思いやり予算
思いやり予算(おもいやりよさん)とは、防衛省予算に計上されている「在日米軍駐留経費負担」の通称である。在日米軍の駐留経費における日本側の負担のうち、日米地位協定及び、在日米軍駐留経費負担特別協定[1]を根拠に支出されている。
ニュースや討論番組等報道関係でしばしば「日本側負担駐留経費=思いやり予算」のように扱われることがあるが後述のように「思いやり予算」とは在日米軍駐留経費の日本側負担のうちの全部ではなく一部を示すものであり用語の意義としては誤用である。
概要
1978年6月、時の防衛庁長官・金丸信が、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部(62億円)を日本側が負担すると決めたことから始まる。日米地位協定の枠を超える法的根拠のない負担に対して、円高ドル安などによってアメリカの負担増を考慮した金丸が、「思いやりの立場で対処すべき」などと答弁したことから、思いやり予算と呼ばれるようになった。
英語表記でも「Omoiyari yosan」で通用するが、公式表記には「Host Nation Support」(駐留国受け入れ支援、接受国支援、HNS)が当てられており、アメリカ政府の高官などは「負担」をイメージさせる「思いやり予算」という呼び名を好まず、日本の戦略的「貢献」という側面を強調する発言をしばしば行っている。2011年1月21日、外務大臣前原誠司は「米軍が(日本に)駐留し、ある程度必要な経費を日本が負担することは、日本の安全保障、外交における戦略的な特別協定であるという観点から、もはや「思いやり予算」という言葉は適当ではないというのが、私(大臣)の思い」と述べ、今後は「ホスト・ネーション・サポート」を使用する考えを示し、マスコミ各社にも協力を呼び掛けた[2][3]。
思いやり予算の内訳は在日米軍基地職員の労務費、基地内の光熱費・水道費、訓練移転費、施設建設費などである。思いやり予算の開始当初から現在までに日本が負担した駐留経費の総額は3兆円超に及び、年度あたりでもドイツや韓国など他の同盟国と比較して圧倒的に額が多い。テンプレート:誰範囲2。ブレジンスキーは日本を"protectorate"(保護領)と呼んだ。
なお、「思いやり予算」以外にも、日本が拠出している在日米軍関連経費は存在する。防衛省公式サイトの「在日米軍関係経費(平成23年度)」によれば、平成23年度の在日米軍関連経費の内訳は、いわゆる「思いやり予算」は1,858億円であるが、それとは別に、
- 基地周辺対策費など 1,739億円
- 沖縄に関する特別行動委員会(SACO)[4]関係費 101億円
- 米軍再編関係費 1,161億円
- 提供普通財産上試算(土地の賃料) 1,658億円(防衛省の予算外)
- 基地交付金 394億円(防衛省の予算外、これのみ22年度予算の額)
が存在する[5]。2010年11月、「しんぶん赤旗」編集局が入手した「在沖縄米軍電話帳」で、キャンプ瑞慶覧の司令部内に“専門”“担当士官”“管理士官”がいる「思いやり予算」担当部署(HNSO)が設置されている事が判明した[6]。
1990年代から娯楽・保養施設、果ては日本人従業員に貸与される制服や備品までも思いやり予算で処理されている事が指摘され、近年にはさらなる「不適切な支出」が明らかとなり、見直すべきとの声が多く上がってきた[7]。2008年度の予算について、野党であった民主党は「レジャー向けの職員の人件費まで日本が負担するのはおかしい」などとして反対した。[8]
もっとも予算総額は1999年の2,756億円が頂点となったあと総額の減少が続いており、2010年には1,881億円となっていた。しかし同年、民主党菅直人政権は以後5年に渡って前年度水準を維持することで米両政府と合意した。[9]
上記の合意を受け、2011年1月21日午前に、前原誠司外務大臣とジョン・ルース駐日アメリカ大使は外務省で会い、2011年度以降の「在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する特別協定」に署名した。
東日本大震災の後のトモダチ作戦による親米感情の高まりの影響もあり、2011年3月31日には、民主、自民などの賛成多数で、「在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する特別協定」が国会で可決され、有効期限は従来の3年から5年に延長され、今後5年間、日本は米軍に現行水準(10年度予算で1881億円)を支払い続けることを決定した。
歴史
- 1978年 - 在日米軍基地日本人労働者の福利厚生費の一部を負担開始。
- 1979年 - 同労働者の給与の一部を負担開始。提供施設の整備が始まる。
- 1987年 - 在日米軍駐留経費負担特別協定を締結。在日米軍基地日本人労働者の手当の負担開始。
- 1991年 - 在日米軍基地日本人労働者の基本給の負担開始。(上限人数制限有)在日米軍施設の光熱費の負担開始。
- 1996年 - 在日米軍訓練移転費用の負担開始。
- 2001年 - 日本側が基本給を負担する在日米軍基地日本人労働者の上限人数を引き下げで合意。
- 2006年 - 期間を2年間に短縮した在日米軍駐留経費負担特別協定の新協定(以下「新特別協定」)を締結[10]。
- 2008年 - 「新特別協定」の3年間延長案、いわゆる「ねじれ国会」のため、参議院外交防衛委員会で、初めて否決。
負担額の推移
(数値は防衛省公式サイトより)
年 | 合計金額 |
---|---|
1978年 | 62億円 |
1979年 | 280億円 |
1980年 | 374億円 |
1985年 | 807億円 |
1990年 | 1680億円 |
1995年 | 2714億円 |
2000年 | 2567億円 |
2001年 | 2573億円 |
2002年 | 2500億円 |
2003年 | 2460億円 |
2004年 | 2441億円 |
2005年 | 2378億円 |
2006年 | 2326億円 |
2007年 | 2173億円 |
2008年 | 2083億円 |
2009年 | 1928億円 |
2010年 | 1881億円[11] |
2011年 | 1858億円 |
2012年 | 1867億円 |
2013年 | 1860億円 |
2014年 | 1848億円 |
その他
- 1932年締結の日満議定書に思いやり予算と似た趣旨の項目がある。
- 日本と同じく連合国軍(アメリカ軍やソビエト連邦軍)が第二次世界大戦後も駐留していた、旧西ドイツと東ドイツ、イタリアにおいても、同様に在独米軍、在独ソ連軍、在伊米軍に対する「思いやり予算」が存在していた。
- 日本共産党は思いやり予算の廃止を主張している[12]。社会民主党は、2009年第45回衆議院議員総選挙のマニフェストで思いやり予算の廃止を主張[13]、その後2011年の予算編成において思いやり予算の削減を主張していた。
脚注
- ↑ 正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十四条についての新たな特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」
- ↑ 外務大臣会見記録
- ↑ 前原外相:米軍への「思いやり予算」名称を変更 毎日新聞 2011年1月21日
- ↑ 1995年設置、1996年12月に最終報告をまとめて答申、解散
- ↑ 在日米軍関係経費(平成23年度)
- ↑ 在沖海兵隊部隊の全容判明 「思いやり予算」専門部存在 資料を本紙入手
- ↑ 思いやり予算 バーテンダー・宴会マネジャー給与… 不適切な支出「続々」
- ↑ 「思いやり予算」に反対の方針 民主党2008年4月2日 NEWS24
- ↑ 思いやり予算、総額維持=協定5年に延長―日米が合意2010年12月3日 The Wall Street Journal
- ↑ 在日米軍駐留経費負担特別協定の署名について - 外務省プレスリリース
- ↑ p21
- ↑ 2011年4月28日の衆議院本会議における穀田恵二共産党国対委員長の演説
- ↑ 社民党OfficialWeb政策衆議院選挙公約2009「マニフェスト」ダイジェスト版
関連項目
外部リンク
- 在日米軍駐留経費負担について(防衛省)
- 在日米軍の駐留にかかわる経費の負担など 平成19年度版防衛白書(同上)
- 検索キーワード/思いやり予算(しんぶん赤旗)