電気主任技術者
テンプレート:資格 電気主任技術者(でんきしゅにんぎじゅつしゃ)とは、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、設置者が法律上置かねばならない電気保安のための責任者である。
電気主任技術者の指名に際しては、事業場の規模により、第一種、第二種及び第三種電気主任技術者免状の保有者のうちから選出しなければならない。国家試験が「電気主任技術者試験」と称することから電験(でんけん)あるいは区分呼称をつけて電験何種と略称されることも多い。
目次
概要
電気事業法43条1項では、「事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、経済産業省令で定めるところにより、『主任技術者免状の交付を受けている者』のうちから、『主任技術者』を選任しなければならない。」と定めている。このような保安体制の設置(主任者の選任)義務を課す法律は電気分野以外にも多くあり、そういった体制を維持するために試験等により資格者(予備軍)を確保する仕組みが日本ではよく見られる。そのため、このような資格は実際に選任されなければ法律的には意味がないにもかかわらず、一般に、資格取得自体が技術者としての個人の能力を示すものとして社会的価値を持ち、電気主任技術者免状の場合にはいわゆる《電気検定》としての意義を持っている。なお、電気主任技術者免状を独立した国家資格(免状)として制度化しているのは日本のみである。
自家用電気工作物については、設置者が経済産業大臣の許可を受ければ電気工事士等の資格保有者などを主任技術者として選任することができる(許可選任という)ほか、7000V以下で受電する需要設備等については外部の電気保安法人などに保安業務を委託することによって主任技術者を直接に選任しないこともできる(外部委託承認)。
電気主任技術者制度
沿革
1896年(明治29年)電気事業取締規則(明治29年5月9日逓信令第五号)により初めて主任技術者の制度が取り入れられた。
1911年(明治44年)9月5日に電気事業主任技術者資格検定規則が制定された。
制度の役割
電気主任技術者(を置く、という)制度には、電気の安定供給や保安の確保という目的で、明治時代その制度発足に当たり、電気技術者の地位の安定化という狙いがあった。当初、学識・学歴経験者(認定取得)のみとしていた資格取得要件は、現在、国家試験という形式で誰にでも開かれている。国家試験は誰でも受験でき、学歴や実務経験を必要としない。
電気事業法による電気工作物の保安規制は、昭和39年の法制定以来、累次の改正が行われてきた。平成7年には、技術進歩による安全実態の向上等を踏まえ、自己責任原則を重視した安全規制の合理化等を基本方針とした規制の見直しを行い、さらに平成11年には、官民の役割分担を見直した合理的な電力安全規制システムの構築を目指した改正が行われた。その考え方は、「設置者等が自らの責任に基づく保安確保への取組を主体的に行うこと」、「国の役割はルールの策定とその遵守状況の監視、事後規制の機動的・効果的な発動に重点をおいたものとすること」等とされ、このような自己責任・自主保安を原則とする枠組みの中核として、電気主任技術者の果たすべき役割が、より重要になっているところである。
電気設備を設けている事業主は、工事・保守や運用などの保安の監督者として、電気主任技術者選任が法令で義務づけられている。電気主任技術者になれば受電設備や配線など、電気設備の保安監督という仕事に従事でき社会的評価が高い資格といえる。
電気主任技術者の役割と業務
役割
電気主任技術者は保安規程に基づき事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する監督を行う。
ただし水力発電設備(ダム等)についてはダム水路主任技術者の、火力発電設備及び原子力発電の設備(ボイラ、タービン、原子炉等)並びに燃料電池設備の改質器で最高使用圧力が98kPa以上のものについてはボイラー・タービン主任技術者の監督範囲となり、電気主任技術者の監督範囲からは外れる。
電気事業法・第二款の「自主的な保安」により事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、経済産業省令で定めるところにより、保安を一体的に確保することが必要な事業用電気工作物の組織ごとに保安規程を定めるとなっており、経済産業大臣に届け出なければならない。又、法42条4項により事業用電気工作物を設置する者及びその従業者は、保安規程を守らなければならないとされている。
業務
保安規定には主任技術者の義務が明確に記載され、選任された主任技術者は経済産業省に届出た保安規定の内容に添い、業務を遂行する事となる。
資格区分と選任範囲
電気主任技術者の主任技術者免状には以下の区分があり、それぞれ記載した範囲の電気工作物について電気主任技術者として選任をうけ、電気的設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督ができる。
- 第一種電気主任技術者免状
- すべての電気工作物
- 第二種電気主任技術者免状
- 170,000V未満の電気工作物
- 第三種電気主任技術者免状
- 50,000V未満の電気工作物(出力5,000kW以上の発電所を除く)
資格取得方法
試験
一般財団法人電気技術者試験センターが電気主任技術者試験を全国で年1回実施する。第三種及び第一種又は第二種と併願も可能である。
受験資格
試験科目及び出題範囲
- 第一種、第二種
- 一次試験4科目(理論、電力、機械、法規)
- 二次試験2科目(電力・管理、機械・制御)
- 第三種
- 一次試験4科目(理論、電力、機械、法規)
- 出題範囲
- 理論 電気理論、電子理論、電気計測及び電子計測
- 電力 発電所及び変電所の設計及び運転、送電線路及び配電線路(屋内配線を含む。)の設計及び運用並びに電気材料
- 機械 電気機器、パワーエレクトロニクス、電動機応用、照明、電熱、電気化学、電気加工、自動制御、メカトロニクス並びに電力システムに関する情報伝送及び処理
- 法規 電気法規(保安に関するものに限る。)及び電気施設管理
- 電力・管理 発電所及び変電所の設計及び運転、送電線路及び配電線路(屋内配線を含む。)の設計及び運用並びに電気施設管理
- 機械・制御 電気機器、パワーエレクトロニクス、自動制御及びメカトロニクス
願書申込み受付期間
- 5月下旬~6月中旬頃まで
試験日程
- 第一種
- 一次試験 9月上旬頃
- 二次試験 11月下旬頃
- 第二種
- 一次試験 9月上旬頃
- 二次試験 11月下旬頃
- 第三種
- 一次試験 9月上旬頃
受験地
- 札幌市、仙台市、名取市、山形市、新潟市、水戸市、川越市、さいたま市、千葉市、東京都豊島区、東京都新宿区、東京都千代田区、東京都目黒区、東京都世田谷区、東京都武蔵野市、横浜市、相模原市、岐阜県大垣市、静岡市、名古屋市、津市、石川県野々市市、滋賀県彦根市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、島根県松江市、広島市、高松市、松山市、福岡市南区、福岡市城南区、長崎市、熊本市、別府市、那覇市
受験料
- 第一種
- 郵送申込み:12,800円
- インターネット申込み:12,400円
- 第二種
- 郵送申込み:12,800円
- インターネット申込み:12,400円
- 第三種
- 郵送申込み:5,200円
- インターネット申込み:4,850円
合格発表日
- 第一種・第二種
- 一次試験 10月中旬頃
- 二次試験 2月上旬頃
- 第三種
- 一次試験 10月下旬頃
試験の受験者数・合格率等
下表は、財団法人電気技術者試験センター(当時)が発表した資料を元に、合格率を計算したものである。平成7年度以降は科目合格保留制度があるため、合格率は参考であることに注意されたい。
年度 | 一次試験 | 二次試験 | 一次 × 二次合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | ||
1997(平成9) | 901 | 272 | 30.2% | 428 | 126 | 29.4% | 8.9% |
1998(平成10) | 1,108 | 259 | 23.4% | 432 | 72 | 16.7% | 3.9% |
1999(平成11) | 1,261 | 335 | 26.6% | 515 | 47 | 9.1% | 2.4% |
2000(平成12) | 1,285 | 398 | 31.0% | 638 | 129 | 20.2% | 6.3% |
2001(平成13) | 1,328 | 327 | 24.6% | 591 | 75 | 12.7% | 3.1% |
2002(平成14) | 1,389 | 332 | 23.9% | 566 | 53 | 9.4% | 2.2% |
2003(平成15) | 1,590 | 443 | 27.9% | 685 | 81 | 11.8% | 3.3% |
2004(平成16) | 1,627 | 381 | 23.4% | 694 | 49 | 7.1% | 1.7% |
2005(平成17) | 1,666 | 219 | 13.1% | 524 | 66 | 12.6% | 1.7% |
2006(平成18) | 1,755 | 234 | 13.3% | 374 | 41 | 11.0% | 1.5% |
2007(平成19) | 1,651 | 314 | 19.0% | 481 | 43 | 8.9% | 1.7% |
2008(平成20) | 1,617 | 353 | 21.8% | 593 | 118 | 19.9% | 4.3% |
2009(平成21) | 1,721 | 368 | 21.4% | 608 | 68 | 11.2% | 2.4% |
2010(平成22) | 1,715 | 417 | 24.3% | 680 | 132 | 19.4% | 4.7% |
2011(平成23) | 1,632 | 441 | 27.0% | 707 | 60 | 8.5% | 2.3% |
2012(平成24) | 1,627 | 371 | 22.8% | 699 | 68 | 9.7% | 2.2% |
2013(平成25) | - | - | - | - | - | - | - |
年度 | 一次試験 | 二次試験 | 一次 × 二次合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | ||
1997(平成09) | 5,078 | 1,666 | 32.8% | 2,331 | 603 | 25.9% | 8.5% |
1998(平成10) | 5,704 | 1,944 | 34.1% | 2,807 | 440 | 15.7% | 5.4% |
1999(平成11) | 6,010 | 2,026 | 33.7% | 3,169 | 367 | 11.6% | 3.9% |
2000(平成12) | 6,339 | 1,837 | 29.0% | 3,127 | 476 | 15.2% | 4.4% |
2001(平成13) | 6,889 | 1,931 | 28.0% | 3,023 | 370 | 12.2% | 3.4% |
2002(平成14) | 7,405 | 1,855 | 25.1% | 2,993 | 641 | 21.4% | 5.4% |
2003(平成15) | 7,772 | 1,769 | 22.8% | 2,731 | 480 | 17.6% | 4.0% |
2004(平成16) | 7,536 | 1,777 | 23.6% | 2,702[1] | 303[1] | 11.2% | 2.6% |
2005(平成17) | 7,127 | 1,581 | 22.2% | 2,551 | 545 | 21.4% | 4.8% |
2006(平成18) | 7,038 | 1,523 | 21.6% | 2,285 | 295 | 12.9% | 2.8% |
2007(平成19) | 6,832 | 1,222 | 17.9% | 2,156 | 245 | 11.4% | 2.0% |
2008(平成20) | 6,693 | 1,572 | 23.5% | 2,251 | 675 | 30.0% | 7.1% |
2009(平成21) | 6,743 | 1,805 | 26.8% | 2,490 | 255 | 10.2% | 2.7% |
2010(平成22) | 6,786 | 1,549 | 22.8% | 2,636 | 411 | 15.6% | 3.6% |
2011(平成23) | 6,659 | 1,047 | 15.7% | 1,942 | 219 | 11.3% | 1.8% |
2012(平成24) | 7,034 | 1,748 | 24.9% | 2,249 | 304 | 13.5% | 3.4% |
2013(平成25) | - | - | - | - | - | - | - |
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電気主任技術者試験委員会委員
毎年、国家試験の終了後に、試験問題の作成等に関わった電気主任技術者試験委員会委員が公開されている[2]。 委員には、大学教員、電気保安法人関係者、電力会社関係者、電機機器メーカー社員、業界団体関係者、工業高校教員(三種)などが就任している。
認定
工業高校電気科や大学の工学部電気工学科などの認定校において単位を取得して卒業し、法令に定められた実務経験を積めば、国家試験や講習を受けることなく免状を取得できる認定制度がある。資格審査は実務経験年数と単位取得数にもとづき経済産業省によって行われる。
- 第一種電気主任技術者
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)による大学(短期大学を除く。以下同じ。)若しくはこれと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業(大学院においては修了。以下同じ)した者
- 1に掲げる者以外の者であって、第2種電気主任技術者免状の交付を受けている者
- 電圧5万ボルト以上の電気工作物の工事、維持又は運用の実務経験を必要とし、学歴取得の場合は卒業前の経験年数の2分の1と卒業後の経験年数との和が5年以上、第2種電気主任技術者免状による取得は交付を受けた後5年以上の実務経験を必要とする。
- 第二種電気主任技術者
- 学校教育法による大学若しくはこれと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 学校教育法による短期大学若しくは高等専門学校又はこれらと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 1及び2に掲げる者以外の者であって第3種電気主任技術者免状の交付を受けている者
- 電圧1万ボルト以上の電気工作物の工事、維持又は運用の実務経験を必要とし、学歴取得の場合は卒業前の経験年数の2分の1と卒業後の経験年数との和が上記1の場合は3年・上記2の場合は5年以上の、第3種電気主任技術者免状による取得は交付を受けた後5年以上実務経験を必要とする。
- 第三種電気主任技術者
- 学校教育法による大学若しくはこれと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 学校教育法による短期大学若しくは高等専門学校又はこれらと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 学校教育法による高等学校又はこれと同等以上の教育施設であって、通商産業大臣の認定を受けたものの電気工学に関する学科において、第7条第1項各号の科目を修めて卒業した者
- 電圧500ボルト以上の電気工作物の工事、維持又は運用の実務経験を必要とし、学歴取得の場合は卒業前の経験年数の2分の1と卒業後の経験年数との和が上記1の場合は1年・上記2の場合は2年以上・上記3の場合は3年以上の実務経験を必要とする。
認定制度においては、免状交付申請の際、実務経歴証明書の内容に虚偽の記載がされる場合もあり[3]、適正な審査が求められる。
他資格の受験資格等
電気主任技術者の資格保有者が受験(受講)可能、または、免除される他の資格試験(科目)
- 弁理士(二次・選択科目免除) - 一種・二種
- 建築設備士(受験資格) - 実務経験2年必要、建築設備士の実務経験4年で一級建築士試験の受験も可能
- 建築物環境衛生管理技術者(受講資格) - 一種・二種は実務経験1年、三種は実務経験2年
- 第一種電気工事士(資格取得) - 免状交付後の実務経験5年で申請による取得可
- 第一種・第二種電気工事士(筆記試験免除) - 試験による取得の場合
- 認定電気工事従事者(受講資格)
- 1級電気工事施工管理技士(受験資格) - 実務経験6年
- 2級電気工事施工管理技士(受験資格) - 実務経験1年
- 甲種消防設備士(受験資格、試験の一部免除)
- 消防設備点検資格者(受講資格)
- 職業訓練指導員 (送配電科) ・ 職業訓練指導員 (電気科)(受験資格)
- 海上自衛隊技術海曹(受験資格) - 三種
- 予備自衛官補技能公募部門(受験資格) - 一種、二種、三種
- 労働安全コンサルタント(受験資格、試験の一部免除) - 一種
脚注
- ↑ 1.0 1.1 2005(平成17)年3月27日に実施した中越地震に伴う追加試験による受験者及び合格者を含む。
- ↑ 電気主任技術者試験委員会委員の公表について(一般財団法人電気技術者試験センター)
- ↑ 電気主任技術者免状交付申請について(関東東北産業保安監督部)