位取り記数法
位取り記数法(くらいどりきすうほう)は、数の表現方法の一種で、適当な自然数 N (> 1) を指定して N 種類の記号(数字)を用意し、それを列べることによって数を表すための規則である。
位取り記数法で指定された自然数 N をこの記数法の底(てい)または基数といい、底が N であるような位取り記数法を「N 進法」「N 進記数法」という。N 進法では、N 種類の数字からなる記号列において、隣り合う上位の桁(けた)に下位の桁の N 倍の意味を持たせる位取りによって数を表現する。
数を N 進法で表記することを「N 進表記」という。また、N 進表記された数という意味で「N 進数」という呼称を使用することもある。
N 進法の表記において正負や小数を表現する場合には、符号や小数点が併用される。
日常的に最多用されている記数法は十進法である。また、時間は三百六十単位を基本にして、十二単位、三十単位、六十単位の組合わせで表現され、場合によってはこれらの累乗数(十二進法、六十進法。三十進法は今の所使われていない)が用いられる。
概説
日常用いられている、十倍ごとに位をとる数の表記法は十進法と呼ばれ、零から九までの十通りの数値については、それぞれを表す 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9 というような専用の文字(数字)が用意されている。そして 9 より一だけ大きい十を一文字で表記せず、1 と 0 の二文字を組み合わせて 10 と桁を上げて表記する。
同時に二文字の数字を使えば、00 から 99 まで百通り(十の平方)の数を表現することができる。99 より大きな数を表現するには、更にもう一文字(桁)増やして、100 と表記する(この表記法は 0 が発見されてから可能になった)。
このように、十種類の文字を列べて十通りの数を一桁で表し、百通りの数を二桁で、千通りの数を三桁で、というように十の N 乗通りの数を N 桁で表すのが十進法である。十進表記で記された数を十進数と呼ぶ流儀もある。
ここで、「十」という数を二に変えると二進法に、二十に変えると二十進法になる。例えば、二十進法では普通、0 から 9 までの数字十種類と、A から J までのアルファベット十種類、合わせて二十種類の文字を共に数字として扱い、数を表現する。例えば、十進法では 15 と二桁で表記される数も、二十進法では F と一文字で表記できる。
逆に、八進法では 0 から 7 までの八種類の文字を数字として扱い数を表現するので、十進法で 8 と書き表される数は、八進法では 10 と表され、二桁を必要とする。
自然数の表記
任意の自然数 T に対し、r を十分大きく取れば、
- <math> T = c_0\cdot 1 + c_1N + c_2N^2 + \dots + c_rN^r</math>
を満たし、各 ci は 0, 1, 2, 3, ..., N - 1 のいずれかであるような {ci} を一意的に取ることができる。
実際、次のようにすれば {ci} と r を求めることができる(底変換アルゴリズム)。
- T を N で割った商を T1 とし、余りを c0 とする。
- T1 を N で割った商を T2 とし、余りを c1 とする。
- 以下 Ti を N で割った商を Ti+1 とし、余りを ci とする操作を繰り返す。
- Tk = 0 となったとき、r = k - 1 とする。
このとき、0 から N - 1 までの自然数に何らかの記号(数字)を対応させておいて、 cr, cr-1, ..., c1, c0 に対応する記号を順に並べれば、任意の自然数 T を有限個の記号で表記できる。この表記を T の N 進表記 という。
なお、上記の方法ではアルゴリズムが終了するまで r が幾つになるか分からないが、対数を用いれば
- <math>\left\lfloor\log_N T\right\rfloor</math>
として事前に r を知ることもできる。ただし、
- <math>\lfloor x\rfloor</math>
は x 以下で最大の整数である(床関数参照)。
二進表記 | 三進表記 | 六進表記 | 十進表記 | 十二進表記 |
---|---|---|---|---|
1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
10 | 2 | 2 | 2 | 2 |
11 | 10 | 3 | 3 | 3 |
100 | 11 | 4 | 4 | 4 |
101 | 12 | 5 | 5 | 5 |
110 | 20 | 10 | 6 | 6 |
111 | 21 | 11 | 7 | 7 |
1000 | 22 | 12 | 8 | 8 |
1001 | 100 | 13 | 9 | 9 |
1010 | 101 | 14 | 10 | A |
1011 | 102 | 15 | 11 | B |
1100 | 110 | 20 | 12 | 10 |
例
十進表記の 5213 を五進表記に置き換える場合:
- 5213 ÷ 5 = 1042 余り 3
- 1042 ÷ 5 = 208 余り 2
- 208 ÷ 5 = 41 余り 3
- 41 ÷ 5 = 8 余り 1
- 8 ÷ 5 = 1 余り 3
- 1 ÷ 5 = 0 余り 1
から、5213 = 3 + 2 × 5 + 3 × 52 + 1 × 53 + 3 × 54 + 1 × 55 となるので、五進表記では 131323 と表すことができる。また、55 = 3125, 56 = 15625 であるから、55 ≤ 5213 < 56 が成り立っているので、対数を取ると
- <math>5 \le \log_{5}5213 < 6</math>
となり、
- <math>r=\left\lfloor\log_{5}5213\right\rfloor =5</math>
が分かる。
二百七十の表記は、以下のとおりになる。(便宜上、計算式を十進表記で記す)
- 二進表記 (100001110)2 : 270 = 256 + 14 = 28 + 23 + 22 + 21
- 六進表記 (1130)6 : 270 = 216 + 54 = 1×63 + 1×62 + 3×61
- 十進表記 27010 : 270 = 200 + 70 = 2×102 + 7×101
- 十二進表記 (1A6)12 : 270 = 144 + 126 = 1×122 + 10×121 + 6
- 二十進表記 (DA)20 : 270 = 260 + 10 = 13×201 + 10
また、500 と表記される数は、十進表記では五百だが、十二進表記では七百二十を、二十進表記では二千を意味する。
これは、十二進表記では「五倍の百四十四(=十二の平方)」を意味し、二十進表記では「五倍の四百(=二十の平方)」を意味するからである。したがって、十二進表記の“500 ÷ 26 = 20”は、十進表記では“720 ÷ 30 = 24”となる。
整数の表記
T が負の数である場合には 記号列の先頭に負符号 − を付けて、その後に絶対値 |T| の N 進表記を続けることにすれば、任意の整数を同様にして表記できる。
二進表記 | 三進表記 | 六進表記 | 十進表記 | 十二進表記 |
---|---|---|---|---|
−110 | −20 | −10 | −6 | −6 |
−101 | −12 | −5 | −5 | −5 |
−100 | −11 | −4 | −4 | −4 |
−11 | −10 | −3 | −3 | −3 |
−10 | −2 | −2 | −2 | −2 |
−1 | −1 | −1 | −1 | −1 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
有理数・実数の表記
小数の表記
任意の有理数・実数は
- <math>a_l N^l + a_{l-1} N^{l-1} +\cdots +a_1 N+a_0 +\frac{a_{-1}}{N} +\frac{a_{-2}}{N^2} +\cdots</math>
(各位の ai は 0 以上 N 未満の整数)の形に一意的に表される。これを N 進法では(0 以上 N 未満の整数にそれぞれ記号を与えて)
- <math>a_l a_{l-1} \ldots a_1 a_0 .a_{-1} a_{-2} \ldots</math>
と表記する。
十進表記 | 十二進表記 | 二十進表記 | |
---|---|---|---|
1 ÷ 2 | 0.5 | 0.6 | 0.A |
1 ÷ 3 | 0.3333… | 0.4 | 0.6D6D… |
1 ÷ 4 | 0.25 | 0.3 | 0.5 |
1 ÷ 5 | 0.2 | 0.2497… | 0.4 |
例えば、二進法で 0.111 と表される数は、零、二分の一、四分の一、八分の一を加えた数という意味である。
- <math>0+1\times \frac{1}{2} +1\times \frac{1}{4} +1\times \frac{1}{8} =\frac{7}{8}</math>
この値は、十進法では 0.875 と表される。
底の変換
十進法で表された絶対値が1未満の小数をN進法に変換する場合、次の通りにする。
- Nを掛け、整数部と小数部に分ける。
- その小数部にNを掛け、再度整数部と小数部に分ける。
- 小数部が0になるまで同様の操作を繰り返す。
- 整数部を上位から並べる。
例えば十進表記の 0.8125 を2進表記にする場合、
- 0.8125 × 2 = 1.625 = 0.625 + 1
- 0.625 × 2 = 1.25 = 0.25 + 1
- 0.25 × 2 = 0.5 = 0.5 + 0
- 0.5 × 2 = 1.0 = 0.0 + 1
となるので、2進表記では 0.1101 となる。
p進数
テンプレート:Main N 進表記と関連が深い概念として、素数 p 毎に定まる p 進数というものもある。 両者は別概念ではあるが非常に関連があり、整数の p進表記を(可算)無限桁の自然数の範囲に拡張したものが p進整数で、さらにそこに有限桁の小数部分を許したものが p進数である。ただし「無限桁の整数」(の一部は有理数として再解釈できるもののほとんど)は本稿で扱う普通の数(実数)とは異なる。
関連項目
参考文献
ヘンリー・S・ウォーレン、ジュニア『ハッカーのたのしみ』 ISBN 4434046683テンプレート:Link GA