虎の尾を踏む男達
テンプレート:出典の明記 テンプレート:Infobox Film 『虎の尾を踏む男達』(とらのおをふむおとこたち、英題:The Men Who Tread on the Tiger's Tail)は、1945年に東宝により製作された日本の映画。白黒。一般に「長い」という印象のある黒澤映画だが、上映時間59分は黒澤映画の最短記録である。
概要
能「安宅」と歌舞伎「勧進帳」[1]を題材に作った、黒澤明初の時代劇。内容は二作品とほぼ変わらないが、オリジナルとして義経一行の道案内をする小うるさい強力(荷運びの下男)が狂言回しとして登場する。このキャラクターに、当時人気絶頂だったコメディアンの榎本健一(エノケン)を起用、大河内傳次郎の重々しい演技が象徴する義経一行の悲壮感の中にあって落語調の滑稽味を加えて退屈させない仕上がりになっている。また、能の地謡にあたる部分を洋楽のコーラス風にアレンジしており、ミュージカルとしてもパロディーとしても十分鑑賞に耐えうる作品となっている。
制作事情
企画時は太平洋戦争末期にあたり、軍部の検閲やフィルムなどの消耗品の統制も厳しくなっていた。はじめ桶狭間の戦いをモチーフにした『どっこいこの槍』に取り掛かっていたが、多くの馬を用いるため立ち消えとなり、それでは、「映像・内容ともに簡単な(シーンが3つしか無い)この作品から撮ろう」という理由から本作の撮影が開始された。撮影所の裏山で撮影された。
撮影中に終戦となったため、クランクアップの頃は進駐軍の軍人が撮影現場を見物に訪れる事があり、記念撮影をしたがる彼らのために撮影が滞る事も度々であった。
なお、撮影を見物に来ていた軍人の中には映画監督のジョン・フォードもおり、後年フォードと会った際に本人からその事を教えられた黒澤は大いに驚いたと言う。
しかし戦後も形式的には残っていた日本の検閲官がこの作品に対し、「日本の古典的芸能である歌舞伎の『勧進帳』の改悪であり、それを愚弄するものだ」「とにかくこの作品はくだらんよ」と言いがかりをつけ、黒澤は激怒し、「くだらん奴が、くだらんという事は、くだらんものではない証拠で、つまらん奴がつまらんという事は、大変面白いという事でしょう」と反論した。そのため検閲官は撮影中の日本映画の報告書からこの作品を削除し、「未報告の非合法作品」として封じられたが、それより3年後、GHQの映画部門の担当官が、その映画を面白がり、上映禁止を解除した[2]。上映がGHQ指令により遅れたという説があるが、本作の初上映はサンフランシスコ講和条約締結効力発生の1952年4月28日より4日早い1952年4月24日である。
製作が大戦末期であることを考慮すると、義経一行が関所を抜ける時の「虎の尾を踏み毒蛇の口を逃るる心地」という謡は、これから通り抜けねばならない「敗戦」という難関を目前に控えた黒澤らの緊張感の表現と見られなくもない。
ストーリー
キャスト
- 弁慶:大河内傳次郎
- 富樫:藤田進
- 強力:榎本健一
- 亀井:森雅之
- 片岡:志村喬
- 伊勢:河野秋武
- 駿河:小杉義男
- 常陸坊:横尾泥海男
- 義経:仁科周芳(十代目岩井半四郎)
- 梶原の使者:久松保夫
- 富樫の使者:清川荘司