貧酸素水塊

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貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)とは、水中溶存酸素量が極めて不足している孤立した水塊、あるいはこのような水塊の占める水域のこと。これらの移動により、海中あるいは海底に生息する生物の大量死が発生し、漁業養殖業といった水産業において壊滅的な打撃をもたらすことがある。

閉鎖的な内湾(東京湾伊勢湾三河湾大阪湾など)でよく発生する。

貧酸素水塊の形成

海底に存在する急峻な窪みや、閉鎖的な内湾では一般的に水の流れが滞りやすい、また、夏季に成層(躍層(やくそう)とも。特にこの場合温度の違いにより形成されるため水温躍層と呼ぶ)が発達すると、表層の海水と底層の海水との密度差が大きくなり、上下の混合(鉛直混合)が起こりにくくなる。底層ではプランクトンの死骸など(有機物)が堆積し、その分解が盛んに行われるため、酸素が消費される。結果として、水流の滞った海底付近では極めて溶存酸素量の少ない貧酸素水塊が形成される。そこではさらに、酸素のまったく無い状態でも代謝を行う嫌気性細菌(ここでは硫酸塩還元細菌など)が、プランクトンの死骸に含まれる硫黄分や海水中の硫酸イオン還元し多量の硫化水素あるいは硫化物イオンを生成し、これが海水に付与されるようになる。また、過剰に生成した硫化水素は水面に気泡として上昇してくることもあり、この状態になると、海上でも硫化水素特有の卵の腐ったような臭気が感じられるようになる。くわえて、硫化水素と底質(水底を構成する堆積物や岩のこと)との反応により生成する硫化物もかなり集積し、淡青色を呈するようになる。

条件にもよるが、海水と淡水の接する水域では、鉛直方向に塩分濃度の違いに基づく成層構造が形成されることがあり、これも鉛直混合を抑制する原因となることがある。このような躍層を塩分躍層と呼ぶ。

貧酸素水海中の海水を貧酸素水と呼ぶ。なお、完全に酸素が消費され尽くしたものは無酸素水無酸素水塊と呼び区別されることもある。

移動

このように形成された貧酸素水塊は、強い風や潮の流れの変化などに伴い海面付近に上昇してくる(湧昇)ことがあり、この場合、海中あるいは(主に浅瀬を中心とした)海底に生息する生物の大量死をもたらすことになる。なお、このように海面に現れた貧酸素水塊の中では、そこに含まれる硫化物が海面からの酸素供給あるいは酸素を含む海水との混合により酸化されて白色の結晶(硫黄と考えられる)を生じ、海面が乳青色を呈することから通常青潮(主に東京湾で使われる呼称)と呼ばれ、また、硫化水素の臭気から苦潮(主に三河湾)とも呼ばれる。ただし、これらの呼称はいずれも海水の性状に基づくため、特定の条件下で発生する赤潮をさす場合もある。

なお、青潮における呈色の原因からも分かるように、青潮と貧酸素水塊は必ずしも完全には一致しない。

被害発生の状況

貧酸素水塊中では、生物が生存できない程に溶存酸素が不足しているため、この中では多くの酸素呼吸を行う魚介類や底生生物が窒息死する。また、貧酸素水塊に含まれる硫化物も強い毒性を持っているため、これも大量死の原因となる。

要因

すでに述べたように、海底の地形や潮の流れが大きく影響する。また、生活廃水や工場廃水の流入によってもたらされる、海水中の窒素分やリン分の増加、すなわち、海水の富栄養化有機汚染は植物性プランクトンの大量発生をもたらし、結果的に貧酸素水塊の形成を促進する。

対策

  • 曝気・エアレーション・マイクロバブル
  • エアカーテンによる青潮遮断
  • 浚渫によるヘドロの除去(浚渫窪地により貧酸素水塊が生まれることもあり、逆効果の場合もある)
  • 底質の被覆(覆砂など)
  • 植生浄化

関連項目

外部リンク

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