にはジャイアン達同様、気ままに夢見る機を返品しようとしたのび太がマイクロアンテナを外そうとするが、言伝で伝えたためにしずかには意味が判らずアンテナは付けたままだったため、期せずして最終決戦に参加することになり、ノビタニヤンの勝利に大きく貢献した。オドロームの城である幽冥宮でオドロームに塵にされ、殺害されるが、竜の谷で竜のだし汁を浴びていたため、生き返った。ノビタニヤンと旅を共にしたことで、終盤では彼との結婚を望んでいた。
- シルクとシズカリアは原作では髪を下ろしているが、映画では現実のしずかと同じ容姿となっている。
- ドラモン / ドライオン
- 声 - 大山のぶ代
- ドラえもんの夢世界での姿。魔法使いのようだが魔法ではなくひみつ道具を使う。現実世界にて気ままに夢見る機を操作する役目だったが、見てるだけではつまらないということで自身も夢に参加した。
- 当初は夢の世界観を無視して一人だけドラ焼きを食べたり、歩くのが面倒だからとタケコプターを使ったり、竜退治にはミサイルを使おうとしたりした為にのび太の不興を買い、反省して四次元ポケットは置いて行った。しかし夢と現実を入れ替える夢見る機の隠しスイッチを押したことで、ひみつ道具はすべてドラモンの魔法ということになり、誰もそのことに口を挟むことはなくなった。結局、後の戦いで不利な状況を打破するために、シズカールの持っていた取り寄せバッグから四次元ポケットを取り出したが、その直後にトリホーに奪われている。
- ドライオンは、黄金ハットと一緒に出てきたドラえもんに似たライオンで、黄金ハットの家来だが、夢だからといって好き勝手に振舞う黄金ハットに呆れている。映画では夢の中のドラえもんが変身したものという設定で、テレビ版の偽映画予告にも登場する。
- ジャイトス
- 声 - たてかべ和也
- ジャイアンの夢世界での姿。兜や甲冑は橙色。自称・白銀の剣士。自分が仕掛けた罠にかかった子グマを助けたノビタニヤンに腹を立てて登場した。スネミスと決闘し圧勝するも、ノビタニヤンには敗れ仲間として迎え入れられた。乱暴な性格はジャイアンそのものである。中盤、ジャイアン達も夢に呼び寄せたいと望んだのび太によって、ジャイアン本人がジャイトスとして参加することになった。
- 竜の谷ではスネミス共々石化してしまうが、ノビタニヤンに救われる。以降も行動を共にするが、気ままに夢見る機を返品しようとしたのび太にマイクロアンテナを外されたため、最終決戦には参加しなかった。
- スネミス
- 声 - 肝付兼太
- スネ夫の夢世界での姿。子爵。兜や甲冑は緑色。自称・天下の名剣士。旅の途中、家来が逃亡してしまい、偶然出会ったのび太を家来として道連れとする。ジャイトスに圧倒されて付き従うが、ヨラバタイ樹攻略時には身軽さを生かして抜け駆けに出る。その後、ジャイトス共々ノビタニヤンに負け、正式に仲間になる。金持ちで腰巾着な性格はスネ夫そのものである。ジャイトスと同じく、後にスネ夫本人がスネミスとなった。
- ノビタニヤンと共に妖霊軍団と戦うが、ジャイトス同様、マイクロアンテナを外されて最終決戦には参加できなかった。
- 国王
- 声 - 田中亮一
- ユミルメ国の王で、シズカリアの父。原作での姿は白髪白髭の老人だが、映画版ではのび太の通う小学校での担任の先生となっている。この先生は現実では厳格だが、夢世界では少々頼りない。また一瞬、現実世界と同じ背広姿になり「廊下に立っとれ」などと口走るシーンもある。
- シルク
- 声 - 野村道子
- 妖精。夢カセット「夢幻三剣士」の案内マスコット。姿はしずかである。夢世界と現実を行き来し案内役を務めるが、肝心なときに現れなかったりする。本作において狂言回しの役割を務める。ノビタニヤンのピンチを他人事のように話したり、案内役だからと言って姿を消したり、オドロームとの最終決戦ではいい加減なアドバイスをしたりと無責任な性格。
- 宝箱の声
- 声 - 来宮良子
- のび太に白銀の剣と兜を授ける宝箱の声としてワンシーンのみの出演。のび太に装備と共に白銀の剣士ノビタニヤンの呼び名を与え、送り出した。
- トリホー
- 声 - 田村錦人
- オドロームの側近である鳥。人間に化けて現実世界へと出現し、のび太を夢世界へと誘った。シルクとは別方面での悪役的な狂言回しの役割を果たす。オドロームに何度も大目玉をくらっている。
- 終盤に登場する未来デパートの職員(映画版のみで原作は別人)と顔がそっくりだが、関係は不明。
- 怪物
- 声 - 広瀬正志
- 妖霊
- 声 - 田口昂
- スパイドル将軍
- 声 - 屋良有作
- 土の精を率いるオドロームの部下。六本の腕に六本の毒剣を持つ、クモの妖魔。また口から粘着性の高い糸を吐くことも出来る。アンデル市の城を攻めようとするが、ドラモン達の罠にはまってしまう。夢幻三剣士に敗北し逃げ帰ったため、オドロームに処刑される。
- 後の25周年記念のムービーではやられ役として再登場した。
- ジャンボス将軍
- 声 - 郷里大輔
- 水の精、鉄の精を率いるオドロームの部下。圧倒的な巨体を誇る象の妖魔で、耳を震わせ空を飛ぶことができる。シャルぺロー城を攻めようとするが、ドラモンの道具の力の前に部下の精霊は全滅に追い込まれる。最期はノビタニヤンに一騎討ちを挑むが返り討ちに遭った。映画では耳を切り落とされて空中から落下し敗北するが、原作では落下した後巨大化して再び戦いを挑む。だが、ドンブラ粉で地面に沈められ敗北した。
- 妖霊大帝オドローム
- 声 - 家弓家正
- 妖霊軍団の首領で「幽冥宮」を居城とする。魔女のような姿をしており高く尖った鼻が特徴。夢世界を征服するため、ユミルメ国に侵略している。部下に厳しく、失敗したり、役に立たない者には容赦なく罰を与える。強大な魔力を持ち、伝説の白銀の剣でしか倒せないとされている。杖から放つ光線は生けるものを塵と化してしまうほどの威力で、作中では任務に失敗したスパイドル将軍と自らに向かってきたノビタニヤンとシズカールを殺害した。しかしシズカールが機転を利かした策で巨大化した剣に体を貫かれて撃破された。劇場版の敵キャラクターの中でのび太たちを追い詰めた敵の一人。
- ナレーション
- 声 - 秋元羊介
- 「気ままに夢見る機」の夢カセット「ジュラシックプラネット」のナレーション。
- 将軍
- 声 - 中庸助
- 兵隊長
- 声 - 稲葉実
- 兵士
- 声 - 中村秀利、中博史、藤原啓治
- 鳥のような姿をした兵士達。
- 侍女
- 声 - 夏樹リオ
- シズカリア姫の侍女。
- 男子生徒
- 声 - 鳥海勝美
- 熊
- 声 - 神山卓三
- 森に住むクマ。ノビタニヤン達を襲おうとするが、自分の息子がノビタニヤンに助けられたことを知り、誤解が解かれる。その礼に竜の住みかへと案内した。
- 竜
- 声 - 石丸博也
- 竜の谷に住む竜。その血を浴びると不死身になれるという。口から吐く火には石化能力がある。平穏に暮らしていたが、自らの血を求めてくる戦士が後を絶たず、身を守る為に石にしていた。ジャイトスとスネミスをも石化させる。弱点はヒゲで、切られると動けなくなる(時間が経つとヒゲは再生する)。その後、戦いを挑んできたノビタニヤンに敗れるものの、とどめを刺そうとしないノビタニヤンの優しさに触れたことで和解した。源泉で竜が流す汗(ドラえもんいわく「竜のだし汁」)を浴びると、死亡しても一度だけ生き返ることができるほか、石化された者にかけると元に戻る。原作では中国風の龍だが映画では西洋風の竜に置き換えられている。
登場するひみつ道具
- タケコプター
- 気ままに夢見る機とアクセサリーセット
- バームクーヘンマン
- ジュラシックプラネット
- アトランティス最後の日
- 瞬間クリーニングドライヤー
- 夢幻三剣士
- リモコン
- 取り寄せバッグ
- 手投げミサイル
- 無重力ネット
- 大寒波発射扇
- ミニ雷雲
- ドンブラ粉(原作のみ)
- ビッグライト
- 原作では下から使っているが、映画では上から使っている。また、このとき原作では剣が長くなっているが、映画では巨大化している。
スタッフ
- 制作総指揮 / 原作・脚本 - 藤子・F・不二雄
- 作画監督 - 富永貞義
- 美術設定 - 沼井信朗
- 美術監督 - 川口正明
- 撮影監督 - 高橋秀子、古林一太
- 特殊撮影 - 渡辺由利夫
- 録音監督 - 浦上靖夫
- 監修 - 楠部大吉郎
- 音楽 - 菊池俊輔
- 効果 - 柏原満
- プロデューサー - 別紙壮一、山田俊秀 / 小泉美明
- 監督 - 芝山努
- 演出 - 塚田庄英、平井峰太郎
- 動画検査 - 原鐵夫、内藤真一
- 色設計 - 野中幸子、松谷早苗
- 仕上検査 - 中西恵子、師橋明子、石田朋子、渡辺陽子
- 特殊効果 - 土井通明
- 基本設定 - 川本征平
- オープニング演出 - 渡辺三千成
- コンピューターグラフィック - 水端聡、八木昭宏
- エリ合成 - 渡辺由利夫、末弘孝史
- 文芸 - 滝原弥生
- 制作事務 - 青鹿乃子
- 制作進行 - 星野匡章、馬渕吉喜、大金修一、大橋永晴
- 制作デスク - 市川芳彦、大澤正享
- 制作協力 - 藤子プロ、ASATSU
- 制作 - シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
- 原画
- 飯山嘉昌 斉藤文康 大武正枝 香川浩 牧孝雄 梶山聡
- 小泉謙三 窪田正史 原博 佐野哲郎 船越英之 藤森雅也
- 遠藤靖裕 山本勝也 大橋幸子 大久保修
- 協力
- オーディオプランニングユー アトリエローク 旭プロダクション
- 岡安プロモーション 夢弦館 トミプロダクション
- スタディオメイツ 亜細亜堂 アニマル屋
- 京都アニメーション プロジェクトチームサラ じゃんぐるじむ
- シマスタジオ プロダクションI.G テレコムアニメーションフィルム
- スタジオタージ 虫プロダクション
主題歌
- オープニングテーマ - 「ドラえもんのうた」
- 作詞 - 楠部工 / 作曲 - 菊池俊輔 / 唄 - 山野さと子
- エンディングテーマ - 「世界はグー・チョキ・パー」
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 深野義和 / 唄 - 武田鉄矢一座
- ※エンディングで使用され、原作漫画単行本でも主題歌として歌詞が掲載された。
- 挿入歌 - 「夢の人」
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 深野義和 / 編曲 - 山中紀昌 / 歌 - 武田鉄矢一座
- ※冒険要素の強い劇中では勇ましい曲調と歌詞のこの曲が専ら頻繁に使われ、映画宣伝でもこの曲が使用されている。