「アミノ酸」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
 
(相違点なし)

2014年8月14日 (木) 20:55時点における最新版

ファイル:Glycine-skeletal.png
グリシンの構造式。最も構造が単純なアミノ酸
ファイル:Amminoacido triptofano formula.svg
トリプトファンの構造式。最も構造が複雑なアミノ酸の1つ。

アミノ酸(あみのさん、テンプレート:Lang-en-short)とは、広義には(特に化学の分野では)、アミノ基カルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物の総称である。一方、狭義には(特に生化学の分野やその他より一般的な場合には)、生体のタンパク質の構成ユニットとなる「α-アミノ酸」を指す。分子生物学など、生体分子をあつかう生命科学分野においては、遺伝暗号表に含まれるプロリン(イミノ酸に分類される)を、便宜上アミノ酸に含めることが多い。

動物が体内で合成できないアミノ酸を、その種にとっての必須アミノ酸と呼ぶ。必須アミノ酸は動物種によって異なる。

構造

α-アミノ酸とはカルボキシル基が結合している炭素α炭素)にアミノ基も結合しているアミノ酸であり、RCH(NH2)COOH という構造を持つ。Rが水素 (H) であるグリシン以外のアミノ酸では、α炭素へのアミノ基やカルボキシル基などの結合様式が立体的に2通り可能で、それぞれ、D型、L型の光学異性体として区別される。生体のタンパク質はα-アミノ酸のポリマーであるが、基本的にL型のものだけが構成成分となっている。D型は天然では細菌の細胞壁の構成成分や老化組織、ある種の神経細胞などに存在が見出されている。生体のタンパク質はほとんどの場合、Rで表記した側鎖の違いによる20種類のアミノ酸からなる。個々のアミノ酸はこの側鎖の性質によって、親水性疎水性塩基性酸性などの性質が異なる。

タンパク質を構成するアミノ酸

一部の特殊なものを除き、タンパク質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。これらのアミノ酸にはそれぞれアルファベット1文字または3文字からなる略号が付与されており、一次構造の記述に使用される。

それぞれのアミノ酸は、構造によって異なる酸・塩基性を持つ。構造内に2つのカルボキシル基を持つアミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)は酸性を、2つ以上のアミノ基を持つアミノ酸(リシンアルギニンヒスチジン)は塩基性を、その他のアミノ酸はほぼ中性を示す。また、それぞれのアミノ酸は等電点が実験的に決定されており、電気泳動などの分離時に意味を持つ。

中性アミノ酸は、カルボキシル基およびアミノ基以外に持つ特徴的な基によって、幾つかに分類される。主に、アルキル鎖を持つグリシンアラニンバリンロイシンイソロイシン、ヒドロキシ基を持つセリントレオニン、硫黄を含むシステインメチオニンアミド基を持つアスパラギングルタミン、イミノ基を持つプロリン、芳香族基を持つフェニルアラニンチロシントリプトファンに分類され、タンパク質の持つ疎水性や立体配座はこれらの分類を考慮しながら考察される。

アミノ酸 3文字略号 1文字略号 分子量 等電点 構造式
アラニン Ala A 89.09 6.00 100px
アルギニン Arg R 174.20 10.76 100px
アスパラギン Asn N 132.12 5.41 100px
アスパラギン酸 Asp D 133.10 2.77 100px
システイン Cys C 121.16 5.05 100px
グルタミン Gln Q 146.15 5.65 100px
グルタミン酸 Glu E 147.13 3.22 100px
グリシン Gly G 75.07 5.97 100px
ヒスチジン His H 155.15 7.59 100px
イソロイシン Ile I 131.17 6.05 100px
ロイシン Leu L 131.17 5.98 100px
リシン Lys K 146.19 9.75 100px
メチオニン Met M 149.21 5.74 100px
フェニルアラニン Phe F 165.19 5.48 100px
プロリン Pro P 115.13 6.30 100px
セリン Ser S 105.09 5.68 100px
トレオニン Thr T 119.12 6.16 100px
トリプトファン Trp W 204.23 5.89 100px
チロシン Tyr Y 181.19 5.66 100px
バリン Val V 117.15 5.96 100px


上に挙げた20種類のアミノ酸は、タンパク質合成時に遺伝情報に基づいて連結される。多くのタンパク質は上記の20種類のアミノ酸残基からなるが、ある種のタンパク質にはセレノシステイン残基N-ホルミルメチオニン残基、ピロリシン残基、ピログルタミン酸残基などの特殊なものも含まれる。

上記のほかにタンパク質合成後に修飾を受けて作られるアミノ酸残基も存在する。例えば以下のようなものである。

タンパク質に含まれないアミノ酸として、以下のようなものも存在する(こうしたアミノ酸を総称して異常アミノ酸と呼ぶこともあるが、必ずしも適切な命名ではないという批判もある)。

その他のアミノ酸

天然に産する広義のアミノ酸の中には、旨み成分や、薬物として作用するもの、そして毒となるものがある。

アミノ酸の合成

ユーリー・ミラーの実験

1953年シカゴ大学ハロルド・ユーリースタンリー・ミラーは、アンモニアメタン水素の混合ガス(当時原始大気成分と考えられていた)との入った容器に電気火花を飛ばす実験を行い、グリシン・アラニン・アスパラギン酸などの各種アミノ酸が生成することを発見した(ユーリー・ミラーの実験)。原始地球において、生命の素材となったアミノ酸が生成した過程の可能性を示した、史上有名な実験である。

現代の実用的アミノ酸合成

いわゆる異常アミノ酸の中にも重要な生理活性を持つものは数多く存在し、また医薬にもD体または非天然型のアミノ酸は数多く使われている。このためアミノ酸の合成(特に不斉合成)は需要が高く、種々の方法が提案されている。

古くから用いられているアミノ酸の合成法としてストレッカー反応がある。アルデヒドアンモニアシアン化水素の3成分縮合によってα-アミノニトリルを合成し、この加水分解によりアミノ酸を得るというものである。

他にα-ハロカルボン酸とアミンの反応、グリシンのα位のアルキル化などによる方法も知られている。不斉合成に関しても様々な手法が提案されている(ストレッカー反応の項目なども参照)。

工業的には、微生物を用いたアミノ酸発酵によって大量に合成されている。人工的に突然変異させた微生物株を、炭素源となる糖類や窒素源となる硫酸アンモニウムと共に培養することで、安価に目的のアミノ酸が合成できる。

サプリメント

近年(2006年現在)はアミノ酸を含有するサプリメントが日本の消費者に一種の健康ブームを引き起こしており、健康食品飲料メーカーなどが盛んに新製品を出している。しかし、そのアミノ酸の成分のバランスが人間に必要な量通りに研究され、配合されているかは不明確である。

関連項目


テンプレート:タンパク質を構成するアミノ酸テンプレート:Link GA