物価
物価(ぶっか、テンプレート:Lang-en-short)とは、「ある家庭が1年間生活していく上で必要な、さまざまな財・サービスの値段を合計したもの」のこと[1]。物価は、景気が上向くと商品・サービスの需要が高まり上昇し、経済が低迷すると低下することから「経済の体温計」と呼ばれている[2]。
目次
資産価格と物価
物価の安定は、経済が安定的かつ持続的成長を遂げていく上で不可欠な基盤であり、中央銀行はこれを通じて「国民経済の健全な発展」に資するという役割を担う。中央銀行の金融政策の最も重要な目的は、「物価の安定」を図ることにあるとする[3]。資産価格の金融政策運営上の位置付けを考えた場合、資産価格の安定そのものは金融政策の最終目標とはなり得ないというのが、各国当局、学界のほぼ一致した見方である[4]。
一般物価と相対価格
経済学者のクヌート・ヴィクセルは、名目価格(一般物価)の変動が、相対価格の変動とは根本的に異質な現象であることを発見した[5]。
物価指数
物価指数(ぶっかしすう、テンプレート:Lang-en-short)とは、物価の変動を指数にしたもの。価格の情報だけをもとにして計算するのではなく、財・サービスの量と価格をもとに計算される。消費者が日常購入する商品やサービスの価格を指数化した消費者物価指数、企業間での商品取引価格を指数化した企業物価指数、名目GDPを実質GDPで割ったGDPデフレーターがある。
また日本では、東京大学と日本経済新聞デジタルメディアが算出している東大日次物価指数がある[6]。
物価指数の計算方法
物価指数を計算するには、種々の財・サービスが消費された数量の推移のデータと、それぞれの財・サービスの価格の推移のデータが必要である。物価指数の計算方法には以下のものがある。
ラスパイレス指数
ラスパイレス指数の計算式は、次の通り。基準年をいつにするかは、計算式の中では決められておらず、任意である。
種々の財・サービスのそれぞれの購入数量をセットにまとめたものをバスケットと呼ぶ。基準年の財・サービスの購入数量のバスケットは、年を経るごとに少しずつ変わっていくのは必然である。そのため、ラスパイレス指数の数値が基準年から離れるほど、物価指数としての目的を果たさなくなる。例えば今から50年前を基準年だと決めた場合、50年前に人々がどんな物をどのくらいの数量買っていたのか、つまり50年前のバスケットは、今年のバスケットとは大きく違うであろう。そのような場合、最近の2~3年のラスパイレス指数の数値は、物価を的確に表す指数とはいえないものになってしまう。
財・サービスの今年の購入数量がわからなくても計算できるので、パーシェ指数よりも速報性が高い。
計算方法としてラスパイレス指数が採用される物価指数の例は、次のようなものがある。
パーシェ指数
パーシェ指数の計算式は、次の通り。基準年をいつにするかは、計算式の中では決められておらず、任意である。
もし今から50年前を基準年だと決めた場合、現在なら購入できる商品でも50年前には売られていなかったような商品がある。そのため、基準年をあまり昔にしすぎると、物価を的確に表す指数とはいえないものになってしまう。もし今年を基準年だと決めた場合は、今年のパーシェ指数は常に100%になり、また基準年を毎年変えることになるが、これでは具合が悪い。
財・サービスの今年の購入数量がわからないと計算できないため、ラスパイレス指数よりも速報性に劣る。
計算方法としてパーシェ指数が採用される物価指数の例は、次のようなものがある。
フィッシャー指数
フィッシャー指数を計算するには、パーシェ指数とラスパイレス指数を掛け合わせたものの平方根を求める。
物価指数の種類
企業物価指数
国内の企業間取引の価格を対象とした国内企業物価指数 (CGPI) と、海外に輸出される価格を対象にした輸出物価指数 (EPI)、海外から輸入される価格を対象にした輸入物価指数 (IPI) とに分かれる。
調査機関は日本銀行。1887年より調査を開始しており、日本で最も古い統計。2000年基準に改定されるまでは、卸売物価指数として発表されていたが、生産者段階での価格調査の割合が高くなったことから企業物価指数に名称が変更された。
調査方法
- 国内企業物価指数は、かつては主に第一次卸売業者の販売価格を調査していたが、次第に価格決定に対する生産者の影響力が拡大したことや、生産者からユーザーへの直売が増加したことなどによって、生産者段階での価格が調査されるようになった。国内企業物価指数では、生産者段階の価格を採用しているもののウエイトが約85%(2002年現在)となっている。
- 輸出・輸入物価指数は、輸出物価指数が日本から積み出される段階の価格(FOB価格)、輸入物価指数が日本へ入着した段階の価格(CIF価格)を調査[7]。
調査した個別の品目価格から個別の指数を作成し、ウェイトと加重平均する統合化で全体の指数を作成している。
品質変化への対応
パソコンなどの技術進歩による機能の高機能化が進む品目については、ヘドニック・アプローチという手法によって品質変化が指数に盛り込まれている。これは1年前と今とでパソコンの値段は同じでも、処理速度が倍になっていれば実質の指数は半分になるという考え方。
日本では日銀調査統計局が試験的に導入している(企業物価指数・卸売物価指数)いっぽうで総務省統計局は慎重な姿勢である(消費者物価指数)[8]。
パソコンについては消費者物価指数ではPOSデータを使った「全機種連鎖指数」が採用されており、パソコン全体としての品質調整済み価格の低下を的確に把握できるかに依存している。ヘドニック法による試算値を下回っており下方バイアスがあると指摘されている[9]。
卸売物価指数では、パソコンとデジタルカメラ、ビデオカメラの3商品について同アプローチを適用している。企業物価指数ではビデオカメラ(2009.6)、複写機(2009.9)、印刷装置(2009.11)、デジタルカメラ(2009.12)、パーソナルコンピュータ(2010.3)、汎用コンピュータ・サーバ(2010.3)に適用されている。
消費者物価指数
調査機関は総務省。1946年8月より調査開始。
調査方法
小売物価統計調査(総務省調査)の小売価格の平均から個別の指数を作成し、家計調査(総務省調査)を元に個別の指数を統合して全体の指数を作成している。
- 小売価格調査:全国から167市町村を選び、小売価格はその中で代表的な小売店やサービス事業所約30,000店舗、家賃は約25,000世帯、宿泊料は約530事業者を対象として調査している。価格は実際に販売している小売価格(特別セール売り等は除外)。
GDPデフレーター
備考
日本においては、国民の主食である米の価格(米価)が全ての物価の基準と考えられ、江戸時代には、米以外のその他全ての価格(諸色)はこれに連動すると考えられてきた。また、その後も米価は「物価の王様」と呼ばれて高度経済成長期の消費低迷によって米価と一般の物価の間に乖離が見られるようになるまで物価を見る上で重要視されていた。
脚注
- ↑ 飯田泰之 『歴史が教えるマネーの理論』 ダイヤモンド社、2007年テンプレート:要ページ番号。
- ↑ 第一勧銀総合研究所編 『基本用語からはじめる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、96頁。
- ↑ 「教えて!にちぎん」[1]
- ↑ 「資産価格と金融政策運営」植村・鈴木・近田(日本銀行ワーキングペーパー1997-7)[2]
- ↑ 日本経済新聞社編 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、35頁。
- ↑ 東大・日経の物価指数 脱デフレ検証の一助に日本経済新聞 2014年7月8日
- ↑ 調査価格が外貨建ての場合には、調査対象月における銀行の対顧客電信直物相場により円換算する
- ↑ 「消費者物価指数の精度について-日本銀行の要望について」総務省統計局[3]
- ↑ 「消費者物価指数を巡って」白塚重典[4]
関連項目
- 価格
- 貨幣数量説
- 指数
- 基準改定
- フィリップス曲線
- 家計調査
- 消費者物価指数
- 基準改定 - 物価指数は、5年ごとに基準改定を行って産業構造の転換などに対応している。
- 物価統制令
- 生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律
- 国民生活安定緊急措置法
- 米価の変遷