防衛出動
テンプレート:Ambox 防衛出動(ぼうえいしゅつどう)とは、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、日本を防衛するため必要があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、自衛隊の一部または全部が出動すること。自衛隊法第6章「自衛隊の行動」のうち第76条に規定されている。一種の軍事行動と解される。ただし、戦時国際法上の宣戦布告には該当せず、自衛権を行使することはできても、交戦権は認められない。
概要
防衛出動は、自衛権行使の一態様であり、現行法で最もハイレベルの防衛行動とされる。防衛出動には国会の承認が求められるなど、様々な制約がある反面、武力攻撃を排除するため、自衛権に基づき必要な「武力の行使」が認められ、多くの権限が定められるなど、内閣総理大臣の指揮監督の下、自衛隊の幅広い活動を可能にする。日本国憲法下において過去に防衛出動が行われたことは一度もない。
自衛隊法には、「第6章:自衛隊の行動」として、この他、治安出動、施設等の警護出動、海上における警備行動、海賊対処行動、弾道ミサイル等に対する破壊措置、災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣、領空侵犯に対する措置などが第76条から第82条にかけて定められている。
これら、防衛出動以外の自衛隊の行動と防衛出動の大きな違いは、「武力の行使」にある。防衛出動時には、自衛隊法88条に基づき、出動自衛隊は「わが国を防衛するため、必要な武力を行使」することができる。これに対して、防衛出動以外の行動においては、自衛隊は警察官職務執行法を準用した「武器の使用」が認められるにとどまる。これは、防衛出動以外の行動は、「軍服を着た警察官」としての行動であるのに対して、防衛出動は侵略行為への対処が目的であることによる。
防衛出動の特徴
- 国会の承認
- 内閣総理大臣が防衛出動を命じるに当たっては、武力攻撃事態法9条に基づき、国会の承認を得なければならない。この国会の承認は、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合を除き、事前に得なければならない。また、不承認の議決があったときは、内閣総理大臣は、防衛出動を命じた自衛隊に、直ちに撤収を命じなければならない。
- 武力の行使
- 防衛出動を命ぜられた自衛隊は、日本国を防衛するため、必要な武力を行使することができる[1]。なお、その際、国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとされている[2]。なお、政府からの武力行使命令がない限り、任意での交戦は、殺人罪に問われる。
- 公共の秩序の維持
- 防衛出動を命ぜられた自衛隊は、自衛隊法88条の規定により武力を行使するほか、必要に応じ、公共の秩序を維持するため行動することができる[3]。この公共の秩序の維持に当たっては、警察官職務執行法が準用される。
- 物資の収用等
- 防衛出動時における物資の収用など、任務遂行するために必要な権限については、自衛隊法(103条以下)に詳細に定められる。
- 防衛出動待機命令
- 防衛大臣は、事態が緊迫し、防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、これに対処するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる[4]。また、防衛大臣は、防衛出動を命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域(展開予定地域)があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設(防御施設)を構築する措置を命ずることができる[5]。
- 海上保安庁の統制
- 内閣総理大臣は、防衛出動を命じた場合、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部をその統制下に入れることができる[6]。このとき、統制下に入れた海上保安庁は、防衛大臣に指揮させるが[7]、防衛大臣の海上保安庁の全部又は一部に対する指揮は、海上保安庁長官に対して行うものとされている[8]。
- アメリカ軍への役務の提供
- 捕虜等の取り扱い
- 防衛出動下令時における捕虜等の取り扱いは、武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律に基づき、ジュネーヴ条約に則って行われる。
- 防衛出動を命ぜられた自衛隊の自衛官(出動自衛官)は、武力攻撃が発生した事態において、服装、所持品の形状、周囲の状況その他の事情に照らし、抑留対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由がある者があるときは、これを拘束することができる[10]。