後手番一手損角換わり
後手番一手損角換わり(ごてばんいってぞんかくがわり)は将棋の戦法で、角換わりの一種。対戦成績表などでは、省略して単に一手損角換わりとも呼ばれる[1]。 淡路仁茂が生みの親。2004年頃から盛んにプロ棋士が採用するようになった。2005年の名人戦(森内俊之に羽生善治が挑戦)では、7番勝負のうち2局でこの戦法が採用された(結果は1勝1敗)。淡路はこの戦法によって第33回(2006年)升田幸三賞を受賞した。
また、従来先手が若干有利とされていた将棋であるが、2008年度の日本将棋連盟公式棋戦において、.503 - .497 と微差ながら、統計開始以降はじめて、後手の勝率が先手のそれを上回った[2]。青野照市によれば、この事件に最も貢献したのがこの後手番一手損角換わりであると言う[3]。
角換わりの序盤において、後手が△8五歩を省略するために早期に角交換する。そのために後手の上にさらに一手損すると言う、従来は考え得なかった戦法である[4]。具体的には△8五歩の一手を損したことにより、8五の歩が8四に下がっているかたちになるため、8五に桂馬を跳ねる余地がある(これは攻めの意味もあれば、7三の地点で敵に取られにくい意味もある)など、作戦の幅が拡がる。これがこの戦法の骨子である[5]。
従来の角換わりには腰掛け銀・棒銀・早繰り銀の3戦法がある。以下ではそれぞれの戦法の一手損角換わりにおける展開を記す。
腰掛け銀
角換わり腰掛け銀とほぼ同様。ただし、いわゆる角換わり同型になったとき、後手の飛車先の歩が8五でなく8四にあるため、△8五桂からの反撃が可能になるなど指し手の幅が広がり、研究の幅が広がった。従来の△8五歩型と比較して、同型腰掛け銀においても純粋に後手得というわけではないのだが、手が広がっているために、先手に一方的に主導権を握られる展開をある程度は避けやすい。 テンプレート:Clear
棒銀
先手側からすれば、後手の手損を直接的にとがめるため、早い展開に持ち込もうと考えるのも当然である。腰掛け銀に比べ早く戦いを起こせる棒銀で挑めば、手損している後手は当然不利になるのではないか、と考えられ試された。しかし先手棒銀は従来の角換わり型で勝率が芳しくなかったため、一手損でもある程度後手やれると考える人が多く、有力ではあるものの明快な対策にはならないようである。また先手棒銀の展開の場合、一手損したが故に△8四歩の形であるため、1筋での銀香交換のあと、▲6六角から▲8四香と言う攻めの筋を消しているのも一手損の効果の一つである[6]。 テンプレート:Clear
早繰り銀
やはり後手の手損を咎めるために早繰り銀も有力であり、当初はこの早繰り銀を避けるため、後手は1筋の端歩を打診された時に受けずに駒組みを進める手が多かった。ただその場合先手が▲1五歩と端を突き越せるため、▲1五歩型先手右玉という手段が有力になった。
現在はあえて早繰り銀を避けずに、後手が△8五歩と今度は手損したはずの歩をあえて伸ばし、早繰り銀に対して相性のいい腰掛け銀で対応する手法などがあり[7]、明快に先手良しとするまでには至っていない。 テンプレート:Clear