禁錮

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禁錮(きんこ)


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概要

日本国の現行刑法では、禁錮(きんこ)とは、自由刑の一種であり、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である(刑法13条)。禁錮は無期と有期とに分類される。

無期禁錮

無期禁錮は、死刑無期懲役に次いで重い刑である。日本国の刑事法においては内乱罪、並びに爆発物使用罪(爆発物取締罰則第1条)及び爆発物使用未遂罪(爆発物取締罰則第2条)にのみ定められている、非常に稀な刑罰である。もっとも、死刑を減軽する場合は、無期の懲役もしくは禁錮、10年以上30年以下の懲役もしくは禁錮となっているので、死刑の定められている犯罪については、死刑を選択した後で酌量減軽することで、無期禁錮刑を言い渡すことができる。 少なくとも1947年以降に無期禁錮を言い渡された者はいない[1]

有期禁錮

有期禁錮は、原則として1ヶ月以上20年以下である(但し、刑を加重する場合には30年まで、減軽する場合は1ヶ月未満にすることができる)。したがって、ある条文において「2年以上の有期禁錮に処する」などと書かれている場合、天井知らずの刑が言い渡される可能性はない。裁判所は原則として「2年以上20年以下」の範囲内で量刑しなければならない。 しかし、死刑もしくは無期刑が定められている犯罪についてはそれらの刑を選択した上で酌量減軽をすることで20年超30年以下の禁錮を言い渡すことができる。

有期懲役と刑の軽重を比較するときは、「有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるとき」は禁錮のほうが重い刑であるとされている(刑法10条)。

3年以下の禁錮刑が言い渡された場合においては、情状によって、その刑の執行を猶予することができる。

懲役との違い

同じく自由刑である懲役との制度上の違いは、懲役では「所定の作業」を行わなければならないのに対して、禁錮ではただ拘置(監禁)することのみが定められていることにある。

ただし、願い出により刑務作業を行うこともできる(「請願作業」あるいは「名誉拘禁」などといわれる。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律93条、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則56条)。多くの禁錮受刑者は、請願作業に従事することを望むのが実情で、懲役と禁錮を区別する意義は薄いとする議論(自由刑単一化論など)も存在する。なお、調髪(男子の場合、丸刈り)の強制や全裸での身体検査が科されることは禁錮でも懲役でも同じである。

また、同じく自由刑である拘留との違いは、期間の長短による。禁錮刑が無期または1ヶ月以上20年以下であるのに対し、拘留は1日以上30日未満である。

古くは、禁錮は政治犯や過失犯に科されるもので、懲役は破廉恥罪(殺人窃盗など道徳的に非難されるべき動機により行われる犯罪)に対して科されるものとする理解があった。その名残りとして、政治犯的性質を持つ内乱罪法定刑には懲役がない。しかし、現代においては必ずしもこのように解釈されているわけではなく、例えば、過失犯は非破廉恥罪であるが懲役刑が科されることもある。

漢字の表記

法令での表記は時代によって変遷がある。制定時期と改正時期の違いにより、同一の法律内に複数の表記が混在しているものもある(電波法など)。[2]

禁錮
単純に漢字表記したもの。戦前から1947年頃までに制定された法令。検察庁法20条など。
「こ」を平仮名書きして、傍点を付したもの。1948~1954年頃に制定された法令。電波法107条など。戦後、政府は国語国字改革を推進し、当用漢字常用漢字を定めるなど、法令・公文書新聞雑誌および一般社会で使用すべき漢字を限定した。その中には「錮」は入れられなかったため、平仮名に置き換えられた。
「錮」に、ルビを付したもの。1955年頃以降に制定された法令。表外漢字であっても、交ぜ書きすると読みづらいとされたことから。法令内に複数回「禁錮」が出てくるときは、すべてにルビを振っている法令と、最初の1回だけにルビを振っている法令がある。
禁固
「錮」を「固」で代用表記したもの。改正刑法草案(1974年)で使用されたが、実際に成立した法令での使用例はない。マスメディアや一般社会では広く用いられてきた。

2010年11月30日に内閣告示された新しい常用漢字表では「錮」の字が含まれたので、以後は戦前と同じように、ルビなしで使うことが許容されることになった。マスメディアでも「禁錮」が用いられるようになっている。

科刑状況

禁錮判決が確定した件数は次のとおりである[3]。95パーセント程度に執行猶予が付されており、実刑判決の割合は低い。実刑判決でも大半は3年以下であり、3年超は年間数件程度である。

  • 2002年 3,510件 (実刑 233、執行猶予 3,277)
  • 2003年 4,017件 (実刑 254、執行猶予 3,763)
  • 2004年 4,215件 (実刑 214、執行猶予 4,001)
  • 2005年 3,904件 (実刑 249、執行猶予 3,655)
  • 2006年 3,696件 (実刑 237、執行猶予 3,459)
  • 2007年 3,547件 (実刑 211、執行猶予 3,336)
  • 2008年 3,367件 (実刑 187、執行猶予 3,179)
  • 2009年 3,362件 (実刑 193、執行猶予 3,169)
  • 2010年 3,351件 (実刑 148、執行猶予 3,203)
  • 2011年 3,229件 (実刑 118、執行猶予 3,111)
  • 2012年 3,227件 (実刑 105、執行猶予 3,122)

禁錮以上の刑に関する欠格条項

禁錮以上(死刑、懲役、禁錮)の刑に処せられた場合について、法律や法令で欠格事由としている例があり、俗にいう「前科者」も「禁錮以上の刑に処せられた者」(または執行猶予中の者)を指すことが多いが、より厳格な例として「罰金以上の刑に処せられた者」(交通違反など)まで含まれることもある。

禁錮以上の刑に関する欠格事由
禁錮以上の刑に処せられて刑期満了 禁錮以上の刑に
処せられた者[4]
になっていない者 から2年経過しない者 から3年経過しない者 から5年経過しない者
国家公務員 国家公務員一般職
外務公務員
国会職員
裁判所職員
自衛官
国会議員[5]
運輸安全委員会委員長又は委員
検察官
国家公安委員会委員
裁判員
裁判官
人事官
精神保健審判員
電波監理審議会委員
土地鑑定委員会委員
日本放送協会経営委員会委員
公害健康被害補償不服審査会委員
運輸安全委員会委員
保護司
検察審査員[6]
地方公務員 地方公務員一般職
収用委員会委員
人権擁護委員
地方自治体首長[5]
地方議会議員[5]
農業委員会公選委員[5]
海区漁業調整委員会公選委員[5]
固定資産評価審査委員会委員 教育委員会委員
都道府県公害審査会委員
都道府県公安委員会委員
公務員以外 特定独立行政法人職員
特定地方独立行政法人職員
株式会社取締役[5]
商工会議所会員
労働金庫役員[5]
農業協同組合役員[5]
宗教法人役員
農林中央金庫役員[5]
商工会役員
適格消費者団体役員
日本スポーツ振興センター役員
地方競馬全国協会役員
地方競馬全国協会運営委員会委員
公益社団法人理事
公益社団法人監事
公益社団法人評議員
公益財団法人理事
公益財団法人監事
公益財団法人評議員
港湾運営会社役員
銀行等保有株式取得機構役員
国民生活センター紛争解決委員会委員
警備員
日本銀行役員
日本中央競馬会経営委員会役員
国家資格 郵便認証司 介護福祉士
海事代理士
技術士
社会福祉士
精神保健福祉士
保育士
税理士
社会保険労務士
行政書士
公認会計士
司法書士
土地家屋調査士
中小企業診断士
建築士
水先人
弁護士
弁理士
教育職員免許

脚注

  1. 犯罪白書
  2. 法制執務コラム集 - 参議院法制局
  3. 検察統計年報・「審級別確定裁判を受けた者の裁判の結果別人員」
  4. 刑法第34条の2により、刑期の満了後(満期での出所後)に、「罰金以上の刑」に処せられないまま10年以上経過した時は、欠格事由の対象外となる。そのため、必ずしも一生にわたって欠格事由を有するとも限らない。
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 5.7 5.8 刑の執行猶予中の者を除く。
  6. 自由刑については刑期が1年以上の者のみ。

関連項目

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