高分子
高分子(こうぶんし)または高分子化合物(こうぶんしかごうぶつ)とは、非常に多数の原子が共有結合してできる巨大分子 (macromolecule)のことである。重合体(ポリマー、polymer)は巨大分子の一種であるが、一般に高分子と言われたときは重合体(polymer)のことを指す。明確な定義はないが、一般に巨大分子(macromolecule)は「大きな分子、あるいはその集合体」を指す広範な概念であり、重合体(polymer)は「単量体 (monomer)の繰り返し構造を持つ大きな分子」を意味する。
目次
解説
一般的に原子の数が千個程度以上、あるいは分子量が1万程度以上のものは高分子と見なされ、それ以下のものはオリゴマーと呼ばれる。多数の原子を共有結合で連結できる能力をもった元素が骨格(主鎖)となるが、それらは主に炭素やケイ素、酸素などに限られる。しかしほとんどの高分子の主な骨格は炭素を主とした有機化合物であり、炭素以外のものを骨格に持つものは無機高分子と呼ばれる。
高分子は低分子とは異なる特徴的な性質を持ち、特に固体や溶液の力学的、熱力学的特性は低分子のそれとは大きく異なっている。それゆえ高分子物理学、高分子化学といった広範な学問体系を形成するに至る。
高分子の分類
- 有機高分子(主に炭素を骨格とする)
- 無機高分子(ケイ素などを骨格とする)
合成法
分子内にあらかじめ反応点を2つ以上持たせておく方法と、反応中に活性点を連鎖的に発生させる方法がある。 テンプレート:Main
構造
高分子は、単量体(モノマー)がいくつもつながることでできており、単量体同士が結合することを「重合する」と言う。そして単量体が重合してできたものを重合体(ポリマー)と呼ぶ。
1種類の単量体の重合によってできた高分子を単独重合体(ホモポリマー)といい、2種類以上の異なった単量体の重合(共重合)によってできた高分子を共重合体(コポリマー)という。
位置規則性
単量体がアルケンであるビニル重合では、頭-尾結合(head to tail)と頭-頭結合(head to head)の2通りの結合様式が、置換基の立体障害や電子的特性に応じて生じる。これを位置規則性という。一方ラクトンや環状エーテルなどのや環状化合物を単量体とする開環重合では、開裂が起こる場所によって頭-尾結合と頭-頭結合の起こる割合も変わる。
立体規則性
プロピレン等の重合において、重合することによってできた四級炭素は不斉炭素原子であり、重合法によってはこの不斉炭素の絶対配置に規則性が現れる。これを立体規則性(タクティシティー、tacticity)という。すべての不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造をイソタクチック(アイソタクチック)といい、絶対配置が交互に並ぶものをシンジオタクチックという。また、全くランダムになった構造をアタクチックという。立体規則性はNMRを用いることで評価ができる。
チーグラー・ナッタ触媒によって合成されたポリプロピレンはイソタクチックであるが、通常のラジカル重合で合成したポリプロピレンはアタクチック構造である。
幾何異性体
ジエン系モノマーの重合では、1,2-構造、シス 1,4-構造、トランス 1,4-構造といった異性体構造が生じる。
共重合体の構造
共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。 また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、これは幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。
多数の枝からなる樹木状(多分岐高分子)のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、ロタキサン、高分子カテナン、水素結合、静電気力、配位結合のような弱い結合力で結びつけた自己集積型高分子、などの新構造高分子の合成も近年注目されている。
高分子の大きさ
合成高分子の分子量は多分散を示す。つまり合成高分子は、同一の組成は持つが分子量は異なる分子の混合物であり、その分子量は通常、数平均分子量あるいは重量平均分子量で表される。分子量分布は、応用上分子量そのものと同様に重要であり、物性面では通常分子量分布が狭いことが望ましいが、加工の容易さからは分子量分布が広いことが有利になる場合も多く、分子量のみならずその分布も用途に応じて設計する必要がある。平均分子量の算出方法には分子1個あたりの平均の分子量として算出される数平均分子量や、重量に重みをつけて計算した重量平均分子量等がある。重量平均分子量と数平均分子量の比を分散比と呼び、これが1に近いほど分子量分布が狭いことを示す。
生体高分子、天然高分子には、単一の分子量からなる単分散を示すものも多い。
分子量の測定法には以下のものがある。
- クロマトグラフィー法(GPC法)
- GPC(gel permeation chromatography)法とはゲル状の粒子を充填したカラムに高分子の希薄な溶液を流し、分子の大きさによって流出するまでの時間が異なることを利用した分子量の測定法。分子の溶液中での大きさは分子量以外の要因(溶媒との相互作用の強さなど)によっても影響されること、また固定相と被測定高分子との各種の相互作用によっても保持時間は影響を受けることにより、絶対的な分子量の測定はできないが、分子量分布が容易に得られる利点がある。
- 粘度法
- 高分子の溶液の粘度 η が以下のような平均分子量の関数であることを利用した測定法。この方法により求められる平均分子量を粘度平均分子量と言う。
- η = kMα (k および α は高分子に固有の定数)
- 末端基定量法
- 高分子の末端に何らかの官能基が存在する場合には末端基定量法を用いることが可能なことがある。例えば末端がカルボン酸の高分子であれば水酸化ナトリウムなどの塩基で中和滴定を行うことにより、存在する高分子の個数が分かる。これと全体の質量およびモノマーの分子量とから高分子一個あたりの質量、すなわち数平均分子量が分かる。また、近年ではNMRスペクトルの積分比から末端基の割合を測定することが可能である。
- 束一的性質を利用した方法(蒸気圧法・浸透圧法・沸点上昇法)
- 溶液の蒸気圧・浸透圧・沸点がそのモル濃度および質量モル濃度に依存することを利用した測定法。これらの方法により求められる平均分子量は数平均分子量である。
- 光散乱法
- 溶液中の分子に光が衝突すると光の散乱が起こり、散乱強度がその分子の質量に比例することを利用した分析法。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。
- 沈降速度法(超遠心法)
- 大きな重力場の中ではわずかな比重差でも重い粒子が沈むことを利用した分析法。非常に高速で回転する遠心分離機を用い、セル内部の分子の分布状態を光学的に検出することで分子量を測定する。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。
特徴
熱力学的特性
一般に高分子は結晶性領域の結晶融点は単量体よりも高く、また非結晶性の領域にはガラス転移点と呼ばれる擬似相転移温度を有する。特に主鎖に芳香環などが入った分子は、分子間の相互作用が強く融点、ガラス転移点が高くなる。
力学的特性
高分子は分子鎖が長いため液体の力学的特性である粘性と天然ゴムなどで有名な弾性の性質を持つ粘弾性体である。 また、高分子鎖の物性的な差によって屈曲性高分子、剛直性(棒状)高分子、半屈曲性高分子、塊(球)状高分子という分類ができる。
- 屈曲性高分子 - よく曲がる高分子鎖があり、溶液中では糸まり状
- 剛直性(棒状)高分子 - 高分子鎖が直線状であり持続長が長く硬い
- 半屈曲性高分子 - 屈曲性高分子と剛直性高分子の中間
- 塊(球)状高分子 - 球状の橋架け高分子
注目の高分子新材料
- 耐熱性材料
- 液晶高分子
- ポリマーアロイ
- 導電性材料、磁性材料、光機能材料
- 光学材料 - 光ファイバー、光ディスク
- 分離材料、分子認識材料
- 有機エレクトロルミネッセンス
- バイオマテリアル
- 高吸水性高分子
- 高分子ゲル
高分子に関するノーベル賞
- 鎖状高分子化合物の研究(ヘルマン・シュタウディンガー 、1953年)
- 新しい触媒を用いた重合法の開発と基礎的研究(カール・ツィーグラー、ジュリオ・ナッタ、1963年)
- 高分子化学の理論、実験両面にわたる基礎研究(ポール・フローリー、1974年)
- 固相反応によるペプチド合成法の開発(ロバート・メリフィールド、1984年)
- 単純な系の秩序現象を研究するために開発された手法が、より複雑な物質、特に液晶や高分子の研究にも一般化され得ることの発見(ピエール=ジル・ド・ジェンヌ、1991年)
- DNA化学での手法開発への貢献(キャリー・マリス、マイケル・スミス、1993年)
- 導電性高分子の発見とその開発(白川英樹、アラン・ヒーガー、アラン・マクダイアミッド、2000年)
- 生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発(ジョン・フェン、田中耕一、クルト・ヴュートリッヒ、2002年)