第三者無線

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第三者無線(だいさんしゃむせん、Third party radio system)とは、米国の[1]マルチチャネルアクセス無線 (Multi-Channel Access radio system) 技術を用いた業務無線システムの呼称である。Trunked radio systemとも呼ばれる。

基本的な仕組みは複数の利用者が複数の無線チャネルを制御局の指令により共同使用することで、周波数帯域を有効利用している。指令局・移動局間の直接通信は行われず、全ての通信が制御局で中継されている。

日本では、「MCA無線総務省)」「MCA(エムシーエー)(移動無線センター)」「エムシーアクセス(移動無線センター)」「アイデン(日本移動無線システム)」「JSMR(ジェイスマー)(日本移動無線システム)」「ネクスネット(日本移動無線システム)」「NEXTEL(米国での携帯電話事業者)」と呼ばれる。 以下は、日本のものについて説明する。

定義

総務省令無線設備規則第3条の各号に次のように定義している。

5 「MCA陸上移動通信」とは、一定の区域において二以上の無線局に共通に割り当てられた二以上の周波数の電波のうち、MCA制御局(使用する電波の周波数を指示して通信の中継を行う陸上移動中継局であつて、二以上の通信の中継を同時に行うことができるもの(次号に規定するデジタルMCA制御局を除く。)をいう。以下同じ。)の指示する周波数の電波を使用して当該MCA制御局と陸上移動局又は指令局(MCA制御局の中継により陸上移動局と通信を行う基地局をいう。以下同じ。)との間で行われる単一通信路の無線通信及びその無線通信を中継するためにMCA制御局相互間で行われる無線通信並びにそれらの無線通信を制御するために行われる無線通信をいう。
6 「デジタルMCA陸上移動通信」とは、一定の区域において二以上の無線局に共通に割り当てられた周波数の電波のうち、デジタルMCA制御局(使用する電波の周波数を指示して通信の中継を行う陸上移動中継局であつて、デジタル方式により二以上の通信の中継を同時に行うことができるものをいう。以下同じ。)の指示する周波数の電波を使用して当該デジタルMCA制御局と陸上移動局又はデジタル指令局(デジタルMCA制御局の中継により陸上移動局と通信を行う基地局をいう。以下同じ。)との間で行われる無線通信及びその無線通信を中継するためにデジタルMCA制御局相互間で行われる無線通信並びにそれらの無線通信を制御するために行われる無線通信をいう。

概要

利用者である企業・団体・自治体などが指令局(電波法令上は基地局 [2] )・移動局(同陸上移動局)の免許人となる。それらと異なる第三者である事業者が制御局(同陸上移動中継局)の免許人となる。制御局は第三級陸上特殊無線技士(以下、「三陸特」と略す。)以上の無線従事者主任無線従事者として監督することが必要であるが、 指令局・移動局には無線従事者は不要 [3]である。 移動局は特定無線局に指定され、無線局免許状を局数に係わらない包括免許とすることができ、書類申請だけで平常時には最短1週間程度で開設できる。また、5年周期(5月31日が免許の有効期限であり、当初の免許の有効期間は4年をこえて5年以下となる。 [4])毎の再免許時、利用者の無線設備の定期検査は不要である。事業者や代理店が手続きの代行を行うことも多い。 なお、利用にあたっては年毎に電波利用料を納付しなければならない。解約時に無線局廃止届の提出を怠ると免許の日の応当日に納付義務が発生するので注意が必要である。

無線局の免許人として外国籍が排除されることは、欠格事由として電波法第5条第1項にあるが、例外として第2項第7号に「自動車その他の陸上を移動するものに開設し、若しくは携帯して使用するために開設する無線局又はこれらの無線局若しくは携帯して使用するための受信設備と通信を行うために陸上に開設する移動しない無線局」とあり、外国籍の者でも利用できる。

1982年(昭和57年)の開始当初は、物流業者など一般業務無線には周波数割当てが無い、簡易無線ではサービスエリアが狭いといった事業者が主体であったが、1997年(平成9年)より一般的な業務に広く利用できるようになっており、個人事業者も利用可能で最小単位は2局から開局可能である。

当初のサービスエリアは陸上河川湖沼を含む。)のみであったが、マリネットホン廃止に伴い代替として平水区域での使用が認められ、 1999年(平成11年)からは沿岸海域(領海内、沿岸から約22km)まで使用範囲が拡大された。 制御局の配置に依存するため沿岸海域すべてで実用となるわけではないが、条件によっては沿岸から100km超まで実用 [5] になる。

災害時などの貸出支援も行っている。阪神・淡路大震災新潟県中越地震でも、一部のアンテナ用鉄塔に傾きが生じた程度で制御局・システムが正常に利用できた実績があり、緊急通信用のシステムとして企業・地方公共団体・公共機関でも採用されている。

携帯電話PHSと比較して少数の無線局で周波数帯域を占有している、関連団体が役人の天下り先(電波利権)となっていると言う批判もある。

特徴

  • プレストーク(プッシュ・ツー・トーク)と呼ばれる片通話繰り返し
  • 1回の通話時間が制限されている。(アナログ1分 - 3分、デジタル2分 - 5分)
  • 料金が定額制(例:1局1900円 - 3000円(消費税抜)、移動無線センターの平成26年3月19日改正約款による。)。ただし、移動局1局あたりの延通話時間が一定限度を超えると割増料金が発生する場合がある。
  • 携帯電話・PHSに比べて移動用端末が堅牢・高出力・大型で車載が中心である。
  • 移動局1局・オフィスの指令局が1局でも全国的に利用可能。
  • 一斉同報通信が可能。
  • 制御局はロケーションが良い山頂や高層ビル上にあり、大ゾーン方式であるため、海上のサービスエリアも広い。
  • ほとんどの制御局に耐震性があり(阪神・淡路大震災で実証)、非常用発電装置もあり災害時に有効に使用可能。
  • 公衆交換電話網を利用していないので、災害時などの輻輳・障害に影響されない。公衆交換電話網へのアクセスもできビジネスホン等に接続して通話可能。

用途

  • 一斉同報通信や位置通報機能の必要なバスタクシー貨物自動車などの陸上交通事業者。
  • 海上のサービスエリアが広い事を生かした内航海運事業者。
    • 義務船舶局のかわりになるものではなく、海上交通管制などの海上安全にかかわる通信には使えない。
  • メンテナンスや営業活動、食品・LPガス・生協などの配送。
  • 企業や団体の拠点間の災害通信用
    • 水道電力ガス通信事業者などの通信の確保。
    • 1995年(平成7年)4月より地方公共団体での防災無線の補完として利用できることとなり、電波利用料の半額減免の対象になる。

システム

デジタル方式

制御局間をインターネット技術を利用したIP-VPNで結び、全国通信が可能である。また、複数の無線スロットを使用したより高速なデータ通信や利用者設置のIP網への接続も技術的には可能である。

デジタル方式の諸元
周波数帯
(MHz)
商標 通信方式 通信可能エリア GPS連動 複数企業間通話 制御局間ハンドオーバー ID
管理
搬送波 チャネル当たり速度 (kbps) 変調方式 空中線電力 (W) 事業者 備考
間隔
(インタリーブ)
(kHz)
チャネル多重数 制御局 指令局
移動局
800 mcAccess e 二周波数
復信
半複信
全国の主要都市 自動 無線 25
(12.5)
4 8 π/4 DQPSK 40 10又は
2
移動無線センター 2003年10月サービス開始

端末周波数変更につき
旧周波数による新規加入は
2012年12月31日終了
2018年3月31日までに移行完了

1500 mcAccess 関東、東海、
近畿、九州
- - 自動 ROM 6 8 M16QAM 1994年4月サービス開始

2007年6月30日新規加入終了
2014年3月31日終了

NEXNET 関東、東海、
近畿
自動 無線 6 12 M64QAM 日本移動通信システム協会 1998年7月サービス開始

2007年11月30日新規加入終了
2014年3月31日終了

8 M16QAM
4 MQPSK
  • GPS連動 : 位置通報や車両動態管理システムなどの機能が比較的安価に構築可能。携帯電話のパケット網を利用するような「度数課金」がないため、トータルコストで逆転可能である。
  • 制御局間ハンドオーバー
    • 自動 : 端末が自動的に位置登録を行う。
    • 手動 : 利用者が手動で位置登録を行う。
  • ID管理 : 指令局・移動局の管理方法
    • 無線 : 運営団体が管理する制御局が無線で管理。災害時などの緊急時に迅速な提供が可能。
    • ROM: 情報を書き込んだROMの差し替えで管理する。
  • 災害優先接続 : 公的に指定されている、政府機関・地方公共団体・公共機関に優先的に回線を確保する。
  • 緊急モニタ機能 : バス事業者やタクシー事業者用に車内で緊急事態が発生した場合に車内音声を聞く。

アナログ方式

アナログ方式の諸元
周波数帯
(MHz)
通信方式 搬送波間隔
(インタリーブ)
(kHz)
変調方式 空中線電力 (W) 備考
制御局 指令局
移動局
800 二周波数半復信 12.5
(6.25)
周波数変調 40 10(ワイド)

30(ナロー)

1982年10月サービス開始

2012年12月31日新規加入終了
2018年3月31日までに終了

1500 80 5 1990年11月サービス開始

2007年9月30日終了

  • 事業者は移動無線センター
  • ハンドオーバー機能は無い。

局数の推移

局数の推移
年度 平成13年度末 平成14年度末 平成15年度末 平成16年度末 平成17年度末
総数 639,165 567,277 492,904 463,893 430,839
陸上移動中継局 529 339 345 348 350
陸上移動局 638,557 566,864 492,514 463,513 430,460
年度 平成18年度末 平成19年度末 平成20年度末 平成21年度末 平成22年度末
総数 409,025 384,348 353,028 326,464 303,859
陸上移動中継局 356 352 350 353 350
陸上移動局 408,645 383,975 352,659 326,093 303,493
年度 平成23年度末 平成24年度末 平成25年度末
総数 285,164 280,966 186,802
陸上移動中継局 345 324 227
陸上移動局 284,805 280,631 186,567 

特定無線局は開設局数が計上されている。
総務省情報通信統計データベースの用途・局種別無線局数による。

周波数再編

2011年(平成23年)携帯電話の普及に伴う周波数逼迫により総務省告示周波数割当計画が改正 [6] され、800MHz帯の「端末周波数を平成24年7月25日より930-940MHzとし、905-915MHzの使用は平成30年3月31日まで [7] 」とした。あわせてFM(アナログ)機器の使用も廃止される。 すなわち、2018年4月以降は新周波数のデジタル機器しか使用できない。 これに伴い、旧規格による新規開局は2012年(平成24年)12月31日まで、1500MHz帯からの移行は2014年(平成26年)3月31日までとされた。

更に、移行を促進する為、期限内に無線機を取り替える為の費用は新たにこの周波数を使用する認定開設者(ソフトバンクモバイル)が負担する「終了促進措置」がとられる [8] こととなった。また、対象となる無線局数が総務省ホームページに掲載されるものとしている。

局数の推移
平成23年 平成24年 平成25年 平成26年
10月 4月 10月 4月 10月 4月  
中継局 274 270 261 250 227 210  
端末局(アナログ) 110,001 102,960 94,958 92,486 44,504 7,718  
端末局(デジタル) 130,061 138,990 148,668 114,297 37,346 5,264  
総務省情報通信統計データベース
周波数再編アクションプランに取組が規定されている電波利用システムの無線局の推移による。

地域振興用陸上移動通信システム

1993年(平成5年)に制度が開始された、他の無線通信の手段の少ない地域において、地域振興を目的とする団体が基地局・陸上移動局とも無線局の免許人となり、団体の会員となることで使用できるマルチチャネルアクセス無線である。地域振興MCAとも呼ばれる。免許人となれるのは、第三セクター・地域団体(農業協同組合森林組合商工会議所医師会社会福祉協議会観光協会などが単独または共同で設立するもの)であり、営利企業1社のみが会員のものは認められない。

基地局の設置は地域団体の負担で、その維持・管理費は加入者からの会費で、陸上移動局は加入者負担で購入することとなっている。基地局は三陸特以上の無線従事者が主任無線従事者として監督することが必要であるが、陸上移動局に資格は不要である。

地域で一番高い山などに基地局が設置されているため、安定した通信が可能である。また、地域振興が目的であるため、同一組織内だけでなく会員相互の通信も認められている。

規格

  • 周波数 400MHz帯
  • 通信方式 : 二周波数半複信
  • 搬送波間隔 12.5kHz(6.25kHzインタリーブ)
  • 変調方式 周波数変調
  • 空中線電力 : 基地局・陸上移動局とも10W以下
  • 機能 : 音声通信・同報通信・ショートメッセージ・ページング
  • 選択呼出し : 個別選択・グループ選択(移動局に個別識別装置の設置が義務付けられている。)
  • 特定の制御チャンネルを持たないMCA方式。チャネル数 4(免許人の事務所に基地局の正常な動作を確認する装置の設置が義務付けられている。)

その他

表示

基地局、陸上移動局の無線設備は、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(以下、「証明規則」と略す。)による適合表示無線設備又は無線機器型式検定規則(以下、「検定規則」と略す。)による検定機器でなければならない。

適合表示無線設備には、当初は技術基準適合証明の文言を含む楕円形のマークが、1991年(平成3年)9月1日以降はマークを含んだ円形のマークの表示が義務付けられている。 1995年(平成7年)4月1日からは技適マークを用いるものとされている。 また、検定規則の対象であったのは1999年(平成11年)までで、検定機器には検定マークの表示が義務付けられていた。 適合表示無線設備には技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号、検定機器は検定番号の表示も必須とされ、 MCA無線の機器を表す記号は工事設計認証番号の4字目又は4~5字目、検定機器は検定番号の1字目及び機器の型式名の1~2字目にあり、種別毎に次のとおりである。(証明規則様式7及び検定規則別表第8号)

方式 種別 適合表示無線設備 検定機器
記号 検定番号 機器の型式名
アナログ MCA M又はN M MC又はMD
デジタル 1500MHz帯デジタルMCA HZ M ME
800MHz帯デジタルMCA VX  
地域振興用 F3E等 F F F
注 地域振興用の記号は他業務の機器と共用

但し、適合表示無線設備は

  • 2001年(平成13年)9月10日までは番号の1字目又は1~2字目
  • 前記以後2003年(平成15年)6月まで番号の3字目又は3~4字目
  • 2013年(平成25年)4月以降の工事設計認証番号(4字目がハイフン(-))に記号表示は無い。

また、周波数割当て終了により、

の技術基準適合証明、工事設計認証、型式検定は無効となる。

空港無線電話

空港無線電話はマルチチャネルアクセス無線技術を利用している為、空港MCA無線とよばれる。 周波数はアナログ(廃止済)は800MHz帯を、デジタルは400MHz帯を使用している。

運転中の通話

1999年11月から自動車又はオートバイを運転しながらの無線通話が道路交通法で禁止(2004年(平成16年)11月からは罰則の対象と)され、運転者は停車中以外使用してはならない。 ただし、無線通話装置のうち「その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないもの」に該当しない場合は適用除外されており、車載型無線機の使用は規制対象とならない。

改正道路交通法と無線の使用について 移動無線センター

しかし、運転中に携帯型無線機を使用したときや無線機・マイク画面を注視した結果、ハンドル等を誤操作したり、他人に危害を及ぼすような運転をしたときには、「安全運転義務違反」として処罰される可能性があり使用には注意を要する。

脚注

  1. 電波辞典(第2版)郵政省電気通信局電波部監修 p.118
  2. 実際には殆どの指令局が陸上移動局として免許されている。これは1997年からMCA無線の陸上移動局が特定無線局とされ、包括免許とすれば経費節減できるため基地局から移行したからである。
  3. 1995年までは利用者の指令局にも三陸特(従前は特殊無線技士(無線電話乙))以上の無線従事者による監督が義務付けられていた。
  4. 平成19年総務省告示第429号 電波法施行規則第8条第1項の規定に基づく陸上移動業務の無線局等について同時に有効期間が満了するよう総務大臣が毎年一の別に告示で定める日 第1号に6月1日とあることによる。(総務省電波利用ホームページ 総務省電波関係法令集)
  5. 新潟小型船舶無線協会 海上・船舶利用(移動無線センター)
  6. テンプレート:PDFlink(総務省 新規制定・改正 - 告示:平成23年12月14日)
  7. テンプレート:PDFlink(総務省電波利用ホームページ - 700/900MHz帯周波数再編ポータルサイト)
  8. 900MHz周波数移行促進について(ソフトバンクモバイル - 公開情報)

関連項目

外部リンク