アフターバーナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リヒートから転送)
移動先: 案内検索

テンプレート:Otheruseslist

ファイル:J58 AfterburnerT.jpeg
アフターバーナーを点火したJ58

アフターバーナー (afterburner, A/B) は、ジェットエンジン排気に対してもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置である。

原理

ガスタービンエンジンの理論空燃比は、空気 : 燃料 がおおよそ 15 : 1であり、熱効率やエンジンの小型化の面ではこの混合比で燃焼させるのが最も望ましいが、実際は60 : 1程度の薄い混合比で燃焼させている(リーンバーン[1]。そのため、燃焼室とタービンを通過してきた排気には、吸気時の約75%の酸素が残っている事となる。この十分に酸素を残した高温の排気中に燃料を改めて噴射し、点火することにより燃焼させることで推力増加を狙ったものがアフターバーナーである。ただし、燃焼によるエネルギーをほとんど仕事として回収せず高温のガスを高速で後方に吹き出すことになるので効率は極めて悪い。

大掛かりな装置を必要としない上にアフターバーナーを使用しない場合と比べると50%程度の推力向上が期待できるが、得られる推力に比べ燃料消費が非常に大きい。例えばF-15ミサイルなどの武装を一切搭載せずに巡航速度で飛行すれば数時間は飛行可能だが、アフターバーナーを全開にし続けると15 - 20分で燃料を使い切ってしまう。

したがって通常このような装置を使用することはないが、重量や設置空間に厳しい制限があり、一時的に高出力を要求される場合にはこのように非効率的な補助装置の存在も許される。 商用の発電機のようにそもそも一定の出力で使用することを前提にしている場合や、民間などの一般的な航空機ではごく限られた例外を除き使用されない。軍用であっても船舶車両での使用においては、クラッチの切り離しや減速歯車の使用で対応する余地があるため使用されない。しかし軍用の航空機、特に戦闘機空中戦を行う場合においては、巡航時よりはるかに強大なエンジン出力を要する一方で重量軽減の要求も大きく、かつそれほどの出力を要求される機会も限られているためエンジンの定格を大きくすることはあまりにも非合理であるためアフターバーナーが装備されている。

またターボファンエンジンの場合は、ターボジェットエンジンに比べて特性がより低速向けになってしまったため、超音速飛行能力を求める戦闘機にターボファンエンジンを搭載した場合は、音速突破においてもアフターバーナーが必須になった。しかしながらターボファンエンジンの排気はターボジェットエンジンよりさらに酸素量が多い[2]ため、アフターバーナーによる出力増大効果が大きい。反面、燃料消費もさらに増大する結果となった。しかしアフターバーナーの出力増大効果が大きいことは、出力増減幅が大きいことを意味し、航空機として飛行状況への適応能力が高いと言え、戦闘機におけるターボファンエンジンの導入理由にもなっている。

構造

アフターバーナー部はジェットエンジンのコア部分、つまり、圧縮機と燃焼室、膨張タービン部とエクゾーストノズル部の間に位置しており、タービンからの高温高速の排ガスをノズルまで導く経路の途中で燃焼空間を確保するために、ノズル前方に幾分長いエクゾーストパイプを備えてその内部にアフターバーナーが納められる。エクゾーストパイプ部分の冷却のために円筒部分が2重構造にされるものもある。

エンジン・コアのタービンからの排ガスは高速流であるためそのままではアフターバーナーの火炎は維持できない。アフターバーナーは短時間のみ使用することが前提とされるため、エンジン・コアからの排ガスに対して流路の抵抗が大きくなるのは好ましくないが、エンジン・コアの燃焼室と同様にアフターバーナー部でも流速を局所的に低下させるための複数個のフレームホルダーが設けられ、火炎を維持して燃焼が持続するようになっている。フレームホルダー上流側やフレームホルダー内に燃料ノズルが複数個開口しており、噴射された燃料が素早く涙滴状から霧状になるよう工夫されている。フレームホルダーには2箇所程度に点火プラグが備わり、アフターバーナー動作時にはアフターバーナー側の燃料噴射の直後に点火される。アフターバーナー専用の点火プラグを持たない形式も存在するが、そのようなものは特定のフレームホルダー近傍にコアからの排ガスが希釈されずに特に高温のまま直接吹き付けることでアフターバーナーの燃料を点火するように設計されており、特定の燃焼室から意図的に高温なまま排ガスが出され、それを受けるタービンブレードなども冷却が満足に行えないので耐熱強度などがいっそう強く要求されて、ブレード類の寿命がかなり短くなる[3]

アフターバーナー使用時には排ガスの圧力と流速が不使用時に比べて大きく変わるため、推進力を最大化するためにエクゾーストノズルの構造を可変式にすることが一般的である。

装備状況

ファイル:F-15 takeoff.jpg
アフターバーナーを使用して離陸したF-15C

主に戦闘機と超音速爆撃機が使用しており、旅客機では超音速輸送機コンコルドツポレフ Tu-144が装備していた。

アフターバーナーは大量の燃料を消費するため、主に高推力が必要なときのみ使用される。旅客機爆撃機の場合は離陸時と超音速飛行への遷移時に、戦闘機の場合はそれに加え、戦闘機動時にも用いられる。

戦闘機の多くは超音速飛行時にアフターバーナーを必要とするが、ターボジェットエンジンの時代には少数ながらアフターバーナー無しで音速突破可能な機体も存在した。上記の通り超音速戦闘機にもターボファンエンジンを採用するようになってからは、音速突破にはアフターバーナーが必須となったが、最近ではジェットエンジンや機体そのものの技術の革新に伴い、ロッキード・マーティン社のF-22戦闘機のように、アフターバーナーなしでの超音速飛行を可能にした戦闘機がひさびさに復活した。テンプレート:Main

名称について

アフターバーナーという名称は、本来GE社によって商標登録されている為、同社のターボジェットエンジンに装備されている物のみを指し、MIL規格によると、この装置の用語としてはオーグメンター(augmentor, 推力増強装置)を用いるのが正しいとされる。

また、ロールス・ロイス社のジェットエンジンにおいてはリヒート(reheater, reheat jetpipe, 再燃焼装置)、プラット&ホイットニー社はオグメンタ(augmentor,(推力)増強装置)という言葉が用いられている。

出典・脚注

  1. 濃い混合比で燃焼させるということは、質量および体積当たりの発熱量が多いということであり、それだけ燃料ガスが高温となって、21世紀初頭現在の技術では高速回転による遠心力と圧縮・膨張するガス圧力に抗しながらさらに高熱に曝され続けても耐えられる強靭なタービンブレードの製造は極めて困難である。本来の燃焼に消費するより多めに吸入した空気の一部は、ジェットエンジン内にあって高温に曝され続けるタービンブレードや燃焼室といった構成要素を冷却するために利用され、排気筒内でも高温の燃焼ガスを取り巻くように概ね外周部に沿って排気される。結果としてジェットエンジンのコア部分からの排気は冷却用空気によって希釈されるために理論空燃比に比べると薄い混合比で燃焼しているのと同等になる。
  2. ターボファンエンジンは、従来のターボジェットエンジンの前面にファンを付加しており、ファンからの排気は燃焼には関与しないため、当然ながら排気に含まれる酸素量は多くなる。旅客機などに用いられる高バイパス比エンジンではファンからの排気とコアエンジンの排気を混合せず、ファンからの排気は直後で排出する例が多いが、戦闘機に用いられる低バイパス比ターボファンエンジンでは、ファンからの排気とコアエンジンの排気がノズルで混合され、その混合された排気がアフターバーナーへと導かれる。
  3. 見森昭編 『タービン・エンジン』 社団法人日本航空技術協会、2008年3月1日第1版第1刷発行、ISBN 9784902151329

関連項目