竜騎兵
竜騎兵(りゅうきへい)は、近世ヨーロッパにおける兵科の一つ。英語のドラグーン(dragoon)を訳したもので、ドラグーンの語源は以下の通りいくつかあり、定説はない。
- 「火器(dragon=火を吐くもの)を装備する兵士」から
- ルネサンス期に使用されていた手持ち火縄銃(ハンドガン。拳銃の祖先)から
- 銃を体に固定するのに使ったベルトから
一般にはドラグーン・マスケット(小型のマスケット銃)やカービンなどの火器で武装した騎兵を指すが、その詳しい定義は国や時代により様々である。
小銃の他にサーベルやピストルも携帯し、飾りのついたヘルメットを被り胸甲は付けなかった。
歴史
竜騎兵の起源は16世紀後半に遡る。このころ竜騎兵は騎兵科ではなく、馬に乗って戦場を移動する乗馬歩兵であった。従って戦闘は下馬して行うのが普通で、馬は拠点確保や退却用に乗るためのものであり、騎乗したまま戦う事は無く、"竜騎兵"という和訳語は、字義的には矛盾している。
しかし18世紀中頃になると竜騎兵達は滅多に下馬しなくなっており、もっぱら騎乗兵として運用されるようになっていた。この頃から乗馬歩兵という本来の定義は曖昧なものになり、各国の事情により竜騎兵は様々な用いられ方をされている。例えば、胸甲騎兵の少なかったプロイセンやオーストリアでは、竜騎兵は主に重騎兵として使われたし、逆に強力な胸甲騎兵やカラビニエ騎兵を持つロシアやフランスでは、竜騎兵は猟騎兵やユサールなどの様に軽騎兵として扱われていた。またイギリスでは軽騎兵として扱う軽竜騎兵(Light Dragoons)、重騎兵として扱う重竜騎兵(Heavy Dragoons)の両方が存在していた。
竜騎兵は当時のヨーロッパでは男の子の憧れの職業であり、強い男の代名詞ともされた。例えば歌劇カルメンに登場するドン・ホセの職業は竜騎兵である。また、三銃士における銃士は竜騎兵の一種である。
20世紀中期以降には騎兵それ自体が廃れてしまったため、現在は本来の意味での竜騎兵は存在しない。しかしながら各国の最前線部隊である戦車部隊や空挺部隊等で、その勇ましい伝統を継承する目的から「竜騎兵連隊」などを名乗る例が見られる。
なお、日本に伝わるもので竜騎兵に近いものとして、戦国時代末期に伊達政宗が大坂の陣で使用したとされる騎馬鉄砲隊が挙げられる。
日本の創作におけるドラグーンという言葉の使われ方
現代の日本のファンタジー系の小説やゲームでは、ドラゴンに乗って戦う騎士のことをドラグーンと呼んでいることがあるが、本来は「ドラグーン」及びその訳語の「竜騎兵」という名詞は前述のように「火器を装備する騎乗兵」を指すものであり、「竜に騎乗する者」という意味は含んでいない。そのためこの呼称はとりようによっては誤用であり、日本でのみ通用する用い方である(ただしそれらの作品を英語圏へ輸出する際にそのままdragoonという呼称が使われる事があるので、日本ではそう呼んでいるという事情が全く知られていないというわけでもない。en:Final Fantasy character classes#Dragoonを参照)。ちなみに英語圏において竜に騎乗する者の事は単にドラゴン・ライダー(dragon rider)やドラゴン・ナイト(dragon knight)などと呼ぶのが一般的であり、ドラグーンと呼称する事は珍しい。
なお「竜に騎乗し、なおかつ火器を装備した兵」という存在が登場する作品もあり、そのような存在ならばドラグーンと呼んでも一概に誤用とは言えない。
関連項目
竜騎兵に関連する創作作品
- 阿呆物語 - グリンメルスハウゼンの小説。主人公は竜騎兵である。
- 龍騎兵 - 青木基行の小説
- 灼熱の竜騎兵 - 田中芳樹の小説。
- 魔術士オーフェン - 秋田禎信の小説。銃を帯びた非公式的存在な軽騎兵ドラグーンが登場する。鳩の品種の一つであるドラグーン(en:Dragoon (pigeon)を参照)の意味も含んでおり「凶暴であり、鳩のように紛れ込む」と評されている。
- パンツァードラグーン - セガ、セガサターン用ゲームソフト。竜に騎乗し火器を装備した存在が主人公。
- 戦国大戦 - セガ、トレーディングカードアーケードゲーム。伊達家の騎馬鉄砲隊を「竜騎馬隊」と表記している。