代数的整数

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テンプレート:Distinguish 数論では、代数的整数(algebraic integer)とは、係数が テンプレート:Math整数の集合)であるモニック多項式[1]となるような複素数を言う。全ての代数的整数の集合は、加法と乗法の下に閉じていて、従って、複素数の部分環A と記す。環 A は、複素数の通常の整数 テンプレート:Mathテンプレート:仮リンク(integral closure)である。

数体 K の整数の環は、OK と記し、K と A の交叉であり、体 k の最大のテンプレート:仮リンク(order)として特徴づけられる。各々の代数的整数は、ある数体の整数の環に属す。数 x が代数的整数であることと、環 テンプレート:Math[x] がアーベル群としてテンプレート:仮リンク(finitely generated)であることとは同値であり、言わば、テンプレート:仮リンク(テンプレート:Math-module)である。

定義

ファイル:Algebraic integers.gif
複素平面上の代数的整数をプロットした図、低い次数の代数的整数は赤で大きく、高次の代数的整数は青で小さくプロットした。-10 から 10 までの整数係数で 5 次までのモニック多項式の根を複素平面へプロットした。

以下は、代数的整数の同値な定義である。K を数体とする(つまり、有理数の集合 <math>\mathbb Q</math> のテンプレート:仮リンク(finite extension))。言い換えると、テンプレート:仮リンク(primitive element theorem)により、ある代数的数 <math>\theta \in \mathbb{C}</math> が存在し、<math>K = \mathbb{Q}(\theta)</math> となる。

  • モニック多項式 <math>f(x) \in \mathbb{Z}[x]</math> が存在し <math>f(\alpha) = 0</math> となれば、<math>\alpha \in K</math> は代数的整数である。
  • <math>\mathbb Q</math> 上の <math>\alpha</math> の最小モニック多項式が <math>\mathbb{Z}[x]</math> にあれば、<math>\alpha \in K</math> は代数的整数である。
  • <math>\mathbb{Z}[\alpha]</math> が有限生成 <math>\mathbb Z</math>-加群であれば、<math>\alpha \in K</math> は代数的整数である。
  • 有限生成 <math>\mathbb{Z}</math>-部分加群 <math>M \subset \mathbb{C}</math> が存在し <math>\alpha M \subseteq M</math> であれば、<math>\alpha \in K</math> は代数的整数である。

代数的整数は、環の拡大のテンプレート:仮リンク(integral element)の特別な場合である。とくに、代数的整数は、代数拡大が有限拡大 <math>K / \mathbb{Q}</math> の場合の整数元のことを言う。

代数的整数の例

  • 有理数体の代数的整数有理数体の中の代数的整数は、唯一、有理整数である。言い換えると、QA の交叉は、Z である。有理数 a/b は、b が a を割らなければ、代数的整数ではない。多項式 b x - a の主要項は、整数 b であることに注意する。別の特別な例として、正の整数 n の平方根 <math>\sqrt{n}</math> は代数的整数であり、従って、n が完全平方でなければ無理数である。
  • 二次拡大の代数的整数:d が平方数でない整数とすると、拡大 <math>\mathbb{Q}(\sqrt{d})</math> は有理数の二次拡大体である。<math>\sqrt{d}</math> はモニック多項式 <math>x^2-d</math> の根であるので、代数的整数の環 OK は、<math>\sqrt{d}</math> を含んでいる。さらに、d ≡ 1 (mod 4) であれば、元 <math>(1+\sqrt{d})/2</math> も代数的整数である。これは、多項式 <math>x^2-x+(1-d)/4</math> を満たす。ここにテンプレート:仮リンク(constant term) (1 − d)/4 は整数である。整数の環全体は、<math>\sqrt{d}</math> あるいは、<math>(1+\sqrt{d})/2</math> によりそれぞれ生成される。さらに詳しくはテンプレート:仮リンク(quadratic integer)を参照。
  • 三次拡大の代数的整数:<math>\alpha = \sqrt[3] m </math> のときの体 <math>F = \mathbf Q[\alpha]</math> の整数の環は、次のテンプレート:仮リンク(integral basis)を持つ。この基底は、2つの平方数でなく互いに素な整数の組 h と k に対し <math>m = hk^2</math> となる。[2]
<math>\begin{cases}

1, \alpha, \frac{\alpha^2 \pm k^2 \alpha + k^2}{3k} & m \equiv \pm 1 \mod 9 \\ 1, \alpha, \frac{\alpha^2}k & \mathrm{else} \end{cases}</math>

  • 円分体の代数的整数:ζn が原始 n-番目の1のべき根とすると、円分体 Qn) の整数の環は、正確に Zn] となる。
  • n 乗根の代数的整数:α を代数的整数とすると、<math>\beta=\sqrt[n]{\alpha}</math> も代数的整数となる。β の多項式は α の多項式へ xn を代入することで得られる。

代数的整数とはならない例

  • P(x) をテンプレート:仮リンク(primitive polynomial)で、整数係数を持っているがモニック多項式ではなく、P が Q 上でテンプレート:仮リンク(irreducible)とすると、代数的整数である P の根は存在しない。(ここで原始的(primitive)とは、P の係数の最大公約数が 1 であるという意味で使う。このことは、係数が一つ一つどうしが互いに素であるという条件よりも弱い。)

事実

  • 2つの代数的整数の和、差、積は代数的整数である。一般に、商は代数的整数ではない。それらのモニック多項式の多項式の次数(degree)は、元の代数的整数のモニック多項式の次数よりも大きな次数であり、テンプレート:仮リンク(resultant)をとり因数分解することでわかる。例えば、 x2 − x − 1 = 0, y3 − y − 1 = 0 z = xy とし、x と y を z − xy より消去し、終結式を使い x と y が満たす多項式は、z6 − 3z4 − 4z3 + z2 + z − 1 であり、この多項式は既約であり、積の満たすモニック多項式であることが分かる。(xy が z − xy と x2 − x − 1 の x-終結式の根であることを知るためには、終結式が 2つの入力された多項式により生成されたイデアルに含まれるという事実を使う。)
  • 従って、根、加法、乗法の結果の整数から構成可能な数は、代数的整数であるが、全ての代数的整数が、根や加法、乗法により構成されるわけではない。ナイーブに考えると、五次方程式の多くの根は、方程式の根や加法や乗法によって構成されるない。このことは、アーベル・ルフィニの定理である。
  • 係数が代数的整数のモニック多項式の全ての根は代数的整数である。言い換えると、代数的整数は、どのような拡大に対してもテンプレート:仮リンク(integrally closed)であるような環を形成する。

脚注

  1. 主要項が 1 である一変数多項式をテンプレート:Anchorと呼ぶ。モニック多項式の英語は monic polynomial である。
  2. テンプレート:Citation, chapter 2, p. 38 and exercise 41.

参考文献

  • Daniel A. Marcus, Number Fields, third edition, Springer-Verlag, 1977

参照項目