大選挙区制
大選挙区制(だいせんきょくせい)とは1選挙区に付き複数名を選出する選挙制度である。政党に投票することによって議席が配分される政党名簿比例代表は大選挙区制に含まれないとされる。
概説
大選挙区制は死票が少なく国民の意思を反映させやすいといった長所が多いものの、候補者は有権者との距離が遠くなること[1]、多数の立候補者に有権者が混乱すること、選挙費用がかかること[2]、同一政党間における同士討ち問題、金権腐敗体質の招き[3]、補欠選挙も行いにくいことなどの欠点もあわせもっている。
ただし、これらの特徴は必ずしもすべての大選挙区制に共通した特徴ではない。
- 完全・無制限連記制などの非移譲式多数代表では小選挙区制と同様に大量の死票が出る。
- 選挙区間の差異が少なくなるため、多数代表の大選挙区制であれば、小選挙区制以上に小党の進出が困難になり、政治の混乱が少なくなる。このためアメリカでは、一旦導入した大選挙区完全連記制を廃止したことがある。
- 制限・完全連記制では支持者の票を過不足なく自党候補で使い切るため、一つの党から連記数分の候補者だけを出すのが主要な戦略擁立となる。このため同一政党の候補者の得票のほとんどは共通の有権者によって投票されたモノとなり、同士の得票を減らしても自分の得票を増やすことができず、同士討ちは徒労となる。
また、小選挙区制では大量の死票が出ることからわかるように、候補者と有権者との距離が遠くなることは、自分に合わない近くの候補者ではなく、自分に合う遠くの候補者に自分の票を託すことができることを意味し、大選挙区制の長所でもある。
選挙方式
投票方式としてはいくつかあり、次のような方式がある。
- 完全連記制
- 選出する人数分だけ候補者を選ぶ方式 (Bloc voting)。
- 制限連記制
- 選出する人数より少ない人数分の複数の候補者を連記する方式 (Limited voting)。
- 単記移譲式
- 優先順位を記述し、その選好によって票が移る方式 (Single transferable vote)。単記でも連記でも順位をつけることができるが、票が生きるのは一つの候補に対してのみである。
- 単記非移譲式
- 一人だけを選んで投票する方式 (Single non-transferable vote)。この方式については、「複数の候補に当選して欲しいが、一人の候補しか投票できない」という批判がある。
- 認定投票
- 選出する人数に関係なく自由に単記・連記できる方式 (Approval voting)。 多数代表になるのを避けるために調整が加えられることもある。
- ボルダ得点
- 各候補者に1位、2位、3位、と順位をつけて投票し、それぞれの位に応じてポイントを割り振り、ポイントが多い順に当選する方式 (Borda count)。比例代表になるよう改良された種類もある。
- 累積投票
- 複数の候補を選んで投票するが、一つの候補に票の価値を集中させることもできる方式 (Cumulative voting)。
日本の事例
日本では2006年4月現在、参議院選挙の選挙区の一部と、地方議会議員選挙で大選挙区制(単記非移譲式)が採用されている。なお、参院選の選挙区でも1人区(半数改選のため全体として定数は2人)は小選挙区とすることもある。日本で中選挙区制と呼ばれるものは大選挙区制の一種であり、過去に行われていた参議院選挙の全国区制も大選挙区制の一種である。
日本の場合、大選挙区制の呼称は戦前において市部と郡部を選挙区の単位とし、従来の小選挙区制とは異なり複数の人数を選出した選挙区から由来する。戦前の大選挙区制は1902年から1917年までの衆議院選挙で行われた。戦後、大選挙区制と呼称した場合は1946年の総選挙で47都道府県中40府県において都道府県単位による選挙区単位としていた大選挙区制だったことに由来する。
過去の日本の国政選挙では、1890年の第1回衆院選から1898年の第6回衆院選まで2人区において2名連記の完全連記制、1946年の第22回衆院選において、定数10以下の選挙区では2名連記、定数11以上の選挙区では3名連記といった制限連記制が行われていた。