ウコン
テンプレート:生物分類表 ウコン(鬱金、宇金、郁金、玉金)は、香辛料、着色料、生薬として用いられるショウガ科ウコン属の多年草。秋ウコン、キゾメグサ(黄染草)とも。学名 Curcuma longa [ syn. C. domestica ]。英語名ターメリック (turmeric)。
インド料理のカレーに使われることから、ヒンディー語・ウルドゥー語・グジャラーティー語のハルディ (Haldi) でも知られる。他に、沖縄方言のウッチン、インドネシア語・マレー語のクニッツ (kunyit)、ハワイ語のオレナ (Ōlena) などでも知られる。
「鬱金」の原義は「鮮やかな黄色」。呉音「ウッコン」が転訛しウコンとなった[1]。ただし日本のカレー粉に使われるのは、苦みが無くオレンジ色のいわゆる秋ウコン(ターメリック)のほうである。健康食品[2]として普及している、苦く黄色の春ウコン(ワイルド・ターメリック)とは異なる。ゆえによく言われる「この苦く黄色いウコンはカレーに使われているんですよ」という説明は、誤りである。東南アジア諸国には、インドネシア原産でクルクミンの含有量が多く薬効が強い変種があり、現地名のクニッツとか別名クスリウコンという呼び名で日本でも流通している。
目次
類似種と呼称
次の「ウコン」は同属別種である。
これらと区別するために、本来のウコンは秋ウコンともいう。生薬名:鬱金 ウコン 主用途:食材
また、次のような呼称もある。
中国では、日本でのウコンをキョウオウ、日本でのキョウオウをウコンといい、日本と逆になっている。つまり中医学漢方の生薬分類上、春ウコンと秋ウコンの根茎を姜黄(キョウオウ)、塊根を鬱金(ウコン)としているが、日本に漢方が書物により伝来し普及する過程で、これら情報が混乱し正しく伝わらなかったためである。故に中国から輸入のウコン類生薬は、中国の定義に基づいた名称のものもある。
加工
インドなどの熱帯アジアを原産とし、地下に肥大した濃黄色の根茎を持つ。この根茎を水洗して皮を剥き、5-6時間煮た後2週間ほど天日で十分乾燥させて細かく砕き、使用する。沖縄県では煎じたものを飲料として用いる。県内では缶入りの「うっちん茶」も多くのメーカーから発売されている。
ウコン(秋ウコン)の成分組成
ウコンには約5%前後の精油成分(エッセンシャルオイル)、と約5%前後のポリフェノール類(クルクミン)が含まれている[3]。
- クルクミンは、ウコンの活性成分であり、別名でC.I. 75300、Natural Yellow 3などの名称がある。(またIUPAC名では、(1E,6E)-1,7-ビス(4-ヒドロキシ- 3-メトキシフェニル)-1,6- ヘプタジエン-3,5-ジオン;(1E,6E)-1,7-bis (4-hydroxy-3-methoxyphenyl) -1,6-heptadiene-3,5-dione となる。)クルクミンは少なくとも2つの互変異性体(tautomeric form)、ケト・エノール体が存在し、固相時にはケト体を、溶液中ではエノール体をとる。クルクミンはpHによる変色域を持つことが知られている。pH7.4以下の酸性~中性溶液下では黄色を呈す一方、pH8.6以上の塩基性(アルカリ性)溶液下では明るい赤色に変化する。
- 精油成分としては、ターメロン(胆汁分泌促進)、シネオール(胆汁・胃液の分泌の促進)、α―クルクメン(コレステロールを溶かし、高脂血症に有効)、クルクモール(抗がん作用)、β―エレメン(腫瘍予防の効果)、カンファー(健胃・殺菌効果)、テルペン類などが知られている(各成分の後ろの括弧内はこれまで報告されている、各成分での効果候補である)。
また、クルクミンと精油成分の、各々の含有比率は、秋ウコンと類似種の春ウコン、紫ウコンで異なる。秋ウコンはクルクミン含有量が豊富で精油成分には乏しく、春ウコンは精油成分が比較的豊富である。紫ウコンはクルクミンに乏しく精油成分のみの組成になる。 上記にあげた、主な有効成分の他にウコン根茎には、ミネラル(鉄分)などの微量元素や、食物繊維、デンプン、カリウム、ビタミンC、および、カロテンなどが含まれている。特に秋ウコンには鉄分が豊富に含まれており、ウコンをそのまま利用する場合に、ミネラルの豊富さが生体に影響を及ぼす場合がときおり報告されている。
ウコン(秋ウコン)の薬効
健康食品としてウコンが注目され、ウコンを含有する健康食品も多数販売されているが、国立健康・栄養研究所のデータベースによると有効性としては、ヒトの消化系・肝臓の症状改善や、参考として試験管内・動物他での作用、効果等が述べられている。利胆(胆汁の分泌を促進)、健胃などの薬効がある。他の薬効成分として、クルクミン・ターメロン(利胆)、ジンギベレン、d-α-フェランドレン、シネオール(防腐)などがある。肝機能を増進するといわれ、二日酔いの抑止効果があるかのような宣伝を行う錠剤やドリンク剤が多数発売されている。沖縄の鬱金茶は、二日酔いを防ぐということで、飲酒の前後に飲まれている。また、居酒屋では、鬱金の粉末が常備され、泡盛などに入れて飲まれている。[4]
その他の用途
- 黄色の着色料としても使われ、キゾメグサの異名がある。カレーの黄色はウコンの色であるほか、からしやたくあん、黄袋などにも用いられる。黄色の色素成分はクルクミン (curcumine)である。
- 湿潤効果や発毛抑制作用があるとされ外用剤として使用される。
- ヨーロッパでは、マーガリンやチーズの着色に使われている。また、サフランのかわりとして利用された。インドや東南アジアでは、スパイス、染料、切り傷の外用薬、化粧用のパウダーとして利用されている。インドネシアの結婚式では、花嫁、花婿が鬱金で腕を染め、黄色に炊き上げた米飯が振る舞われる。[5]
ウコン(秋ウコン)の副作用
危険性情報としては、摂取量、摂取期間、また、摂取した対象者は不明であるが、薬剤性肝障害22例のうちウコンによるものが11例ある等が述べられている。また日本肝臓学会の診断基準を満たした薬剤性肝障害症例(14施設 84症例)のうち、ウコンによる薬剤性肝障害は25%を占めたとされた。なお医療機関で処方される医薬品漢方薬の中には、ウコンを含有するものは存在しない[6]。クルクミン大量摂取による肝臓の脂肪変性も報告されている[7]。
また、秋ウコンの根茎は、クルクミンの他にもミネラル分(鉄分)が豊富に含まれているものがある。例えばC型慢性肝炎患者(あるいはその他の肝炎患者)は、罹患した時点ですでに鉄過剰を起こしやすいことから、鉄制限食療法が推奨されている[8][9]。そのような場合には、ウコン含有の鉄分(栽培地や栽培方法によってミネラルの含有量が高くなる場合がある)が肝臓に過剰な影響を及ばす可能性があり、注意が必要といわれている。
また、鉄分および精製されたクルクミンなどの成分についてはいくつかの報告[10][11]があるが、ウコン根茎そのものには、それ以外にも多様な成分を含んでおり、個々の成分単体で得られた結果がウコンとしての生理活性にどの程度反映されるのかは明らかではない(精製されたクルクミン原体の場合は含有ミネラルの問題は起こらないが、ウコン根茎の場合は更なる検証が必要である)。
ウコンの有効性および安全性は、まだ十分に検討され尽くしていないため、今後もウコンやその成分についての様々な検討が必要であり、その点について研究が進められている状況である[12]。
また、以下の場合は、ウコン(秋ウコン)の摂取を控えるべきとされている。特に肝障害患者においては、サプリメントとして市販されている通常量で重篤な状態に陥った例が少なからず報告されている。またウコン(秋ウコン)によって自己免疫性肝炎を併発した可能性のある症例の発表もある[13][14]。
ウコン(秋ウコン)を含有した外用薬によるアレルギー性皮膚炎も報告されている[15]。
以上のように、しばしば「ウコン(秋ウコン)は肝臓によい」と言われているものの、肝疾患患者への投与は推奨されておらず、状態を改善させるどころか、死亡例(2人:2004年)[16][17][18]を含んだ重篤な副作用の報道・報告があり、安易な内服は慎むべきとされている[19]。
脚注
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ ただし、コンビニエンスストア等で広く販売されているハウス食品の二日酔い対策ドリンク「ウコンの力」は、もともとカレールウなどの商品で知られていた同社の応用開発であることから、秋ウコンが用いられている。春ウコンはミネラルや精油成分が秋ウコンより豊富だが、肝機能に作用するとされるクルクミンの含有は秋ウコンの方が高い。
- ↑ Govindarajan VS.(1980) "Turmeric--chemistry, technology, and quality." Crit Rev Food Sci Nutr. 1980;12(3):199-301.(PMID 6993103)
- ↑ 日本のハーブ事典 村上志緒 東京堂出版
- ↑ 日本のハーブ事典 村上志緒 東京堂出版P85
- ↑ 水野瑞夫:ウコン.日本薬草全書,新日本法規,pp74-76,2000
- ↑ 石田 聡他:健康食品による薬物性肝障害,肝胆膵48(6):747-755,2004
- ↑ Iwata K.,et al.2006."Iron content and consumption of health foods by patients with chronic hepatitis C." J Gastroenterol. 2006 Sep;41(9):919-20.(PMID 17048058)
- ↑ Iwasa M, Kaito M, Ikoma J, Kobayashi Y, Tanaka Y, Higuchi K, Takeuchi K, Iwata K, Watanabe S, Adachi Y.(2002) Dietary iron restriction improves aminotransferase levels in chronic hepatitis C patients. Hepatogastroenterology. 2002 Mar-Apr;49(44):529-31.
- ↑ Isawa M.,et al.(2010)Restriction of calorie and iron intakes resuluts in reduction of visceral fat and serum alanine aminotransferase and ferritin levels in patients with chronic liver disease. Hepatol Res.2010 Dec;40(12):1188-94(PMID 20880065)
- ↑ Jun-ichi NAGATA and Morio Saito (2005) Evaluation of correlation between amount of curcumin intake and its physiological effects in rats. Food Sci. technol. Res.,11(2), 157-160,2005
- ↑ 健康・栄養ニュース第15号P5(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
- ↑ 木村 吉秀 「ウコンによる薬物性肝障害により影響を受けた自己免疫性肝炎の1例」 ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA 46(1), 26-32, 2005-01-25
- ↑ 中本譲 「う金(ウコン)の人体に及ぼす影響及び副作用についての検討」 日本栄養・食糧学会総会講演要旨集 巻:49th 頁:206
- ↑ 矢島 純 「Database of side effect cases. New trial of presentation of drug information. Dermatological medicines. A case of allergic contact dermatitis by external-use drug containing curcuma」 診断と治療 巻:84頁:760 特殊号:増刊号
- ↑ ウコン摂取で、肝機能障害、悪化し死亡
- ↑ ウコン摂取で肝障害 肝硬変の60代女性、症状悪化し死亡 「産経新聞」2004年10月19日
- ↑ 伊藤 弘康 臨床医の立場から見た肝臓(肝障害)と健康食品について 生物試料分析, 32(1) : 66, 2009
- ↑ 小島裕治 「健康食品, 特にウコンによる肝障害の検討」日本消化器病学会雑誌, 101 : 607, 2004
関連人物
関連項目
外部リンク
- ウコン色素(横浜市衛生研究所 - 食品衛生情報)
- ウコン - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
- クスリウコン、ジャワウコン - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
- ウコンについて (国立健康・栄養研究所)
- 「原著」健康食品・サプリメントによる健康被害の現状と患者背景の特徴 医薬品情報学 Vol.14 (2012) No.4 2月 p.134-143