神武 (漫画)
テンプレート:Sidebar with collapsible lists 『神武』(じんむ)は、安彦良和による全編描き下ろしの漫画作品。『ナムジ』の続編で、1992年から1995年にかけ徳間書店で刊行された。
八咫烏のモデルとされるツノミ(賀茂建角身命)を主人公とし、仮説や創作をふんだんに取り込んで神武天皇の東征を描く歴史作品。『古事記巻之二』という副題が付けられており、『ナムジ』に始まる一連の歴史作品の一つに位置づけられている。『ナムジ』の登場人物も多く再登場する。
初版の徳間書店(全5巻)の他に、中央公論新社で簡易装丁版(全4巻)が、中公文庫コミック(1997年)と、コンビニコミック版(2003-04年)で出されている。
あらすじ
『ナムジ』の世界以降、邪馬台国は依然日向の地にあり、なお壮健さを保つヒミコによって統治されている。南方の球磨族・曽於族(熊襲)との勢力争いは微妙な状況にある。大和は齢を重ね病に苦しむオオドシ(=大物主、ニギハヤヒ)が統治している。
ナムジ(=大国主)とタギリの間に生まれたツノミは両親・弟妹とともに沖ノ島で成長するが、タケミカヅチ率いる邪馬台国軍の侵略を受け、ナムジは死んでしまう。一家は末弟ツヌヒコ(=事代主)を正当後継者とすべく出雲へ連行されるが、いさかいを起こしがちなツノミは命を狙われたため、オオドシの誘いにより大和へと逃れる。
長じてツノミはオオドシのために働くが、やがて日向邪馬台国へと向かい、イワレヒコ(神武天皇)に仕えることになる。一方で祖母であり父の敵とも言えるヒミコと出会い、邪馬台国に打ち勝とうとする気持ちが芽生える。ツノミは出雲、大和、日向を渡り歩き、それとともに神武東征への流れが生み出されていく。
登場人物
以下では主に記紀の記述との関連、および仮説や創作と考えられる点について記述する。
- ツノミ - 賀茂建角身命
- ナムジとタギリの長男。長い島暮らしや日向での生活でカラスのように黒く日焼けしたという描写になっており、八咫烏のモデルであることを示唆している。一方で、アヂスキタカヒコネ等もモデルの一人。
- イワレヒコ - 神武天皇
- クマノクスヒの末子で、ヒミコの孫という描写がされている。政略結婚によって大和へと向かうが、これを神武東征にあたる旅程としてストーリーが展開される。
- クマノクスヒ - ウガヤフキアエズ
- 『記紀』ではニニギの孫だが、本編ではヒミコの息子であり、ニニギとは兄弟関係になっている。曽於族のタマヨリビメと政略結婚し、イワレヒコをもうける。
- ツヌヒコ - 事代主
- ツノミの同母弟で、自らは言葉を発しないが、オオドシの言葉をツノミに伝える。『記紀』ではカムヤタテヒメの息子となっているが、本編ではタギリの息子である。
- テルヒメ
- ツノミの同母妹。兄に瓜二つのワカヒコと結婚する。
- ミトシ - ヒメタタライスズヒメ
- オオドシの末娘で、大和の後継者としてイワレヒコと政略結婚させられるが、実はツノミを好いているという設定である。
- ナガスネヒコ
- 秦の技術を受け継ぐ大和の将軍。政略結婚によって大和が日向に併呑されると反対し、イワレヒコ一行を大阪湾で迎え撃つ。
- タカクラジ、ウマシマチ
- オオドシの息子でミトシの兄。記紀ではニギハヤヒがナガスネヒコを制し大和の政権を神武天皇に譲るが、本編では彼らによってなされる。
- サルタヒコ
- 『記紀』で天孫降臨を助ける。本作では出雲の土着先住倭人の長老。旧来の外来支配者のフツに対する倭人の鬱屈した反感を代表し、出雲支配を画策する日向の意を汲む。
- タニグク
- 倭人。ナムジに続きツノミにも仕える。タニグクはカエルの意味であり、大国主の国づくり説話にあるヒキガエルから創作されたキャラクターと考えられる。
このほか、ナムジ、スセリ、ヒミコ、オオドシ、タギリ、イセポなどが『ナムジ』に引き続き登場する。詳細は『ナムジ』の登場人物を参照。
関連作品
- 『蚤の王』 - 『記紀』の人物を題材とした連作の1つ。
備考
『ナムジ』『神武』におけるニギハヤヒと大物主が同一であるという設定は、市井の古代史研究者である原田常治著『古代日本正史』の珍奇な説の影響を受けているという[1][2]。
出典
テンプレート:Reflist- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 『ナムジ』1巻著者あとがき