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刑罰(けいばつ、テンプレート:Lang-en-short,テンプレート:Lang-de-short)とは、形式的には、犯罪に対する法的効果として、国家および地方自治体によって犯罪をおかした者に科せられる一定の法益の剥奪をいい、その実質的意義は犯罪に対する国家的応報であるとともに、一般予防と特別予防をも目的とする[1] 。広い意味では犯罪行為に科されるもの[2]。刑ないしは刑事罰ともいう。
概要
現代の日本においては、刑罰を科すことによって、一般人の犯罪を抑止する効果(一般予防論)と、同時に刑罰を受けた者の再犯の予防をする効果(特別予防論)が期待されている。言い換えれば、犯罪を犯した者が刑罰を科せられることが広く知られることで他の者が罪を犯すことを思いとどまらせ、当人に対して、刑罰自体による反省を与える効果とともに、それに当たって一定の教育を施すことで再度の犯罪を予防しよう(教育刑論)、という狙いがある。このような立場を目的刑論という。
一方で、一定の犯罪を犯したことに対して、それに見合うだけの刑罰が当然に科されるべきである、という刑罰を科すこと自体を正義とする応報刑論がある。
日本における通説は両者の側面を否定せず折衷する相対的応報刑論であるとされる。
また、犯罪を犯していない一般人に対して、犯罪者の隔離及び刑罰の存在によって自身が犯罪被害者となる可能性が下がることによる安心感を与える効果を指摘する立場もあるテンプレート:要出典。
刑罰についての実体的な規定は刑法及び特別刑法に定められている。
刑罰権
刑罰権とは、犯罪者を処罰できる権能であり、通常は犯罪者を処罰できる国家の権限をいう。刑罰権には、一般的刑罰権と個別的刑罰権がある。
- 一般的刑罰権と個別的刑罰権
- 一般的刑罰権とは犯罪が存在した場合に(通常は国家が)その犯罪を処罰する権能をいい、個別的刑罰権(刑罰請求権)とは具体的な犯罪に対して犯罪を行ったものを処罰できることをいう。
- 観念的刑罰権と現実的刑罰権
- 個別的刑罰権において、実際に刑罰を物理的に科すことができるためには、手続き(犯人をつかまえ、裁判を行い、それが確定すること)が必要である。そのため、個別的刑罰権を未確定な段階での観念的刑罰権(裁判における刑罰の適用)と、確定的な刑罰権たる現実的刑罰権(死刑、懲役など確定した刑罰の執行)に分けることができる。
刑罰の意味と目的
- 威嚇(抑止)( ジョン・オースティン「法実証主義の出発点」)
- 社会規範の表出(価値の再確認 =「社会が何を許さないか」という蓄積されてきた価値の確認)
- 被害者及び社会の感情的修復(応報 )
- 社会的結束・動員のツール(共通の敵をつくることによる親和)(スケープゴート、厄払い、バッシング)
- 祝祭 (秩序の文化人類学的再生産)(公開処刑、ワイドショー)( ミシェル・フーコー『監獄の誕生』)
刑罰の種類
刑罰はその剥奪する法益の種類によって、生命刑、身体刑、自由刑、追放刑、名誉刑、財産刑などに分類できる。かつては死刑と身体刑、追放刑が主なものだったが、人権の確立を主張した市民革命を経た近代社会では残虐とみなされる身体刑はほぼ廃止され、社会の身分制もほぼ消滅しているため対象とともに名誉刑もなくなりつつある。死刑も制限を経て廃止する国が増え、近代の刑罰は自由刑と財産刑が中心である。
- 生命刑
生命を奪う罰で、方法は死刑のことである。苦痛を与える残虐な方法として凌遅刑がある。
- 身体刑
身体に苦痛を与え、傷つけ棄損する罰で、杖刑、笞刑、入れ墨をする黥刑、身体の一部を切り落とす肉刑・宮刑などがある。
- 自由刑
身体の自由を奪う罰で、懲役、禁錮と拘留がある。江戸時代には自宅への「押し込め」・「閉門」・「蟄居」あるいは「手鎖」などという様々な方法があった。広義では次の追放刑も含まれる。
- 追放刑
一定区域への移動を禁じ、移動・居住の自由を奪う罰で、追放先で労役を科す場合もある。また、自国民の国外追放を刑罰とする国もある。日本には「遠島」という方法もあった。
- 財産刑
財産(財物・金銭)を奪う罰で、罰金、科料と没収がある。没収は近代では犯罪により得た利益や犯罪の道具を公収することであるが、過去には江戸時代の闕所のように生命刑・追放刑と併せて不動産を含む財物が公収されることであった。日本の現行刑法においては過料と反則金は行政罰として刑罰とは区別されているが、江戸時代においては過料は金銭を奪う刑罰名であった。
- 名誉刑
名誉・身分を剥奪する罰で、身分制社会では爵位の剥奪・奴隷などの下層身分へ落とすことが行われ、身分刑ともいう。日本では江戸時代に非人手下があり、また、旧刑法では31条「公権剥奪」がこれに当たるとされる。この公権には選挙権・被選挙権が含まれ、新刑法ではなく公職選挙法に含まれる公民権剥奪・停止を名誉刑に分類する場合がある。
日本の現行法における刑種
日本における刑罰は主刑と付加刑とに分けられる(刑法9条)。付加刑とは主刑の言渡しに付加してのみ言い渡すことができる刑罰を言う。
刑種 | 内容 | 分類 | |
---|---|---|---|
主刑 | 死刑 | 刑事施設内において絞首(刑法第11条) | 生命刑 |
懲役 | 刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる(刑法第12条) | 自由刑 | |
禁錮 | 刑事施設に拘置する(刑法第13条) | ||
罰金 | 原則一万円以上の財産刑(刑法第15条) | 財産刑 | |
拘留 | 一日以上三十日未満刑事施設に拘置する(刑法第16条) | 自由刑 | |
科料 | 千円以上一万円未満の財産刑(刑法第17条) | 財産刑 | |
(労役場留置) | 罰金・科料を完納することができない者は一定期間労役場に留置する(刑法第18条) | (換刑処分) | |
付加刑 | 没収 | 一定の物件の没収(刑法第19条) | 財産刑 |
(追徴) | 没収物件の全部又は一部を没収することができない場合、 その価額を追徴することができる(刑法第19条の2) |
主刑の軽重は上に掲げる順序による。ただし、無期禁錮と有期懲役とでは無期禁錮を重い刑罰とし、有期禁錮の長期(当該犯罪の刑期の最長期間をいう)が有期懲役の刑期の2倍を超えるときも、禁錮を重い刑罰とする(同法10条1項)。
これらの刑種は、死刑を別として、懲役・禁錮・拘留を自由刑、罰金・科料・没収を財産刑と大きく分類される。なお、罰金ないしは科料を完納することができない場合には、労役場に留置されることとなる。
なお、比較的軽度の刑罰に対しては、刑の執行を一定の期間猶予し、その間犯罪を犯さないなどの条件を満たす場合には刑の言い渡しの効力を失わせる執行猶予という制度が設けられている。執行猶予は3年以下の懲役・禁錮、50万円以下の罰金に対して付すことが可能であり、これによって、短期の自由刑については、刑事施設内での処遇の弊害を回避しつつ、社会内で一定の心理的強制力を対象者に及ぼしつつ更生を図らせることが期待されている。
執行猶予が付されていない刑罰(一般には懲役・禁錮を指す)は俗に実刑と呼ばれる。また、行政処分の1つである反則金などとの対比において、刑事手続に基づく刑罰のことを刑事処分と呼ぶ。
厳罰化問題
犯罪が増加した場合、または抑止効果を狙って、死刑の適用、懲役・禁錮の年数増加など刑を重くすること(厳罰化)が行われることがある。つまり、ルールを破った者、罪を犯した者への対応として、教育することと、制裁を加えることのバランスにおいて、後者により重きを置くのである。
厳罰化は立法による場合(法定刑の引き上げ)、行政による場合(求刑の引き上げ)、司法による場合(量刑の引き上げ)によってなされる。厳罰化には、犯罪に対するより厳格な報復を望む被害者・遺族および世論の要望に応える目的や、社会感情を鎮めること、社会秩序の維持、国家や警察・検察機関の体面の維持などが挙げられる、さまざまな社会的要因が関係する。
犯罪報道の過熱化と厳罰化とは密接な関係が指摘されている。日本では、1995年のオウム真理教事件、1997年の神戸連続児童殺傷事件を発端にして、ワイドショー番組でも盛んに事件報道が行われるようになった。
ワイドショーで視聴率の取りやすい報道は、あからさまに恐怖を煽ったり、犯人の残虐性を強調したり、被害者の悲しみや怒りを情緒的に伝える報道であり、報道番組の事実解明重視型の報道とは大きく異なるものとなった。このことにより、データとはかけ離れた感覚での社会不安が高まった(モラル・パニック[3]、体感治安の悪化)。
参考文献
脚注
- ↑ 「刑法総論講義 第二版」 川端博 成文堂 665頁
- ↑ 「刑法総論講義 第4版」 前田雅英 東京大学出版 2頁
- ↑ 「治安の悪化は本当か?――つくられたモラルパニック」『「NO!監視」ニュース 【第6号】』、監視社会を拒否する会、2004年1月30日。