アルタイ諸語

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テンプレート:語族 アルタイ諸語(アルタイしょご、テンプレート:En)は、比較言語学上たがいに関係が深いとされる言語のグループのひとつ。 北東アジアから中央アジアアナトリアから東欧にかけての広い範囲で話されている[1]諸言語である。

これらの諸言語間の共通性は、たとえばインド・ヨーロッパ語族のように定論が確立している語族と比較すると極めて小さいと言わざるを得ない。そこで、多少存在する類似性は言語接触の結果であり、アルタイ諸語にはそもそも言語的親戚関係は存在しないとする見解と、これらの言語は一つの祖語をもつアルタイ語族というグループを構成するとする見解が対立しており、仮にアルタイ語族という説が成立するとしても、具体的にどの言語をアルタイ語族に含めるかに関して様々な見解が存在する。

「アルタイ諸語」の名は、中央アジアのアルタイ山脈にちなみ命名されたもの[2]

構成言語と共通特徴

アルタイ諸語であることが確実とされる言語グループには以下の3つがある。 これらそれぞれの中での系統関係は実証されているが、これらの間の系統関係については決着を見てはいない。

これらの言語グループにはいくつかの重要な共通の特徴が見られる。

などの諸点である。

加えて、日本語日本語族)と朝鮮語朝鮮語族)の2つもアルタイ諸語に含めることがある。 ただし、その近縁性はたしかに認められたとまでは言えず、定説には至っていない。

上記特徴のうち母音調和だけは日本語と朝鮮語が欠いているものだが、朝鮮語については過去に明らかな母音調和があったことが知られている。 また、日本語についても、過去に母音調和を行っていた痕跡が見られるとする主張もある[4]

アルタイ語族

アルタイ諸語を共通の祖語をもつアルタイ語族とする説は古くからあるが、母音調和を共通に行う3グループですら数詞などの基礎語彙が全く違うため、少なくとも伝統的な比較言語学の手法によってアルタイ祖語を復元し、アルタイ語族の存在を証明することは困難である。

研究史

アルタイ諸語の研究は18世紀の北欧において開始され、のち20世紀前半にいたるまで北欧はアルタイ言語学の中心地のひとつであった。1730年スウェーデンの外交官であり地理学者であったテンプレート:仮リンクPhilip Johan von Strahlenberg、1676–1747)が大北方戦争の際にロシア帝国の捕虜となりユーラシア大陸を移動した経験をもとに刊行した本で、ツングース諸語モンゴル諸語テュルク諸語に関する記述がある。それより一世紀経つと、フィンランドの語源学者・文献学者 テンプレート:仮リンクMatthias Alexander Castrén, 1813–1853)は1854年の著作でアルタイ諸語にテュルク、モンゴル、満州・ツングースだけでなくフィン・ウゴル語派サモエード諸語などのウラル語族までを含めた。

19世紀から20世紀にかけてツングース諸語モンゴル諸語テュルク諸語を研究する学者の多くはこれらを共通するウラル・アルタイ語族フィン・ウゴル語派サモエード諸語などのウラル語族とあわせて考えたが、ロシアの歴史言語学者 テンプレート:Ru (1953–2005)がそれを否定しこれらの考え方は現在では棄却されている。

1857年オーストリアテンプレート:De が日本語をウラル-アルタイ語族に位置づけ、1920年代にはフィンランドの言語学者グスターフ・ラムステッドエフゲニー・ポリワーノフは、朝鮮語を同語族に分類した。ラムステッドのmagnum opus "Einführung in die altaische Sprachwissenschaft " (アルタイ諸語入門、'Introduction to Altaic Linguistics') が出版された。

以降、 ニコラス・ポッペ、Karl H. Menges、Vladislav Illich-Svitych、Vera Cincius のツングース研究などがある。ポッペは朝鮮語について、

  • アルタイ諸語のモンゴル語・テュルク諸語・ツングース語群との系統関係はないが、アルタイ系語族からの影響が見られる。
  • 朝鮮語は上記3語族と分岐する以前に文字体系の構築があったのではないか。

との仮説を提出している。

テンプレート:仮リンクは、多くのアルタイ言語学者は日本語をアルタイ語族に帰属すると考えているし、またミラー自身も同様に考える、との見解を提出し[5]、以降、日本語もアルタイ語族にあらためて再分類された。

テンプレート:En はテュルク - モンゴル - ツングース語族から朝鮮 - 日本 - アイヌ語族集団と北東アジア語族集団が分岐したとする説を提起した。

ジョーゼフ・グリーンバーグはユーラジア語派 (テンプレート:En) を提唱したさいに、日本アイヌ ‐ 朝鮮言語集団と他のギリヤーク語エスキモー・アレウト語族シベリアチュクチ・カムチャツカ語族と区分した。

いずれにせよ、このアルタイ語族という分類の理論的な問題としてまず、それが語族なのか、言語連合(独: テンプレート:De)なのか、という問題がある。

同根語による比較対象と内的再構

テンプレート:Ru の語彙比較分析によれば、潜在的な類縁関係を持つ同根語が15%から20%の割合で対応関係が認められた。

  • テュルクとモンゴル語: 20%
  • テュルクとツングース語:18%
  • テュルクと朝鮮語:17%,
  • モンゴル語とツングース語:22%
  • モンゴル語と朝鮮語:16%
  • ツングース語と朝鮮語: 21%

Starostin は結論として、アルタイ諸語はインドーヨーロッパ語族やフィン・ウゴル語派といった他のユーラジア語族よりも古く、それが後世のアルタイ諸語同士における対応関係の少なさを説明する、とした。

2003年には Claus Schönig はアルタイ諸語は発生的・遺伝的 (テンプレート:En) 関係において共通する基礎語彙をもっていないとした。

Starostinを代表とする辞典 テンプレート:En[6]の編纂過程でのAnna V. Dybo、Oleg A. Mudrak、Ilya Gruntov、Martine Robbeetsらの研究では2800個の同根語集団を抽出し、この同根語集団を基礎に音韻的対応関係、文法的対応関係、アルタイ祖語の内的再構を試みたが、他の研究者との間で議論が継続中である。

子音対応表

Starostinらの研究(2003)における子音対応表は、同研究におけるアルタイ祖語の内的構成を踏まえて作られた[7]

アルタイ祖語 テュルク祖語 モンゴル祖語 ツングース祖語 朝鮮・韓国祖語 日本祖語
0-¹, j-, p h-², j-, -b-, -h-², -b p p p
t-, d-³, t t, tʃ4, -d t t t
k k-, -k-, -ɡ-5, -ɡ x-, k, x k, h k
p b b-6, h-², b p-, b p p
t d-, t t, tʃ4 d-, dʒ-7, t t, -r- t-, d-, t
k k-, k, ɡ8 k-, ɡ k-, ɡ-, ɡ k-, -h-, -0-, -k k
b b b-, -h-, -b-9, -b b p, -b- p-, w, b10, p11
d j-, d d, dʒ4 d t, -r- d-, t-, t, j
ɡ ɡ ɡ-, -h-, -ɡ-5, -ɡ ɡ k, -h-, -0- k-, k, 012
tʃʰ t
d-, tʃ d-, dʒ-4, tʃ s-, -dʒ-, -s- t-, -s-
j d-, j
s s s s s-, h-, s s
ʃ s-, tʃ-13, s s-, tʃ-13, s ʃ s s
z j s s s s
m b-, -m- m m m m
n j-, -n- n n n n
j-, nʲ dʒ-, j, n n-, nʲ14 m-, n, m
ŋ 0-, j-, ŋ 0-, j-, ɡ-15, n-16, ŋ, n, m, h ŋ n-, ŋ, 0 0-, n-, m-7, m, n
r r r r r r, t17
r r r r, t
l j-, l n-, l-, l l n-, r n-, r
j-, lʲ d-, dʒ-4, l l n-, r n-, s
j j j, h j j, 0 j, 0

他、母音対応表、韻律対応表、形態対応表、同根語表、基礎語彙表も作られ、各表の対応関係を見ると、各諸語の対応関係が成立している。しかし、それはアルタイ語族の存在の証明とはいまだなっていない。

他、突厥文字の代表的史料であるモンゴルの8世紀のオルホン碑文の対照研究からも様々な研究がなされている。 テンプレート:Main

脚注

  1. (Georg et al. 1999:73-74).[1]
  2. (Turks, Kalmyks).[2]
  3. ただし、隣接する国・地域同士の言語は語族に関係なく語順が似てしまうことがある。また、SOV型は世界的に最も多く見られる語順である(言語類型論#語順)。
  4. 金田一京助による身体語に関する考察などがよく知られている。詳細は母音調和#日本語における母音調和を参照。
  5. Roy Andrew Miller:ロイ・アンドリュー・ミラー『日本語 歴史と構造』小黒昌一訳、三省堂、1972年(原著は1967年)。R.A.ミラー『日本語とアルタイ諸語』西田龍雄監訳、近藤達生、庄垣内正弘、橋本勝、樋口康一共訳、大修館書店、1981(原著は1971年)
  6. 3 vols.(Brill,2003)
  7. 詳細や注釈は英語版wikipedia項目en::Altaic Languagesを参照

関連項目