英語学

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テンプレート:出典の明記 テンプレート:特殊文字 テンプレート:Sidebar with heading backgrounds 英語学(えいごがく)とは、現代言語学の研究成果を用いて英語を客観的に記述する学問のことである。すなわち、無意識的に話している(すでに知っている)英語にどんな規則や構造があるのかを解明し、理論的に説明するのが目的である。よって、意識的に学ばなければいけない児童・生徒・学生を対象とした規範的な英語教育の質向上のための学問ではない。

英語の特徴

音声・音韻学

発音

子音

英語の子音のIPA表は以下のようになる。

両唇音 両唇軟口蓋音 唇歯音 歯音 歯茎音 後部歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
破裂音 p b       t d     k g  
破擦音           tʃ dʒ      
鼻音   m         n       ŋ  
摩擦音     f v θ ð s z ʃ ʒ     h  
接近音     ʍ w       ɹ     j    
側面接近音     l        

母音

英語の母音三角形は以下のようになる。

前舌 中舌 後舌
i         u
ɪ     ʊ
半狭 e         o
ə
半広 ɛ   ɜ     ɔ
æ    
a   ɑ ɒ
  • 上記の表中の国際音声記号の/ɜ/の音は、英語学の慣習上は/ʌ/と表記される(例:but /bʌt/)。また国際音声記号で/äː/の音は/ɑː/と表記される(例:father /fɑːðə(r)/)。
  • 短音の/ɔ/は、イギリスでは/ɒ/へ、北米では/ɑ/へ変化していることが多い[1]
  • 英語では、母音音素が複数集まって1つの音素として識別される場合が多々ある。
  • 現代英語においては、「母音の長さ」すなわち長母音(long vowels)と短母音(short vowels)と呼ばれている母音の区別に対してある程度特殊な認識・概念を持っている。それは通常の音声学及び多くの言語(日本語を含む)とは異なっている場合がある。
    • 英語話者にとっては、通常の音声学における母音の長さ(すなわち単純に短く発音されるか長く延ばして発音されるか)は異なる音として認識されない。長音記号における /ː/ も認識される音に区別を付ける意味を持たない。長音には/iː/, /uː/, /ɔː/などがある。
    • 英語のフォニックスにおいてもこの区別を「長短(long/short)」と呼び表す。
  • 現代英語における「母音の長短」の認識の区別は以下の表に示された音の区別を指す。短母音は、必ず後ろに子音を伴う。長母音はその母音字のアルファベットの読み方に等しい。表には r の続く場合(r 音性)も付しておく。
a e i o u oo
短音で発音 /æ/ /e/ /ɪ/ /ɒ/ /ʌ/ /ʊ/
短音 + r で発音 /ær/ /ər/ /ər/ /ɒr/ /ər/ /ʊr/
長音で発音 /eɪ/ /iː/ /aɪ/ /əʊ/ /juː/ * /uː/
長音 + r で発音 /eər/ /ɪər/ /aɪər/ /ɒr/ /jʊər/ * /ʊər/

( *ただし l や r に続く場合などの長音の u (+r) については、基本的に /uː/(もしくは /ʊə(r)/)と発音され、/j/は発音から除かれる)

  • 長母音・短母音の区別[2]は、綴り字とほぼ規則的関係を持つ(→フォニックス)。長母音・短母音は単に同じ母音字が異なって発音されるだけではなく、一定の条件の下で転換可能である。
    • direction(長短どちらでも発音される)
    • bathe(動詞) ↔ bath(名詞)
    • hide(不定形) ↔ hid(過去形)
  • w(もしくは qu )に続く短母音字について、wa は w + o、wo は w + u のように発音され、war は w + or、wor は w + ur のように発音される。
  • シュワー(曖昧母音)は日本語のアに近い音に聞こえることが多いが、そうではなく母音弱化したもので、アクセントの無い/ə/で表される。アクセントの来ない音節の核は曖昧母音になる。/m, n, l, r/が曖昧母音に続く場合、曖昧母音が脱落しそれに続く子音が音節主音化することがある。R の場合は、イギリスでは曖昧母音で発音される。単語の中には品詞によって曖昧母音を用いる区別を持つものがある。
    • 例:estimate /éstəmèit/(動詞) ↔ estimate /éstəmət/(名詞)

アクセント

日本語などは高低アクセント (en:Pitch accent) の言語であるが、英語は典型的な強弱アクセント (en:Lexical stress)の言語である。

音節

日本語は開音節言語母音が中心)であるが、英語は閉音節言語子音が中心)である。音節構造は、[Onset 開始部 + [Nucleus 音調核 (+ Coda 終結部)のようになっている。[音調核+終結部]の部分をという。

韻(rhyme)は英語詩できわめて一般的で、ポピュラー音楽の歌詞を含めてほとんど例外なく韻を踏んでいる。例えば、以下はエリック・クラプトンの "Wonderful tonight" の1番である(Copyright 1977 Eric Clapton)。

It's late in the evening.
She's wondering what clothes to wear.
She puts on her make-up and brushes her long blond hair.
And then she asks me, "Do I look all right?"
And I say, "Yes, you look wonderful tonight."

太字の部分の発音が〜airと〜iteというペアになっている。

形態論

形態素

造語

活用

  • 異音 (Allophone)
    • 補足的分布 (complementary distribution)
      • "books", "bags", "resources"は、語尾の発音が [s], [z], [Iz] とまったく異なるが、すべて複数形と認知される。
    • 自由変異 (free variation)
    • 対照的分布 (contrastive distribution)
  • 異形態 (Allomorph)
    • "looked", "saw", "put"は、活用の仕方がまったく異なるが、すべて過去形 (Past tense)と認知される。

統語論

変形生成文法

品詞

生成文法

語彙目録 (lexicon) にある各品詞が句構造規則 (Phrase Structure Rules) に従って線上に並び文法的に正しい文が生成される(言語には構造がある)。各文の構造の分解には、通常樹形図(階層的構造)が用いられる(紙面が限られている場合、[ ]で単語をくくっていくこともある)。θ理論によって述語が持てる項 (argument) の数、項と述語の関係(意味役割)が規制される。以上の過程を経て、文法的にも意味的にも母語話者によって容認されうる文が生成される。

  • 句構造規則 (Carnie 2002: 57) – 言語はいかに線的(一列に並ぶ)かがわかる。
    • S' → (C) S
    • S → {NP/S'} (T) VP
    • VP → (AP+) V (AP+) ({NP/S'}) (AP+) (PP+) (AP+)
    • NP → (D) (AP+) N (PP+)
    • PP → P (NP)
    • AP → (AP) A
    • XP → XP conj XP
    • X→ X conj X
    • X = S', S, V, N, P or A
    • ( )は必須でないことをあらわしている。
    • + は反復を表している。
    • 主語はSのNP
    • 文の対格(直接目的語)はVPのNP
    • 'は「バー」と読む。
  • 構成素 (constituent) 検査 - 後に、Xバー理論で生きてくる。
    • 置き換え検査
    • 問いかけ検査
    • 移動検査
    • 接続検査
  • 束縛理論 (Binding Theory) - 後に、意味役割理論(θ理論)に置き換えられる。
  • Xバー理論 (X-bar Theory)
    • 指定部 Specifier - YP
    • 付加部 Adjunct - ZP
    • 補部 Complement - WP
    • 限定詞句 DP - DP → D'; D' → D NP
    • 補文 CP(S'に代わる指標)CP → C'; C' → C TP
    • 時制句 TP(Sに代わる指標)TP → DP(主語)T'; T' → T VP
    • X' = 中間投射(Xは変数;N, A, P, D, V, T, Cのいずれか)
    • θ基準
      • 述語 (Predicate)
      • 意味役割(動作主、非動作主、道具、主題、経験主、源泉、受取人)
    • 拡大投射原理 (EPP) - これによって、仮主語や天候の「it」(虚辞)がなぜ現れるかが証明される。また、これによって英語では必ず主語(TPの特定詞句)の位置に何かが音声的に表出することが義務付けられる。

変形文法

端的にいうと、文は必ずD構造が変形したS構造であるという文法理論。名詞(句)や動詞(句)が句構造規則の枠組みを超えて上下に移動することを説明する理論。

  • 疑問文
    • do-support (e.g., He speaks Japanese. → Does he speak Japanese?) – かなり特殊な現象といえる。古い時代には、Speaks he Japanese? のような語順で話していた。
    • 主語動詞の倒置 (e.g., She is Japanese. → Is she Japanese?)
    • 疑問詞 (wh-) の移動 (e.g., Taro lives in Tokyo. → Where does Taro live?)
  • 名詞句の移動
    • 受動態 (e.g., My mother called me. → I was called by my mother.)

脚注

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関連項目

関連書籍

  • Carnie, Andrew (2002), Syntax, Blackwell. (ISBN 0631225447)
  • 中島 平三 (1995)『ファンダメンタル 英語学』ひつじ書房 (ISBN 4938669552)
  • ...小野隆啓編著(2004)『英語の構造〜その奥に潜む原理』金星堂
  • 吉田 孝夫、中田 康行(編)(1997)『英語学の基礎』晃洋書房 (ISBN 4771009449)
  • 大槻 博、山本 伸也、平嶋 順子 (2001)『英語の構造と背景』燃焼社 (ISBN 4889780092)
  • 奥田 隆一 (1999)『英語観察学』鷹書房弓プレス (ISBN 4803404453)
  • 安藤 貞雄、沢田 治美(編)(2001)『英語学入門』開拓社 (ISBN 4758923035)
  • 影山 太郎、日比谷 潤子、Brent de Chene (2003) First Steps in English Linguistics くろしお出版 (ISBN 4874242774)
  • 江川 泰一郎 (1991)『英文法解説』改訂3版;金子書房 (ISBN 4760820094)
  • 浅田 寿男 (1997)『英語学講義』新版;大学教育出版 (ISBN 4887302266)
  • 稲木 昭子、堀田 知子、沖田 知子 (2002)『新 えいご・エイゴ・英語学』第2版;松柏社 (ISBN 4775400045)
  • 綿貫 陽、須貝 猛敏、宮川 幸久、高松 尚弘 (2000)『ロイヤル英文法』改訂新版;旺文社 (ISBN 4010312785)
  • 藤井 健夫、大島 新(編)(1999)『ことばの世界』改訂第2版;大阪教育図書 (ISBN 4271116653)
  • 西光 義弘(編) (1999)『日英語対照による英語学概論』増補版;くろしお出版 (ISBN 4874241697)
  • 鈴木 寛次 (1996)『英語の本質』郁文堂 (ISBN 4261072157)
  • 長谷川 瑞穂、脇山 怜(編)(1998)『英語総合研究』改訂版、研究社出版 (ISBN 4327401196)
  • 上野義和、森山智浩、福森雅史、李潤玉(2006)『英語教師のための効果的語彙指導法 —認知言語学的アプローチ—』英宝社 (ISBN 4269660007)
  • 日本語にはこの/ɒ/や/ɑ/に相当する音は無いが、日本人には「オ」もしくは「ア」のように聞こえる。
  • 米国では、長母音・短母音の区別を幼稚園から小学校低学年の段階で学習する。