児童の権利に関する条約
児童の権利に関する条約(じどうのけんりにかんするじょうやく)は、児童(18歳未満の者)の権利について定められている国際条約である。通称子どもの権利条約(こどものけんりじょうやく)。
目次
概要
児童の権利に関する条約は、1959年に採択された「児童の権利に関する宣言」(総会決議1386(XIV))の30周年に合わせ、1989年11月20日に国連総会で採択された国際条約である。1990年9月2日に発効し、日本国内では1994年5月22日から効力が発生した。
条約の正文で定められた正式な名称としては、
- 「اتفاقية حقوق الطفل」(アラビア語)
- 「儿童权利公约」(中国語、繁体字「兒童權利公約」、日本の字体で「児童権利公約」)
- 「Convention on the Rights of the Child」(英語)
- 「Convention relative aux droits de l'enfant」(フランス語)
- 「Конвенция о правах ребенка」(ロシア語)
- 「Convención sobre los Derechos del Niño」(スペイン語)
が等しく存在している。日本国内では、国会承認及び官報での公布が「児童の権利に関する条約」の訳名で行われており、国による正式和訳名称として公的な場ではこの表記を使用することが求められるが、報道等での通称や私的な呼称方法までを拘束するものではない。文部省が「本条約についての教育指導に当たっては、『児童』のみならず『子ども』という語を適宜使用することも考えられる」[1]という案を示していることもあり、マスメディア・団体・個人も「児童」を「子ども」などに置き換えることがある。主に「子どもの権利条約」と称される。
条文は、前文及び54ヶ条からなり、児童(18歳未満)の権利を包括的に定めている。
条約は、児童を「保護の対象」としてではなく、「権利の主体」としている点に特色がある。国際人権規約のA規約(文化権、経済権、社会権規約)及びB規約(自由権規約)で認められている諸権利を児童について広範に規定し、さらに意見表明権や遊び・余暇の権利など、この条約独自の条項を加え、児童の人権尊重や権利の確保に向けた詳細で具体的な事項を規定している。
締約国・地域
2013年10月現在、締約国・地域の数は193か国・地域である。未締約国はソマリアとアメリカ合衆国の二か国である(両国とも署名はしている)。
条約の実現状況
児童の権利に関する条約が定めている児童の権利がどの程度達成されているか、実現されているか、どの程度未達成であるか、侵害されているかは、加盟国や地域により大きな差があり、この条約に加盟しているか、加盟していないかとも関係ない。戦争・内戦・テロの継続による死亡が日常的な国、経済的に著しく貧困な国、経済的低開発国、安全な食料・水・飲み物を入手するのが困難な国、保健・医療制度が未整備で、基礎的な衛生や医療を受けられない国、初等教育や中等教育が未整備で必要十分に供給されず非識字率が高い国、人為的・社会的に作られた考えや慣習により児童の権利が侵害されている国は2013年現在でも多数存在している[2][3][4][5][6]。
改正
締約国は、第44条において、条約において認められる権利の実現のためにとった措置や権利の享受についての進捗状況を児童の権利に関する委員会に報告することを義務付けられているが、締約国が増えるに従って報告の数が増し、委員会の報告審査業務に遅滞が生じるようになった。そこで、この問題を解消するべく、1995年に委員会の委員数を10人から18人に増やす第43条2の改正案が採択され、第50回国連総会において採択された。
日本
日本は、条約への批准に際し、条約第37条C(自由を奪われた児童の取り扱い)への留保と第9条1(父母からの分離の手続き)及び第10条1(家族の再統合に対する配慮)に関する解釈宣言を付しているが、児童の権利に関する委員会はこれらの撤回を勧告している。この詳細は外部リンクの外務省の公式発表で見ることができる。
一部の自治体は条約を基にした「子供の権利条例」を制定している。
また、条約44条の報告審査義務に従い、日本政府は外務省が中心となって作成した報告書を「児童の権利に関する委員会」に提出している。その際、同委員会は、審査の精度を増すために、国内NGO団体などにもカウンターレポートの提出を求めている。日本では、日本弁護士連合会、子供の権利条約 市民・NGO報告書をつくる会、子供の人権連、の3団体がカウンターレポートを提出している。
2008年4月22日、予定から約2年遅れで、外務省は第3回政府報告書を国連に提出。 2010年5月27・28日、第3回の政府報告審査会が行われる。同年6月20日、国連子供の権利委員会は、日本政府に対し最終所見を提出(政府訳 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdfs/1006_kj03_kenkai.pdf )。
第3回最終所見では、 「50. 日本社会における家族の価値が恒久的な重要性を有していることを認識しているが,委員 会は,親子関係の悪化に伴って,児童の情緒的及び心理的な幸福に否定的な影響を及ぼし,その結果,児童の施設収容という事態まで生じているとの報告に懸念を有する。委員会は,これらの問題が,高齢者介護と若者との間に生じる緊張状態,学校における競争,仕事と家庭を両立できない状態,特に,ひとり親家庭に与える貧困の影響といった要因に起因している可能性がある問題であることに留意する。 51. 委員会は,締約国が,子育ての責任を果たす家族の能力を確保できるように男女双方にとっての仕事と家庭の間の適切な調和を促進すること,親子の関係を強化すること,及び,児童の権利に関する意識を啓発することなどにより,家族を支援し強化するための措置を導入することを勧告する。 60. 委員会は,著しい数の児童が情緒面での健康状態が低いとの報告をしていること,また両 親や教師との関係の貧しさがその決定要因となっている可能性があることを示すデータに留意 する。 66. 委員会は,財政経済政策(労働の規制緩和や民営化戦略等)が,賃金削減,女性と男性の賃金格差及び児童の養護・教育支出の増加により,親,特にシングルマザーに影響を与えていることを懸念する。」 と指摘されている。
- 児童の権利条約
- 児童の権利に関する条約第43条2の改正
- 1995年12月12日 ニューヨークで作成
- 2002年11月18日 効力発生
- 2003年 5月14日 国会承認
- 2003年 6月12日 受諾書寄託 (受諾書の寄託について(外務省プレスリリース))
- 2003年 6月12日 日本について効力発生
- 2003年 6月12日 公布及び告示(条約第3号及び外務省告示第183号)
児童の定義
児童の権利に関する条約第1条本文の規定により、「児童」とは「18歳未満のすべての者」をいい、18歳の誕生日を迎えるまでのすべての者が児童の権利に関する条約の適用を受ける[7]。日本の学校では、通常の場合、幼稚園の幼児から、小学校全学年の児童、中学校全学年の生徒、高等学校の第1学年及び第2学年の生徒、中等教育学校の第1学年から第5学年までの生徒、高等専門学校の第1学年及び第2学年の学生並びに高等学校第3学年の17歳の生徒、中等教育学校第6学年の17歳の生徒及び高等専門学校の第3学年の17歳の学生までが含まれる。よって、18歳の誕生日を迎えた高等学校第3学年の18歳の生徒、中等教育学校第6学年の18歳の生徒及び高等専門学校第3学年の18歳の学生は、この条約の規定により一切適用を受けず、児童ではない。
児童の権利に関する条約第1条ただし書きには、「ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達した者を除く。」と記載されている。よって本国法で18歳に達する前に成年に達した場合は、この条約の適用を受けない。
意見表明権
子供の意見表明と、その正当な尊重を規定した条項。かつては条約第13条の「表現の自由」と同じように解釈されるか、裁判などにおける聴聞権として解釈されることが多かった。日本では近年、子供の自己決定権として、あるいは自己決定する主体となるための権利として解釈する説が存在する(主な論者として、喜多明人・荒牧重人など)。一方、自己決定ではなく、子供の成長発達に不可欠な欲求表明とそれに対する大人との応答的関係を作るための権利として解釈する説もある(主な論者として、福田雅章)。
条文
(英語)Article 12 テンプレート:Quote
(日本語訳)第12条 テンプレート:Quote
児童の最善の利益
子供に関わることについて、それに関わる大人が関与する場合、現在や未来において子供によりよい結果をもたらすような関与の仕方をしなければならないとする考え方。
条文
(日本語訳)第3条 テンプレート:Quote
子供の権利条例
児童の権利に関する条約の理念に基づいた条例。川崎市や岐阜県多治見市など、複数の自治体において制定された。
札幌市子供未来局のホームページにおいて、条例施行自治体、条例策定中の自治体の一覧が紹介されている(札幌市は現在策定中)[8]。
脚注
関連項目
- 子どもの権利
- 子どもの権利運動
- 子どもの最善の利益
- 世界人権宣言
- 国際人権法
- 国際的な子の奪取の民事面に関する条約
- 武力紛争児童議定書
- 児童売買等議定書
- 児童虐待
- パターナリズム
- 面会
- セーブ・ザ・チルドレン
外部リンク
- 児童の権利条約(児童の権利に関する条約)(日本国外務省)
- 第一回報告書審査 児童の権利委員会からの質問に対する回答(日本国外務省 前述の保留・解釈宣言撤回勧告への回答)
- 在留特別許可に係るガイドラインの見直しについて(法務省入国管理局 2009年7月改正の出入国管理及び難民認定法を受けてのガイドライン改定)
- 在留特別許可に係るガイドライン(法務省 注・PDF)
- 国際関係(児童の権利に関する条約)-文部科学省
- 「児童の権利に関する条約」について-文部科学省
- 子供の権利ウェブ【子供の権利条約(子供の権利に関する年表)】(札幌市子供未来局)
- 児童の権利に関する条約に対する留保及び宣言(国連人権高等弁務官事務所)
- 児童憲章
- ↑ 文部事務次官 (坂元弘直) 「『児童の権利に関する条約』について (通知)」 (文初高第149号)、1994年5月20日、文部省。
- ↑ WHO>World Health Statistics 2013>Part2 Regional and Country Charts
- ↑ WHO>World Health Statistics 2013>Part3 Global Health Indicators>1. Life Expectancy and Mortality>Stillbirth Rate、Neonatal Mortality Rate、Infant Mortality Rate、Under-Five Mortality Rate
- ↑ United Nations Development Program>International Human Development Indicators
- ↑ United Nations Development Program>Adult Literacy Rate
- ↑ United Nations Social Indicators>Literacy
- ↑ 『広辞苑』によれば、「未満」とは「その数に達しないこと。」を意味するので、18歳は含まれない。
- ↑ 札幌市子供未来局ホームページ