国内総生産
国内総生産(こくないそうせいさん、Gross Domestic Product、GDP)とは、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額のことである。
目次
概要
国内総生産は「ストック」に対する「フロー」をあらわす指標であり、経済を総合的に把握する統計である国民経済計算の中の一指標で、GDPの伸び率が経済成長率に値する(経済学用語のフロー、ストックはフローとストックを参照)。
原則として国内総生産には市場で取引された財やサービスの生産のみが計上される。このため、家事労働やボランティア活動などは国内総生産には計上されない。この点は、国民総生産でも同じである。こうした取り扱いの例外として、持ち家の家賃など帰属計算が行われるものがある(国民経済計算の帰属家賃の説明を参照)。また、今期新たに生産されたのでない財(例:古美術品)の取引、最終財の原材料となる中間財の取引は算入されない。地下経済なども計上されないことが一般的であったが、2014年以降、EU圏内では麻薬取引や売春サービスも計上し始めている[1]。
国連統計委員会が勧告を出し、統計設計、財の概念の設定などは勧告に沿って行われる。直近の勧告としては、68SNA、93SNAがある。
日本の国内総生産は、内閣府(2001年の省庁再編以前は経済企画庁)が推計、発表している。
経済モデル、GDPの定義、および性質
経済モデルとGDPの定義
GDPを定義するために、実際の経済を単純化したモデルを与える[2] 。なお、ここで説明するGDPは名目GDPと呼ばれるもので、後述の実質GDPとは異なる。
国内には家計、企業、政府の三種類の経済部門があり、それとは別に外国という経済部門がある。
また財・サービスの市場、要素市場、金融市場の三種類の市場がある。
企業が自身の(中間ないし最終)財・サービスを作るために別の企業から買い取る財・サービスを中間財・サービスといい、それ以外の財・サービスを最終財・サービスという。
財・サービスの市場は企業および外国が自身の最終財・サービスを売るための市場で、各経済部門はこの市場から財・サービスを買い取る。
一定期間に家計、企業、政府、および外国が財・サービス市場から最終財・サービスを買い取ったときに支払った金額をそれぞれ消費支出、投資支出、政府支出、輸入という。
また、一定期間に企業が財・サービスの市場で自身の最終財・サービスを売り、その対価として得た金の総額を国内総生産(GDP)と呼び、外国が財・サービスの市場で自身の最終財・サービスを売り、その対価として金を得ることを輸出と呼ぶ。
以上の定義でわかるように、国内総生産には企業が中間財・サービスを売ることで得た金は含まれない。中間財・サービスは、別の(中間ないし最終)財・サービスを作るための要素として使われるので、「二重カウント」を避けるため、中間財・サービスを含まない。
要素市場および金融市場はGDPを定義する際直接的には使用しないが、モデルの全体像を捕らえ易くするため、説明する。要素市場は企業が労働、土地、資本(=機械や建物)、および人的資本といった生産要素を家計から購入するための市場で、生産要素に対する対価として賃金、利潤、利子、賃貸料などの形で企業から家計に金が流れ込む。
最後に金融市場は銀行取引、株式市場、および債券市場などの総称で、金融市場には家計から民間貯蓄が流れ込み、外国からは外国貸付や株式購入により金が流れ込む。
企業は企業による借入や株式発行により、金融市場から資金を調達し、政府は政府借入により金融市場から資金を調達する。 そして外国は外国借入や株式売却により金融市場から資金を調達する。
三面等価の原理
テンプレート:Main 上では、企業が財・サービスの市場で自身の最終財・サービスを売り、その対価として得た金の総額として国内総生産(GDP)を定義した。この定義を支出による定義と呼ぶ。
GDPにはこの他に生産額による定義、分配による定義があり、これら3つの定義は全て同値となる(三面等価の原理)。
生産額による定義
国内で一定期間(たとえば一年間)に生産された全ての最終財・サービスの総額としてGDPを定義する。
企業によって生産された最終財・サービスは、誰かが自身のお金を支出して買い取るか、あるいは生産した企業が在庫として抱え込む。在庫は「将来売るための商品」であるから、企業の将来への投資支出の一種とみなせる。従って生産された最終財・サービスは最終的に誰かの支出となる。よって生産額による定義は支出による定義と一致する。
財・サービスXに対し、Xの売上額からXを作るのに使った中間財・サービスの値段を引いたものをXの付加価値という。GDPの定義より明らかに、GDPは(中間または最終)財・サービスの付加価値の合計に等しい。
分配による定義
企業は財・サービスを売ることで、その付加価値分だけの儲けを得る。 企業の得た儲けの一部は、賃金、利子、賃貸料、および税金として家計や政府の利潤となり、残りは企業の利潤となる。(そして利潤の一部は株主への配当となる)。 従ってGDPは家計、政府、および企業へと分配された利潤の総和としても定義出来る。
GDPデフレーター
テンプレート:See also 名目GDPを実質GDPで割ったものをGDPデフレーターと呼ぶ。 名目GDPと実質GDPはそれぞれインフレの調整を行っていないGDPと行ったGDPであるから、その比にあたるGDPデフレーターは、インフレの程度を表す物価指数であると解釈できる。 従ってGDPデフレーターの増加率がプラスであればインフレーション、マイナスであればデフレーションとみなせる。
GDPデフレーターが消費者物価指数や企業物価指数など他の物価指数と著しく異なる点は、GDPデフレーターは輸入物価の上昇による影響を控除した「国内」の物価水準を表しているという点である。このため、原油価格の上昇など輸入物価が上昇して国内のガソリン価格が上昇するというような場合には、消費者物価指数や企業物価指数が上昇しているにもかかわらず、GDPデフレーターが下落をするということがしばしば起こる。
このため1990年代末から2000年代初頭にかけて、日本経済で物価の下落が続くデフレーションが続いているのかどうかを判断する際に、GDPデフレーターを使うことが適切であるかどうかについては見解が分かれた。下落が続いていた消費者物価指数は、2005年初めから下落幅が縮小し、その年の10月には前年同月比がゼロとなって、11月以降は上昇が続いた。このことには原油価格の上昇による影響がかなりあったため、GDPデフレーターは前年比で1%以上の下落が続いていた。量的緩和政策の解除時期を巡って、緩和策の継続を望む政府と早期解除を望む日本銀行の間で議論が起こり、政府はGDPデフレーターがデフレであるとして量的緩和政策の解除に対しては慎重な姿勢をみせた。しかし、現実に上昇している消費者物価と企業物価を無視し、GDPデフレーターのみによって、「物価は上昇しているがインフレでない」と主張することはきわめて詭弁的である。GDPデフレーターはあくまで名目GDPを実質GDPで割った数値にすぎず、現実の物価が上がっていることを否定できるものでない。
なお、2006年4月現在、日本のGDPデフレーターはパーシェ型の連鎖指数で、実質GDPはラスパイレス型の連鎖指数であり、米国の実質GDPはフィッシャー型の連鎖指数が採用されている(パーシェ、ラスパイレス、フィッシャーおよび連鎖指数の説明については、指数を参照)。
GNPとGDPの違い
国の経済の規模・成長を測るものさしとして、1980年代頃までは国民総生産(GNP)がよく用いられたが、これは外国に住む国民の生産量も含んでおり、本来の国の生産量を正確に計ることができないため、近年では外国での生産活動分を除いた国内のみの生産を計る国内総生産を使用することが多くなった。
GNPとGDPは、日本の場合はほとんど同額で、若干GNPの方が多い。これは「外国での国内居住者の生産」が外国で運用されている日本資本の受け取る金利・配当も含むからである。日本は対外債権国なので、海外へ支払う金利・配当よりも海外から受け取る金利・配当の方が多い。このため日本ではGNPの方が多くなる。一方で、中南米諸国などの対外重債務国は、外国へ支払う金利が多いため、GNPよりもGDPが多い。このように、対外的な債権債務の国民総生産(あるいは国内総生産)に対する割合が高い国にとって、GNPとGDPの違いは重要である。
国内総生産を推計する体系を国民経済計算(体系)と呼ぶように、国民概念がもともと利用されてきたが、国内の経済活動状況を判断する基準としては国内総生産を使用することが一般的となり、日本でも1993年から国民総生産に替わって国内総生産を使用するようになっている。
実際の統計では、国民であるかどうかの区別は、国籍ではなく国内居住者であるかどうかによって判断されている。従って、日本国籍を有していても国外に2年以上滞在している海外居住者が行う生産活動は、日本の国民総生産には反映されない。逆に、外国国籍を有する人々の生産活動であっても日本に6ヶ月以上滞在している居住者であれば、日本の国民総生産に計上される[3]。日本の国内総生産には含まれないが国民総生産に計上される海外での生産活動の例としては、日本に居住している歌手が海外公演を行って得た出演料があげられる。
国内純生産
国内純生産(NDP: Net Domestic Product)は、国内総生産から固定資本の減耗分を差し引いたものである。しかし経済全体での固定資本の減耗分は測定しづらく、このため経済学者達は減耗の推定をあまり信用していない[4]。
グリーンGDP
グリーンGDPとは、従来のGDPから天然資源の減少分を引いたもの[5]。詳細は当該項目参照。
域内総生産
国内総生産が一国内において生産された付加価値額を表すのに対し、域内総生産 (Gross Regional Product) は都市圏や経済圏、州や県など、一定の地域内で生産された付加価値額を表す。域内総生産には中央政府が行う生産が含まれない場合もあり、全国の域内総生産を合計しても、必ず国内総生産と一致するとは限らない(日本の経済産業省が公表している地域間産業連関表のように、不整合を項目として設ける等の調整を行わない限り、全国計と一致することの方が珍しい。例えば中華人民共和国の各省の域内総生産を合計すると、国内総生産よりも大きな値となる)。
都市圏同士の比較や地域経済間比較といった各種分析で使用される他、国土の広大なロシアの統計でよく用いられる。
批判
多くの環境保護論者は環境への危害が考慮されないからGDPは社会発展の測定として不十分だと出張する[6][7]。三菱総合研究所は「環境問題の多くは、何らかの生産活動の結果として生じたものであり、その規制(環境政策)は経済活動の抑制にもつながる。経済と環境はいわばトレードオフの関係にある」と指摘している[8]。
経済学者の岩田規久男は「多くの地球温暖化防止に関する経済学的研究は、経済成長率を下げずに、地球温暖化を防止することができることを示している。地球温暖化を防止するため、生活水準を切り下げなくてはならないということはまったくない」と指摘している[9]。
経済学者の佐藤隆光は「日本経済は、1973-1986年にかけてGDPは年率平均3.4%成長したが、CO2排出量は年率平均0.3%減少している。一方で1987-1995年にかけてGDPは年率平均3.1%成長したが、CO2排出量は年率平均2.9%増加している。つまり、経済が成長してもCO2は必ずしも増加するわけではない」と指摘している[10]。また、佐藤は「環境保全と経済成長は両立しないと考える人が多い。公害規制が経済成長を阻害したという形跡は見当たらないし、規制のおかげで産業公害と都市公害は急速に改善された[11]」「環境保全は経済成長にとってマイナスどころか、少なくとも先進国にとっては、経済成長の原動力となる[12]」と指摘している。
GDPではなく識字率や幼児死亡率などの方が、経済の豊かさの指標として望ましいという見方もある[13]。ただし、GDPが大きくなると、実際に識字率・幼児死亡率はほぼ比例的に改善していく[13]。また、経済成長が環境・天然資源の影響を計測した「グリーンGDP」という概念も提唱されている[13]。
日本
日本の国内総生産(実質GDPと名目GDP、GDPデフレーター増加率)の経年変化[14]。
1990年代以降の約20年間は、平均名目成長率は年率マイナス0.7%程度、平均実質成長率は年率0.6%程度、平均インフレ率は年率マイナス1.3%程度になった[15]。名目GDPは1997年に記録した521兆円をピークとし、2010年には1997年より41兆円少ない480兆円にまで低下した[15]。
1997年4月に実施した消費税増税の影響で第二四半期の成長率は2.9%のマイナス成長に陥った[16]。これは過去23年間で最悪の数字であった。その後名目GDPは低迷を続けた。
日本は2012年現在毎年1%前後のデフレが続いているため仮に実質成長率が1%あっても差し引きで名目GDP成長率はゼロとなる(実質成長率1%+インフレ率-1%=名目GDP成長率0%)[17]。
1955年 - 1980年 | 1980年 - 1993年 | 1994年 - 2012年 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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- 単位は10億円
- 1955 - 1980年は、「平成10年度国民経済計算」(平成2年基準・68SNA)による。実質値は1990(平成2)暦年基準。1980年は連続性のために示した。
- 1980年 - 1993年 は、2000(平成12)暦年連鎖価格
- 1994年 - 2012年 は、2005(平成17)暦年連鎖価格
- 2008年以降については、計数の改定が行われる可能性がある。
各国の名目国内総生産順リスト
国の国内総生産順リスト(MER、IMFによる各国政府発表数値の集計)上位10位。
- 単位は10億US$。
出典:IMF World Economic Outlook Database, October 2012
脚注
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ この節は、クルーグマン『マクロ経済学』東洋経済新報社、2009年、38 - 41ページおよび189 - 190ページを参考にした。
- ↑ 滞在期間に関しては「外国為替及び外国貿易管理法(外為法)」に関する旧大蔵省の通達「外国為替管理法令の解釈及び運用について」より
- ↑ スティグリッツ『マクロ経済学』東洋経済新報社、第3版、2007年、90ページ
- ↑ スティグリッツ『マクロ経済学』東洋経済新報社、第3版、2007年、93ページ
- ↑ The Virtues of Ignoring GDP http://www.thebrokeronline.eu/Articles/The-virtues-of-ignoring-GDP
- ↑ The Rise and Fall of G.D.P. http://www.nytimes.com/2010/05/16/magazine/16GDP-t.html?pagewanted=all
- ↑ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、82頁。
- ↑ 岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、266-267頁。
- ↑ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、101頁。
- ↑ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、102-103頁。
- ↑ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、104頁。
- ↑ 13.0 13.1 13.2 田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、35頁。
- ↑ 内閣府の国民経済計算 1955年~1980年、1980年~2010年、[1]
- ↑ 15.0 15.1 研究 : 安倍新政権の金融政策の経済学的根拠についてChuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2012年12月20日
- ↑ A showdown's coming for Japan's economy if at first you don't succeed, lie, lie again CNN Money 1997年10月13日
- ↑ 「ダイヤモンドZAi」5月号、2011年、170頁。
- ↑ 18.0 18.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 台湾、香港、マカオを除く
関連項目
- 国民経済計算
- 国の国内総生産順リスト(全ての国・地域対象)
- 国の国内総生産の動態(全ての国・地域対象)
- 域内総生産順リスト(全ての国・地域対象)
- 国民総生産 (GNP)
- 国民総所得 (GNI)
- 国民総幸福量 (GNH)
- 県民経済計算
- 日本の年間商品販売額一覧
- 英語版Wikipedia 国別GDPリスト
- List of countries by GDP (nominal) - 国別GDPリスト(名目)
- List of countries by GDP (nominal) per capita - 国別一人当たりGDPリスト(名目)
- List of countries by GDP (PPP) - 国別GDPリスト(購買力平価)
- List of countries by GDP (PPP) per capita - 国別一人当たりGDPリスト(購買力平価)