ロケットエンジンの推進剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

ロケットエンジンの推進剤 (ロケットエンジンのすいしんざい、テンプレート:Lang-en) は、ロケットエンジンが噴射する噴射物質およびそれに与えるエネルギーを生成するための物質である。

化学ロケットの推進剤

化学ロケットの場合は、燃料酸化剤を合わせて推進剤と呼ぶ。電気ロケットの場合は、燃焼を行なわないので、噴射物質のみを推進剤と呼ぶ。必要な比推力や技術力、安全性、コストなど、用途と目的によって燃料と酸化剤の組み合わせを変更する。燃料と酸化剤が両方とも液体のロケットは液体(燃料)ロケット、両方とも固体のロケットは固体(燃料)ロケットと呼ばれる(「~燃料ロケット」と呼ばれるが燃料と酸化剤双方で分類が決まる)。一方が固体でもう一方が液体のロケットはハイブリッドロケットと呼ばれる。

液体酸素液体水素による液体燃料ロケットは、日本H-IIロケット欧州アリアン5アメリカスペースシャトルメインエンジン等で使用されている。固体燃料はM-Vロケット、ペガサスロケットなどのロケットやブースター (ロケット)、RATO、ICBM、ミサイル、RPG等に使われる。

固体燃料ロケット

ファイル:Solid fuel rocket ja.png
固体燃料ロケット 模式図

テンプレート:Main

固体燃料ロケット(固体ロケット)は、固体燃料酸化剤を混錬してロケット本体に充填した固体燃料を使用するロケットである。単純な固体燃料ロケットは主にケース、ノズル、推進剤、点火器で構成される。液体燃料ロケットとは異なり使用時にはポンプなどの機械部品で燃料を燃焼室に移送することなくロケット内部の燃料へそのまま点火する。

初期の固体ロケットモーターには黒色火薬が用いられた。その後、ニトロセルロースニトログリセリンを主体とした、黒色火薬より性能のいいダブルベース火薬が登場し、旧軍のロケット兵器ではこれが用いられていた。

第二次世界大戦の後には、コンポジット推進剤と呼ばれる固体燃料が開発された。これはブチルゴムポリウレタンポリブタジエン等の合成ゴム系の材料をアルミニウム (Al) などの金属粉、及び酸化剤と混錬したもので、酸化剤としては過マンガン酸カリウム過塩素酸アンモニウム (ammonium perchlorate, AP) 等が用いられる。ゴムの基剤はそれ自体が燃料となるほか、酸化剤や金属粉の結合剤、および燃料の機械的性質を決定する。

液体燃料ロケット

ファイル:Liquid fuel rocket ja.png
液体燃料ロケット(二液式)模式図

テンプレート:Main

液体燃料ロケット(液体ロケット)は、液体燃料酸化剤をタンクに貯蔵し、それをエンジンの燃焼室で適宜混合して燃焼させ推力を発生させるロケットである。

固体燃料ロケットより複雑で信頼性に欠けるが、混合させるだけで自己着火するハイパーゴリック推進剤を使ったロケットは比較的単純である。さらに、人工衛星の姿勢制御エンジンなど一部には過酸化水素ヒドラジンのように自己分解を起こす推進剤を触媒等で分解して噴射する、簡単な構造の一液式のものもある。

第二次世界大戦で使用されたV2ロケットは酸化剤として液体酸素 (LOX) が、燃料としてエタノール75%と25%の混合物を使用していた。戦後のミサイルでは、燃料はケロシンヒドラジン系に置き換わり、酸化剤は硝酸系に置き換わっている。液体フッ素の使用やリチウムの添加、などの現行のものより比推力の良い推進剤も提案されているが、毒性や取り扱いの観点から現実的ではない。

主な燃料系は以下のとおり:

ハイブリッドロケット

テンプレート:Main

ハイブリッドロケットとは、固体の燃料と気体または液体の酸化剤を使用するロケットを指す。流体である酸化剤の流量を調整する事で液体燃料ロケットと同様の固体燃料の燃焼制御(推力調整、再点火)を可能にするのが特徴である。また現用の固体燃料ロケットの高性能酸化剤は全て塩素の化合物であり、液体酸素や窒素酸化物を酸化剤に用いるハイブリッドロケットは、固体燃料ロケットに比べて、より「クリーン」であるといえる。また流体は酸化剤だけなので、液体燃料ロケットのように二種類の流体を扱う必要が無く、燃料系統が簡素化される利点がある。

他方、ハイブリッドロケットには二つの主要な欠点がある。一つ目は固体燃料ロケットと同様にロケット自体が頑丈で重くなる点である。もう一つは燃焼前に酸化剤と燃料を混合しなければならない点である。固体燃料は製造過程で酸化剤と燃料が慎重に制御された状態で混合されている。液体燃料の場合、燃料の混合は性能が事前に十分に検討されている燃焼室上部の燃料噴射機によって行われる。ハイブリッド燃料の場合、燃料と酸化剤の混合は、溶融または蒸発中の燃料表面で行われる。このような混合は十分に制御されうる事は無く、結果的に多くの燃料が未燃焼のままとなり、燃料効率と排気エネルギーが制限されることになる。これらを簡単にまとめて、液体と固体の欠点を併せ持つハイブリッドと自嘲されることもある。

固体・液体燃料ロケットに比べてハイブリッド燃料の開発事例はずっと少ない。軍用ミサイルの場合、運用と整備に利点がある固体燃料が主用され、衛星打ち上げロケットは、総じてハイブリッド燃料ロケットより性能がよい液体燃料ロケットで開発が行われたためである。しかしながら最近は民間用の低軌道投入用ロケットでの開発事例が増えてきている。液体燃料ロケットの開発で知られる Reaction Research Society (RRS) はまたハイブリッドロケットを長く研究開発していることで知られている。近年、米国のいくつかの大学がハイブリッドロケットの実験を行っている。1995年ユタ大学、及びユタ州立大学の学生は合同で Unity IV と呼ばれる固体燃料(HTPB、末端水酸基ポリブタジエン)と気体酸素を用いるロケットを打ち上げ、2003年にはHTPBと窒素酸化物を推進剤に用いる、より大型化されたロケットを打ち上げている。またオレゴン州ポートランド州立大学では2000年の初めにいくつかのハイブリッドロケットを打ち上げている。

世界最初の民間開発による有人宇宙船スペースシップワン (SpaceShipOne) は、HTPB と亜酸化窒素を用いるハイブリッドロケットエンジンを採用している。二社のエンジンから燃焼時間-出力特性により選定された搭載エンジンは SpaceDev, Inc. によって製造されたものである。SpaceDev は NASA の Stennis スペースセンターの E1 テストスタンドで行われた AMROC (American Rocket Company) のハイブリッドロケットエンジンテストから収集された実験データに部分的に使用している。エンジンは最少推力 4.4 kN から最大推力 1.1 MN までの稼動テストが成功している。SpaceDev は AMROC が出資不足によって事業を停止した後、1998年に同社の特許や資産を購入している。

日本においては、首都大学東京湯浅研究室が国内初となるハイブリッドロケット打ち上げを2001年3月に行なったが、その後はエンジン研究に専念しており打ち上げは行なっていない。つづいて、北海道大学などが中心となっている、プラスチック(ポリエチレン)を燃料、液体酸素を酸化剤とするCAMUIロケットが2002年3月に初の打ち上げを行ない、2005年3月には東海大学TSRPが4機目にして同団体初の自主開発エンジンを搭載し打ち上げ、2006年3月にTSRPが高度1kmに達したが回収に失敗、同年12月CAMUIが高度1kmに並び、2007年8月、CAMUIが3.5kmに到達したが回収に失敗した。その後2012年7月にCAMUIが高度7.5kmに到達し、回収にも成功した。これが2013年1月現在の国内ハイブリッドロケット最高到達高度となっている。

電気推進の推進剤

テンプレート:Main

電気推進では基本的に化学的に不活性な物質を推進剤として用いる。一方で、システムの簡略化という目的で、化学推進と同じ物質を使用する場合もある。

電熱加速

電熱加速では推進剤を加熱するだけであるから、使用される推進剤に制限は特に無い。しかし一般的には分子量が小さく、化学推進、特にRCSと共用が可能なヒドラジン、アンモニアなどが使用される。レジストジェットでは推進剤をヒータで加熱するだけ、DCアークジェットではアーク放電により推進剤を熱電離させるため、大抵の物質が使用できる。

静電加速

イオンスラスタでは主に電子衝突により均一なプラズマを生成するため、電離のしやすい物質が用いられる。これはホールスラスタでも同様である。初期には水銀が用いられ、現在ではキセノンが主な推進剤である。キセノンは加圧により密度が増し、タンクを省スペースにすることが出来るという利点がある。またより性能を向上させるため、アルゴンの使用も検討されている。

電磁加速

MPDスラスタではアークジェットと同様にアーク放電によるプラズマ生成を行うため、基本的に物質の種類は問わない。性能を確保するため、ヒドラジン、アンモニア、メタンなどが使用される。また実験室レベルではアルゴンや水素が用いられるが、前者は電気的特性がはっきりしているため、後者は格段に優れた性能を発揮するものの長期保存性に難がある。またPrinceton大学やモスクワ航空研究所では液体リチウムを使用して、極めて高い性能を発揮するスラスタを研究している。

その他の電気推進

VASIMRはヘリコン・アンテナによりプラズマを生成するが、ヘリウム重水素アルゴンなどが用いられる。ただし、後段のヘリコン・アンテナによる再加熱を確実に行うために、中性粒子との衝突が頻繁でイオン加熱が阻害される物質は避けられる。

FEEP(Field Emission Electric Propulsion)やコロイドスラスタでは電界放出により荷電粒子を放出するため、液体セシウムインジウムなどが用いられる。

PPT(パルス・プラズマ・スラスタ)は供給系統の簡略化のため、固体推進剤(テフロンなど)を使用するが、液体推進剤により性能の向上を図った研究も見受けられる。

ペットボトルロケット

ペットボトルロケットの推進剤は通常、空気で、エネルギー源は圧搾空気である。

関連項目

外部リンク