日出処の天子
テンプレート:Infobox animanga/Header テンプレート:Infobox animanga/Manga テンプレート:Infobox animanga/Manga テンプレート:Infobox animanga/Footer テンプレート:Sidebar with collapsible lists 『日出処の天子』(ひいづるところのてんし)は、山岸凉子による日本の漫画作品。1980年から1984年に、『LaLa』(白泉社)に連載された。1983年度、第7回講談社漫画賞少女部門を受賞。
目次
概要
『LaLa』1980年4月号から1984年2月号、1984年4月号から6月号に連載。単行本は花とゆめコミックスから全11巻、角川書店あすかコミックス・スペシャルから全8巻が、文庫版は白泉社文庫から全7巻が、メディアファクトリーより完全版コミックス全7巻が発行された。
厩戸王子(聖徳太子)と蘇我毛人(蘇我蝦夷)を中心に、主人公である厩戸王子が少年時代を経て、摂政になるまでを描く。聖と俗、男と女という矛盾を抱える厩戸王子の圧倒的な存在感に加え、厩戸王子を天才・超能力者・同性愛者として描く斬新さが特徴。厩戸王子には超能力を持っているとでもしなければ説明できないような逸話が『聖徳太子伝暦』などに残っており、これはこうした伝承・伝説を積極的に採用したものである。
1983年度、第7回講談社漫画賞少女部門受賞。夏目房之介は「戦後マンガ史に残る傑作である」と評価[1]。不安定に変化する厩戸王子の表情に注目して、その変貌を「手塚治虫以来日本のマンガに脈うつ男女変身譚および異人変身譚の最大の収穫のひとつだろう」と語っている[2]。こういった表情は実に細かな描線で描かれており、薄い紙に模写したところで「1ミリの何分の1でも線が狂えば表情は変わってしまう」のだという[3]。
1984年、テレビ東京の「スーパーTV」で、1時間のテレビアニメを3月26日から5夜連続で放送する企画があったが、計画段階で中止となった[4]。
1984年1月24日付けの『毎日新聞』全国版夕刊社会面に、「え、これが聖徳太子!?」「法隆寺カンカン」などの見出しで、本作品を法隆寺が遺憾に思っているという記事が掲載された。しかし、後に奈良支局の記者による捏造記事であることがわかり、同年2月4日付け紙面に謝罪文が掲載された。
あらすじ
本作は、飛鳥時代を背景に、政治的策謀をめぐらす厩戸皇子に毛人(馬子の長子として描かれている[5])をはじめとする蘇我家の人々や、崇峻天皇・推古天皇らが翻弄される形で話が進んでいく。
ある春の日、14才の蘇我毛人は天女と見まごう美しい女童に偶然出会い、ほのかな恋心を抱く。それは実は10才になる厩戸皇子であった。年若くとも非凡なる教養と才能、政治的手腕、威厳を持つ厩戸は並み居る臣下からも一目置かれる存在となる。しかし厩戸は自らが持つ不思議な力ゆえに、実母の穴穂部間人媛に恐れられ疎まれており、母から愛されない事に苦悩していた。同じく厩戸の不思議を感知した毛人は、時折垣間見る厩戸の孤独に心を痛める。尊敬と畏怖と好意を持って厩戸に接する毛人だが、厩戸にとって毛人は自分の持つ超能力を共有できる唯一の不可欠な存在であった。しかし毛人は無意識下でしか超能力を引き出せず、自分の能力を自覚していない。
厩戸の毛人への思いはやがて愛へと変わってゆき、毛人も自分が厩戸に惹かれていることを感じるが、やがて石上神社の巫女であった布都姫と出会い、恋に落ちてしまう。
厩戸は嫉妬に悩まされ、策謀を巡らして布都姫を殺害しようとするが、毛人に気づかれる。今までの諸事に厩戸の策略があったことを悟った毛人は、厩戸に「二人が結べば万物を自由に動かす力が実現され、この世を意のままにできるから共に生きよう」と説得されるが、毛人は「二人が共に男として生まれたのは一緒になってはいけない運命だからだ」と答え、苦渋の内に厩戸から離れ、布都姫を選ぶ。
作品は厩戸が孤独の中に残される一方、政治的実権を握り、遣隋使を発案するところで終わる。
登場人物
池辺雙槻宮
- 厩戸王子(うまやどのおうじ)
- 本作の主人公。女性と見まごうほど美しい。幼少の頃から不思議な力を持っていて、その力を敏感に感じることができるのは穴穂部間人皇女と毛人だけ。
- 『日本書紀』や『上宮聖徳法王帝説』などの史料に描かれた「聖徳太子」像とは全く異なる人物造形を施されている。これについて作者は、文庫版2巻に収録された氷室冴子との対談で、「聖徳太子にまつわるエピソードに子供の頃から違和感を持っており、ある時、居酒屋で矢代まさこを相手にそういう話をしていたら、梅原猛の『隠された十字架』を紹介され、翌日それを買ってきて読んで、その時に全てのイメージが出て来た」と語っている。
- 穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)
- 厩戸の母。他人には感じられない厩戸の超常的な力を感じ得る人物である。ゆえに我が子への愛情よりも恐怖心が勝ってしまい、怖れ意識的に避けている。
- 橘豊日大兄(たちばなのとよひのおおえ)
- 厩戸の父。良き家庭人であり物静かな人物。異母妹である穴穂部間人媛を妃としている。訳語田大王亡き後、橘豊日大王として即位するも瘡に侵され、在位二年足らずで崩御する。
- 来目王子(くめのおうじ)
- 厩戸のすぐ下の同母弟。両親に愛されて育ち、心優しく素直な性格である。等しく愛する母と兄の間に物心ついた時より流れる確執を感じ、折につけ心を悩ませている。
- 殖栗王子(えぐりのおうじ)・茨田王子(まぎたのおうじ)
- 厩戸の同母弟。
- 田目王子(ためのおうじ)
- 穴穂部間人媛の再婚相手であり厩戸の義父。穴穂部間人媛より8才年下で橘豊日大兄皇子と蘇我石寸名の間に生まれた子であり、厩戸にとって異母兄である。父によく似た風貌を持つ。
- 佐富女王(さとみのひめみこ)
- 穴穂部間人媛と田目王子の第一皇女、厩戸の異父妹。
蘇我氏
- 蘇我毛人(そがのえみし)
- 本作のもう一人の主人公。大豪族・蘇我本宗家の後継者であるが、父・馬子ほどの政治的野心を持たない誠実で善良な人物として描かれる。
- 穴穂部間人媛と並んで厩戸の不思議な力を感知する人物。臣下の立場を超えて厩戸に惹かれ、間人媛との確執により孤独な厩戸の胸の内を慮って心を痛め、本気で心配するなど、対人関係に異常に神経質な厩戸が唯一心底気を許せる存在である。
- 総領息子であるため、一族の繁栄のためにいずれは政略結婚する事を本人も周囲もごく普通と受け止めてきたが、政敵として滅ぼした物部一族の象徴である石上齋宮・布都姫に、ある日偶然出逢った途端に一目で心を奪われ、以後想いを寄せている。
- 蘇我馬子(そがのうまこ)
- 毛人の父。朝廷で絶大な権力を握る有力豪族・蘇我氏の本宗家当主。豊浦に居を構える。
- 当初は幼い厩戸に対して、その年齢にそぐわない非凡さに苦手意識を持っていたが、成長するにつけますます際立つ天才の名に恥じぬ聡明さや政治的手腕、その博識具合、額田部女王を始め他の臣下からの評価や人気振りを高く買い、本妻との娘である刀自古郎女を嫁がせる。
- 刀自古郎女(とじこのいらつめ)
- 毛人の同母妹。非常に美しい容貌を持つ。物部との戦の際に強制的に帰されていた母の里・伊香郷で、複数の男に見せしめに乱暴された結果望まぬ子を宿し、雪の夜に自ら冷たい川に入り堕胎した挙句、数日間死の淵を彷徨うという凄惨な過去を持つ。そのため心身ともに深い傷を残し、楽しい幼少期を過ごした兄・毛人以外の男性を愛せなくなっていた。蘇我宗家の娘の常として入内する予定であったが、拒絶する余り入内前夜に入水を試みて未遂に終わり、急遽異母妹の河上娘を代わりに入内させる事となる。その後、布都姫の振りをして毛人を騙して契りを結び、毛人の息子を身ごもる。これを知った厩戸に取引を持ちかけられ、形式のみの厩戸の后となって山背大兄王を生む。後に形ばかりの夫である筈の厩戸に惹かれてゆくが…。
- 十市郎女(といちのいらつめ)
- 馬子の正妻であり毛人・刀自古郎女の母。物部出身で守屋の兄・物部大市御狩(みかり)を父に持ち、守屋の姪であるため、物部との戦の折には形式上の離縁をさせられ、刀自古郎女と実家である伊香郷に帰されていた。蘇我宗家の正妻として馬子を支え、母として絶えず兄妹に心を配り、中でも心に深い傷を持つ刀自古を終始心配している。
- 河上娘(かわかみのいらつこ)
- 毛人の異母妹。摩理勢の正妻と姉妹である母を持つ。正妻の娘である異母姉・刀自古に敵対心をむき出しにする。泊瀬部大王の後宮に入内するが、泊瀬部大王暗殺の後、手違いで命を落とすことになる。
- 境部摩理勢(さかいべのおみまりせ)
- 馬子の弟、毛人の叔父。
- 雄麻呂(おまろ)
- 摩理勢の息子。毛人、刀自古郎女とはいとこにあたる。子供の頃より刀自古郎女に恋していた。
- 倉麻呂(くらまろ)
- 毛人の異母弟。
斑鳩宮
- 淡水(たんすい)
- 難波吉士氏の縁戚であり、日羅来日に伴い新羅より渡来する。花郎の一員と思われ、厩戸を弥勒仙花の生まれ変わりとしてこの上なく崇め、その厩戸を「人の子でも神人でもない」と誹謗した日羅を暗殺し、一度は帰国したものの厩戸を忘れられず吉備海部羽嶋に頼って再来日を果たす。以降、迹見赤檮を名乗って彦人王子の舎人となるが、実質は厩戸の舎人である。厩戸の片腕として主に諜報活動に非凡な能力を発揮するが、冷静、沈着、非情であり、厩戸のためには暗殺も厭わず遂行する。
- 調子麻呂(ちょうしまろ)
- 百済からの渡来人で聖明王の宰相だった人物を父に持つ。時代が変わり無位になったため、秦河勝を頼り来日する。当初は秦河勝を介して毛人にひき合わされ、蘇我氏の舎人となるが、毛人の機転により厩戸の舎人となる。淡水とよく似た風貌を持つが、二人は百済時代に関わりを持っていたようである。腕がたち弓の名人である。淡水とは正反対の誠実な人柄で周囲からの信頼も厚く、厩戸に献身的に使える。
- 膳美郎女(かしわでのみのいらつめ)
- 厩戸の三人目の妻。本作では知的障害を持った十歳未満の幼女として描かれる。元は浮浪児で、その背景から近隣の悪童達の恰好のいじめの対象であり、ある日、偶然厩戸がその場面に遭遇した事が二人の出会いである。以後、厩戸びいきの膳臣老人の養女という手順を踏まえて厩戸の后となる。他の二人と異なり、斑鳩宮で厩戸との同居を認められている。間人媛によく似た容貌を持つ。後に彼女に謁見した毛人は衝撃を受け、厩戸が無意識に母からの情愛を渇仰していることを知る。
幸玉宮
- 訳語田大王(おさだのおおきみ)
- 額田部女王(ぬかたべのひめみこ)
- 訳語田大王の大后であり厩戸の叔母にあたる。聡明で気が強く、政治的手腕に長けた人物。その器量の大きさや長期間大后の座に居た経緯から、訳語田大王亡き後も相当の権力を手中に持つ。厩戸の非凡なる才を高く評価し、更には大姫を嫁がせ、将来の大王の座につけるべく、同志の馬子と精力的に画策する。泊瀬部大王暗殺の後、厩戸の要請により大和朝廷最初の女帝として即位し、厩戸を大兄とする。
- 大姫(おおひめ)
- 訳語田大王と額田部女王の一番目の皇女。正式には菟道貝蛸皇女(うじのかいたこのおうじょ)。厩戸より二歳年上で、彼の最初の妃である。その血筋から並外れて高い自尊心を持ち、大后となるためのみの教育を受けて来たため、厩戸の后になることに当初は激しく傷つく。
- 大中姫(おおなかつひめ)
- 訳語田大王と額田部女王の二番目の皇女。正式には小墾田皇女(おはりだのおうじょ)彦人皇子の元へ嫁ぐこととなっている。
- 竹田王子(たけだのおうじ)
- 訳語田大王と額田部女王との第一王子。物部との戦いで受けた傷がもとで命を落とす。
- 尾張王子(おわりのおうじ)
- 訳語田大王と額田部女王との第二王子。
倉橋宮
- 泊瀬部大王(はつせべのおおきみ)
- 穴穂部間人媛及び穴穂部王子の同母弟。穴穂部王子と異なり、政治的手腕にも豪胆さにも欠け、強欲で目先のことしか考えない享楽的で無能な人物として描かれる。当初は毒にも薬にもならぬ人物と評され、思いがけず大王に擁立されるが、政治は二の次で次第に横暴な面が目立つようになり、馬子に見放され最終的には厩戸と蘇我氏によって暗殺される。
- 大伴糠手(おおとものぬかて)
- 泊瀬部大王の相談役として、厩戸、蘇我氏にとって代わろうと日々策略を練っている。
- 小手子(おてこ)
- 糠手の娘で泊瀬部大王の妃。泊瀬部王子時代からの仲である。泊瀬部大王との間に蜂子皇子と錦代皇女を儲ける。
- 布都姫(ふつひめ)
- 物部御狩の末娘で石上神宮の斎宮であった美貌の姫。毛人の母・十市郎女とは異母姉妹にあたる。敗戦後、畝傍に蟄居している叔父・贄子を頼って訪ねる道中で毛人と出会う。最初は一族を滅ぼした憎き仇として見ていた毛人であったが、強い愛情と熱意にほだされ、いつしか愛情を芽生えさせる。身分の高い美女を后に迎えようと躍起になっていた泊瀬部大王の目に留り、同時に二人の仲を割かんとする厩戸の策略が交錯し、無理矢理還俗させられ後宮入りとなる。更には厩戸自身の手で暗殺されかけるが、毛人によって救われる。後に毛人の子(入鹿)を生む。
- 白髪女(しらかみめ)
- 布都姫の老侍女。布都姫が五歳の頃から仕え、こよなく慈しんでいる。布都姫の身代わりとなって厩戸に刺殺される。
物部氏
- 大連物部守屋(おおむらじもののべのもりや)
- 軍事力に優れ、八十物部(やそもののべ)と称されるほど氏支族の多い物部氏の頭領。熱心な神道派であり排仏派である。訳語田大王及び豊日大兄王子亡き後、穴穂部王子を次期大王として強力に推薦する等、ことごとく馬子と対立し、穴穂部王子亡き後は彦人王子を擁立すべく、遂に蘇我氏と一戦を交える事となる。本作では、戦闘中に常人離れした現れ方の厩戸の姿に強い恐怖を抱き、心臓発作を起こして死ぬ。
- 物部梯麻呂(もののべのはしまろ)
- 守屋の息子。蘇我氏との戦で討ち死にする。
- 物部贄子(もののべのにえこ)
- 守屋の弟。戦に敗れ一時は囚われの身となったが、その後は畝傍に細々と蟄居している。
- 中臣勝海(なかとみのかつみ)
- 朝廷の神道を祭る氏であり、物部氏の一派である。穴穂部王子亡き後、彦人王子を次期大王に擁立するため居である水派宮を訪ねたところ、物部との関わりで蘇我の怒りを買う事を恐れた彦人王子の命により、門前で警護にあたっていた吉備海部羽嶋に制止されたが、強行突破しようとして迹見赤檮と名乗っていた淡水によって絶命した。
司馬氏
- 司馬達等
- 司馬一族の総領。渡来人であり非常に博識である。技術の高さを厩戸、毛人に認められ寺院建立の一切を任される。トリの祖父。
- 多須奈
- 達等の子、トリの父。寺院建立の指揮にあたる。厩戸の依頼で八角堂、斑鳩宮の建立も請け負う。妹の善信尼が調子麻呂に思いを寄せるのを快く思っていない。
- 善信尼
- 達等の娘。暴漢に襲われそうになっていたところを調子麻呂に助けられた事がきっかけで、出家した身ではあるが彼にほのかな想いを寄せる。出家前の名前は嶋。
- 鞍作止利(くらつくりのとり)
- 通称トリ。本作では厩戸より年若い子供の姿で登場する。幼い頃より工作の技術に優れ、その才を厩戸に認められ一端の舎人のごとく斑鳩宮へ自由に出入りするなど、無邪気で腕白なムードメーカーであり、厩戸が心を許す数少ないうちの一人。
阿倍氏
その他
- 吉備海部羽嶋(きびのあまべのはじま)
- 豪族の頭領であり武人。百済へ派遣され百済王を説得して日羅を渡日させた人物。
- 東漢直駒(やまとのあやのあたいこま)
- 馬子の部下、渡来人の子孫。野心家で東漢氏の再興を目論んでいる。公開雨乞いで布都姫の姿を見て、以後執着する。
- 三輪君逆(みわのきみさかし)
- 訳語田大王の第一の寵臣で、訳語田大王の遺言に基づき彦人王子の大王擁立派の為、穴穂部王子、物部守屋らに討たれる。
- 穴穂部王子(あなほべのおうじ)
- 穴穂部間人媛の同母弟。厩戸の叔父にあたるが、彼の非凡な能力を認めて決して子供扱いせず、常に同等として扱う。訳語田大王亡き後の大王候補であったが、仏教派の蘇我氏の台頭を快く思っておらず、神道派の物部側についたため、厩戸の策に陥り暗殺される。好戦的な野心家。
- 彦人王子(ひこひとのおうじ)
- 訳語田大王と額田部女王より前の大后・広姫との間の第一王子。病弱で小心な人物として描かれる。
- 宅部王子(やかべのおうじ)
- 穴穂部王子の友人。宣化天皇の流れを汲む。誠実な性格で穴穂部王子暗殺の犯人が厩戸であることに感づいた為に命を落とす
馬屋古女王
本作品の続編に当る短編漫画。1984年、『LaLa』(白泉社)11月号に発表後、連載が中断。1985年、『月刊ASUKA』(角川書店)8月号で再開し9月号で完結した。単行本は角川書店のあすかコミックス・スペシャルから全1巻が発行され、文庫版『日出処の天子』に同時収録。本作品での主要人物は既に物故しているか、生存していても会話中の名としてのみ現れ、その影姿らしきものが登場する厩戸皇子(の霊?)以外直接的には一切登場しない。物語の主役は王子や毛人の子供たちに移り、かつて上宮王家と謳われた厩戸一族の滅亡を描く。
あらすじ
厩戸王子と美郎女が突然亡くなったところから物語は始まる。刀自古と厩戸皇子の子、山背大兄王子は、両親の葬儀に出席させるため、実父の厩戸によって生まれてから15年間軟禁されていた末妹、馬屋古女王を解放する。馬屋古は厩戸の子供達で唯一、父に酷似した美しい容姿の持ち主であった。しかし彼女が解放されてから上宮王家に不穏な兆しが見え始める。
登場人物
- 馬屋古女王(うまやこのひめみこ)
- 厩戸と膳郎女の娘。厩戸そっくりの容貌を持ち、厩戸の超能力を受け継いでいる。人前には出せない先天的な障害者ということで、厩戸に軟禁されて成長した。
- 山背大兄王(やましろのおおえのおうじ)
- 本作では蘇我毛人と刀自古の息子(表向きは厩戸と刀自古の息子)。毛人の息子であることは当人も厩戸も知っていて、厩戸に特に愛されて育つ。長じては政治家としても存在感を発揮している。
- 蘇我入鹿(そがのいるか)
- 布都姫の忘れ形見。山背大兄とは幼少時から気心の知れた仲であるが、舂米を巡っての恋敵でもあった人物として描かれている。
- 舂米女王(つきしねのひめみこ)
- 厩戸と膳郎女の娘。厩戸の血を実際に引いているのは、橘大郎女と膳郎女の生んだ子達だけとされ、彼女はこの夫婦の最初の子供である。彼らの子の多くは何らかの知的障害を持って生まれたが、舂米と長谷は例外的に厩戸の優れた能力の一端を継承した人物として描かれている。作中では山背の妻となっており、夫婦仲も睦まじかったが、馬屋古の出現を機に夫婦仲にヒビが入り始める。
- 長谷王(はつせのおうじ)
- 厩戸と膳郎女の息子。厩戸の弟の来目に似ている。舂米と同じく優れた人物として評価されている。作中では、同母妹である美しい馬屋古に恋をして苦しむ。
- 難波王(なにわのおうじ)
- 山背と舂米の息子の少年。殯宮の棺安置所で馬屋古と一緒にいるところを発見されてから挙動不審になり、衰弱する。
- 佐富女王(さとみのひめみこ)
- 厩戸の異父妹。父は厩戸の異母兄である田目王子。優れた卜部(占い者)であり、容姿は母・間人媛によく似ている。厩戸に疎まれていた。厩戸逝去前後に恐(かしこみ)の卦という占い結果が出たことで入鹿に注意をうながす。15年前にも同じ卦を出していた。